映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる映画 ◎
「ワンダーウーマン」「エル」「関ケ原」「ボブという名の猫」etc.

ナオミ・ワッツ

雨の日は会えない、晴れた日は君を想う

雨の日は会えない、晴れた日は君を想う [Blu-ray]
エリート銀行員ディヴィスは、富も社会的地位も手に入れ何不自由ない人生を送っていた。だがいつも通り仕事へ向かう朝、突然事故に遭い、妻が他界してしまう。ところがディヴィスは妻が死んだというのに、涙どころか悲しみの感情も感じない。自分はいったいどうしてしまったのか。彼は義父であり会社のボスでもあるフィルのある言葉をきっかけに、パソコンや冷蔵庫、会社のトイレまで、身近なものを次々に壊し始める…。

妻を亡くしたのに悲しみを感じない男が、自分の周りのものを破壊することで再生への道を探る人間ドラマ「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」。妻の死を悲しめない男という設定は西川美和監督の「永い言い訳」とよく似ている。だが、本作の主人公ディヴィスは、それまで無自覚だっただけに自分自身の空虚さを自覚した時のショックは計り知れない。人間性を取り戻すための行為が、物理的な破壊というのもまた興味深い。破壊行為は、義父の「心の修理も車の修理と同じこと。まず解体し隅々まで点検して組み立て直すんだ」との言葉がきっかけだ。一方で、シングルマザーとその問題児の息子との出会いからも、少しずつ人生を取り戻していくことになる。「ナイトクローラー」以降、狂気をはらんだ人物を演じて抜群の上手さを見せるジェイク・ギレンホールが、本作でも、ひたすらモノを“ぶっ壊す”ことで、同時に自分の心を一度壊して再構築する現代人を怪演している。風変わりな邦題は、どこかふんわりとした詩のような雰囲気だが、原題はストレートに“破壊、解体”の意味。主人公が次々にモノを破壊しいったいこの男はどうなってしまうのか…と心配になるのと同様、この物語がどう決着するのかがなかなか読めないので、ある意味、スリリングだ。そして、今まで知らなかった事実を知ってはじめて感じた妻への思いや、自分がいったい何を求めているのかが、ラストに明かされるとき、自己修復という“旅”が終わる。味わいのある作品だが、内容が伝わりにくい邦題がちょっと惜しい。
【65点】
(原題「DEMOLITON」)
(アメリカ/ジャン=マルク・ヴァレ監督/ディヴィス: ジェイク・ギレンホール、ナオミ・ワッツ、クリス・クーパー、他)
(再生度:★★★★★)
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ダイアナ

ダイアナ [Blu-ray]
元英国皇太子妃ダイアナの最後の2年間を描く「ダイアナ」。ナオミ・ワッツのそっくりさんぶりに驚く。

1995年、英国皇太子妃ダイアナは夫チャールズと別居して3年、2人の王子とも離れ、寂しく暮らしていた。そんな時、優秀な心臓外科医ハスナット・カーンと出会う。自分を特別扱いしないハスナットに惹かれ、心から尊敬できる相手として積極的に交際する。BBCのインタビューで「人々の心の王妃になりたい」と発言し、身内からも非難されたときもハスナットだけは励ましてくれた。1年後、離婚したダイアナは、地雷廃絶運動などの人道支援活動で世界中を飛び回る日々を送っていた。だがハスナットとの関係は、ゴシップ紙に書き立てられた上、彼の一族からも受け入れられなかった。やがてダイアナは、エジプトの億万長者ドティ・アルファイドからクルーズの招待を受け、彼との新しい関係に踏み出すが…。

1997年にパリで交通事故に遭い、36歳の若さで急逝したダイアナ元英国皇太子妃。本作は彼女の“晩年”の2年間に焦点を当てたもので、ダイアナが心から愛した男性との恋と彼女の真の自立を描くというものだ。外科医ハスナットとの恋は、もちろん人目を忍んだものだが何しろダイアナは世界一有名な女性。デートするのも、かつらで変装したり、車の後ろに隠れたりと、まるで親に隠れて交際するティーンエイジャーのようである。離婚後もその言動のすべてがゴシップ紙を賑わせるダイアナは、王室を離れても大きな影響力を持つ自分自身の立場を利用して、地雷廃絶運動などの人道支援活動を世界にアピールし、人間として自立していく。一方で、女性としての幸せを追い求めたダイアナが、ハスナットの家族に自分ひとりで会いに行った事実などはこの映画で初めて知った。それだけ真剣な恋だっただけに、メディアによってその愛が壊れていく様は悲痛だ。「世界中が私を愛している。でも誰もそばにいてくれない」と叫ぶダイアナの姿が悲しくも印象的だ。物語はラブストーリーに傾き過ぎて、ダイアナの偉業はかすみがちだが、恋に夢中になる女性の脆さと、人道支援で世界を駆け巡る心の強さという2つの要素が同居する矛盾した人間像がダイアナの魅力なのだろう。親しい記者にわざと自分の姿を撮らせゴシップを流した彼女の行動は、ハスナットをメディアの暴力から守ろうとしたのだろうか。ダイアナ亡き今はその真意は想像するしかない。徹底したリサーチで役作りに臨んだというナオミ・ワッツの熱演とそっくりなルックスは見もの。濃いアイメークで視線の強さをアピールした表情が特にいい。
【60点】
(原題「DIANA」)
(イギリス/オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督/ナオミ・ワッツ、ナヴィーン・アンドリュース、ダグラス・ホッジ、他)
(ラブストーリー度:★★★★★)
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ダイアナ@ぴあ映画生活

恋のロンドン狂騒曲

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屈折した笑いに彩られた恋愛悲喜劇「恋のロンドン狂騒曲」。アイロニカルな視点がいかにもウディ・アレンらしい。

ロンドンに住むアルフィはある日突然老いの恐怖にとらわれ、40年連れ添った妻を捨てて若いコールガールと結婚宣言。妻のヘレナはあまりのショックにインチキ占い師に頼りきりになる。2人の娘のサリーは両親を心配しながらも、勤め先のギャラリーのオーナーに胸をときめかせ、サリーの夫で一発屋の小説家のロイは、向いに住む赤い服の美女ディアに心を奪われる。誰もが目の前の相手に不満をいだき、もっと幸せになれるのではと妄想する中、残酷な現実が近付きつつあった…。

複数のカップルの恋の顛末を賑やかに描くのはウディ・アレンの十八番だが、今回はかなりシニカルなムードが漂うコメディである。恋にときめき、新しい未来に向かって一歩歩み出すことは許しても、その後の現実の厳しさで登場人物を翻弄するのは、懲りない大人たちへ戒め、引いては自分の人生への自虐なのだろうか。前作「ミッドナイト・イン・パリ」のようなファンタジー要素がないだけに、キャラクターたちは現実の壁に直面すれば切実なムードに包まれる。特に、珍しく情けない老人を演じたアンソニー・ホプキンスが、若いコールガールに翻弄されたあげく妻に複縁を頼んで断られるエピソードや、一発屋の作家ロイが出来ごころで盗んだ他人の原稿で大絶賛を浴びた後の顛末は、アレン流のギリシャ悲劇のようだ。年甲斐もなく、恋に右往左往する、彼らのバイタリティーに感心しつつも、野心、成功、盗作、密通など、すべては、アレンに言わせれば、広大な宇宙の営みの塵に過ぎない。どうやらウディ・アレン御大、悟りの境地に達しているようだ。
【55点】
(原題「YOU WILL MEET A TALL DARK STRANGER」)
(米・スペイン/ウディ・アレン監督/アントニオ・バンデラス、ジョシュ・ブローリン、アンソニー・ホプキンス、他)
(シニカル度:★★★★☆)
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映画レビュー「J・エドガー」

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◆プチレビュー◆
ディカプリオがフーバーの青年期から老年期までを怪演。伝説の男が信じた正義は現代アメリカの闇を照射する。 【75点】

 FBI初代長官のジョン・エドガー・フーバーは、70代になり回顧録を執筆する。それは、20代で後にFBIとなる組織の長に就任し、50年近く強大な権力を保ちながら、アメリカの“正義”を偏執的に信じた孤独な人生だった…。

 監督イーストウッドと俳優ディカプリオの初タッグで描くのは、権力者の功罪の物語だ。今も賛否が分かれる人物ジョン・エドガー・フーバー。FBI初代長官だった彼は、近代的な科学捜査や膨大なデータベースを構築する一方で、大統領をはじめとする要人の秘密を掌握してファイル化することで、権力を維持した。フーバーが信じた正義や公安は、時に法を曲げることさえ厭わない狂信的なもの。この複雑な人物を、ディカプリオが徹底した役作りで、不気味なほどに熱演する。時代を前後させ、老年のフーバーと、若き日のフーバーを交互に見せる演出は、謎多き人物に、深く、冷徹に切り込む手法として興味深い。

 実際、フーバーにはミステリアスな部分が多く、資料や証言でも真実は容易には見えてこない。イーストウッドは、そのことを逆手に取り、謎を残しながら描くことで、観客それぞれの解釈に委ねた。

 フーバーとはどういう人物なのか。鍵を握るのは、過保護な母親アニー・フーバー、長年の個人秘書ヘレン、腹心の部下で私生活でも“パートナー”だったクライド・トルソンの3人だ。同性愛や女装癖など、さまざまな噂があったフーバーだが、映画は、彼のスキャンダラスな秘密には焦点を当てず、絶大な権力を手にした男の強いコンプレックスと、権力者ゆえの孤独をリンクさせた。イーストウッド映画の特徴である、人物を黒々とした闇に置く撮影が、そのことをより強調し、深い渋みを与えている。

 イーストウッドの狙いは、フーバーが向き合った、禁酒法時代のギャングとの攻防や、リンドバーグ愛児誘拐事件、赤狩りなどの20世紀の事件を通して、米国近代史の光と闇を浮かび上がらせること。それが奇しくも、現代における正義の意味を検証することにつながる。

 フーバーが断行した正義とは、法を越えてまで自分を優位に置き、他者を抑圧する強引なものだった。それはかつて「許されざる者」でジーン・ハックマンが演じた、自分の正義を信じて町を牛耳る保安官の姿にピタリと重なる。そして、現代アメリカの強迫観念にも似た政治とも。市長の経験もあり、政治を知るイーストウッドは、国家の中枢にいた人物の複雑な輪郭をあぶり出すことで、米国が同じ過ちを繰り返してはならないとのメッセージを込めている。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)ミステリアス度:★★★★☆

□2011年 アメリカ映画 原題「J.EDGAR」
□監督:クリント・イーストウッド
□出演:レオナルド・ディカプリオ、ナオミ・ワッツ、ジョシュ・ルーカス、他
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J・エドガー@ぴあ映画生活

フェア・ゲーム

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イラク戦争の舞台裏とCIA諜報員の実情を分かりやすく描くポリティカル・スリラー「フェア・ゲーム」。政治ドラマであり、夫婦愛の物語でもある。

CIA秘密諜報員のヴァレリー・プレイムは、捜査の結果、イラクには核開発計画はないと政府に報告する。だが、ブッシュ政権は報告を無視し、2003年、ついにイラクに宣戦布告した。夫で元ニジェール大使のジョー・ウィルソンは真実を世間に公表するために、NYタイムズに記事を寄稿するが、夫妻はアメリカ政府の激しい報復に遭う。ヴァレリーは、CIAの秘密諜報員であることを公表され、スパイの二重生活を送っていた彼女は世間から非難を浴びて孤立無援に陥る…。

映画の中のスパイは、国家に尽くし感謝されているが、実際の諜報活動員とは、こんなにも無慈悲に国家から裏切られるものなのか。ヴァレリー・プライスは、実在の優秀な諜報員で、イラク戦争を最後まで阻止しようと奮闘した正義感の強い人物だ。だがブッシュ政権は、イラクと開戦するためには、ねつ造してでも理由が必要だった。今では、大量破壊兵器はなかったというのは周知の事実だが、この映画で描くのは、真実を述べたがために国家から報復され、事実上抹殺されかかった諜報員の苦難の日々だ。巨大な権力と歴史のうねりに翻弄されるヒロインの物語は、政治ドラマとして単純化されているが、「ボーン」シリーズのダグ・リーマン監督の演出は、スリリングでテンポがよく、分かりやすい。政府の思惑やスパイたちの立場を描く一方で、幼い双子の母親であり妻でもある女性が、巨大な権力に対して、懸命に闘う姿を描く。一度は意見が対立した夫との絆を取り戻すシーンは、無駄に“泣きが入る”演出は避け、静かだが強い夫婦愛が伝わってきて感動的だ。理不尽極まりない実話だが、夫婦の絆が正義への戦いの原動力だったという位置づけが救いである。国家からスケープゴートにされながら、家族のために果敢に闘うヒロインを、ナオミ・ワッツが熱演。エンドロールに登場するヴァレリー本人に、敬意を表したい。
【65点】
(原題「FAIR GAME」)
(アメリカ/ダグ・リーマン監督/ナオミ・ワッツ、ショーン・ペン、サム・シェパード、他)
(スリリング度:★★★★☆)



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フェア・ゲーム@ぴあ映画生活

愛する人

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原題はシンプルかつ力強い「母と子」。懸命に生きる女性たちの姿と、運命の不思議に涙する静かな力作だ。豪華な俳優陣にも注目したい。年老いた母親を介護しながら毎日忙しく働いているカレンには、14歳で妊娠・出産したものの、母親の反対で、赤ん坊を手放したつらい過去があった。子供のことは37年たった今も、忘れたことはない。一方、37歳のエリザベスは、母親を知らずに育ったキャリウーマン。思いがけない妊娠をきっかけに、会ったことのない母への思いが募る。さまざまな失望を経験してきた二人の運命は、交差するかに見えたが…。

この映画の前半は、とても頑なでよそよそしい。主な登場人物である3人の女性たちは、最初は皆、どこか心に鎧をつけているかのようで、言動は自分本位だ。だが彼女たちの運命には、予想もしないつながりが用意されていて、後半はまるで、乾いた荒野に、ゆっくりと優しい雨が降り注ぐような穏やかさを帯びてくる。カレンとエリザベスが実は母娘であることは、最初から予想はつくのだが、物語は単純な母娘の再会ドラマではない。互いの愛を求めながらも、それをどうやって表現したらいいのか知らない二人の女性が、心を開いていく過程で、人との絆の大切さを身をもって知ることになる、緻密なストーリーなのだ。誰と誰がめぐり合い、どんな風につながっていくのかという意味では、一種のミステリーとしてみることも可能だが、やはりロドリゴ・ガルシアならではの繊細な女性心理の描写に注目したい。多くのキャラクターがさまざまな形で出会い、すれ違うが、エリザベスが、盲目の少女と言葉を交わす場面には、とりわけ心を打たれる。タフでドライに生きてきたはずの彼女もまた、多くのわだかまりを乗り越えて、愛されたいと願う女性なのだ。実力派アネット・ベニングの存在感と、現実でも当時妊娠中で、自身の妊婦姿を披露するほど入魂の演技を見せるナオミ・ワッツ、子供を産めず養子縁組を切望する黒人女性ルーシーを演じるケリー・ワシントンの名演は言うまでもないが、脇を固めるサミュエル・L・ジャクソンも見事だ。この物語には、悲痛な死もあれば新しい命もある。女性たちの思いが結実して誕生した小さな命が結ぶのは、未来への希望。陽だまりのラストシーンが、忘れがたい余韻を残してくれた。
【75点】
(原題「MOTHER AND CHILD」)
(アメリカ・スペイン/ロドリゴ・ガルシア監督/ナオミ・ワッツ、アネット・ベニング、ケリー・ワシントン、他)
(女性映画度:★★★★★)


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映画レビュー「ザ・バンク−堕ちた巨像−」

ザ・バンク 堕ちた巨像 コレクターズ・エディション [DVD]ザ・バンク 堕ちた巨像 コレクターズ・エディション [DVD]
◆プチレビュー◆
金融界のモラルの逸脱をリアルに描く社会派サスペンス。美術館での銃撃戦は手に汗を握る。 【70点】

 インターポール捜査官のサリンジャーは、国際メガバンクIBBC銀行の違法行為を暴こうとするが、新たな情報を得るたびに証言者や仲間が殺される。自身も危険にさらされながら、NY検事局のエレノアと共に捜査を続けるが…。

 悪役は時代を写す鏡だ。かつて、共産主義を敵とし、南米の麻薬組織を追い、中東のテロリストと戦ってきた映画の主役たち。歴史上には、暴君ネロや独裁者ヒトラーのように分かりやすい悪人もいた。だが、今や悪の正体は巨大多国籍企業。内戦や紛争につけ込んで巨額の利益を得る彼らには、法の手は容易に及ばない。得体のしれないこの悪は、かつてないほど手強いのだ。

 そもそも世界中の有力者や政治指導者、富裕層と結託する国際銀行を、誰が成敗するというのか。そこで、さっそうと登場するのが、インターポール(国際刑事警察機構)だ。世界的スケールで活躍する捜査官は、正義の象徴のように見える。だが、ルパン三世を永遠に捕まえられない銭形警部も所属するこの組織には、なんと逮捕権がない。これだけでも勝負は見えている。

 しかし、サリンジャーはどんな妨害にも屈せず、腐敗した銀行の摘発に燃える熱血漢だ。ターゲットが絞りにくい敵に対し、彼はこの企業を憎む相手と手を組むことで活路を見出す。また長い間の悪事で疲れ果てた男の心を動かすことにも成功。なかなかの知恵者だ。銀行の闇ビジネスという地味な素材を料理するのは俊英トム・ティクヴァだが、過去に、時間や芳香という形のないものを映像化してきた彼は、巨悪を描くためにすさまじいアクションを用意する。

 それが、最大の見せ場であるNY・グッゲンハイム美術館での銃撃戦だ。近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトが設計した壮麗な美術館がメチャメチャになる様は、作り物だと分かっていても胸が痛む。しかも破壊の限りを尽くすその場面が困ったことに美しい。場所が美術館だけに、動くアートとでも呼ぼうか。螺旋状という非常にユニークな建築フォルムは、終わりのない負のスパイラルのメタファーのようだ。白亜のモダンな空間で、主人公は立場の違う殺人者たちと遭遇する。殺し屋と相対しながら、やがて協力して逃げる奇妙な展開も、前衛的な美術館にふさわしい。だが彼らが追い追われもする悪は、芸術的なまでに非情だ。

 物語はあくまでもフィクション。だが、1991年に破綻した国際銀行BCCIというリアルな見本があるように、金融界の暴走は作り話ではない。利益のためには手段を選ばないという企業腐敗の本質は、実話と言ってもさしつかえないだろう。本作は、幸か不幸かアクション・シーンの出来がいいために、社会派映画の印象は薄くなった。だがヘタに深刻になるよりも、その方がいいのかもしれない。映画は、極めて古典的な方法で悪人が倒され終焉となるが、結局のところ、資金洗浄や武器取引などの闇の物語は、現実を舞台に今も“続編”が製作されている。正義の居場所が少ない時代、この映画の余韻は苦い。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)社会派エンタメ度:★★★★☆

□2008年 アメリカ映画 原題「THE INTERNATIONAL」
□監督:トム・ティクヴァ
□出演:クライヴ・オーウェン、ナオミ・ワッツ、アーミン・ミューラー=スタール、他

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ファニーゲーム U.S.A.

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不快感満載の怪作で、ハネケ自身のセルフ・リメイクである。別荘で過ごす裕福な家族が、2人の美青年によって徹頭徹尾いたぶられ、死のゲームに参加させられる様子をサディスティックに描く物語だ。セリフやカット割までほとんど同じにしたのは、罪もない人間が痛めつけられるのは、時代や場所がどこであれ常に起こりうると言いたいのだろう。神経を逆なでするのは、時折観客に向けて話しかける演出だ。これは作り事ですよと念を押す技法であるにもかかわらず、観客は自分が暴力に加担している気になり気が滅入る。この映画の真意は、問答無用の悪意の存在証明なのだ。オリジナルを初めて見た時の衝撃は忘れないし、ある種の傑作とは思うが、この内容の映画を二度作るハネケの神経は理解しがたい。ナオミ・ワッツがド迫力の熱演。
【50点】
(原題「FUNNY GAMES US」)
(米・仏・英/ミヒャエル・ハネケ監督/ティム・ロス、ナオミ・ワッツ、マイケル・ピット、他)
(性悪説度:★★★★★)

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イースタン・プロミス

イースタン・プロミス
暴力的なフィルム・ノワールだが、クローネンバーグにしては抜群に判りやすい。ロンドンのロシアン・マフィアの闇の世界を描いた犯罪映画だ。謎の運転手ニコライ役のビゴ・モーテンセンの体当たりの演技が新鮮。全裸での壮絶な格闘シーンや全身に施された凝った刺青など、異様な迫力に圧倒される。ある謎を秘めたニコライと、小さな命を守ろうとする看護婦のアンナが惹かれあう展開は、この危険な香りの映画の中の灯火のようでほっとする。
【75点】
(原題「EASTERN PROMISES」)
(英・カナダ/デヴィッド・クローネンバーグ監督/ビゴ・モーテンセン、ナオミ・ワッツ、ヴァンサン・カッセル、他)
(ビゴの頑張り度:★★★★★)

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ザ・リング2

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◆プチレビュー◆
全体的に何をするにも速過ぎるのが、日本人には違和感がある。井戸をよじ登るサマラの動きがあまりにも軽快で力強いので笑いが出そうで困った。

忌まわしい事件から逃れるように、レイチェルと息子のエイダンはオレゴン州の海辺の町アストリアにやってくる。しかし呪いは終わっていなかった。町で怪事件が発生し、少年が異様に顔をゆがめて死にいたった。奇妙な気配、まとわりつく水、隠された秘密。ビデオテープに込められたサマラの呪いから逃れることが出来るのか…。

自慢じゃないが、私は相当な怖がりである。ホラー映画はいつもビクビクもので、人目さえなければ、手で目を覆って指の間から見たいくらいなのだ。その臆病モンの私でさえも、この映画はまったく怖くない。これは相当に問題ありではなかろうか。母子愛の話と言えば聞こえはいいが、ホラー映画の気概はどこにも見られない。

今回は続編ながら米国オリジナル・ストーリーというのが売り。主人公の母子と呪いの元凶のサマラは同じだ。だが、映画を見たかぎり、物語を米国に持って行ったあげく続編を作る意味があったとは思えない。ビデオテープが破棄されたので今度は息子に取り付くという設定は、もはや「リング」とは別のものだ。日本独特の湿度や、恐怖がじわじわとくる時間感覚が全く消されてしまっていては、この物語の怖さの本質には迫れない。唯一のとりえは、本作の映像的な特徴である水の描写。バスタブから逆に吹き上げて部屋を満たす水は、CG技術もすばらしく、非常に美しかった。

「キャリー」で一世を風靡したシシー・スペイセクが、鍵を握る人物として登場するが、この無駄に豪華なキャストがなおさら作品の質の低さを強調し、寒々しいばかりだ。「リング」をはじめて見た時の怖さは今でも忘れない。日本版は非常に秀逸な映画だったが、この米国版の続編で、世界が認めるジャパニーズ・ホラーにケチがついたような後味の悪さが残ってしまった。

□2005年 アメリカ映画 原題「The Ring 2」
□監督:中田秀夫
□出演:ナオミ・ワッツ、デイビット・ドーフマン、シシー・スペイセク、他

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◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
◆こんなお仕事やってます:
新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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