映画通信シネマッシモ


映画通信シネマッシモは、2018年4月をもって、終了しました。

ブログ終了にあたり、たくさんのあたたかいコメントをお寄せいただき、本当にありがとうございました。
皆さまの映画ライフに少しでもお役に立てたならこれほど嬉しいことはありません。
長い間のご愛顧に心より感謝いたします。

ニコール・キッドマン

The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ

Beguiled/ [Blu-ray] [Import]
南北戦争中のアメリカ南部・バージニア州。世間から隔絶された女子寄宿学園には、園長のマーサ、教師のエドウィナ、生徒のアリシアら、美しい7人の女性たちが生活していた。ある日、生徒の一人が負傷した北軍の兵士マクバニーを助け、学園内にかくまうことに。男子禁制の学園に突如紛れ込んだ美しい男性に、女性たちはときめき、虜になる。学園の秩序が乱れていく中、ある事件が起こるが…。

南北戦争時代、男子禁制の女子学園に北軍負傷兵が紛れ込んだことから起こる女たちの愛憎劇「The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ」。クリント・イーストウッド主演作「白い肌の異常な夜」の原作となったトーマス・カリナンの小説を、女性視点で描いたのは、ガーリー・ムービーの旗手ソフィア・コッポラ監督だ。耽美的映像や繊細な心理描写、女性視点という現代性が評価され、第70回カンヌ映画祭で監督賞を受賞している。世間知らずの女たちの中に放り込まれた男性という異物は、すさまじい異化効果を発揮。女たちの嫉妬や欲望、けん制は、やがてある恐ろしい出来事を経て、狂った審判を招くことになる。まるで、美しくも残酷なおとぎ話のようだ。

ニコール・キッドマン、キルステン・ダンスト、エル・ファニングといったコッポラ監督好みの美しい女優たちが多数出演し実に豪華だが、彼女たちが演じればその深い闇さえも優雅に思える。自然光を多用した昼間の映像や、ランプやロウソクの光の夜間の描写は、絵画のようで、閉ざされた学園の鬱屈した空気の中によどむ狂気を照らし出してる。「白い肌…」がサイコ・ホラーだとしたら、本作は心理スリラーの趣だ。好みは分かれるかもしれないが、女性たちのダークサイドを覗きたいなら、断然こちらがおすすめである。
【70点】
(原題「THE BEGUILED」)
(アメリカ/ソフィア・コッポラ監督/ニコール・キッドマン、キルステン・ダンスト、エル・ファニング、他)
(耽美度:★★★★☆)


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パーティで女の子に話しかけるには

How to Talk to Girls at Parties (Original Motion Picture Soundtrack) [Explicit]
1977年のロンドン。パンク好きなのに内気な少年エンは、偶然もぐりこんだ風変わりなパーティで美少女ザンと出会う。大好きなパンク・ミュージックやファッションの話を熱く語るエンと、それに共感したザンは、互いに惹かれあい恋に落ちる。だが、ザンは遠い惑星からきた異星人で、あと48時間後に地球を去らねばならなかった。大人が決めたルールに反発した二人は、大胆な逃避行に出る…。

パンク少年と異星人の女の子の運命の恋を描く青春ラブ・ストーリー「パーティで女の子に話しかけるには」。原作は小説家&コミック作家ニール・ゲイマンによる小説だ。1977年のロンドンの熱気は、想像するしかないのだが、パンクに夢中の若者は、大人たちの目には、理解不能の異星人のように映っただろう。そんな主人公が本物の異星人の美少女と恋に落ちる。一見突拍子もない設定に思えるが、ベースとなるのは、既成のルールに反発し、自らの生き方を貫く“同志”の男女の、普遍的な恋愛なのだ。

「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」のジョン・キャメロン・ミッチェル監督は、社会から少しはみだした人々にあたたかいまなざしを注ぐ俊英監督。この切ないラブ・ストーリーは、SF的要素まで動員して、ポップで魅力的な作品に仕上がっている。何しろ異星人の美少女ザンを演じるエル・ファニングが最高にチャーミングだ。レトロ・モダンなファッションに身を包んだ異星人たちが繰り広げる噛み合わない会話や謎のパフォーマンスなども、独特のユーモアに彩られていて、思わずクスリと笑える。そしてザンがパンクバンドのボーカルとして熱唱するライブシーンの、何と魅力的なことか!パンクのゴッド・マザー役のニコール・キッドマンの暴れっぷりもいい。ラスト、大人になったエンのもとにやってきたのは…。心優しい感動が一気に押し寄せる。音楽、ファッション、アニメまで贅沢に詰まった甘酸っぱいラブストーリーは、ブッ飛んでいるのにどこまでもピュア。これは間違いなく、はみ出し者たちへの応援歌だ。
【75点】
(原題「HOW TO Talk TO GIRLS AT PARTIES」)
(アメリカ/ジョン・キャメロン・ミッチェル監督/エル・ファニング、アレックス・シャープ、ニコール・キッドマン、他)
(ボーイ・ミーツ・ガール度:★★★★★)
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LION/ライオン 25年目のただいま

LION/ライオン ~25年目のただいま~ [Blu-ray]
サルーは、5歳の時、インドで迷子になり、孤児と認定されて、オーストラリア、タスマニアに暮らす夫婦に養子として引き取られる。利発な彼は、すぐに夫妻と新しい土地になじむ。だが、成人して本土の大学に進学したサルーは、インドにいて今も自分を探しているであろう本当の母や兄への思いが日に日に募っていた。家族を見つけることを決意したサルーは、わずかな記憶を手掛かりに、Google Earth を駆使して捜索を始める…。

5歳の時インドで迷子になりオーストラリアで養子として育ったインド人青年が25年の時を経て本当の家族を探し当てるまでを描く驚きの実話「LION/ライオン 25年目のただいま」。迷子になったのは1986年。その25年後に主人公サルーが家族を探す手助けをしてくれるのはGoogle Earthだ。IT技術が進んだとはいえ、あまりに遠い距離の“ホームカミング”がそんなに簡単に成功するものなのか?!と首をかしげたくなるが、これが実話だというから驚いてしまう。サルーはオーストラリアで幸福に暮らしているのだが、心にぽっかりと空いた穴を埋められない。愛してくれる養父母がいるのに、本当の家族を探すのは、一見身勝手にも思える。しかしそれはDNAレベルでの喪失感に基づく行為なのだ。実話なので彼が本当の家族と巡り合うことは分かっているのだが、それまでのプロセスが非常に面白い。サルーのおぼろげな記憶にあるのは、大好きだった揚げ菓子と、駅のそばの給水塔だけ。列車の中で眠り込んだ時間から距離を割り出す。給水塔のある場所から範囲を絞り込む。数字やデータを使っての検索は徐々に真実への道を照らし出していく。同時にサルーや養母の心情も丁寧に描かれる。インドで迷子になった時期は、よくまあ無事で…と思うほど波乱万丈なのだが、危険な場所や悪い大人を敏感に察知しながらたくましく生き延びる様には、サルーの中に原初的に備わる生命力を感じるし、本当の家族を探すことには自分とはいったい何者なのかを模索する、普遍的な命題が見て取れる。もっとも、養母が語る、サルーを養子にした理由が「神の啓示を受けたから」というのは、無宗教の自分には理解不能なのだが…。それでもこの驚きの実話には素直に感動を覚えた。それはデヴ・パテルやニコール・キッドマンの説得力のある名演技と、子ども時代のサルーを演じるサニー・パワールの圧倒的な存在感があるから。ラストに登場する本物のサルーの映像には思わず涙ぐんだ。そして初めてこの映画のタイトルがなぜ「ライオン」なのかが分かる。壮大な“探し物”には、沢山の奇跡と愛がつまっていた。
【70点】
(原題「LION」)
(オーストラリア/ガース・デイヴィス監督/デヴ・パテル、ルーニー・マーラ、ニコール・キッドマン、他)
(驚きの実話度:★★★★★)
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アラビアの女王 愛と宿命の日々

アラビアの女王 愛と宿命の日々 [DVD]
19世紀後半。イギリスの裕福な家庭に生まれ、オックスフォード大学を優秀な成績で卒業した貴族令嬢ガートルード・ベルは、イギリス上流社会の生活に息苦しさを感じ、テヘラン駐在大使である叔父がいるペルシャへと旅立つ。ガートルードはアラビアの砂漠に魅了され、探検家として、考古学者として、時に諜報活動も行うようになる。彼女は、2度の悲恋を経験しながらも、アラビアの和平を目指し活動を続ける。20世紀を迎え、時代の大きなうねりの中で、イラン建国を影で支えた彼女は、いつしか“砂漠の女王”と呼ばれるようになっていた…。

イラク建国の立役者となった英国人女性ガートルード・ベルの半生を描いた「アラビアの女王 愛と宿命の日々」。アラブの民を支援した英国人といえば“アラビアのロレンス”ことT.E.ロレンスが有名だが、彼よりも少し年上で、アラビアの地に情熱を注いだのが、英国人の貴族令嬢ガートルード・ベルだ。ロレンスに比べて知名度が低いこの女性は、自由な旅行者、探検家、冒険家、登山家、考古学者、詩人、作家、そしてアラビア語を解し部族や民族問題にも精通したアラビア通として諜報活動も行ったという、多面的な女性だ。劇中には若きロレンスも登場するが、本作はガートルードの政治的な側面は重視せず、砂漠に魅せられた女性の2度の悲恋が中心になっている。イラク建国の母と言われながらも、現在までも続く中東紛争の原点という解釈もある人物を描くに当たって、メロドラマのような描き方でいいのか?!という意見もあるだろう。だが、ヴェルナー・ヘルツォーク監督が見据えたのは、政治や恋愛ではなく、人間の力を超えた、砂漠という大自然そのものの魅力だったに違いない。思えばヘルツォーク監督は、南米の秘境や険しい山岳、オーストラリアの大自然など、決して人間に“飼いならされない”圧倒的な自然を背景に多くの映画を作ってきた人だ。ヴィクトリア朝時代、上流社会から飛び出した貴族の令嬢ガートルード・ベルの生き様は破天荒そのもので、まさに砂漠に魅入られた人生だった。ヘルツォーク監督の作品で初となる女性主人公を演じるニコール・キッドマンのたたずまいが気高く美しい。そして彼女の美貌を上回るほど官能的な美しさを見せる砂漠の映像が、何よりも心に残る。
【60点】
(原題「QUEEN OF THE DESERT」)
(アメリカ、モロッコ/ヴェルナー・ヘルツォーク監督/ニコール・キッドマン、ジェームズ・フランコ、ロバート・パティンソン、他)
(歴史秘話度:★★★★☆)
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パディントン

パディントン [Blu-ray]
ロンドンのパディントン駅に、真っ赤な帽子をかぶった小さなクマが降り立つ。家を探しに南米ペルーのジャングルの奥地からやって来たそのクマは、紳士的な態度と丁寧な言葉使いで通行人に話しかけるが、彼がクマだからか、誰からも相手にされない。やがて新切なブラウン一家と出会った彼は“パディントン”と名付けられ、一家の屋根裏に住みながら家を探すことに。初めての都会暮らしにとまどいながらも、純粋なパディントンは、次第に街の人気者になっていく。だが、謎の美女ミリセントが、パディントンを誘拐しようと狙っていた…。

世界中で愛されているマイケル・ボンドの児童文学「くまのパディントン」を実写映画化した「パディントン」。ポスターやチラシを見るかぎりでは、なんだかあまり可愛くない。というよりリアルすぎてキモい。原作の挿絵のパディントンの愛らしさを返せ〜!と、ひそかに憤っていたのだが、いざ映画を見てみると、意外なほど可愛いのだ。動いてナンボだったのか、パディントン!紳士的で丁寧な言葉使い、性格はかなりドジだけど、誠実でピュアなクマ。なるほど人徳、いや熊徳がある。ストーリーは、パディントンと、ちょっぴり変わり者のブラウン一家との心温まる日々から、ある理由からパディントンをつけ狙う美女ミリセントとの攻防という冒険物語へ。悪役を演じるニコール・キッドマンがノリノリで、まるでMIPのトム・クルーズばりのアクションまで披露して笑わせる。何よりも驚いたのは、パディントンの声を演じるベン・ウィショーの演技力だ。声のトーンだけで、あれほどパディントンの野性と知性、健気さまで表現できるとは!一見子どもむけのファンタジー映画だが、根底に流れるテーマは、他者との違いを喜び合う社会を目指すこと。人種や宗教の差異による争いが絶えない現代社会には、最も必要なメッセージかもしれない。
【65点】
(原題「PADDINGTON」)
(イギリス/ポール・キング監督/ベン・ウィショー(声)、ヒュー・ボネヴィル、サリー・ホーキンス、他)
(ほのぼの度:★★★★☆)
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パディントン@ぴあ映画生活

リピーテッド

リピーテッド [Blu-ray]
記憶に障害を持つ女性が思いもよらない事態へと巻き込まれるサスペンス「リピーテッド」。記憶は常に書き換えられる可能性があるのだ。

事故の後遺症により、目覚めるたびに前日の記憶を失うという特殊な記憶障害を持つ女性クリスティーンは、献身的な夫ベンの支えで毎日を送っていた。ある日ベンの留守中に、ナッシュという医師から電話がかかり、少し前からベンに内緒でクリスティーンの治療を行っていること、ここ数週間のクリスティーンの毎日を記録した映像日記があることを知らされる。その映像を再生すると、思いもよらない真実が記録されていた…。

原作は、SJ・ワトソンのベストセラーミステリー「わたしが眠りにつく前に」。主人公クリスティーンは、記憶障害は事故のせいではなく、何者かに襲われて瀕死の重傷を負ったためだと知り、その謎を探っていく。そのためのツールが“昨日の自分からのビデオメッセージ”というところが面白い。原作では映像日記ではなく文字でつづる日記。映像にすることで、クリスティーンの不安や動揺がよりリアルに伝わってくる。壁に貼られたたくさんの幸福そうな写真、再会した親友や医師の言動、優しく献身的な夫ベンのどこか思いつめたような表情。これらすべてが複雑にからみあっている。サスペンスなので謎解きは語れないが、真相はすべて“愛”ゆえということなのだろう。ベンの真実の姿はやや唐突に感じられるが、どれほどつらい事実であっても正面から向き合えば、その先に傷だらけの幸福が待っているのだ。ニコール・キッドマンとコリン・ファースのオスカー俳優同士の共演は2度目で、どちらもワケ有の夫婦という設定。美しいがどこか寒々しい室内装飾と、キッドマンの見開いた瞳がミステリアスだった。
【60点】
(原題「BEFORE I GO TO SLEEP」)
(英・仏・スウェーデン/ローワン・ジョフィ監督/ニコール・キッドマン、コリン・ファース、マーク・ストロング、他)
(不安度:★★★★☆)
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リピーテッド@ぴあ映画生活

グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札

グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札 [Blu-ray]
モナコ公妃となったグレース・ケリーの知られざる葛藤を描く「グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札」。ニコール・キッドマンが美しく優雅。

モナコ大公レーニエ3世と結婚したハリウッド女優のグレース・ケリー。子供にも恵まれたが彼女は王室で孤立していた。同じ頃、旧友のヒッチコックからハリウッド復帰の誘いがかかり、心が揺れる。だがそんな折り、フランスのシャルル・ド・ゴール大統領がモナコに税金を要求、武力衝突も辞さない非常事態となる。フランスとモナコの関係が悪化する中、グレースは自分にしかできない一世一代の難役を演じることを決意する…。

伝説的なハリウッド女優で、おとぎ話そのままにモナコ公妃となったグレース・ケリーの伝記映画は、何度も主役候補が変わった末に、ニコール・キッドマンで落ち着いた。見開いた青い瞳に吸い込まれそうなキッドマンのクローズアップの多用が示すように、ニコールありきの作品である。モナコに嫁いだグレース・ケリーの逸話では、生涯、彼女を公妃と認めなかった父王との確執や、今も謎に包まれた自動車事故の最期などがすぐに思い浮かぶが、本作はそれらにはまったく触れない。アメリカ式に女性が議論に参加しようとしても疎んじられ、堅苦しい王室のしきたりになじめないグレースは王室で孤立して孤独の中にいるが、そこにフランスとの関係悪化、宮廷内にいるフランスのスパイの存在など、外交的サスペンスがからみ、グレースが自分の役割を自覚するまでを、華麗な映像で描く人間ドラマになっている。どうしたら本物の公妃になれるのか。考えた末に、外交儀礼の専門家であるデリエール伯爵に教えを乞い、モナコの歴史、王室の仕組み、完璧なフランス語、公妃の作法、正しいスピーチなどを習得していくプロセスは、いわゆる成長物語だ。モナコを救うために開いた大舞踏会という“舞台”で練り上げたスピーチを披露する場面は、公妃という難役を演じる女優グレース・ケリーの一世一代の晴れ舞台。公妃をつらい立場ではなく、演じがいのある大役と割り切ってからの生き生きとした表情が、魅力的だ。全編を彩る優雅な衣装にも注目したい。
【60点】
(原題「GRACE OF MONACO」)
(フランス/オリヴィエ・ダアン監督/ニコール・キッドマン、ティム・ロス、フランク・ランジェラ、他)
(優雅度:★★★★☆)
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グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札@ぴあ映画生活

レイルウェイ 運命の旅路

レイルウェイ 運命の旅路 [Blu-ray]
第二次世界大戦を背景に英国人将校の壮絶な体験と献身的な妻の愛をつづるヒューマン・ドラマ「レイルウェイ 運命の旅路」。後日談を映像化せず淡々と語ったのはクレバーな演出だった。

第2次世界大戦で日本軍の捕虜となった、鉄道好きの青年将校エリックは、タイとビルマ間を走る“死の鉄道”タイメン鉄道の建設に従事し、過酷な労働を強いられ、非道な拷問を受ける。30年後、エリックは妻パトリシアと静かに暮らしながらも、戦争中の壮絶なトラウマに苦しんでいた。そんな時、自分を拷問した日本人通訳・永瀬が現在も生きていることを知る…。

原作は「エスクァイア」誌ノンフィクション大賞に輝いたエリック・ローマクスの自叙伝。戦争中に日本人が捕虜に対して行った強制労働や拷問の実態は、日本人にはつらい内容なのだが、学校の教科書には決して載らないこういう真実を教えてくれるのが映画の魅力であり役割のひとつでもある。鉄道マニアの青年将校だったエリックは、戦況を知るためにラジオを作るが、それが日本軍にバレて激しく拷問される。エリックの拷問現場に立ちあい通訳をしていた永瀬が、戦後、タイで戦争体験を伝える活動をしていると知ったエリックは、激しく動揺するが、悩んだ末に永瀬に会うことを決意する。終盤に描かれるこの2人が相対する“決闘”シーンは、緊張感がみなぎる迫真の場面だ。エリックは永瀬の非道と嘘を問い詰めるが、彼が最終的に下した決断は、キリスト教的な愛に基づく崇高な行為だった。戦争は単純な勝ち負けでは語れない。本作のテーマは赦しと贖罪。戦後、長く友情を育んだというエリックと永瀬のことを美談にして映像化せず、淡々と描いた演出が功を奏した。心に傷を負った人物を演じるコリン・ファースと真田広之の、共に抑えた熱演が素晴らしい。
【65点】
(原題「The Railway Man」)
(豪・英/ジョナサン・テプリツキー監督/コリン・ファース、ニコール・キッドマン、真田広之、他)
(歴史秘話度:★★★★☆)
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ペーパーボーイ 真夏の引力

ペーパーボーイ 真夏の引力 [Blu-ray]
ペーパーボーイ 真夏の引力 [Blu-ray] [Blu-ray]
殺人事件を調査する兄弟が奇妙な人間関係にからめとられていく「ペーパーボーイ 真夏の引力」。ニコール・キッドマンのビッチぶりがすごい。

1960年代のフロリダ。大学を辞めたジャックは父親が経営する小さな新聞社で新聞配達を手伝う退屈な日々を送っていた。ある時、新聞記者をしている兄ウォードが、4年前に起きた殺人事件の再調査をすることになり、ジャックはそれを手伝うことに。依頼主は事件の犯人で死刑囚のヒラリーと文通だけで愛し合い、婚約までしている風変わりな美女シャーロットだった。ジャックはシャーロットに強く惹かれるが、シャーロットの目的やヒラリーの真偽は謎のまま。事件を追い真相を探るウォードとジャックの兄弟は、やがて悪夢のような事件に巻き込まれていく…。

原作はピート・デクスターの同名小説。物語の骨格そのものは、青年のひと夏の初恋スタイルをとっているのに、映画全編を南部特有のねっとりした高温多湿の空気が覆い、異様な嗜好の男女が入り乱れて、血と汗と臭気が漂うスキャンダラスな問題作に仕上がっている。主人公のジャックは人間としても男としても半人前の新聞配達(ペーパーボーイ)で、どこかあきらめたような、それでいて何かを渇望するような不安定な青年だ。得意の歌や踊りを封印したザック・エフロンが好演しているが、この決して大作とはいえない本作の豪華キャストの演技合戦の前に貫禄負けは否めない。秘密を抱えた兄役のマシュー・マコノヒーや犯罪者ヒラリーを怪演するジョン・キューザック、さらに出番は少ないが兄弟の父親役のスコット・グレンなど、クセ者が勢ぞろいした。だがなんと言ってもバービー人形のように美しく、それでいて淫らで下品な謎の女シャーロットを演じるニコール・キッドマンの迫力が群を抜く。「誘う女」や「イノセント・ガーデン」でも妖艶な美女を演じているが、本作の品位のなさは演技とはいえあっけにとられるほどで、この美人オスカー女優の演技者としての底力と肝っ玉を再確認した。刑務所の面会室でのヒラリーとの“やりとり”や、クラゲにさされたジャックの身体に放尿して救う場面など、あっぱれなビッチぶりである。もはやヒラリーの事件や彼が無実かどうかなどの謎は脇に置いて、歪んだ闇を抱え持つ男女の行く末を、沼地の奥の奥まで行って見守りたくなる。主人公の大人への通過儀礼はあまりに痛切。見終わったらグッタリと疲れるが、「プレシャス」で注目されたリー・ダニエルズ監督は、残酷な大人たちが本性をむき出しする世界をスキャンダラスなドラマで描いてみせた。やはり才人である。
【65点】
(原題「THE PAPERBOY」)
(アメリカ/リー・ダニエルズ監督/ザック・エフロン、ニコール・キッドマン、マシュー・マコノヒー、他)
(いかがわしさ度:★★★★☆)
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ブレイクアウト

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ニコラス・ケイジとニコール・キッドマンの2大スターが初共演した「ブレイクアウト」。シチュエーション・サスペンスなのに、緊張感に欠けてどうする。

カイルは、美しい妻サラと、反抗期だが愛らしい娘のエイヴリーと3人で豪邸に住むダイヤモンド・ディーラー。鉄壁のセキュリティを誇るはずのこの邸に、突然、覆面武装した4人組の強盗団が侵入する。強盗は、金庫を開けて中にあるダイヤを出せと迫るが、カイルにはその宝石をどうしても渡せない理由があった。一方、妻サラにもカイルに打ち明けられない秘密があって…。

原題「Trespass」は不法侵入の意味。まったく違う邦題になってしまったが、「ブレイクアウト」って確かチャールズ・ブロンソンの同名映画があったっけ。そして「アウトブレイク」という間違えやすいタイトルの映画も。混乱必至のこの題名からして何かB級臭が漂うが、フタを明けてみると、思ったとおりのユルいサスペンスだった。物語は、密室状態で、犯人と人質が心理戦を繰り広げるというシチュエーション・サスペンス。監督のジョエル・シューマッカーは、かつて「フォーン・ブース」でこのジャンルで冴えをみせたが、今回はなんとも締りがない。それはひとえに妻サラのポジショニングの曖昧さが原因だ。もしや強盗団と仲間なのか?という疑問を夫が持つのだが、その真相はあっけないもの。夫カイルの秘密にいたっては、最初からバレバレに読めてしまう。この物語、むしろ、犯人側の方のドラマを描く方がよほど面白かったのでは…と思うが、そちらの描写も、中途半端に終わっている。密室ものとしても、途中であっさり外に出てしまうなど、粗が目立つ作りだ。2大オスカー俳優の夢の初共演も、これでは残念な結果というしかない。サスペンスとしては弱すぎるこの作品を楽しむためには、問題を抱えた家族が、非常事態によって、もう一度絆を取り戻す家族ドラマとしてみるべきだろう。
【45点】
(原題「Trespass」)
(アメリカ/ジョエル・シューマッカー監督/ニコラス・ケイジ、ニコール・キッドマン、リアナ・リベラト、他)
(密室度:★★☆☆☆)
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