映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
毎日のレビューは分かりやすく簡潔な寸評で、週1本の長文映画レビューでは作品をディープに掘り下げます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる公開作品 ◎
「ファミリー・ツリー」「ダーク・シャドウ」「サニー」

ヒース・レジャー

映画レビュー「Dr.パルナサスの鏡」

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◆プチレビュー◆
鬼才ギリアムが描く摩訶不思議ワールド。ヒース・レジャー急逝の大ピンチを乗り切る必殺技が見事だ。 【65点】

 現代のロンドン。悪魔との契約で不死になったパルナサス博士が率いる移動式劇場は、鏡で人々を別世界に誘う見世物で大人気だ。だが博士は最近、何かに怯えている。そんなある日、記憶を失くした男トニーが一座に加わるが…。

 テリー・ギリアム監督が作る映画には、トラブルがお約束だ。「未来世紀ブラジル」では、内容の改ざん問題で配給会社ともめる。「バロン」では、ずさんな予算管理で思い描いたとおりの作品が撮れない。「ドンキホーテを殺した男」を作ろうとして頓挫した無念は、ドキュメンタリー「ロスト・イン・ラ・マンチャ」をご覧いただきたい。よくまぁ、映画制作に嫌気がささないものだと感心しているのだが、毒気とシニカルな味が売り物のモンティ・パイソンに参加していただけあって、ギリアムはメゲないのだ。

 そうは言えども、若き名優ヒース・レジャー急逝のニュースは、彼を主要キャストとする本作の撮影半ばだったギリアムを絶望させたに違いない。そんなピンチを救ったのが、鏡の内・外の人物を別々の俳優が演じる4人1役という卓越したアイデアだ。複数一役は他の映画でも時折みかけるが、ルックスの変化を人間の欲望の多様性として用いると、物語と絶妙にシンクロする。苦肉の策とはいえ、結果的にこれが本作のエッセンスになった。

 パルナサス博士は不死の代償として、愛娘ヴァレンティナが16歳になったら差し出すという取引を悪魔とかわしていた。だが博士は、何とかして悪魔を出し抜こうと賭けを試みる。鏡の中に誘った人間5人を正しい道に導けば賭けに勝てるのだが、ヴァレンティナが鏡に入ってしまい、物語は思わぬ方向へ。ヒースの分身ともいえる役を演じるのは、ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルという3人の人気俳優だ。それぞれ、人間の潜在的な欲望を体現。その願いは良識ある選択で博士に、堕落への誘惑で悪魔に味方する。

 鏡の中の場所「イマジナリウム」の造形は、森の中、砂漠、雲の上と変幻自在。まさにギリアム・ワールドだ。緻密なCGなのに、どこか古色蒼然とした手作り感もあり奇抜な世界が広がる。一方で、ヒースが演じるトニーがいる現実の世界が哀しみに満ちているのは見逃せない。現実と夢を行き来する案内役を、今は故人の俳優が務めることが、観客をよりシュールな幻想に誘う。破天荒な世界観についていくのは難儀だが、映画のテーマが“幸せとは何か”の問いであることさえ忘れなければ、めくるめく迷宮にどっぷりと浸って構わない。

 ともあれ、ヒースの死という悲劇を乗り越え、映画が無事に完成してくれたことを喜ぼう。基本的に一人で作り上げる小説や絵画と違い、複数でクリエイトする映画においては、物事は計画通りに進んではくれないものだ。むしろ、必ず起こる予想外の事態をどう収めるかで、作り手の腕が試される。臨機応変に、マイナスをプラスに変える。そんな監督こそが真に才能ある映画人といえるのではなかろうか。七転八起の鬼才監督ギリアムには、映画という名の悪魔を相手に、今後も比類なき賭けに挑んでほしいと願っている。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)ファンタジック度:★★★★☆

□2009年 イギリス・カナダ合作映画 原題「The Imaginarium of Dr.Parnassus」
□監督:テリー・ギリアム
□出演:ヒース・レジャー、クリストファー・プラマー、リリー・コール、他

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映画レビュー「ダークナイト」

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◆プチレビュー◆
闇のヒーローの苦悩を描く人間ドラマが秀逸。故ヒース・レジャーの鬼気迫る演技は必見だ。 【85点】

 ゴッサム・シティは、正義漢の新任検事ベントらのおかげで平和な街に。だが、そこに悪のカリスマ・ジョーカーが現われる。暴挙を繰り返すジョーカーに、バットマンこと大富豪のブルース・ウェインは追いつめられる…。

 題名から“バットマン”の文字が消えた。前作「バットマン・ビギンズ」も含め、過去を刷新する決意表明で、この作品の本気度は極めて高い。バットマンはアメコミ・ヒーローの中でも一際ダークで異彩を放つが、今回は対峙する悪の猛威も桁外れ。もはや単純なヒーローものの枠には収まらないのだ。不気味な死の影が覆うこの傑作は、映画冒頭から重低音で脳髄の芯まで響いてくる。

 バットマンの武器は、自らの意思で鍛えた運動能力と知性だけだ。圧倒的な財力のおかげでバットモービルやバットスーツなど、スペシャルな装備を持ってはいるが、もともと彼には超人的な能力はない。命がけの戦いは彼の身体に無数の傷痕を残している。傷は肉体だけではない。平和を求めるバットマンの原動力は、両親を殺した悪への憎悪なのだ。これでは心の傷跡も増える一方だ。しかも、彼が行う、法律とは別の正義は、結果的に悪を呼び寄せてしまう。正真正銘のアナーキーにして極悪非道なジョーカーがそれだ。「おまえは俺だ」というジョーカーの言葉に苦悩するバットマン。二律背反に限界ギリギリまで引き裂かれる主人公の魂が、人間ドラマとして深い感動を誘う。

 本作では、ジョーカー、トゥー・フェイスという過去に登場したキャラを呼び戻した。二人にバットマンを加えた三つの力の衝突が物語を転がしていく。重要キャストの命さえ平気で奪う異様なストーリーはいったいどこへ向かうのか。観客の混乱をよそに、狡猾なジョーカーはバットマンの周りの生命を天秤にかけて弄ぶ。だが、もがくヒーローが、炎から抜け出す時こそ覚醒のとき。二輪車バットポッドが轟音とともに駆け抜けた瞬間、最高にエモーショナルな興奮に包まれる。

 この一級のクライム・アクションは、演技面でも隙はない。主役から脇役まで実力派揃いだが、中でもジョーカー役のヒース・レジャーの怪演は圧巻というしかない。ジョーカーと言えば、かつて名優ジャック・ニコルソンが演じた役。だがヒースは、プレッシャーを不敵な笑みに内包し、役柄をモノにした。陰気な猫背に黄色い歯、時には女装さえしてみせる。狂気の極みで吼える若き演技派は、自らの命と引き代えるかのごとく、死でニコルソンを越えていった。

 正義に燃えるデント判事を光の騎士と呼び、あえて汚名を被るバットマンこそは闇の騎士(ダークナイト)。2人の間には、愛する女性レイチェルへの思いも横たわる。最強にして最狂の敵ジョーカーが仕掛けたゲームに対し、バットマンは彼のみにしか出来ない行為で応える。それは“正しい選択”だ。

 夜明け前は最も暗い。闇に消えるストイックなヒーローの後姿がまぶたに焼き付いて離れない。彼はきっと戻ってくると信じよう。なぜなら、バットマンの正義を知るのは、忠実な執事アルフレッドと、私たち観客だけなのだから。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)スタイリッシュ度:★★★★★

□2008年 アメリカ映画 原題「THE DARK KNIGHT」
□監督:クリストファー・ノーラン
□出演:クリスチャン・ベール、ヒース・レジャー、アーロン・エッカート、他

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俳優ヒース・レジャー、死去

おくやみ2008年1月22日、オーストラリア出身の俳優ヒース・レジャーが死去しました。

このブログで訃報をお伝えするのは、たいていは高齢の映画人が人生をまっとうして眠りにつくパターンが多いのですが、彼の場合はまだ28歳。
薬物の過剰摂取とも伝えられています(1/23現在)。
オスカーにもノミネートされた将来有望な俳優の突然の死は、大変残念です。

代表作は、「恋のからさわぎ」「パトリオット」「チョコレート」「ロック・ユー!」
「サハラに舞う羽根」「悪霊喰」「ブラザーズ・グリム」「ブロークバック・マウンテン」
「カサノバ」「キャンディ」「ロード・オブ・ドッグタウン」など。

私が最も印象に残っている作品は、やはりアン・リー監督の問題作「ブロークバック・マウンテン」。同性愛のカウボーイという非常に難しい役で、共演のジェイク・ギレンホールとともに高い演技力を示しました。ラストシーン、青いシャツを胸に抱いて「ずっと一緒だよ」とつぶやく演技には、胸を締め付けられたものです。

また「ロード・オブ・ドッグタウン」では、サーフショップのオーナーという脇役ながらいい味を出していました。

コミカルで軽い役から、シリアスな難役までこなす若手演技派だったといえます。
享年28歳。ご冥福をお祈りします。合掌。

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キャンディ

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ヒース・レジャーが体当たりの演技を披露するこの映画は、深く愛しあいながら麻薬に溺れるカップルが主人公。「シド・アンド・ナンシー」を連想するが、詩人と画家の二人に全く才能がないのがいただけない。二人だけの世界に浸るにしても、田舎が舞台では絵にならず、感情移入できない物語だ。そんな中、時に二人に麻薬を与えながらも早く薬を止めろと諭す親代わりのラッシュの役柄が、複雑な人間性を表して興味深い。
【40点】
(原題「CANDY」)
(オーストラリア/ニール・アームフィールド監督/ヒース・レジャー、アビー・コーニッシュ、ジェフリー・ラッシュ、他)
(自堕落度:★★★★☆)

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ブロークバック・マウンテン

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◆プチレビュー◆
アン・リーのフィルモグラフィーの一貫性のなさが、何よりも興味津津。ヒース・レジャーのモゴモゴした口調がマーロン・ブランドのようで、ちょっと苦笑いした。

60年代のワイオミング州ブロークバック・マウンテン。季節労働者として働くカウボーイのイニスとジャックは、羊の放牧という過酷な労働の中で、いつしか精神的にも肉体的にも結ばれる。妻と子を得ても互いを忘れられない二人は、年に数回の秘密の逢瀬を20年以上続けるが、それは決して許されることのない愛だった…。

同性愛のカウボーイの不倫話。一歩間違えるときわものになってしまうこの題材を、台湾出身のアン・リーが手がけたことにまず驚く。見事な秀作に仕上がっていて再び驚嘆。さらに、大本命と言われながら今年のオスカー作品賞を逃すという事態も加わり、とことん観客を驚かせてくれる作品になった。出来ばえは見事のひと言。そもそもゲイのカウボーイの話がなぜこんなに胸を打つのだろうか。

妻たちの立場になれば、主人公を全面的に肯定できない人もいるだろう。だが、保守的な時代と男らしさが尊ばれるカウボーイの世界で、異端の愛情を貫きとおすことがどれほど困難か。どんな障害に行く手を阻まれても、自分を貫く二人の生き方は、ある意味でアメリカ人の理想とするところだ。美しい大自然を詩情豊かに描写したカメラが素晴らしく、こちらもアメリカの魂のような風景。同性愛という少数派の生き様が見る人全ての心に響くのは、この映画が、理想の中で生まれる暴力と悲劇の実態を品格を持って描いているからだ。

ブロークバック・マウンテンとは、理想郷の象徴。そこには二度と戻れないことを二人は知っている。唐突にやってくる永遠の別れから、イニスとジャックのシャツが重なり二度と離れないと誓うラストまで、静かな感動は一気に頂点へ。寄り添うように流れるギターのメロディが物語を忘れられないものにしている。

□2005年 アメリカ映画 原題「BROKEBACK MOUNTAIN」
□監督:アン・リー
□出演:ヒース・レジャー、ジェイク・ギレンホール、ミシェル・ウィリアムズ、他

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ブラザーズ・グリム

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◆プチレビュー◆
ファンタジーとは本来おぞましいものを内包するものなのだと納得。「赤ずきん」や「白雪姫」などのおなじみのお話がブラックに散りばめられているのがグッドだ。

19世紀、フランス占領下のドイツ。インチキ魔物退治のからくりを見抜かれたグリム兄弟は、代償として森で起きた少女失踪事件の調査を命じられる。イカサマの魔物で賞金を稼ぎ世間を欺いてきた彼らは、本物の怪奇現象に遭遇することになるが…。

何しろ「出来上がった」作品を見せてもらえるだけでも感激だ。テリー・ギリアム監督は「ロスト・イン・ラマンチャ」で映画作りの地獄を味わい、それでも懲りずに映画を作ってくれる。今回は、童話で有名なグリム兄弟が実はペテン師だったという、いかにも彼らしい設定の物語だ。

インチキで魔物を演出していた彼らが本物の「恐ろしいもの」に出会い狼狽するが、その怪現象がどれも素晴らしい。移動しながら人を襲う森の木、実の娘より自分の欲望に忠実な父親はいまは狼の姿。極めつけは500歳の鏡の女王。世界一の美女といっても過言ではないM.ベルッチが、美と醜を使いわけて怪演する様子は必見だ。

幼児期のトラウマから屈折したグリム兄弟は森の魔力に打ち勝つことが出来るのか?現実主義の兄役のマット・デイモンと夢見がちな弟役のヒース・レジャー。本来なら逆の配役が普通だが、あえてミス・キャストにするところがギリアム流。このダーク・ファンタジー、私は大いに楽しんだ。

□2005年 アメリカ映画 原題「The Brothers Grimm」
□監督:テリー・ギリアム
□出演:マット・デイモン、ヒース・レジャー、モニカ・ベルッチ、他

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◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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