Dr.パルナサスの鏡 [DVD]
◆プチレビュー◆
鬼才ギリアムが描く摩訶不思議ワールド。ヒース・レジャー急逝の大ピンチを乗り切る必殺技が見事だ。 【65点】
現代のロンドン。悪魔との契約で不死になったパルナサス博士が率いる移動式劇場は、鏡で人々を別世界に誘う見世物で大人気だ。だが博士は最近、何かに怯えている。そんなある日、記憶を失くした男トニーが一座に加わるが…。
テリー・ギリアム監督が作る映画には、トラブルがお約束だ。「未来世紀ブラジル」では、内容の改ざん問題で配給会社ともめる。「バロン」では、ずさんな予算管理で思い描いたとおりの作品が撮れない。「ドンキホーテを殺した男」を作ろうとして頓挫した無念は、ドキュメンタリー「ロスト・イン・ラ・マンチャ」をご覧いただきたい。よくまぁ、映画制作に嫌気がささないものだと感心しているのだが、毒気とシニカルな味が売り物のモンティ・パイソンに参加していただけあって、ギリアムはメゲないのだ。
そうは言えども、若き名優ヒース・レジャー急逝のニュースは、彼を主要キャストとする本作の撮影半ばだったギリアムを絶望させたに違いない。そんなピンチを救ったのが、鏡の内・外の人物を別々の俳優が演じる4人1役という卓越したアイデアだ。複数一役は他の映画でも時折みかけるが、ルックスの変化を人間の欲望の多様性として用いると、物語と絶妙にシンクロする。苦肉の策とはいえ、結果的にこれが本作のエッセンスになった。
パルナサス博士は不死の代償として、愛娘ヴァレンティナが16歳になったら差し出すという取引を悪魔とかわしていた。だが博士は、何とかして悪魔を出し抜こうと賭けを試みる。鏡の中に誘った人間5人を正しい道に導けば賭けに勝てるのだが、ヴァレンティナが鏡に入ってしまい、物語は思わぬ方向へ。ヒースの分身ともいえる役を演じるのは、ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルという3人の人気俳優だ。それぞれ、人間の潜在的な欲望を体現。その願いは良識ある選択で博士に、堕落への誘惑で悪魔に味方する。
鏡の中の場所「イマジナリウム」の造形は、森の中、砂漠、雲の上と変幻自在。まさにギリアム・ワールドだ。緻密なCGなのに、どこか古色蒼然とした手作り感もあり奇抜な世界が広がる。一方で、ヒースが演じるトニーがいる現実の世界が哀しみに満ちているのは見逃せない。現実と夢を行き来する案内役を、今は故人の俳優が務めることが、観客をよりシュールな幻想に誘う。破天荒な世界観についていくのは難儀だが、映画のテーマが“幸せとは何か”の問いであることさえ忘れなければ、めくるめく迷宮にどっぷりと浸って構わない。
ともあれ、ヒースの死という悲劇を乗り越え、映画が無事に完成してくれたことを喜ぼう。基本的に一人で作り上げる小説や絵画と違い、複数でクリエイトする映画においては、物事は計画通りに進んではくれないものだ。むしろ、必ず起こる予想外の事態をどう収めるかで、作り手の腕が試される。臨機応変に、マイナスをプラスに変える。そんな監督こそが真に才能ある映画人といえるのではなかろうか。七転八起の鬼才監督ギリアムには、映画という名の悪魔を相手に、今後も比類なき賭けに挑んでほしいと願っている。
(シネマッシモ評価:★5つが満点)ファンタジック度:★★★★☆
□2009年 イギリス・カナダ合作映画 原題「The Imaginarium of Dr.Parnassus」
□監督:テリー・ギリアム
□出演:ヒース・レジャー、クリストファー・プラマー、リリー・コール、他
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