映画通信シネマッシモ


映画通信シネマッシモは、2018年4月をもって、終了しました。

ブログ終了にあたり、たくさんのあたたかいコメントをお寄せいただき、本当にありがとうございました。
皆さまの映画ライフに少しでもお役に立てたならこれほど嬉しいことはありません。
長い間のご愛顧に心より感謝いたします。

フィリップ・シーモア・ホフマン

ハンガー・ゲーム FINAL:レジスタンス

ハンガー・ゲーム FINAL:レジスタンス(初回限定版) [Blu-ray]
戦う宿命を背負った少女のサバイバルを描いた人気シリーズ最終章の前編「ハンガー・ゲーム FINAL:レジスタンス」。本当のファイナルの前のウォーミングアップ。

ハンガーゲームの歴代勝者を戦わせる記念大会の闘技場から危機一髪で救出されたカットニスは、コイン首相率いる反乱軍の秘密基地に収容される。そこでは、スノー大統領が君臨する独裁国家パネムを倒し、自由で平等な新国家を建設するための戦いの準備が進められていた。カットニスは、革命のシンボルとなり反乱軍と共に戦うことを決意。しかし狡猾なスノー大統領は、ピータを人質にし、彼をプロパガンダに利用する。カットニスと反乱軍はピータ救出作戦を実行するが、その先にはさらなる過酷な運命が待ち構えていた…。

人気シリーズもいよいよファイナルへ突入。とはいえ、本作はファイナル2部作の前編にあたるので、アクションという意味では地味な作りだ。大きな進展や派手な戦闘はなく、むしろ、犠牲者を出しながら戦うことや革命のシンボルに祭り上げられる自分に対して葛藤するヒロイン・カットニスの心理ドラマに比重が置かれている。そうは言ってもティーン向けアクション映画なので、ドラマはあまりウジウジもしていられない。独裁国家も反乱軍も、大人たちが重視するのはイメージ戦略という点が共通なのが面白い。特に、撮影されるカットニスの姿に迫力がないと言って、本物の戦闘で彼女の気持ちを高めるなど、カリスマを作りだすためには、残酷なまでのリアルな演出が求められているのだ。反乱軍のリーダー役でオスカー女優のジュリアン・ムーアが新たに参戦し、存在感を示している。反撃の準備は整った。どれほど弾圧されようとも、自由への渇望は奪えない。本作で意識的に下がったテンションを、ファイナル後編でどれほど爆発させられるかが決め手となる。期待しよう。
【60点】
(原題「THE HUNGER GAMES: MOCKINGJAY - PART 1」)
(アメリカ/フランシス・ローレンス監督/ジェニファー・ローレンス、ジョシュ・ハッチャーソン、リアム・ヘムズワース、他)
(アクション度:★★☆☆☆)
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ハンガー・ゲーム FINAL:レジスタンス@ぴあ映画生活

25年目の弦楽四重奏

25年目の弦楽四重奏 [Blu-ray]
弦楽四重奏団内で噴出する感情や葛藤を描く人間ドラマ「25年目の弦楽四重奏」。名優たちの渋い演技合戦が見もの。

世界的に有名な弦楽四重奏団“フーガ”。完璧な演奏と絶妙なバランスで聴衆を魅了し、結成25周年を迎えた。記念演奏会の演目にはベートーベン晩年の名作「弦楽四重奏曲第14番」を選び、この難曲と向き合うため、さっそく練習を開始する。だが、メンバーのリーダーでチェロ奏者のピーターがパーキンソン病を発病し、今期限りで引退すると宣言する。激しく動揺するメンバーたちだったが、カルテットの再編成という切迫した現実を前に、それまで蓋をしていた感情や葛藤が一気に噴出してしまう。解散の危機に瀕したカルテットに演奏会の日は刻々と迫ってくるが…。

劇中で弦楽四重奏団が挑むベートーベンの「弦楽四重奏曲第14番」とは、全7楽章を途切れなく奏でる難曲。途中で調弦が狂ってもチューニングすることは出来ず、狂っていく音程の中で演奏するという斬新な名曲だ。曲の歪みの中に調和を探し続けるという難題が、そのまま4人の人生の難題に重なっていく構成は、実に上手い。第一バイオリンのダニエルは極めて精巧な演奏でカルテットを引っ張る完璧主義者。彼を支える第二バイオリンのロバートと、ビオラのジュリエットは私生活でも夫婦だ。皆をまとめる最年長のピーターはチェロ。25年間も一緒に演奏してきた彼らは完璧なハーモニーを奏でるカルテットのはずだが、ピーターの引退宣言で、それまで心に秘めていた嫉妬、ライバル心、秘めた恋が一気に露呈する。狂ってしまった関係性を何とか安定させなければならないのだが、人生の調弦と調和はそう簡単ではないのだ。いやむしろ、人生においては、狂いや歪みがあることこそが当たり前。自分で着地点を探し続けるしかない。過去にも共演しているホフマンとキーナーの名優二人の相性は抜群だし、ウォーケンの渋い演技も捨てがたい。だがダニエルを演じるロシア出身のマーク・イヴァニールは、音楽に人生を捧げた芸術家の孤独を静かに熱演していて心に残る。クラシックファンにはたまらないカメオ出演もあり、音楽映画としても見所は多いが、何よりも、仲間、夫婦、親子、恋人と、さまざまな形で調和を模索する大人の人間ドラマとして味わいたい。
【65点】
(原題「A LATE QUARTET」)
(アメリカ/ヤーロン・ジルバーマン監督/フィリップ・シーモア・ホフマン、クリストファー・ウォーケン、キャサリン・キーナー、他)
(大人の映画度:★★★★☆)
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25年目の弦楽四重奏@ぴあ映画生活

ザ・マスター

ザ・マスター [Blu-ray]
新興宗教団体を舞台に人間の心の闇をえぐる「ザ・マスター」。PTAの作品は見る側にも力を要求する。

第二次世界対戦後の1950年代のアメリカ。海軍での海外赴任から戻った帰還兵のフレディは戦地でハマッてしまったアルコール依存症をひきずり、一般社会になじめずに各地を転々と放浪していた。ある時、酔ったまま密航した船で、その船の主であり、新興宗教「ザ・コーズ」のカリスマ教祖であるランカスター・ドッド、通称“マスター”と出会う。ドッドはフレディの密航を咎めず、逆に仲間に迎え入れる。やがてフレディはマスターと教団にのめり込み、マスターの右腕の地位を獲得するが、ドッドの妻ペギーは暴力的なフレディの存在を認めていなかった…。

PTA(ポール・トーマス・アンダーソン)のひさびさの新作は、何とも不気味な迫力に満ちた怪作だ。新興宗教団体(サイエントロジー)をモデルにした本作は、世間を騒がせるのに十分な、刺激的なテーマである。だが、そのアプローチは凡百のものとは異なり、新興宗教団体を否定も肯定もせず、ましてゴシップや三文記事的な興味で語るものでもない。不完全な人間同士が抗えない力で求め合う姿を重厚な筆致で描いていく。戦地で自前のカクテル作りに励んだあげく、アルコール依存症を患ったフレディは、マスターによって、自分を無条件に受け入れてもらえる喜びを初めて知った。一方、カリスマ教祖でありながら妻に頭が上がらないマスターもまた、力強さと脆さが同居するフレディに否応なく惹かれている。二人はやがて反発しあうことをどこかで自覚しながら、互いを必要としているのだが、マスターの妻ペギーはそれを許さない。フレディは、マスターが提唱するあるメソッドで心を開放し、彼と教団に盲目的にのめり込んでいくが、次第に信じていたものの矛盾や汚点が見えてしまうのが悲劇的だ。そのことは人間関係や教団のあり方そのものを破壊していく。そんな変化に呼応するかのようにホアキン・フェニックスの演技もまた凄みを増していく。本作が実質的な俳優復帰作となったホアキンの狂気をはらんだ熱演ぶりを見るだけでも、この映画を見る価値があるというものだ。主従でも対等でもない、究極的にスリリングな人間関係は、生きる苦しみと共にあるのだろうか。物語やキャラクターに共感は決してできないが、それでも脳裏にこびりついて離れない。これだからPTAの映画は秀逸なのだ。
【75点】
(原題「THE MASTER」)
(アメリカ/ポール・トーマス・アンダーソン監督/ホアキン・フェニックス、フィリップ・シーモア・ホフマン、エイミー・アダムス、他)
(共感度:★★☆☆☆)
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ザ・マスター@ぴあ映画生活

スーパー・チューズデー 正義を売った日

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アメリカの大統領選の駆引きと人間模様を描く「スーパー・チューズデー 正義を売った日」。腹黒さと信頼が入り乱れる、硬派な政治ドラマだ。

スティーヴン・マイヤーズは、マイク・モリス知事の大統領選挙キャンペーンチームで広報官をつとめる若き野心家だ。戦略担当として手腕を発揮する彼は、今後の選挙戦において重要な拠点となるオハイオ州での予備選討論会の後、対立陣営から密会を持ちかけられる。一方で、同じチームの女性インターンのモリーと親しくなる。この二つの出来事が、やがて選挙戦を揺るがす事態へ発展し、スティーヴン、モリス、ベテランの参謀ポールらを予想不可能な運命へと巻き込んでいく…。

ハリウッドのトップスターのジョージ・クルーニーが、監督・出演・制作を務めた、スリリングな政治サスペンスだ。スーパー・チューズデーとは、民主、共和両党の候補者を選ぶ各州の選挙が集中する日のこと。アメリカのみならず、世界中が注目する米国大統領選では、スキャンダルやネガティヴ・キャンペーン、有力者の取り込みなど、情報操作や心理戦は当たり前。そんな駆け引きと裏切りが横行する中では、正義や忠誠心の意味は刻々と変化し、原型をとどめない。主人公は、大統領候補のクルーニーではなく、モリス陣営のナンバー2を演じるライアン・ゴズリングだ。政治に理想を求めていた主人公が、非情ともいえる策略家になっていく様と、その中でみせる彼なりの正義。一度はワナにはまり絶対絶命になるものの、モリスの決定的なスキャンダルを握ってからのゴズリングの変貌ぶりは見事だ。物語は、権謀術数を操らなければ生き残れない権力の構図を浮き彫りにする。終盤、モリスとスティーヴンが暗がりで対話するシークエンスは、武器を持たない殺し合いにも似て緊張感たっぷりだ。政策や人格などは二の次。保身のためならどんな手も使う政治の世界を、スリルたっぷりの娯楽作で批判してみせるクルーニーの手腕が冴える。フィリップ・シーモア・ホフマンやポール・ジアマッティら、脇を固めるくせ者俳優の使い方も上手い。原作は、実際に選挙キャンペーンで働いていたボー・ウィリモンによる戯曲「ファラガット・ノース」。アメリカの政治とは、裏切りやスキャンダルも含めて“ショー”なのだ。主役になるには清濁併せ持つタフな精神力が必要ということだろう。
【70点】
(原題「THE IDES OF MARCH」)
(アメリカ/ジョージ・クルーニー監督/ライアン・ゴズリング、ジョージ・クルーニー、フィリップ・シーモア・ホフマン、他)
(情報操作度:★★★★☆)
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スーパー・チューズデー 〜正義を売った日〜@ぴあ映画生活

メアリー&マックス

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オーストラリア出身のアダム・エリオットはこれが長編映画監督デビューとなるが、初監督とは思えない完成度の高さ。決して可愛いとはいえない奇妙なビジュアル、独特のアイロニー、ビターな味わいが世界中で絶賛されたクレイ・アニメーションで、ヴォイスキャストも、フィリップ・シーモア・ホフマン、トニ・コレットといった個性派俳優が揃っている。

8歳の少女メアリーはオーストラリアのメルボルンに住んでいる、ちょっと変わった女の子。いじめられっ子でひとりぼっちの彼女は、ある日、アメリカに住む“誰かさん”と文通をしようと思い立ち、電話帳から“マックス・ホロウィッツさん”を選び出す。ひときわ変わった名前の彼は、ニューヨークに住む、人付き合いが苦手で孤独な中年肥満男だ。マックスのもとに1通の手紙が届いたことから、メアリーとマックスの、2つの大陸を隔てた文通が始まる…。

クレイアニメというとすぐにニック・パークの「ウォレスとグルミット」などの可愛らしい作品が思い浮かぶが、本作の手触りはまったく違う。動物が活躍もしないし、魔法もなく奇跡も起こらない。そこにはリアルでビターな現実が横たわっているのだ。さらに紡ぐ時間はなんと20年!自閉症のマックスと変わり者のメアリーの二人にとって、他者とコミュニケーションをとることは、最高難易度のミッションだったに違いない。デジタル時代の今、手紙というツールは何とも古風だが、面と向かっては言えないことも、手紙を通せば素直に表現できる。メアリーとマックスは、手紙によって、互いを思い、理解し、自分自身が成長することを学んでいく。時には腹立たしいことがあっても、それを乗り越えてこそ、見えてくる幸福がある。このアニメーションのテーマは、思いのほか深い。

撮影は1日にわずか44秒、完成までに4年という時間と労力を費やした傑作アニメは、世界中で評価され、アヌシー国際アニメーション映画祭・最優秀長編映画賞、第76回アカデミー賞短編アニメ賞など、多くの賞を獲得した。

(出演:(声)フィリップ・シーモア・ホフマン、トニ・コレット、エリック・バナ、他)
(2008年/オーストラリア/アダム・エリオット監督/原題「MARY AND MAX」)


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メアリー&マックス@ぴあ映画生活

映画レビュー「脳内ニューヨーク」

脳内ニューヨーク [DVD]脳内ニューヨーク [DVD]
◆プチレビュー◆
摩訶不思議系エンタテインメント。内容はひとりよがりだが、カウフマンの非凡な才能が垣間見える。 【65点】

 NYに住む人気劇作家ケイデンは、ある日突然、妻と娘が出て行き途方に暮れる。そんな時、名誉あるマッカーサー・フェロー賞受賞の知らせが。ケイデンは人生を立て直すため、賞金で壮大な芸術プロジェクトを開始する。

 この映画の原題は「SYNECDOCHE,NEW YORK」。SYNECDOCHE(シネクドキ)とは、提喩法という修辞技法の一種で、一部で全体を、全体で一部を表すことである。例で説明してみるとこんな感じだ。「花見」の花は通常、桜のこと。花という全体で桜という部分を表す。また「人はパンのみにて生きるにあらず」のパンは部分で、これは食事全体を指している。このように、全体と部分を使って、ある概念を表現する方法が、シネクドキだ。それがどうした?と言わないでほしい。本作を理解する上で、この言葉こそがランドマークとなる。

 ケイデンのプロジェクトとは、NYにある超巨大な倉庫の中に、自分の頭の中に思い描くNYを作り出すという前代未聞のもの。この舞台構想には、現実と芝居、妄想までもがごちゃまぜになり、物語は独創的かつワケのわからない方向へと転がっていく。何しろこの演劇は、主人公が真実を模索するあまり、未完成のまま17年もの歳月がたつのだから尋常ではない。

 そもそもケイデンにとっての真実とやらが、問題だ。現実世界では、再婚した妻クレアを愛するが、最初の妻アデルにも未練たっぷり。だが生涯をかけて愛した女性はヘイデルで…と、ややこしい。演劇世界では、そんなケイデンを舞台で演じるサミー(男性)やミリセント(女性)を演出しつつ、自分はいったい何者か?と悩み抜く。演出家がこの状態では、舞台の幕は開くはずもない。

 それでも何とかストーリーを理解しようと思えば出来ないことはない。語り口は突飛だが、映画で描かれる虚実ないまぜの物語はすべて、主人公が思い描いた、やり直したいと願う人生の芝居だという解釈が最も妥当だろう。

 監督のチャーリー・カウフマンは、過去に脚本家として「マルコヴィッチの穴」や「エターナル・サンシャイン」などで魅力的な世界を構築してきた才人だ。時空を超えた非凡な物語に魅了されたファンは多い。本作は、その彼が満を持して監督業に挑戦したもので、内と外が曖昧になる世界観がある種の到達点に至った作品と言える。さっぱりワケがわからないが、いつしか独特のイマジネーションに絡みとられる。思えばフェリーニの「8 1/2」や、勅使河原宏が監督した安部公房の作品群を見たときも同じ感覚を覚えたものだ。

 舞台という“部分”を作ることで、人生という“全体”を生きる。あるいはその逆も。主人公の脳内は、常にシネクドキ(提喩法)だ。私自身は、この映画は主人公の見た白昼夢で、壮大なNYを創ろうとしながら結局は自分自身の内面に向かうという解釈が一番しっくりくるのだが、カウフマン自身が夢の世界ではないと断言している。だが「夢で見た世界を素直に受け入れるように、この映画を受け入れてほしい」とも語っている。手強い映画ではあるが、夢のように…なら、楽しそうだ。シネクドキ風に考えれば、どんな突拍子もない内容や解釈も、それが映画全体を支える大切な部分になるかもしれないのだから。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)シュール度:★★★★★

□2008年 アメリカ映画 原題「SYNECDOCHE,NEW YORK」
□監督:チャーリー・カウフマン
□出演:フィリップ・シーモア・ホフマン、ミシェル・ウィリアムズ、サマンサ・モートン、他

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脳内ニューヨーク@ぴあ映画生活

パイレーツ・ロック

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常に音楽シーンを牽引するブリテイッシュ・ロックにこんな規制秘話があったとは。1966年、英国では国営のBBCラジオからロックを流す時間はわずか45分。だが法が及ばない海上に海賊放送局があったというお話だ。高校を退学になったカールは、更正のため母の旧友のクエンティンの船に乗り込む。そこは個性的でクールなDJたちが政府の目を盗んで1日中ロックを流し続ける海賊放送局だった。自由を謳歌する船での生活で、カールは徐々に変化していく。

さすがは「ラブ・アクチュアリー」のリチャード・カーティス監督、群像劇をテンポよくさばく腕がサエている。60年代のロックの名曲をバックに繰り広げられるコメディタッチの物語は、音楽ファン以外も十分に楽しめる内容だ。DJたちはアクが強く個性豊か。アメリカ出身のザ・カウント役のフィリップ・シーモア・ホフマンなど、あのルックスなのに最高にカッコよく見えてくるから不思議である。前半は無軌道だが自由なロックの空気を満喫し、後半は彼らを潰そうともくろむ政府との攻防でスリリングな展開に。はたして、海中に沈むレコードとDJたちの運命は?ディープな音楽ファンには、名曲の歌詞とストーリーのリンク度が不足で不満かもしれないが、ビートルズやストーンズを生んだ英国の音楽秘話と、ライト感覚の反骨精神を楽しみたい一般の映画ファンには文句なくお勧めだ。名曲「青い影」のメロディには思わず泣けた。
【70点】
(原題「THE BOAT THAT ROCKED」)
(イギリス/リチャード・カーティス監督/フィリップ・シーモア・ホフマン、トム・スターリッジ、ビル・ナイ、他)
(音楽満喫度:★★★★☆)

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映画レビュー「ダウト/あるカトリック学校で」

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◆プチレビュー◆
大量破壊兵器の疑惑に振り回された米国を強く意識させる物語。名優同士の競演は凄味がある。 【70点】

 1964年のNY・ブロンクスのカトリック学校。厳格な校長シスター・アロイシスは、新米教師の目撃談から、進歩的で人望のあるフリン神父が、校内で唯一の黒人男子生徒と“不適切な関係”にあるのではとの疑念をつのらせる…。

 もともとは舞台劇でセリフの応酬を見せ場とする本作は、極めて地味な作りである。まず、この物語に事件はない。あったかもしれない事件らしきものについての反応を描く心理劇なのだ。さらに謎解きのカタルシスも存在しない。本当に神父と少年は性的関係にあったのかどうか答えが気になるだろうが、物語の主題はそこにはない。すべてに白黒を付けた世界を望むシスター・アロイシスに対し、フリン神父はグレー・ゾーンと折り合いを付けている。価値観が単純だった旧時代から、より複雑な新時代へ。ケネディ大統領暗殺や公民権運動の高まりを経験し、転換期にあった1964年が背景である理由はここにある。

 きっかけは純真な教師シスター・ジェイムズの確証のない目撃談だ。フリン神父はその少年を司祭館に連れて行き、酒臭い息の彼を教室に戻した。実は少年はワインを盗み飲み、神父は彼をスキャンダルから守ろうとしたと弁明する。安心するシスター・ジェイムズとは対照的に、校長のシスター・アロイシスにはその言葉は、猛毒となって心に染み込んだ。証拠がないことが逆に疑いを大きく育てる展開は、深層心理を突いていて非常に鋭い。

 それにしても、信仰の基本は信じることだと思っていた。なのに、この物語では、疑いは神のために成す行為だとするセリフがある。確固たる信念などは人間ごときが持つべきではないとでも言いたいのか。信仰という形のないものに寄りどころを求めるカトリック学校を物語の舞台に選んだ意味は大きい。神が身近にいるであろうその場所で、登場人物の本性はむきだしになっていく。

 シビアな会話中心のこんな心理劇は、俳優の演技の底力が問われ、ごまかしはいっさい効かないものだ。本作のキャストはこの難局に見事に対峙した。終盤のストリープとホフマンの激論の迫力は、ただごとではない。もっとも、このシーンのみ意図的にオーバーアクト気味のストリープは、熱演がすぎる気もするが。重要な脇役である新米教師のエイミー・アダムスと黒人少年の母役のヴィオラ・デイヴィスも印象的だ。前者は他人の意見に染まりやすく無責任な理想主義を掲げる大衆の姿、後者は息子を守ることを最優先に考える現実派だ。意外な顛末となるラストには、それぞれの“真実”が影を落とす。

 シャンリィ監督自身が明言するように、これは、大量破壊兵器所持疑惑で戦争を始め、証拠もないまま犠牲者を出し続けたアメリカの醜態を照射するものだ。人を疑った先にあるのは、疑いを持つ自分さえも疑う泥沼の苦しみ。シスター・アロイシスは断言した。「私には分かる。私にだけは分かるのです」。この傲慢は、疑い(ダウト)が生んだ産物か。私は無宗教なので不敬を承知で言わせてもらうが、この愚かしい人間たちを神はきっと笑っていよう。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)説教バトル度:★★★★☆

□2008年 アメリカ映画 原題「DOUBT」
□監督:ジョン・パトリック・シャンリィ
□出演:メリル・ストリープ、フィリップ・シーモア・ホフマン、エイミー・アダムス、他


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ダウト −あるカトリック学校で−@ぴあ映画生活

その土曜日、7時58分

その土曜日、7時58分 コレクターズ・エディション [DVD]その土曜日、7時58分 コレクターズ・エディション [DVD]
ギリシャ悲劇を思わせる重厚なドラマだ。完全犯罪が崩されるサスペンスに見えるが、崩壊するのは犯罪ではなくある一家の絆。アンディと弟ハンクは共に金に困り両親が営む宝石店を襲う計画を立てる。誰も傷つかないはずの犯行はひとつの誤算から最悪の方向へ。硬派な作風のルメットらしい緊迫感のある描写と役者の演技に圧倒される。時間軸をずらして同じ場面を繰り返すスタイルも無駄がない。愛されないことが心にどす黒い憎しみを生むが、運命はどこまでも手厳しい。物語は悲痛だが、ずっしりとした手応えは満足感を得るものだ。邦題が分かりにくいのがあまりに惜しい。
【75点】
(原題「BEFORE THE DEVIL KNOWS YOU'RE DEAD」)
(アメリカ/シドニー・ルメット監督/フィリップ・シーモア・ホフマン、イーサン・ホーク、マリサ・トメイ、他)
(因果応報度:★★★★★)

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