映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週末の公開映画から オススメの1本! ◎
チリ他合作映画「ナチュラルウーマン」

フォレスト・ウィテカー

サウスポー

サウスポー Blu-ray コレクターズ・エディション(スチールブック仕様・日本オリジナルデザイン)
ボクシングの世界チャンピオン、ビリー・ホープは、怒りをエネルギーに相手を倒すスタイルで戦っている。そんなビリーを妻モーリーンと娘のレイラはいつも心配していた。ある時、ライバルから挑発されたビリーは怒りを抑えきれず乱闘に。そのトラブルの最中に起きた発砲事件でモーリーンが命を落とす。生きる気力を失ったビリーは荒れた生活を送り、全財産と住む家、チャンピオンの座まで失い、とりまきは皆離れていった。娘の親権まで奪われ、すべてを失ったビリーは、かつて唯一恐れたボクサーを育てたトレーナー、ティックを訪ねるが…。

全てを失ったボクサーが自らの誇りと愛する娘のため再起を図るボクシング映画「サウスポー」。ファイティング・ムービー、とりわけボクシング映画には名作が多く、そのほとんどがどん底から這い上がるハングリーな戦いに末のつかむ栄光で感動を呼ぶストーリーだ。本作もまたその系譜につながる映画だが、主演のジェイク・ギレンホールの名演と存在感、深い家族愛、ボクシングを知的戦術でとらえるスタンスなど、かなり洗練されている。監督のアントワーン・フークアは、男のドラマを得意とするが、本作でも父性を全面に打ち出している。仕事のことや生活のことは妻にまかせきり、自分はボクシングだけという主人公は、あきらかに不完全な存在だ。だが彼は最愛の妻を失い、すべてを奪われて初めて自分自身をみつめることになる。防御は軽視していたビリーが“守る”意味を知ったとき、右利きのビリーはサウスポーの真意をつかむのだ。「ナイトクローラー」で薄気味悪いほど激ヤセをみせたギレンホールだが、本作では圧倒的な肉体改造でボクサーの身体を作り上げ、試合シーンをすべて本人が演じるという役者魂をみせている。さらに娘レイラを演じる天才子役ウーナ・ローレンスは、最初は幼い少女、クライマックスには父と共に成長し、驚くほど大人びた表情をみせてくれた。ボクシングというスポーツそのものの感動、家族のドラマ、再起と栄光のストーリー。この映画には、男性も女性も魅了されるはずだ。
【70点】
(原題「SOUTHPAW」)
(アメリカ/アントワーン・フークア監督/ジェイク・ギレンホール、フォレスト・ウィテカー、ナオミ・ハリス、他)
(父性愛度:★★★★★)
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サウスポー|映画情報のぴあ映画生活

ケープタウン

ケープタウン [Blu-ray]
少女殺人事件の裏に広がるアパルトヘイトの闇を描くサスペンス・アクション「ケープタウン」。イケメン俳優オーリー初の“汚れ役”に注目。

南アフリカの大都会ケープタウンで凄惨な少女殺人事件が発生。2人の刑事ブライアンとアリが、事件を調べ始めると、そこには、ある危険な麻薬の存在が浮かび上がる。その薬物は、最近頻発しているスラム街の子供たちが行方不明になる事件とも関係していた。それは過去のアパルトヘイトの根深い闇を浮き彫りにするが、事件を調べる2人にも危険が迫っていた…。

原題の「ZULU」とは南アのズールー族のこと。原作はフランスで推理小説大賞など7賞を受賞した、キャリル・フェリーによる傑作クライム・ノベルだ。イケメン俳優のオーランド・ブルームが無精ひげをはやし、仕事はできるが女にだらしなく酒浸りの刑事というワイルドな役柄を演じるのも新鮮だが、オスカー俳優のフォレスト・ウィテカーが、過去のトラウマにより心に大きな傷を抱えるズールー族出身の刑事という複雑なキャラクターを繊細に演じていて、さすがの存在感だ。人種差別政策(アパルトヘイト)は撤廃されたものの、南アには、貧困、暴力、スラム街、麻薬犯罪と問題は山積。しかもアパルトヘイトの闇は今もなお根強く存在していて、その解決はあくまでも表層的なもののようだ。本作ではそこに、欧州に根深い優生政策がからむため、終盤に、狂信的な科学者という少々唐突なキャラが登場。事件は思いがけない方向へと転がっていく。ズールー族やアパルトヘイトはなるほど南アを象徴する設定だが、差別主義者や見て見ぬふりのエリート官僚の存在は、どこの国にもおこりうる普遍的な悪なのだ。不満なのは、原題にもなっているズールー族である意味が、あまり活かされていないこと。キリスト教と土着信仰が混在しているこの地らしく、ラスト、砂漠での執念の追跡は、どこか神話のような雰囲気が漂っていた。
【65点】
(原題「ZULU」)
(フランス/ジェローム・サル監督/オーランド・ブルーム、フォレスト・ウィテカー、コンラッド・ケンプ、他)
(歴史の暗部度:★★★★☆)
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ケープタウン@ぴあ映画生活

大統領の執事の涙

大統領の執事の涙 [Blu-ray]
7人の大統領に仕えた名もなき執事とその家族を描く「大統領の執事の涙」。黒人版「フォレスト・ガンプ」という趣の作品だ。

20世紀初頭、黒人差別が日常的な米国南部。綿花畑の奴隷出身のセシルは農場を逃げ出し、ホテルの見習いボーイとなる。やがてその仕事ぶりが認められ、ホワイトハウスの執事にスカウトされる。セシルは、妻や息子と暮らしながら、有能な執事として、歴代の大統領に仕えていた。キューバ危機、ケネディ暗殺、ベトナム戦争…。世界の中枢で、時代が大きく揺れ動くのを目の当たりにするセシルだが、一方で、セシルの長男ルイスは、白人に仕える父の仕事を恥じ、法的な平等を求めて反政府運動に身を投じていく…。

アイゼンハワー、ケネディ、ジョンソン、ニクソン、フォード、カーター、レーガン。この大統領たちの名前は知っていても、彼ら7人に仕えた実在の黒人執事ユージン・アレンの名前は、本作で初めて知った。「プレシャス」のリー・ダニエルズ監督は、アレンをモデルにした主人公セシル・ゲインズと彼の家族が巻き込まれる激動のアメリカ近代史を、ホワイトハウスに仕える執事の目で定点観測していく。キング牧師、マルコムXらの公民権運動、ケネディ暗殺やベトナム戦争といった歴史的大事件を縦軸に、奴隷から一流執事になったセシルの出世物語や、父と息子の葛藤などの家族ドラマを横軸にしたストーリーテリングは、やや駆け足ながら、見事な手腕だ。さらにジョン・キューザック、アラン・リックマンらの実力派俳優がそれぞれ演じる大統領が、彼らの背景や個性を上手くつかんでいて面白く見ることができる。実際のニュース映像やフィクションを織り交ぜて描く物語の中心になるのは、当然、黒人差別ということになるが、見ざる聞かざるに徹しながら執事の仕事に誇りを持つ父、たとえ血を流しても法的権利を奪い取ると決めた息子は、対立はしても、共に差別に対して戦っているのだ。一度は決別した父子が、時が過ぎて最後に歩み寄る場面は感動的である。白人にとって都合のいい黒人を演じることで家族を守るしかなかったセシルの複雑な心情を、フォレスト・ウィテカーが静かに熱演している。
【70点】
(原題「THE BUTLER」)
(アメリカ/リー・ダニエルズ監督/フォレスト・ウィテカー、オプラ・ウィンフリー、ジョン・キューザック、他)
(米近代史のお勉強度:★★★★☆)
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大統領の執事の涙@ぴあ映画生活

キリング・ショット

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ダイナーに集まったクセ者たちのバトルを描く「キリング・ショット」。時間軸を多重に操作した語り口が面白い。

薬物の取引が行われるという、ラスベガス郊外の古びたダイナー。犯罪組織のボス、メルの命令で、ドラッグ・ディーラーのテスと、仲間の姉妹ドーンとカラの3人は、メルのシマを荒らす奴らの正体を暴くためそのダイナーへと乗り込む。だがそこには真夜中だというのに数人の客がいて、しかも脅そうとした女主人の逆襲に遭う。さらにコックのビリーは「おまえらを殺せばメルが大金をくれる」と言いながらテスたちに向かってライフルを構えた。混乱するテスだったが、そこに警官の制服を着た殺し屋ロニーが現れて、全員で銃を構えてにらみあうことになる。はたして誰を、何を信じればいいのか。そしてメルの本当の狙いとは…。

監督のアーロン・ハーヴェイは新人でこれがデビュー作だが、オリジナル脚本である本作の出来に惚れ込んで、大物スターのブルース・ウィリスやオスカー俳優フォレスト・ウィテカーらが出演するという異例の豪華キャストが実現したらしい。激しく時制が行き来し、常に観客に疑問符を投げかけながら、最後の最後にピタリとパズルのピースが合うこんな物語には、物語をひっぱるカリスマ性のある俳優がいると、作品がぐっと締まる。冒頭、ブルース・ウィリスの謎めいたセリフ「7年も一緒に仕事をしたのに…。おまえが好きだった。信用はしてなかったけれど」というセリフから始まって、物語は何度も過去へと遡る。しかも遡った過去からさらに回想シーンへとつながり、少しずつもつれた糸がほどけていくスタイルは、クエンティン・タランティーノやガイ・リッチーを思い出させるものだ。マフィアのボス、ドラッグ・ディーラー、殺し屋、妄想癖のあるコックらが、三つ巴、いや、四つ巴状態で、誰を、何を信じていいのか分からない事態の中、フォレスト・ウィテカー演じる殺し屋ロニーの存在感がアクセントになっている。不気味な狂気と切ない愛が同居するロニーが、この血まみれの群像劇のキーパーソンなのだ。94分という短さの中で、何度も過去へと戻る手法は、ややテンポが悪い。だが、この監督、今回の“タランティーノ愛”全開の作品から見ても、かなりの映画好きと見た。次回作がちょっぴり楽しみである。
【55点】
(原題「CATCH .44」)
(アメリカ/アーロン・ハーヴェイ監督/ブルース・ウィリス、フォレスト・ウィテカー、マリン・アッカーマン、他)
(ポスト・タランティーノ度:★★★★★)
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キリング・ショット@ぴあ映画生活

エクスペリメント

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日本でもヒットしたドイツ映画の問題作「es [エス]」の元ネタの心理実験を題材にしたスリラー。既視感はあるものの、この恐ろしい実験を改めて目にすれば、いかにそれが人間のダークな深層に迫るものだったかを改めて思い知る。失業したばかりのトラヴィスは、日当1000ドルという高額な報酬にひかれて、ある心理実験に参加する。期間は14日間。24名が参加するその実験は、模擬刑務所内で、看守と囚人に分かれ、ルールに沿って生活するというものだった。トラヴィスは囚人役になるが、実験前は穏やかに見えたバリスが看守役として過激な行動に出たことで、次第に対立していく…。

実際に1971年にアメリカ・スタンフォード大学で行われた“スタンフォード大学監獄実験”は、わずか6日目で即刻中止。大学側が厳しい処罰を受けた衝撃的な事件。人間の本性を、あぶりだすのが目的だとしても、それはあまりに残酷な結果を生んだ。実験では、被験者は、囚人と看守という2つのグループに分かれる。一見対立する構図なのだが、実験は24時間カメラによって監視され、暴力行為やルール違反があった場合は即座に中止され、報酬は支払われなくなるというから、報酬が最優先ならば、24人全員が協力し、一致団結せねばならないはず。なのに囚人と看守という“役割”によって人格が豹変、抑圧されていた欲望や暴力性が否応なしに露になる。この実験は、時に人は、金より権力を望み、非常事態に優先されるのは理性よりも暴力なのだと暴露する。物語の流れは基本的に「es [エス]」と同じなので、簡単に予想できるのだが、フォレスト・ウィテカーが演じる、看守側のバリスが過激に豹変していく様があまりにすさまじいので、彼の狂気に目が釘付けになってしまうのだ。特に、頭をスキンヘッドにし、自らの姿に陶酔する場面は背筋が凍る。バリスは、生まれて初めて手にした権力によって暴走するキャラクター。主人公トラヴィスと共に、このバリスだけが実験に参加する前の背景が語られることから、2人が善と悪、正気と狂気という相反する要素を体現していることが分かる。だが、己の欲望のためにしろ、正義を守るためにしろ、2人とも暴力行為に走るのは同じ。そこが最も恐ろしいとところだ。すべてを支配するかのごとく存在する赤いランプは、脅威であると同時に、自分に都合のいいように正義をねじまげる人間のエゴの象徴にも見える。
【55点】
(原題「The Experiment」)
(アメリカ/ポール・シェアリング監督/エイドリアン・ブロディ、フォレスト・ウィテカー、キャム・ギガンデット、他)
(新鮮味度:★★☆☆☆)

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レポゼッション・メン

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人工臓器によって長寿を“買う”人類の欲望に手痛いしっぺ返しをクラわせる異色SFだが、終盤にどんでん返しが用意されていてる。近未来、人工臓器によって健康と延命が可能になった世界。ユニオン社は、ローンの返済が滞るとレポゼッション・メンという臓器回収人を送り、強制的に人工臓器を取り立てていた。生きたまま回収するその作業は、債務者にとっては死を意味する。腕利きの回収人・レミーは、ある出来事によってユニオン社の最高額商品である人工心臓を埋め込まれ、多額の借金を背負い、回収する側からされる側に。これは誰かの罠なのか、ユニオン社の陰謀か。謎の女性債務者ベスと共に真実を探ろうとするが…。

アレックス・コックス監督の「レポマン」と何か関係があるのかと思っていたら、物語はまったく別物。回収するものは車ではなく人間の身体に埋め込まれた人工臓器だ。当然、かなりハードな流血シーンがあるので覚悟してほしい。甘い言葉でローンを組ませ非情な手段で回収するその様子は、まるで闇金融。その臓器を買えるもの買えないものの差異は格差社会に拍車をかける。生きたまま臓器を取り出す作業を何の罪悪感もなく“仕事のノルマ”としてこなす主人公レミーと親友のジェイクの心は、相当病んでいる。ただし、物語はそんな社会派の側面は深く追及せず、なぜレポ・マンであるレミーに人工心臓が埋め込まれたのかという謎を追うアクション・バイオレンスの色合いが濃い。ユニオン社の陰謀ではないかとの疑問から社に侵入し、自分で自分の身体を切り裂いて記録を抹消し借金を踏み倒すという荒業に絶句。「それでいいなら最初からそうしたら?!」とツッコミを入れようと思ったそのときに、すべてをひっくり返す驚きが待っていた。結局、人間の幸せは、自らを充足させる幸福感なのか。興味深いのは女性債務者ベスの描写だ。彼女は身体に10個以上の人工臓器を持つが、歌手であるためか、人工臓器によって耳の感覚を人一倍鋭くしている。高額商品を売っては儲ける企業の企みとは別に、臓器レベルで自分の身体や能力をコーディネートするセンスは人類の未来志向を示唆していて面白い。ミュージック・ビデオ出身という新鋭ミゲル・サポチニク監督のテンポのいい演出が、ダーティな“ハッピーエンド”も含めて、シャープな印象を醸し出していた。
【60点】
(原題「REPO MEN」)
(アメリカ・カナダ/ミゲル・サポチニク監督/ ジュード・ロウ、フォレスト・ウィテカー、リーヴ・シュレイバー、他)
(流血度:★★★★☆)

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フェイクシティ  ある男のルール

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ジェームズ・エルロイの原案・脚本らしいクライム・サスペンスだ。クールで無表情なイメージのキアヌ・リーブスが、強引な手段で“正義”を行う野生味あふれる刑事を演じるのが新鮮。ロス市警の刑事ラドローは、その過激な捜査で署内でも煙たがられるアウトロー。上司のワンダーだけは彼を理解してかばってくれるが、同僚の死にまつわる謎を探るうちに警察内部の陰謀にかかわってしまう。汚職警官など今更珍しくもない。だが、それにどう対処するかは、いつの時代も興味をそそる命題だ。誰が黒幕なのかは途中で読めてしまうが、主人公の決断と正義のとらえ方は鋭さがある。
【65点】
(原題「Street Kings」)
(アメリカ/デビッド・エアー監督/キアヌ・リーブス、フォレスト・ウィテカー、ヒュー・ローリー、他)
(社会派度:★★★☆☆)

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映画レビュー「バンテージ・ポイント」

バンテージ・ポイント コレクターズ・エディション
◆プチレビュー◆
8つの視点で繰り返される大統領暗殺の真相は多重構造。スピーディな映像は一瞬も目が離せない。 【80点】

 シークレット・サービスのバーンズはスペインで首脳会議に出席する米国大統領の警護に当たる。だが、群集が集まる会場広場で大統領が何者かに狙撃される。パニック状態の現場には、それぞれの位置から事件を目撃した8人の異なる視点があった…。

 大人気スターこそいないが、渋いキャストで活写する斬新な作品だ。ひとつの事実を視点を変えて描く形式は、羅生門スタイルと呼ばれる。もちろん出典は黒澤明の名作「羅生門」。ただ「羅生門」は、目撃者が誰もいない深い森の中での事件を当事者が自分の都合のいい解釈で語るもの。一方、本作は、公衆の面前で起こった大統領狙撃で粉々になったパズルを、周辺に飛び散った8個のピースの意味を問い直しながら再構築していく。映画は、広場に居合わせた様々な人間の思惑を示しつつ、狙撃の瞬間の前後数十分という短い時間を繰り返すことで、緊張感をグイグイと高めていく。脚本は実によく練られており、屈指の知的アクション・サスペンスに仕上がった。

 バーンズは、優秀なシークレット・サービスだが、過去に身を挺して大統領を救った時に撃たれたトラウマから精神的に立ち直っていない。狙撃事件はそんな不安定な彼の心理状態を表すかのように、次々に新事実を提示して核心に迫っていく。バーンズの他に、ビデオカメラ片手の観光客、TV局クルー、地元警察官、テロリスト、さらに幼い少女と母親など、キャラクターの配置もメリハリが効いている。米国大統領狙撃という世界中を揺るがせる大事件を、一般人の数分を繰り返す小さな世界で解決に導く秀逸な対位法。その旋律は八度のカノンとなって奏でられる。

 注目したいのは、真相に迫る決定的な手助けとなるのが、複数の機材を駆使するTVカメラの映像であること。これは、市民を監視する目の代理品だ。管理社会の是非を問う声は大きいが、一方で犯罪防止への道も切り開くのが映像メディアの特質なのだ。どれほど周到に準備しても必ず生じる不確定要素を、冷静に記録するカメラの前では、テロリズムも崩れ去る。だが、映っている出来事が真実かどうかを確かめる術(すべ)は、最終的には人間だけが持っている。終盤の激しいカーチェイスと銃撃戦はハリウッド・アクションのお約束で、平凡な演出ではあるが、アメリカと対テロ戦争への批判のまなざしは、強い問題意識を感じさせるものだ。

 この映画では、世界を救う行動がある家庭の崩壊をくい止め、さりげなく希望を提示してくれる。だが、米国大統領一人のために大勢の命が軽々しく危険にさらされる実態は決して物語ではなく、歴史に何度も登場し、現在も戦争という形で進行形の出来事ではないか。大統領暗殺は、未遂も含めると何も珍しいことではない。時には大統領の命が“首尾よく”奪われることもある。多くの流血の塊の上に立っているのが世界一の大国アメリカの指導者の正体だ。この映画の視点の一つは、そんな大統領さえ、8分の1に平等化して権力の絶対性に疑問を突きつけることを忘れない。上映時間は1時間30分と短いが、キリリと締まった秀作だ。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)スピード感度:★★★★★

□2008年 アメリカ映画 原題「Vantage Point」
□監督:ピート・トラビス
□出演:デニス・クエイド、フォレスト・ウィテカー、ウィリアム・ハート、他

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映画レビュー「ラストキング・オブ・スコットランド」

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◆プチレビュー◆
狂った独裁者イディ・アミンをフォレスト・ウィテカーが熱演。オスカー獲得も納得の、なりきりぶりが見事。 【70点】

スコットランドからウガンダにやってきた青年医師ニコラスは、偶然、怪我の治療をした大統領アミンと知り合い、彼の主治医兼相談役になる。当初は国民から熱狂的に支持されていたアミンだが、クーデターへの妄想から周囲を信じられなくなり、次第に狂気へ駆られていく…。

ニコラスとアミンが初めて出会う場面が、全てを示唆する。交通事故に遭った牛を見て“欧米人”のニコラスは瀕死で苦しむ姿を見ていられず、いきなり銃で牛を撃ち殺す。その衝撃的で高圧的な行為、しかもそれを行う当人は善意というスタンスこそ欧米そのものだ。英国からの支援で権力を手にしたアミンは、欧米流の決着の付け方に魅入られる。楽にしてやるためではなく、不要になった玩具を壊す方法を見つけてしまったのだ。

ニコラスというキャラクターは、アフリカに独裁者を生み、脆弱な国家を食い物にして利を肥やす先進諸国を体現する人物だ。主治医という地位に付随する贅沢三昧の暮らしや大統領の第2夫人との不倫。誰が見てもマズい事態だが、罪を犯すのがほとんど無意識というのがタチが悪い。すべての根底には、欧米のごう慢と甘えがある。その代償は大きかった。映画は血まみれのニコラスにそれを背負わせる。

終盤、ウガンダから決死の脱出を図るニコラスに、ハイジャック・テロという絶好の切り札が舞い込むが、歴史とリンクしたこの脱出劇の緊張感がすごい。恐怖政治、ハイジャック、脱出劇がぴったりと重なる怒涛の構成は、ドキュメンタリー出身のマクドナルド監督の実力が垣間見える瞬間だ。薄気味悪いほどアミンに似たフォレスト・ウィテカーを抜擢する一方で、アミンの側近の複数の実在した人物から、ニコラスというオリジナル・キャラクターを作り上げ、彼の目を通して物語を語る演出の上手さ。虚実を絶妙に織り交ぜた構成のバランスが、映画を一級の政治サスペンスにしている。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)なりきり度:★★★★★

□2006年 アメリカ映画 原題「THE LAST KING OF SCOTLAND」
□監督:ケヴィン・マクドナルド
□出演:フォレスト・ウィテカー、ジェームズ・マカヴォイ、ケリー・ワシントン、他

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◆映画ライター、映画評論家
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新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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