映画通信シネマッシモ


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

フランソワ・オゾン

婚約者の友人

Frantz (Original Motion Picture Soundtrack)
1919年、戦争の傷跡に苦しむドイツ。アンナは、婚約者フランツをフランスとの戦いで失い、悲しみの中でフランツの両親と暮らしている。フランツの墓参りに行くと、墓の前で見知らぬ男が泣いていた。アドリアンと名乗るそのフランス人青年は、戦前にパリでフランツと知り合い友情を育んだという。フランツの両親やアンナはアドリアンに魅了され、彼と過ごすひと時に心を癒される。アンナがアドリアンに“婚約者の友人”以上の感情を抱いた時、アドリアンは自らの驚くべき正体と秘密を明かすのだった…。

第1次世界大戦後のドイツを舞台に、ヒロインが婚約者の友人を名乗る男の秘密を知るミステリアスなドラマ「婚約者の友人」。モーリス・ロスタンの戯曲をエルンスト・ルビッチ監督が1932年に「私の殺した男」として映画化したものを、フランソワ・オゾン監督が大胆にアレンジした作品だ。戦争によって傷ついたのは、ドイツもフランスも同じ。息子を亡くした父親はどちらの国でも同じ悲しみを抱えている。戦前にフランツの友人だったというアドリアンの存在は、憎み合っていても何も変わらないこと、戦争そのものが悪であることを訴えて、反戦のメッセージを色濃く伝えてくれる。だがそこには驚きの秘密があった。オゾン監督は、ヒロインの心の旅路を通して、死と嘘と真実の果てに、生きることの意味を見出していくのだ。

ノスタルジックで陰影が濃いモノクロ映像が端正で美しい。この白黒の世界が、時折、淡く柔らかい色彩を帯びるのが抒情的で、アンナやアドリアンの心の揺れと希望の感情に呼応していて、実に効果的である。秘密を告白しフランスへと戻ったアドリアンを追ってパリに向かったアンナが知るのは、思いもよらない真実だ。一人の青年の死を巡り、驚愕の嘘、心を癒す嘘、惑わせる真実、打ちのめす真実が次々に現れる展開は、美しいフーガを思わせる。死を描いたマネの絵画で「生きる気力が湧く」と言うアンナは、嘘も真実も受け止めて毅然と生きる覚悟を決めたのかもしれない。戦争と戦争の間に挟まれた不安な時代を背景に、嘘の功罪を描くオゾン流のミステリアスなメロドラマだ。アンナを演じるドイツ人女優パウラ・ベーアの、複雑で繊細な表情が心に残る。
【70点】
(原題「FRANTZ」)
(仏・独/フランソワ・オゾン監督/ピエール・ニネ、パウラ・ベーア、エルンスト・ストッツナー、他)
(抒情度:★★★★☆)
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彼は秘密の女ともだち



(ショートバージョン)
親友のローラを亡くして悲しみに沈むクレールは、残されたローラの夫・ダヴィッドと生まれたばかりの娘の様子が気になって彼らの家に立ち寄る。するとダヴィッドがローラの服を着て娘をあやしていた。ダヴィッドから女性の服を着たいと打ち明けられ、最初は戸惑ったクレールだが、やがて彼を“ヴィルジニア”と名付け、女友達として絆を深めていく…。

ゲイであることを公表しているフランソワ・オゾン監督の新作「彼は秘密の女ともだち」は、ありのままの姿を受け入れられるかどうかを問いかけるものだが、それを自分にも他人にもあてはめて考えていくところがミソ。ダヴィッドの女装癖しかり、クレール自身さえ知らなかった素顔しかり。ネタバレは避けるが、クレール、ダヴィッド(ヴィルジニア)、クレールの夫、故ローラも含めて、絡まりあった男女の糸がほどけた先は、なかなか読めないので、ちょっとしたスリルがある。オゾンはいつもマイノリティに対して優しいまなざしを向けているが、現代社会はジェンダーも家族の血縁も、境界線は限りなくあいまいになっているようだ。深刻ぶらず、ちょっとコミカルに、かなりおしゃれに。これがオゾン流。なにしろ女装姿のロマン・デュリスがあんなにスリムで美しいのだから、見た目の男女差などどうでもよくなる。少なくとも他人の目を気にしただけの生き方などは、全否定したくなる。
【65点】
(原題「THE NEW GIRLFRIEND」)
(フランス/フランソワ・オゾン監督/ロマン・デュリス、アナイス・ドゥムースティエ、ラファエル・ペルソナーズ、他)
(自己解放度:★★★★★)
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彼は秘密の女ともだち@ぴあ映画生活

17歳

17歳 [DVD]
大人と子供の間の17歳が自らの性を持て余す姿を繊細に描く「17歳」。マリーヌ・ヴァクトの美しさがすべてのような映画。

パリの名門高校生のイザベルは、バカンス先で知り合ったドイツ人青年とあっさりと初体験を終える。数日後に17歳の誕生日を迎えた彼女は、パリに戻ると、SNSを通じて知り合った不特定多数の男たちを相手に売春を繰り返すようになった。だがある日、馴染みの初老の男性ジョルジュがホテルのベッドの上で息絶える。動揺したイザベルはその場を逃げ出すが、やがてジョジュルと最後にいたのがイザベルであることが警察に知れ、家族はイザベルの秘密を知ることになるが…。

フランスの異才フランソワ・オゾンの新作は、若さと美、そしてその性の不条理を、4つの四季を章立てで描く、ティーン版「昼顔」のような物語だ。金のためでもなく、SNSをツールにして、ひたすら売春を繰り返す17歳の美少女という題材はセンセーショナルだが、実際、現実の方がより先をいっている現状を思うと、21世紀の今はさほど珍しいものではない。だが、飛びぬけて美しく、知的で繊細なヒロインの存在が、そのことを何か特別なものにしているような気がするのだ。ものうげな表情、初体験の相手を含めて男に執着しない淡白さ、静かに流れるフランソワーズ・アルディの楽曲と、イメージ先行で、主人公イザベルの心情に迫る描写はほとんどない。だがアイデンティティが定まらない17歳のイザベルが空虚なだけに、彼女のそばですべてを見ている幼い弟ヴィクトルの、冷徹にさえ思えるまなざしが際立った。母親と女、義父と男という立場から動揺する両親の反応はごく普通のものだろう。終盤に登場するオゾン映画のミューズ、シャーロット・ランプリングがすべてを達観した存在として印象を残した。ひねったストーリーとユニークな人間描写が持ち味のオゾンにしては、少し物足りない作品だが、モデル出身のマリーヌ・ヴァクトの際立った美貌が、作品を詩的にしている。
【55点】
(原題「JEUNE&JOLIE/YOUNG&BEAUTIFUL」)
(フランス/フランソワ・オゾン監督/マリーヌ・ヴァクト、ジェラルディン・ペラス、フレデリック・ピエロ、他)
(エレガント度:★★★★☆)
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17歳@ぴあ映画生活

しあわせの雨傘

しあわせの雨傘 コレクターズ・エディション<2枚組> [DVD]しあわせの雨傘 コレクターズ・エディション<2枚組> [DVD]
オゾン流の女性讃歌のこの映画、エレガントなイメージのカトリーヌ・ドヌーヴのジャージ姿が見ものだが、それ以上に、平凡な主婦だと思っていたヒロインの意外な奔放さと底力にワクワクする。スザンヌは、ジョギングと詩作が日課のブルジョア主婦。雨傘工場を経営する夫ロベールは、妻は美しく着飾って家にいればいいんだ!という典型的な亭主関白だ。夫の浮気を知っても見て見ぬふりをする母に対し、娘ジョエルは「ママみたいになりたくない」と非難する。そんなある日、ロベールが心臓発作で倒れ、やむをえずスザンヌが雨傘工場を切り盛りすることに。ここから、スザンヌの秘めた本能が目覚め始める…。

カラフルな雨傘が揺れると、思わず若きドヌーヴの代表作「シェルブールの雨傘」を思い出してしまう。だが、悲恋に耐えた可憐な娘は、いつしかたくましく、それでいて天然の可愛らしさを忘れない、愛すべきおばさんに成長していた。何しろ、三本ラインもりりしいジャージ姿でスクリーンに登場するドヌーヴなど初めて見る。ブルジョア主婦ならではのおおらかさで、ストライキで息まく労働者たちをなだめ、芸術家志望の息子ローランに傘のデザインをまかせて雨傘工場を見る見る立て直していくプロセスは、100パーセント楽観主義だ。亭主の浮気相手の秘書までも正妻スザンヌの魅力の虜になってしまうのだから可笑しい。ストーリーは、意外にも先読みを許さない展開で、労働者階級出身の市長とスザンヌの過去の関係に驚くのは序の口。ローランの出生の秘密や、工場経営者からなんと政治の世界へと踏み出す、飛躍した展開は、ミュージカルも顔負けのハイテンポだ。最後にはドヌーヴは歌まで披露してくれる。1943年生まれのこの大女優、全盛期と思われる時代は何度もあったが、ここにきて女優人生のハイライトが訪れているかのように、生き生きとしてみえる。フランソワ・オゾンという監督は、今の仏映画界を代表する俊英だが、規制の枠にとらわれず、硬軟を使い分けるセンスでいつも映画ファンを驚かせてくれる。70年代を背景したことで、フェミニズムへの気配りをチラリと見せるあたりもニクい。原題は仏語で「飾り壺」の意味。ロベールが言う「彼女は飾り壺さ。でも空(カラ)じゃない」とのセリフが効いていた。
【65点】
(原題「POTICHE」)
(フランス/フランソワ・オゾン監督/カトリーヌ・ドヌーヴ、ジェラール・ドパルデュー、ファブリス・ルキーニ、他)
(ポップ度:★★★★☆)

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Ricky リッキー

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仏の俊英フランソワ・オゾンが描く風変わりな家族愛の物語は、90分という短い時間ながらさまざまな解釈が可能な味わい深い佳作だ。翼のある赤ちゃんが登場するが、単純なファンタジーに逃げないところがさすがはオゾンと感心する。生活に追われるシングルマザーのカティは、単調な毎日に疲れ切っていた。幼い娘のリザのことを愛してはいるが、時には冷たくあたってしまうことも。そんなカティは、ある日、職場の新人パコと恋に落ち、一緒に暮らし始める。やがてカティとパコの間に子供が誕生、リッキーと名前を付ける。ある日、リッキーの背中の痣から翼が生えてきて…。

背中に羽がある赤ちゃん。こういう設定だとその子は天使で、物語は甘いファンタジーへと向かうのが普通だが、本作はご都合主義の感動や安易な奇跡とは無縁。羽のある赤ちゃんリッキーは時に空を飛ぶが、映画はあくまでも地に足を付けたストーリーとして味わえる。リッキーやリッキーによる物事の変化は、見る人によって解釈や価値が異なるだろう。背中の痣(あざ)から出血し、その痣からコブが出現、鶏の手羽先のような異様な突起が見える様は、天使というよりモンスターの誕生のよう。だが母親のカティはさほど驚かず、パタパタと空をはばたくリッキーを“ちょっと変わった子”というスタンスで受け入れる。女性映画の名手オゾンが、翼のある赤ん坊を通して描くのは、平凡なヒロインの無条件の母性愛と、家族に新しく加わった“まれびと”によって、さまざまな理由でぎこちない家族の距離がどう変化するかということ。カティやパコは悪人ではないし、子供を愛してはいるが、決して完全無欠の善人でもない。リッキーを大切に思っているのに、すぐに注意力が散漫になる。さらにマスコミに公表して経済的利益を得ようとも考える。結果は意外な方向へと転がっていくが、それが決して不幸とは思えないところが、この作品の深さだ。

いずれにしても、リッキーが、カティとパコとリザを“家族”にしたのは確か。オゾンは、なぜ翼が生えたのかという理由や、なぜカティとパコの間にこんな赤ちゃんが生まれたのかという理由はバッサリと切り捨てた。そのことが結果的に、物語のメッセージ“家族愛”を際立たせる。これは、血のつながりを越えてある家族が本当のファミリーになっていく物語なのだ。さらに物語がしばしばリザの目線で語られるため、幼いリザの成長物語にもなっている。リッキーを演じる赤ちゃんアルチュール・ペイレが本当に愛らしく、とても自然。こんなにもストーリーにフィットする表情が出来る赤ちゃんがいるなんて驚きだ。
【70点】
(原題「Ricky」)
(仏・伊/フランソワ・オゾン監督/アレクサンドラ・ラミー、セルジ・ロペス、メリュジーヌ・マヤンス、他)
(ファンタジー度:★★★☆☆)

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映画レビュー「エンジェル」

エンジェル [DVD]エンジェル [DVD]
◆プチレビュー◆
強い上昇志向でセレブの仲間入りを果たした女性の成功と転落。華やかな映像が美しいが、オゾンらしさは薄い。 【65点】

 20世紀初頭のイギリス。貧しい生まれのエンジェルは、上流社会への強烈なあこがれを基に小説を書き、作家としてデビューする。大成功を収めた彼女は、豪邸を購入し貴族出身の画家エスメと結婚するが、やがて夫の驚愕の事実を知ることに…。

 男性なのになぜか女を描くのに長けた監督がいる。温かに、ユーモラスに、時には意地悪に。女性の長所も短所もちょっと冷めた目線で捉えるのが共通点だ。複雑な女心を巧みに描く監督は、例えば日本の成瀬巳喜男、米国のゲイリー・マーシャル、スペインのペドロ・アルモドバルあたり。若き巨匠の風格を漂わせる仏人監督フランソワ・オゾンもそんな映像作家の一人だ。モラルを無視した独特のストーリーテリングと、人間の深層心理を深くえぐる演出がこの人の身上である。観客の口をポカンとあけさせたり、謎を残したままジンワリと終わってみたりと、説明し難い微妙な余韻が楽しみで、ファンは彼の新作を待っている。だが、はたして本作は?これが何ともまっとうな作品だった。主人公エンジェルは自称天才の勘違い女だが、彼女が望むのは冨と名声と愛。いたって普通の願いではないか。

 エンジェルは大衆にウケるロマンス小説を書いてベストセラー作家となるが、批判にはいっさい耳を貸さない。その態度は、不遜というより天然に近い。根拠のない自信こそが彼女の武器だ。エンジェルは貧しい出生を隠し通すために自分の人生を嘘で脚色していく。父は貴族、母は名ピアニストと語り、夫の死因を捏造するその姿は、滑稽で哀れだ。小説と現実はいつしか混同し、それが彼女を本当の幸せから乖離させる。そんなヒロインの性格設定を効果的に表すのは、往年のハリウッド映画のような色彩だ。豪奢な衣装が数多く登場するが、エンジェルが一人で自分と向き合うときは白い服であることに注目したい。彼女は何色でもなく、油断するとすぐにくすんでしまう脆い存在だ。認めたくない現実を封じ込めるには、たとえ不吉であろうと時代遅れであろうと、強い色が必要なのである。終盤、主人公は、人生のどんでん返しを味わうことになるが、そこで効いてくるのは売れない画家の夫エスメがエンジェルに言った「君には真実がない」という言葉だ。ヒロインは空想の世界に逃げ込み、決してそこから出ようとしなかった。幼い頃からあこがれた豪邸“パラダイス”が、彼女を縛る牢獄に見えてしかたがない。私たちは、映画を見ながら、成功へと駆け上ったエンジェルが、どういう風に転落していくのかを興味津々で見守ることになろう。

 観客が共感できない傲慢な主人公に、オゾンはいつも特別な罰と辛辣な慰めを与えてきた。だが、この作品では、ヒロインにそっと寄り添い、オゾン流の優しさを見せている。エンジェルを軽蔑する編集者の妻シャーロット・ランプリングに「小説は認めないけれど、大した女性だわ」と言わせるのがその証拠だ。ちなみに、この映画の主人公は、今は本国イギリスでも忘れられた、当時の流行作家をモデルにしている。自分が生きている間に成功を収めるエンジェルは時が経てば忘れられる商業作家。一方、夫エスメは死後に画家として評価が上がる孤高の芸術家だ。アーティストとして、人間として、どちらが幸せか。そしてこの映画「エンジェル」は、永遠に映画ファンの記憶に残る作品か。そんな疑問が映画監督オゾンの脳裏をよぎったに違いない。この物語では、いつになく同情混じりの穏やかなまなざしでヒロインをみつめている。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)毒気度:★★☆☆☆

□2007年 ベルギー・英・仏合作映画 原題「ANGEL」
□監督:フランソワ・オゾン
□出演:ロモーラ・ガライ、サム・ニール、シャーロット・ランプリング、他

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ぼくを葬る

ぼくを葬る [DVD]ぼくを葬る [DVD]
◆プチレビュー◆
きりっと短い81分。ダラダラと長い映画が多い昨今、この潔さがイイ。主人公が身に付ける服がどれも何気なくしゃれている。メルヴィル・プポーはエリック・ロメール監督の「夏物語」の頃から随分大人になったことよ。

若く美しい青年カメラマンのロマンは、突然、余命3ヶ月と宣告される。家族や同性愛の恋人、友人にも言えないまま、彼は日常生活のさまざまなものをデジカメで撮影し始める。治療も拒み、悩むロマンだったが、ただ一人祖母にだけには病気のことを告げ、素直に涙を流すのだった…。

韓流でお馴染みの難病もの。若い命を奪われる悲劇は万国共通だろうが、仏映画界の若き巨匠F.オゾンが描くと、このように美しくも崇高になる。残された日々をどう過ごすか。愛するものへの別れや、提案される「生きた証」も、オゾンのテイスト満載だ。いたずらに涙を誘うことなどせず、静かに主人公のそばに寄り添いたくなる演出なのだ。

残り僅かな命であることを祖母だけに告げたとき「なぜ私に?」と問われて「おばあちゃんは僕と同じだ。もうすぐ死ぬ」と答える場面が印象深い。祖母を演じるのはジャンヌ・モロー。さすがの貫禄で、悲しみをこらえた深い表情がすばらしい。

主人公のロマンはオゾン作品好みの美青年だが、最初はかなりイヤなヤツだ。映画で一般的に描かれるゲイは心優しい場合が多いが、この人は美しくも気高い人種。そんな主人公にオゾンはまるで罰のように若くして逝く運命を与える。だがロマンが彼なりの方法で全ての人に別れを告げたとき、オゾン映画の象徴である海が彼を優しく包んでくれるのだ。タイトルは「葬(ほうむ)る」と書いて「葬(おく)る」と読ませる。ちょっと洒落ている。

□2005年 フランス映画 原題「Le temps qui reste」
□監督:フランソワ・オゾン
□出演:メルヴィル・プポー、ジャンヌ・モロー、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、他

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スイミング・プール

スイミング・プール 無修正版 [DVD]スイミング・プール 無修正版 [DVD]
◆プチレビュー◆
本当は誰もが憧れるイイ女のくせして、嫌味な英国女を演じるランプリングが上手い。ジュリーの食べ残しを夜中にこっそりつまみ食いする図には笑ってしまった。

スランプ気味の英国人女流作家サラは、旧知の出版社の社長の別荘にやってくる。南仏の明るい太陽に気を良くしたサラの前に、社長の娘と名のるジュリーが突然現われ彼女の生活をかき乱した。いらつくサラだが、反面ジュリーに興味も。そんな折、プールサイドで殺人事件が起こる…。

ランプリングvsサニエ。ついに実現したオゾン監督の二人のミューズの共演が嬉しい。お互いに最も得意とする分野を担当し、最大の効果をあげている。嫌味な英国女のサラと奔放で男にだらしがない仏娘のジュリー。しかも、この二人、それぞれお互いのことが気になってたまらないのだ。特にサラの方が。

やりたいときにやりたいことをやる若い娘に最初はとまどいと苛立ちを露にするサラだが、本当は自分と全て正反対のジュリーの姿に感情を逆なでされているだけ。そんなときプールサイドで拾った落し物は、ジュリーのパンティー。部屋に持ち帰った途端にむくむくと創作意欲が沸くあたりが笑える。作家としてのスランプを抜け出すだけでなく、女のうるおいまで復活してしまう唐突さ。嫌悪感より好奇心が勝るとはさすがは作家だ。その後のサラの変貌は驚くほどで、これじゃ事件発生も必須である。

オゾンは作品ごとに違った側面と魅力を披露してくれるが、本作では、四角く切り取られたような青いプールを効果的に配したり、俯瞰を用いて観客と視線を共有するなど、構図の鋭さが光った。南仏を舞台にして全体を開放的に仕立てているのもセンスを感じる。現実と想像の世界の境界線は、時に随分と曖昧になるもの。オゾンは女の性(さが)、嫉妬、秘密などをキーワードにして、登場人物たちを変化させていく。

前半は全く共通点のない女性二人の奇妙な同居生活が主にサラの側から描かれるが、後半は殺人事件が発生し、物語はミステリーへと変貌していく。しかし、この映画が本当のミステリーであることが判るのは、映画の最後の瞬間だ。誰もが「え?」と思だろう。オゾン監督は、観客の数だけ謎解きに幅をもたせることによって、私たちに挑戦している。見終わって誰かに勧めたくなる映画とはこんな作品だ。なぜなら、この映画について誰かと語りたくて仕方ないはずだから。

□2003年 フランス映画  原題「Swimming Pool」
□監督:フランソワ・オゾン
□出演:シャーロット・ランプリング、リュディビーヌ・サニエ、チャールズ・マンス、他

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8人の女たち

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◆プチレビュー◆
タイトルはジョン・フォードの遺作「荒野の女たち」(原題「SEVEN WOMEN)が出典か。オゾン流の毒気はやや薄いが、過去の作品を使った遊び心が楽しい。

50年代のフランス。イヴの朝、ある豪邸で館の主マルセルが殺害される。屋敷は、電話線は切られ、大雪に閉ざされた密室状態。身内を中心に8人の女たちが集まっていたが、不倫、妊娠、金銭問題など、全員に殺害の動機があった。長女のシュゾンは、さっそく犯人探しを始めるが…。

やはりオゾン監督はタダモノではない。主役級の女優たちを一堂に集めて作った作品はなんとミュージカル。もちろん正統派ではなくオゾン流だ。50年代のテイストと、往年のハリウッド映画の名女優へのオマージュが満載の本作は、豪華で風変わりな推理劇。シニカルでコケティッシュな感触は一度味わったら、もうやみつきだ。

妻に二人の娘、妹やメイドなど、主に関わる女たちは、皆、殺人の動機が充分。互いの秘密が次々に明かされる過程で、仏を代表する女優たちが、唐突に歌い踊り出す。ドールハウスのようなテクニカラーの屋敷の中では、ミュージカル仕立ての進行も不思議と違和感がない。ファッションも意図的に大仰で、目にも楽しい。しかも8人全員が一人一曲、歌い踊るサービスぶりなのだから嬉しくなる。

オゾン作品と言えば、同性愛や近親相姦、軽いタッチの殺人などがお約束だが、本作でも、思わぬ謎解きの小道具として登場。ポップな中にもちゃんと毒が仕込んであるのだ。いちいち驚いているヒマはない。

大女優から新進気鋭の若手まで、百花繚乱だが、中でも、インパクト抜群なのが女主人の妹を演じるイザベル・ユペール。欲求不満で、家族中に当り散らし、トラウマと心臓病を抱えて暴走中のオーギュスティーヌは、最高に笑える存在。ユペールの確かな演技力が、極上のコミカルさを生んでいる。シットコム(シチュエーション・コメディ)よろしく、笑い声を献上したいほど。彼女の変身後の姿は必見だ。

ミュージカルの不自然さが苦手という人にも、これはかなりお勧めでは。ここまでデフォルメされた展開なら、唐突さがむしろ魅力となる。映画ファンには過去のヒロインのイメージを発見できるお楽しみ付き。メイドのルイーズが大切にしている元の女主人の写真は、故ロミー・シュナイダーではないか!

ラストに明かされる家族の意外な秘密。これは明らかに女たちのドラマなのだ。その証拠に、一家の主の顔は、ほんの一瞬を除いて最後まで画面に登場することはない。美貌とパワー溢れる仏女優たちのノリまくった夢の競演は、映画界の大事件。オゾンの初期の肩書きは“鬼才”。最近ではさかんに“俊英”と呼ばれているが、この人が将来“巨匠”になるのは間違いない。

□2002年 フランス映画 原題「8FEMMES」
□監督:フランソワ・オゾン
□出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ファニー・アルダン、エマニュエル・ベアール、イザベル・ユペール、ヴィルジニー・ルドワイヤン、リュディヴィーヌ・サニエ、フィルミーヌ・リシャール、ダニエル・ダリュー、他

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まぼろし

まぼろし<初回限定パッケージ仕様> [DVD]まぼろし<初回限定パッケージ仕様> [DVD]
◆プチレビュー◆
美しく年齢を重ねた人の優美さを見よ。ぜひお手本にしたい50代のランプリングに思わず見惚れる。原題は「砂の下」の意味。

マリーとジャンは25年連れ添った幸せな夫婦。例年通り、夏のバカンスで海辺の別荘に来たが、マリーが浜辺でまどろんでいる間に、ジャンが行方不明になってしまう。事故か、失踪か、もしや自殺か。大掛かりな捜索が行われるが、手がかりはつかめず捜査は打ち切られる。失意のままパリへ戻るマリー。今までと同じ日常を営むマリーは、ある日ジャンの幻を見るようになる…。

久しぶりに目にする日本語の、それもひらがなのタイトルが新鮮。最近はもっぱら原題が多く、そうでなくてもカタカナの題がほとんどなので、この「まぼろし」という邦題はひときわ目を惹いた。古風な書体で、縦書きで書かれているチラシも珍しく、いったいどんな作品なのかと公開前から妙にそそられる映画だったものだ。

人は愛する者の喪失を、どう乗り越えるのか。過去に幾度も描かれたテーマではあるものの、こんなにシンプルで奥深い作品に巡り合う事はめったにない。全盛期のミケランジェロ・アントニオーニの傑作「情事」を彷彿とさせる内容で、これを撮ったのが、問題作ばかりを世に問うF.オゾンだとは。

穏やかに平凡に暮らしてきたマリーとジャンの50代の夫婦は、お互いに深く愛し合っている。いや、愛し合っていると思っていた、少なくともマリーの方は。波にさらわれるかのように夫が突然いなくなる。にわかに受け入れ難い出来事だが、安否が不明では心の整理さえできない。まるで宙吊りの状態がなんとも残酷なのだ。夫の死を消化できずに彼の幻を見るマリーが「夫は自殺するかもしれないわ。」と、友人に未来形で語り始めるところは、印象的でスリリングだ。

ジャンの不在の真相をサスペンス仕立てで描いていくのが巧みな展開で、妻が夫の幻覚を見る情景も緊張感に溢れている。細部まで練られた脚本に感心した。リアルさと幻影が混在する独特の空気は、マリーの深い孤独感をより強く響かせ、心が揺さぶられる。しかし、容赦ない現実が、観客とマリーに忍び寄ってくる。初めて知るジャンのうつ病と義母の思わぬ冷たい言葉に、マリーの心のバランスは、希望と絶望の間で揺れ動く。よせては返す波打ち際は、生と死の境界線だったのか。ノーメイク、裸身をもさらして演じる50代の名女優ランプリングが素晴らしい。

殺人、同性愛、近親相姦と、アブノーマルな要素を常に盛り込むオゾン監督が、正攻法で撮る映画はあまりにも奥深い。従来のハジケたところは皆無だった。この人は“普通の”作品も撮れるだ!改めてその才能に驚かされた。ヨーロッパでは“いい女”の象徴とあがめられる存在のランプリングとの出会いは、まさに映画界の奇跡と言ってもいいほど。ハリウッドには到底真似できないコラボレーションといえるだろう。

終盤、夫であろう屍が上がり、マリーは事実に対峙せざるを得なくなる。むごい現実は、癒せぬ心の傷をマリーに負わるが、彼女が自ら引き寄せたのは愛の持続という啓示。自分の存在を保ち続け、現実を享受し、ジャンを愛し続ける。

人は、長く寄り添えばお互いを完全に理解できるのだろうか。そして孤独を癒すことは可能なのだろうか。人生を突然襲う受け入れがたい現実への心の準備など、誰も教えてくれない。まぼろしを見た意味を、砂浜で嗚咽し、走り抜けるランプリングが体言している。ラストシーンの余韻は深く透明だ。人間の絆と孤独を描くドラマはオゾンの新境地。喪失と受容は時間をかけて染み渡る。

□2001年 フランス映画 原題「Sous le sable」
□監督:フランソワ・オゾン
□出演:シャーロット・ランプリング、ブリュノ・クレメール、他

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