映画通信シネマッシモ


映画通信シネマッシモは、2018年4月をもって、終了しました。

ブログ終了にあたり、たくさんのあたたかいコメントをお寄せいただき、本当にありがとうございました。
皆さまの映画ライフに少しでもお役に立てたならこれほど嬉しいことはありません。
長い間のご愛顧に心より感謝いたします。

ヘレン・ミレン

ロング,ロングバケーション

Das Leuchten der Erinnerung
元文学教師でアルツハイマーの夫ジョンと末期がんの妻エラは半世紀を一緒に過ごしたおしどり夫婦。ある日二人は、心配性の子どもたちに黙って、ボストンの自宅からキャンピングカーに乗って南へ向かって旅に出る。70歳を超えた今、人生最後の旅の目的地は、ジョンが大好きな作家ヘミングウェイの家があるフロリダのキーウェストだ。旅の途中では、記憶があいまいなジョンがエラを置き去りにしたり、ナイフを持った若者に脅されたり、ウィスキー片手にスライド写真を見て家族の楽しい思い出をふり返ったり…とさまざまな出来事が。ハプニングとトラブルの連続の末についにキーウェストに到着した二人だったが…。

長年連れ添った老夫婦の人生最後の旅を描くロードムービー「ロング,ロングバケーション」。原作はアメリカ人作家マイケル・ザドゥリアンの小説「旅の終わりに」だ。本作は、イタリアの名匠パオロ・ヴィルズィ監督が初めてアメリカを舞台に作った英語作品となる。笑いあり、涙ありの旅は単なる観光旅行ではない。共に歩んだ人生を振り返り、最後の瞬間から目を背けずにゴールを目指す旅路である。高齢化社会、介護などのシリアスな問題も描かれるが、ヘレン・ミレンとドナルド・サザーランドの二人の名優にかかると、ユーモアと美しさをにじませて、思わず二人の演技に見入ってしまう。特に、ジョンの記憶の衰えにいらだち、そんな自分のいらだちを後悔するなど、繊細な心理描写を見せるエラ役のヘレン・ミレンの演技はパーフェクトと言うしかない。

認知症のジョンはエラが今も初恋の相手と会っていると思い込み、エラは数十年前のジョンの浮気を知って怒り心頭!だったり。なんだかんだ言っても夫婦には確かな愛の歴史があり、強く結ばれているのだ。ついにたどり着いた約束の地での“選択”は、賛否両論だろうが、決して悲しくも愚かでもないと思えれば、その時観客はこの映画の幸福な“共犯者”になるだろう。イタリア映画界を代表する名カメラマン、ルカ・ビガッツィによる映像が、ロードムービー特有の心地よい光と風を運んでくれた。
【65点】
(原題「THE LEISURE SEEKER」)
(イタリア/パオロ・ヴィルズィ監督/ヘレン・ミレン、ドナルド・サザーランド、ジャネル・モロニー、他)
(終活度:★★★★★)


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アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場

アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場 [Blu-ray]
英国軍の諜報機関の将校キャサリン・パウエル大佐は、最新鋭のドローン偵察機を使い、アメリカ軍と共に英米合同テロリスト捕獲作戦を指揮している。ケニア・ナイロビで過激派組織アル・シャバブのテロリスの隠れ家を突き止め、彼らが大規模な自爆テロを決行しようとしていることを察知。アメリカ・ネバダ州の米軍基地では新人のドローン・パイロットのワッツ中尉らがミサイル発射の準備に入った。だがその時、殺傷圏内に幼い少女がパンを売りに現れる。英米軍は、民間人の巻き添えという予期せぬ事態に、少女の命かテロリストの殺害かの選択を迫られることになるが…。

軍用ドローンの対テロ作戦を通して、無人機を使う現代の戦争の実態と人間の倫理を問う問題作「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」。南ア映画の秀作「ツォツィ」の監督ギャヴィン・フッドの、手堅く緊迫感あふれる演出が光る異色の戦争映画だ。ドローンを使った戦争に携わる人間の葛藤を描いた作品には「ドローン・オブ・ウォー」があり、ボタン一つで人間の命を奪う操縦者のPTSD(心的外傷後ストレス障害)が取り上げられた。本作では、ドローン戦争の詳細な実態を通して、それぞれの国、立場による対テロ戦争の実態と、巻き添えという人道的、倫理的問題を掘り下げている。複数の国が合同で行う作戦は、指揮系統だけでも複雑で作戦は遅々として進まない。英国軍と米国軍、軍人と政治家、現地の工作員、さらにはテロリストの視点までも盛り込む、俯瞰的な群像劇になっている。迷彩服に身を包んだオスカー女優のヘレン・ミレンが演じるのは、強い意志でテロリスト撲滅を指揮する猛々しい女性司令官である。彼女が、責任をとるのを嫌い保身ばかりの政治家にいらつく姿がリアルだ。さらに物語は、罪のない少女の命を犠牲にしてでもテロリストを殺害すべきか、それとも…という命題を突きつけ、映画はにわかに白熱したディスカッション劇へと変貌。このスリリングな展開に、一気に引きこまれる。正義とモラルの狭間で揺れ動く人々の思惑が交錯する中、パウエル大佐が驚愕の案を提示し、自爆テロを食い止めようとする展開は、息詰まるサスペンスのようだ。ドローン攻撃を仕掛ける人間は、安全な場所にいる。だが決して無傷ではいられない。彼らの選択と結果は映画を見て確かめてほしいが、そこには、正解はない。タイトルの“アイ・イン・ザ・スカイ”とは神の目という意味だろう。遥か上空から見ている神と同じく、私たち観客もすべての立場の人間が行う一部始終を目撃する。戦争という大きな罪の、苦い後味が残る秀作サスペンスだ。
【75点】
(原題「EYE IN THE SKY」)
(イギリス/ギャヴィン・フッド監督/ヘレン・ミレン、アーロン・ポール、イアン・グレン、他)
(会話劇度:★★★★☆)
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黄金のアデーレ 名画の帰還

黄金のアデーレ 名画の帰還 [Blu-ray]
アメリカ・ロサンゼルスでブティックを営みながら暮らす82歳の未亡人マリア・アルトマン。彼女は、グスタフ・クリムトが描いた“オーストリアのモナリザ”と呼ばれる名画「黄金のアデーレ」の返還を求め、駆け出し弁護士ランディの助けを借りて、オーストリア政府相手に訴訟を起こす。マリアは、叔母アデーレを描いたこの名画を取り戻す法廷闘争を戦いながら、ナチスに翻弄された自分自身の運命を振り返っていた…。

クリムトの名画にまつわる実話を映画化した「黄金のアデーレ 名画の帰還」は、ナチスによってすべてを奪われた女性が、オーストリア政府を相手に訴訟を起こすという驚きの実話だ。世界で最も有名な絵画の一つにこんな劇的な歴史秘話があったとは。過去の物語は、ナチスの迫害を逃れ命からがら祖国から脱出した裕福なユダヤ系一族出身のマリアが、両親を置き去りにせざるを得なかった深い悔恨に満ちた悲しい歴史だ。一方、現代の物語は、ナチスによって奪われた個人所有の絵画「黄金のアデーレ」を国の宝として、正当な持ち主マリアに返そうとしないオーストリア政府とのガチな法廷闘争である。ここには、どこか頼りない新米弁護士のランディの成長物語も描かれる。ランディは、自分とルーツが同じで縁があったマリアの裁判に携わることで、仕事への情熱と誠意に目覚め、一見勝ち目のない裁判にも知恵と勇気で立ち向かう一人前の弁護士へと変わっていくのだ。過去と現代と結びつけるこの構成が巧みで、祖母と孫ほどに年が離れているマリアとランディの凸凹コンビを、思わず応援したくなるだろう。コスメのエスティ・ローダーの会長ロナルド・ローダーとマリアがどういう経緯で知り合ったのかが少し分かりにくいが、「誰もが鑑賞できるよう、常時展示すること」を条件に、「黄金のアデーレ」こと「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I」は、ローダーが高額で買い取り、現在、NYのノイエ・ガレリエに所蔵されている。今まで避けてきた悲痛な過去に向き合いながら、裁判を戦い抜くマリアの姿は、実にりりしい。シリアスな中にも、そこはかとないユーモアを感じさせる演技は、さすがは名女優ヘレン・ミレンである。
【70点】
(原題「WOMAN IN GOLD」)
(米・英/サイモン・カーティス監督/ヘレン・ミレン、ライアン・レイノルズ、ダニエル・ブリュール、他)
(再生度:★★★★☆)
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マダム・マロリーと魔法のスパイス

マダム・マロリーと魔法のスパイス ブルーレイ+DVDセット [Blu-ray]
フレンチ・レストランとインド料理店のバトルを描く「マダム・マロリーと魔法のスパイス」。目にも美味しい料理とあたたかなドラマで幸福感を味わえる。

南フランスの山間にあるミシュラン1つ星のフレンチ・レストランを営むマダム・マロリーは、夫を亡くした後、レストランに人生を捧げて生きている。ある日、インドのムンバイからやってきた一家が、マロリーの店のお向かいにインド料理店を開くことに。何もかも対照的な2店は食材や店の雰囲気、お客を巡って衝突を繰り返す。解決の鍵は、インド人一家の次男で絶対味覚を持つ料理の天才・ハッサンだった…。

格式高い名門フレンチ・レストランVS庶民派のインド料理店。正反対のレストランの料理バトルは、いわば異文化対決だ。スウェーデン出身のラッセ・ハルストレム監督は、国際色豊かなキャストを使いこなす名匠だけに、この手の素材を料理するのは得意なのかもしれない。原作はリチャード・C・モレイスのベストセラー小説。食べ物が人々の心をひとつにし、人間関係を円滑にするというテーマは、一見安易に思えるが、本作に登場する美しく美味しそうな料理の数々を見ていると、いつのまにか納得してしまう。さらには、高級料理や最先端の分子料理などより、自宅にある余りものでササッと作る軽食や、母親秘伝のスパイスを使った料理に、結局は心を動かされるという設定も、庶民には説得力があるものだ。フレンチ・レストランで働く親切な美女マルグリットと絶対味覚を持つ天才シェフ・ハッサンの恋もいいが、やっぱり物語に絶妙なスパイスを効かせるのは、名女優ヘレン・ミレンとインドのベテラン俳優オム・ブリのコミカルで味わい深い妙演。南仏の美しい風景も堪能できる、さわやかな小品だ。
【60点】
(原題「THE HUNDRED-FOOT JOURNEY」)
(アメリカ/ラッセ・ハルストレム監督/ヘレン・ミレン、オム・プリ、マニシュ・ダヤル、他)
(美食度:★★★★☆)
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REDリターンズ

REDリターンズ ブルーレイ+DVDセット [Blu-ray]
引退したスパイたちが大暴れする人気アクションの続編「REDリターンズ」。やっぱりヘレン・ミレンの熟女スパイが最高にかっこいい。

引退した元CIAの凄腕エージェントのフランクは、恋人サラと共に平穏な生活を楽しんでいた。そこにかつての仲間のマーヴィンがやってきて、現役時代に自分たちが関わった小型核兵器に絡む極秘プロジェクトに起因したトラブルが発生したと告げる。フランク、マーヴィン、サラの3人は真相を探るためヨーロッパへと飛ぶ。そこには米ソ冷戦時代に核爆弾を作った天才物理学者、英国のMI6、ロシアの諜報機関がからむ陰謀が進行していた…。

「老いてますます盛ん」とは、この映画の登場人物たちにこそ最も似合う言葉ではなかろうか。彼らは引退した(はず)の凄腕スパイだが、昔の習性か、はたまた本来持っている冒険への情熱なのか、平穏な生活では決して満足できない。REDのメンバーの結束は固いのだが、敵味方入り乱れる展開は、前作のスケールを大きく上回る。今回は、フランクの元恋人でロシアの凄腕スパイにキャサリン・ゼタ・ジョーンズ、韓国人のセレブで世界一の殺し屋にイ・ビョンホン、認知症を患う天才物理学者にアンソニー・ホプキンスと、新キャラもこれまた豪華だ。もともとがDCコミック原作のコミカル・アクションなので、なんでもありのド派手な展開は本作でも健在。クレムリンにもやすやすと侵入してしまう。REDの活躍で鍵を握るのは実は女性キャラなのだが、中でもやはりヘレン・ミレンは最高だ。MI6の凄腕女スナイパー、ヴィクトリアは、自然に溶け込む迷彩服で敵を一撃で倒すかと思えば、パロディ色たっぷりの狂った女王役を演じて敵の目を欺く。その一方で、敵だった旧ソ連のスパイとは熱愛中なのだから何とも可愛い。圧巻は疾走する車から二丁拳銃をブッ放して周囲の敵を一網打尽のシークエンスだ。こんな役なのに、常に優雅なのだからほれぼれしてしまう。小型核兵器の謎は二転三転し、意外な展開へと進むのだが、そこは荒唐無稽なアクション。正真正銘のご都合主義のオチがつく。平凡な一般人であるはずのサラの冒険心にも火をつけた本作、さらなる続編も期待できそうだ。
【60点】
(原題「RED 2」)
(アメリカ/ディーン・パリソット監督/ブルース・ウィリス、ジョン・マルコヴィッチ、メアリー=ルイーズ・パーカー、他)
(豪華キャスト度:★★★★☆)
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REDリターンズ@ぴあ映画生活

映画レビュー「ヒッチコック」

ヒッチコック [Blu-ray]
◆プチレビュー◆
サスペンスの神様の知られざる素顔を描く「ヒッチコック」。名匠のコンプレックスと映画の裏話に興味津々。 【65点】

 映画監督として大成功を収めたアルフレッド・ヒッチコックは、自費を投じて扇情的なホラー映画「サイコ」の制作に着手する。だが、それまでの常識を覆す演出のため、映画はさまざまなトラブルに見舞われる。さらに妻アルマとの関係にもほころびが生じはじめ、ヒッチコックはついに倒れてしまう…。

 サスペンスの神様、アルフレッド・ヒッチコック、通称ヒッチの唯一のホラー作品で、最大のヒット作は言うまでもなく「サイコ」だ。数々の逸話を残すこの名作誕生の舞台裏を描く本作は、ヒッチコキアン(ヒッチコックの熱狂的なファン)には、よく知る逸話ばかりだろう。

 だが、本作はヒッチコックという天才監督の賛美ではない。「サイコ」のモデルで大量殺人者のエド・ゲインの幻影が、常にヒッチにつきまとうが、ゲインはヒッチの深層心理の象徴だ。描かれるのは、コンプレックスや嫉妬心、殺人や倒錯を嗜好する異常性。さらに、公私ともに強い絆で結ばれた夫婦の葛藤を浮き彫りにするアプローチが新鮮だ。

 「サイコ」は、下着姿やトイレを映したこと、ヌードが見える、見えないの論争などで、映倫との長い戦いが繰り広げられた作品として知られている。さまざまなテクニックで難局を乗り切るヒッチの戦略はまさに天才的で、彼の才能とチャレンジ精神は疑いようがない。だがその一方で、世間の評判を気にし、アカデミー賞を取れないことに傷つく弱い側面も。そんな複雑な夫のそばで、妻アルマもまた、編集者・脚本家として悩んでいたのだ。

 ヒッチ役の名優アンソニー・ホプキンスは、特殊メイクで巨匠を熱演するが、顔は似ていないのに、しぐさや人間描写の掘り下げでヒッチになりきっているからさすがである。対するヘレン・ミレンは、夫の浮気癖に耐えながらも、妻として編集者として夫を支える気丈なアルマを、これまた貫禄たっぷりに演じる。モノクロ映画の「サイコ」の名シーンの数々が、鮮やかな“カラー”で見られるのが何より嬉しい。

 第一回試写で酷評された「サイコ」を、鮮やかな編集手腕で名作に作り変えたアルマとヒッチは、互いに欠点を抱えながらも、二人揃うと最強になった。本作のタイトルは「ヒッチコック」だが、これはむしろ「ヒッチ&アルマ」とでも呼びたいバディ・ムービーなのだ。多くの名作を作りながらアカデミー監督賞を取れなかったことに生涯コンプレックスを抱えていたヒッチコック。彼とその妻の物語を、ホプキンスとミレンというオスカー俳優の二人が演じることを知ったら、ユーモアと皮肉が大好きだったヒッチは苦笑いするに違いない。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)夫婦善哉度:★★★★★

□2012年 アメリカ映画 □原題「HITCHCOCK」
□監督:サーシャ・ガバシ
□出演:アンソニー・ホプキンス、ヘレン・ミレン、スカーレット・ヨハンソン、他
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ヒッチコック@ぴあ映画生活

テンペスト

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文豪シェイクスピアの最後の戯曲を、主人公を女性に変えて大胆に演出したファンタジー活劇。アヴァンギャルドな衣装が見所だ。

ナポリ王アロンゾー、ミラノ大公アントーニオらを乗せた船は突然の大嵐に遭い難破、一行は命からがら絶海の孤島に漂着するが、息子ファーディナンド王子を見失ったアロンゾーは絶望する。その嵐は、島に住むプロスペラが魔術を使って起こしたものだった。彼女は、かつてミラノ大公妃だったが、弟アントーニオによって国を追われ、娘のミランダと島で暮らしていたのだ。彼女は手なずけた妖精エアリアルを使い、自分を裏切った者たちへの絶好の復讐を企てる…。

監督のジュリー・テイモアはオリジナリティとけれん味あふれる演出が持ち味。同じシェークスピアものとしては「タイタス」でも独自の美意識に基づいた演出で冴えを見せた。本作では、魔法という特異な世界を幻想的なCGを多用して描き、新風を吹き込んでいる。何より主人公の性別を女性に変更したのが新しい。名女優ヘレン・ミレンが威厳たっぷりにプロスペラは、娘ミランダへの母性愛にあふれているかと思えば、一方で、妖精エアリアルや奴隷キャリバンを冷酷にこき使うなど、善悪がせめぎあう複雑な人物だ。物語のテーマは、復讐と赦し。だが、原作に忠実にとの思いからだろうか、セリフがあまりに舞台風で情報過多。せっかく新しい解釈と先進的な映像で描く21世紀のシェークスピアなのに、どうにもテンポが悪いのが惜しい。ただ、原作は約400年前に書かれたことを思うと、シェークスピア作品は、いつの時代も、どんな演出も可能にする、豊かな芸術なのだと改めて感心させられる。
【60点】
(原題「THE TEMPEST」)
(アメリカ/ジュリー・テイモア監督/ヘレン・ミレン、トム・コンティ、デヴィッド・ストラザーン、他)
(幻想的度:★★★★☆)



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テンペスト@ぴあ映画生活

RED/レッド

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オヤジパワー炸裂の過激なアクション娯楽作は、その非常識さが笑いを誘う。荒唐無稽な話に濃すぎる豪華キャストで気合十分だ。元CIAの腕利きスパイのフランクは、今は引退し、年金課の担当者サラと電話で会話するのが唯一の楽しみという静かな生活を送っていた。そんな彼がある日何者かに襲撃される。見事に敵を倒したフランクだったが、どうやら、過去に、ある秘密の任務にかかわった者たちがCIAから狙われているらしいという事実を突き止める。自分がかつて所属し人生を捧げてきた組織から狙われたことがフランクの闘争心に火をつけた。彼はかつて苦楽を共にした仲間たちを招集。元MI6の美人スパイや旧ソ連のスパイも加わって、事態はトンデモない方向へ。平凡な日常に退屈し、刺激のある日々を夢見ていたサラをも巻き込んだ彼らは、巨大な陰謀に立ち向かおうとしていた…。

最近、とかくオヤジ映画が元気だが、とにかくこの作品のオヤジ(一人おばさんもいるが)たちは腕利きな上に個性的なので魅力たっぷりだ。RED(RETIRED EXTREMELY DANGEROUS)とは国家がリストアップしている“引退した超危険人物”を意味するコードネーム。アメリカ中をあっという間に移動するスピーディな展開もすごいが、何しろキャラが立ちまくっている。モーガン・フリーマンが老人ホームで暮らす末期ガンのエロじじい役なら、ジョン・マルコビッチは隠れ家に住むパラノイア、優雅なヘレン・ミレンは実は一流の銃の使い手で、マシンガンやバズーカ砲をぶっ放す過激さだ。特にピンクのぶたのぬいぐるみを抱えたマルコビッチがハマリすぎでコワいほど。この名優は、目つきが独特で、焦点があってないのにそのくせ鋭い眼が、ただならぬ雰囲気なのだ。突然の現役復帰で燃え上がるオヤジたち。ハイテク武器はないけれど、彼らには長年培った特殊工作の華麗なノウハウと処世術がある。しかもそこには、スパイならではの意外なロマンスも。過激なアクションの中には、しっかりと笑いの要素や仕事への誇りも盛り込まれていて、娯楽作としてそつがない作りだ。もっとも、CIAの陰謀の中身はありがちなもので“殺しても死なない”彼らの活躍はかなりムチャクチャ。それでも、原作がDCコミックのグラフィックノベルだと聞くと納得してしまう。「若いモンには負けないゾ!」のオヤジ・パワー炸裂の快作だが、このテのジャンルの映画には無縁に思える英国女優ヘレン・ミレンをキャスティングしたことが功を奏して、洗練された雰囲気に仕上がった。過激でひねりの効いたこのスパイ映画、できれば次々に新メンバーを加えながらシリーズ化してほしいものである。
【65点】
(原題「RED」)
(アメリカ/ロベルト・シュヴェンケ監督/ブルース・ウィリス、モーガン・フリーマン、ジョン・マルコヴィッチ、他)
(荒唐無稽度:★★★★☆)

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終着駅 トルストイ最後の旅

終着駅 トルストイ最後の旅 [DVD]終着駅 トルストイ最後の旅 [DVD]
ロシアの文豪トルストイ夫妻の晩年の愛憎を、トルストイの秘書である青年ワレンチンの目を通して語る異色の伝記映画だ。さまざまな確執を経てもなお、強く結ばれるトルストイとソフィヤの深い愛情に感動を覚える。世界中から尊敬される文豪トルストイには長年連れ添った妻ソフィヤがいた。だがトルストイは晩年に、平和と平等、非暴力と道徳を説く“トルストイ主義”を提唱。教義に心酔する一番弟子のチェルトコフから、民衆のために著作権を放棄するように迫られる。激怒した妻ソフィヤは子供たちのために財産を守ろうとし、夫婦の間に大きな亀裂が入る。激しく言い争いながらも、深く愛し合う二人だったが、ついにトルストイはすべての解決を放棄するかのように家出してしまう…。

その一挙手一投足が話題になる大作家トルストイが、80歳を過ぎてから突如家出する。これだけでも十分にスキャンダラスだが、高齢な上に病気がちだった彼は名も無い駅で寝込んでしまい、そのまま多くの取り巻きや記者に囲まれながら息を引き取る。これはかなり異様な臨終だといえる。こうなるに至るトルストイ最晩年に焦点を当てて、世界中が注目していた夫婦喧嘩を“愛”というキーワードで読み解いてみせるのが本作だ。そもそもトルストイという人物は矛盾だらけである。トルストイ主義はなるほど立派だが、性欲を否定しながら彼の子供は13人、世界平和と民衆の幸福、農奴解放を目指しながら、貴族出身の彼は贅沢に暮らし、家庭の平和ひとつ実現できない。財産と著作権放棄の件も、妻と弟子の間で右往左往する。あげくの果てに何もかも放り投げて家出ときた。「戦争と平和」「アンナ・カレーニナ」を生み出したこの文豪、残した文学は偉大だが、決して仰ぎ見る偉人ではなく、煩悩と矛盾だらけ、ずるさも弱さも抱える一人の老人にすぎない。そんな彼にとってソフィヤは似合いの相手だ。なるほどソフィヤは時にヒステリックに騒ぎ夫を困らせるが、二人を結びつける絆は夫婦愛そのもの。それを他人が“裁く”こと事態が大きな間違いではないか。単純な理想主義だけでは人は幸せにはなれないものだ。まして夫婦の間には苦楽を共にした歴史があった。そのことを若いワレンチンが汲み取って人間的に成長するという設定が意義深い。

ヘレン・ミレンとクリストファー・ブラマーという名優二人がこの困った夫婦を格調高く、それでいて少しコミカルに、愛情深く演じていて、素晴らしい。ソフィヤは、音楽家モーツァルトの妻コンツタンツェや哲学者ソクラテスの妻クサンチッペと共に世界三大悪妻と呼ばれているが、3組とも実は「割れ鍋に綴じ蓋」。トルストイとソフィヤは案外似合いの夫婦だったのかもしれない。
【70点】
(原題「THE LAST STATION」)
(ドイツ・ロシア/マイケル・ホフマン監督/クリストファー・プラマー、ヘレン・ミレン、ジェームズ・マカヴォイ、他)
(夫婦愛度:★★★★★)

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映画レビュー「消されたヘッドライン」

消されたヘッドライン [DVD]消されたヘッドライン [DVD]
◆プチレビュー◆
巨大な権力にペンの力で挑むポリティカル・サスペンス。終盤、ひねりすぎるのが惜しい。 【70点】

 ワシントングローブ紙の敏腕記者カルは、黒人少年の射殺事件と、国会議員コリンズの部下で愛人の女性が突然死した事件に、奇妙な共通点を嗅ぎ取り調べ始める。やがてそこに軍事企業ポイント・コープ社の影が見え始めるが…。

 もともとは英国BBCのTVシリーズで、リメイクとして設定を練り直し、俊英脚本家たちが一本の映画にまとめたのがこの「消されたヘッドライン」である。ジャーナリズムと国家権力の攻防というと、名作「大統領の陰謀」を思い浮かべるが、本作の内容はメディアの危うさと、戦争という“産業”の実態を浮き彫りにする、別種の緊張感に満ちたものだ。

 物語は、カルとコリンズの関係性を軸に描かれる。二人は浅からぬ仲で親友同士だが、カルは、時には違法スレスレの取材も辞さない男だ。奇麗事だけではヘッドライン(新聞の大見出し)を飾る記事を書くジャーナリストにはなれない。コリンズに友人として接する反面、情報源として利用もする。そんなブンヤ魂の権化のような男を、でっぷりと太ったラッセル・クロウが熱っぽく演じて上手い。新米だが優秀なWEB版記者デラや豪腕女性編集長キャメロンなど、それぞれの熱意が物語を牽引し、二転三転しながら真実に近づいていく。

 この“二転三転”が本作の急所なのだ。議員のスキャンダルを発端に、警察との駆引き、政治圧力、謎の殺し屋と、物語は危険なミステリーへと転がっていく。やがて事件は、軍事をアウトソーシングするビジネス提携、つまり戦争をめぐる企業と政界の癒着へとたどり着く。国内の安全保障まで商売道具にする謀略を糾弾するコリンズは、一見正義の側だが、コトはそう単純ではない。物語は、終盤に次々に新事実を用意し国家から個人へと話が収縮してしまった。

 だが、ケヴィン・マクドナルド監督は、イディ・アミンもクラウス・バルビーも、人となりを掘り下げることで彼らを偶像化した社会そのものを炙り出してきた。それゆえ本作でも視点を国家権力へと向けず、一個人の苦悩として描いたのだろう。巨大な陰謀の激震の渦中で真実を探る武器もまた、カルのような古参の記者の誇りとひらめきという個の力でしかない。ジャーナリズムの面目は幸いにも保てたが非常にきわどい勝負だったのだ。次に勝てる保証はない。だからこそ、カルとデラの絆が、安易な恋愛関係ではなく師弟関係になったことは建設的に思える。近年の新聞ばなれにメディアも旧態では生き残れない。真実の報道のためには内外の圧力と戦わねばならない時代なのだ。

 報道の正義を正面から描くことができた70年代とは違う混迷が、現代の米国には漂っている。サスペンスとしてひねりすぎて、社会派映画の比重が低くなったのが惜しいが、それでもこの映画のメッセージ性は損なわれていない。時代の変化が政治の腐敗を生んだなら、ジャーナリズムとて危うい存在であることに変わりはない。発行部数増加のために報道が魂を売る日が来ないと誰が言いきれよう。エンドロールに映る輪転機は本物のワシントン・ポストの機械だという。この映画の裏側のテーマはジャーナリズムの衰退への警鐘だということに気付かねばならない。朝刊の一面に刷られるのが真実である今のうちに。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)スリリング度:★★★★☆

□2009年 アメリカ映画 原題「STATE OF PLAY」
□監督:ケヴィン・マクドナルド
□出演:ラッセル・クロウ、ベン・アフレック、ヘレン・ミレン、他

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