映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
毎日のレビューは分かりやすく簡潔な寸評で、週1本の長文映画レビューでは作品をディープに掘り下げます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる公開作品 ◎
「ファミリー・ツリー」「ダーク・シャドウ」「サニー」

ペネロペ・クルス

パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉

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4年ぶりのパイレーツの新作に素直に心が躍る。ペネロペ・クルスというゴージャスな美女も参入。だが海賊らしさはほとんど感じられない。

自由をこよなく愛する海賊ジャック・スパロウは、元カノの女海賊アンジェリカと再会する。しかし彼女は、永遠の命を得るという伝説の泉の場所を知るためにジャックに近づいたのだ。そこに、史上最強の海賊“黒ひげ”や、英国海軍に寝返ったバルボッサがからみ、泉をめぐる激しい争奪戦が展開する…。

監督が「シカゴ」のロブ・マーシャルに交代したのは、イベント的要素が強いこのシリーズに、大人の雰囲気と音楽的要素を加えようという試みだろうが、マーシャル監督、荒唐無稽のアクションはあまり得意じゃなさそうだ。物語は永遠の命を巡る、ジャック、アンジェリカ、黒ひげ、バルボッサ、スペイン軍の五つ巴の戦い。それぞれの思惑が異なるところは、誰が敵で誰が味方か区別がつかず面白い。聖杯や人魚の涙をキーアイテムにして泉を探すが、求めているのは決して不死だけではないのだ。だが、このアトラクション・ムービーの醍醐味は、海の上で暴れまわる海賊の活躍にあるというのに、今回は、その大半が陸上での“泉探し”。移動ばかりでアクションシーンも中途半端だ。おかげで3Dの効果もさっぱりという有様である。人魚が登場するシークエンスはさすがに魅せたが、これでは、インディ・ジョーンズやナショナル・トレジャーと変わらない。海賊らしさがほとんどないのは、何とも寂しい。

そんな中、嬉しいのは、ある目的を持って英国将校になったバルボッサとジャックとの息のあったコンビぶりだ。2人のとぼけたかけあいに、シリーズを見守ってきたファンは、海と自由を愛してやまない海賊魂を見るだろう。例によって、長いエンドロールの後にちょっとしたワンシーンがある。物語は完結しているが、もしや続きがあるかも…と期待してしまいそうだ。
【65点】
(原題「PIRATES OF THE CARIBBEAN:ON STRANGER TIDES」)
(アメリカ/ロブ・マーシャル監督/ジョニー・デップ、ジェフリー・ラッシュ、ペネロペ・クルス、他)
(アクション度:★★★☆☆)
チケットぴあ



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パイレーツ・オブ・カリビアン/生命(いのち)の泉@ぴあ映画生活

映画レビュー「抱擁のかけら」

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◆プチレビュー◆
視力を失くした男がたどる愛の誕生、崩壊、再生の道。アルモドバルの物語はいつも原色で濃厚だ。 【70点】

 盲目の脚本家ハリー・ケインは、実業家エルネストが死亡したことを知る。直後にエルネストの息子がハリーを訪れ、ある脚本を依頼。それをきっかけに彼は、封印していた、深く愛した女性レナの思い出と向き合うことになるが…。

 ハリー・ケインは、運命の女性レナを亡くしてから人生を失ってしまった男だ。かつて本名のマテオ・ブランコを名乗り新進気鋭の映画監督だった彼は、女優志願のレナと深く愛し合うが、レナには、権力のあるパトロンのエルネストがいた。貧しさゆえにエルネストのものになったレナはマテオとの本当の愛にめざめてしまう。レナという女性は、パトロンの富を得て、女優の夢を追い、真実の愛を渇望する、欲望に忠実な激しい女性なのだ。だが、二人の仲はエルネストに知れ、恋人たちは逃避行の果てに激しい事故に遭う。それは二人の周囲でうごめいた裏切りと復讐が生んだ悲劇だった。バラバラにされた大量の写真が、恋人たちの叫びのように脳裏に焼きつく。

 映画は、ハリーが視力を失った理由と、レナとの愛の裏側にあった真実をミステリー仕立てで語っていく。ハリー(2008年の現在)と、マテオ(1994年の過去)の2つの物語が交錯する複雑な語り口だ。さらに、1994年の過去には、劇中劇として撮影されている映画があり、レナとマテオを監視するためのビデオカメラも回っている。真実と虚構、愛と憎しみは、磁石のプラスとマイナスのように双極性の強い磁場を発生させている。本作の個性は、映画という虚構の中にさらに真偽を仕込む複眼の視点。加えて言えば、同性愛を公言するアルモドバル特有の、同性と異性の二つの愛のバランスも。多重多層的な構成は、観客を困惑させると同時に、めくるめく陶酔へと誘う。

 二重性が最大限に発揮されるのは、劇中劇のコメディ映画「謎の鞄と女たち」の顛末である。エルネストの復讐心によって、映画はNG場面だけをつないだ無残なものになった。映画へのこの暴力が悲劇の引き金になるが、14年後に図らずもレナとの愛に対峙したハリーは、この映画のフィルムを再編集しベストショットだけで蘇らせる。レナの命が戻ることはないが、この作品が完成すれば、劇中のレナは永遠に微笑み続けるというわけだ。ひとつのフィルムで二つの作品を生みだす不思議と共に、映画という架空の世界で、幸福を再構築するというプロットは、映画愛の極みではないか。

 赤を基調とした濃厚な色彩の中、アルモドバルのミューズのペネロペ・クルスがひときわ輝いてみえる本作。アルモドバルの作品には、人はどんな悲しみからも立ち直るとのメッセージが込められていることが多いのだが、同時にこの人はその力を映画が与えてくれると信じているのではなかろうか。その証拠に、本作には映画への目配せが散りばめられている。ハリー・ケインという名前は、不遇の天才オーソン・ウェルズに由来するものだ。ハリーは「第三の男」でウェルズが演じたハリー・ライムから、ケインはウェルズが監督・主演した「市民ケーン」から取ったのだろう。溢れる才能を持ちながら呪われた映画人生を歩んだオーソン・ウェルズに重ねられたマテオの人生は、レナとの愛の思い出のかけらをつなぎあわせることで、新しい生を得た。この映画のラストは、融和とも皮肉ともとれる、これまた二重性を持つ意味深なもの。だが、私には、痛手を負っても必ず希望はあると言っているように思えるのだ。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)濃密度:★★★★★

□2009年 スペイン映画 原題「LOS ABRAZOS ROTOS/Broken Embraces」
□監督:ペドロ・アルモドバル
□出演:ペネロペ・クルス、ルイス・オマール、ブランカ・ポルティージョ、他

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映画レビュー「それでも恋するバルセロナ」

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◆プチレビュー◆
人生は貪欲に楽しむべし。バルセロナの街の魅力を堪能できるアレン流のラブ・コメディーだ。 【65点】

 夏のバカンスでバルセロナを訪れた親友同士のヴィッキーとクリスティーナは、セクシーな画家フアン・アントニオと知り合う。積極的なクリスティーナと慎重派のヴィッキーは共に彼に惹かれていくが…。

 いきなりサッカーの話で恐縮だが、08−09シーズンの欧州チャンピオンズ・リーグは、FCバルセロナが制した。勝利至上主義のサッカー界で、このチームが頂点に立ったのは、誰もが魅惑的なフットボールを渇望した帰結ではなかろうか。バルサのファンはたとえ勝ってもつまらない試合は許さない。美しく楽しいサッカー。それがバルセロナの魂だ。前置きが長くなったが、1−0で勝つのがお行儀のよい恋愛だとすると、アレンが描くこの艶笑話は、4−4で引き分けたが、観客も選手も最高に楽しんだ試合によく似ている。

 さて本題の映画だが、舞台は官能の香り漂う夏のバルセロナ。異邦人には、情熱的で少し危険な街だ。そんな場所で繰り広げられるのは、男一人に女二人の三角関係、いや、四角関係。いやいや、正確に言えば3.5角関係の大騒ぎである。男優冥利につきる役を演じるのは、ハビエル・バルデムだ。このデカくて濃い顔のモテ男を奪いあうのはいったいどんな女性たちだろう。

 婚約中のヴィッキーは堅実型。彼女を基準に物語を眺めると、恋愛観の振り幅がよく分かる。出会ったばかりのフアン・アントニオの「旅行に行こう。そして3人でワインを飲んでセックスしよう」の言葉に憤慨しながらも心が揺れる。平穏な人生こそ望みだが、ちょっぴり“罪深さ”に憧れるその気持ち、多くの女性が頷くはずだ。一方、クリスティーナは前述のフアン・アントニオの提案に大喜び。奔放より尻軽という言葉が思い浮かぶが、なぜだか憎めない。親友同士の危険な三角関係になりかけるが、自由なクリスティーナは彼とさっさと同棲してしまい、一応の決着を見たかに思えた。だがそこに、もう一人の女が登場し、別の三角形が出現する。話が俄然面白くなるのはここからだ。

 その女とはフアン・アントニオの元妻で、激情型の天才画家マリア・エレーナだ。美しくエロティックで、激しくて優しい。まるで竜巻のような彼女の参戦で、修羅場になるかと思いきや、なぜだか落ち着いてしまうから、まったく恋とは異なものだ。3人だとうまくいく。別れた夫婦が愛し合う。女同士でも惹かれあう。いったいこの恋、どうなるの?!それは見てのお楽しみだ。ペネロペ・クルスが、スペイン語でまくしたて、気性が荒い美女をコケティッシュに演じて抜群に魅力的。世界中の女優がアレン作品に出たがるのは、この自意識過剰でインテリの監督が、女優を輝かせる術を熟知しているからに違いない。

 物事の本質を見極めるためには、奇数でなくては。多数決だって偶数ではラチが明かない。このセオリーを恋愛に応用してしまうから洒脱だ。私生活でも不埒な恋愛騒動を演じてきたアレンには、愛する女を一人に決めるなんて所詮無理な相談だろう。だから彼の物語はいつも“地球は女で回ってる”。「僕らは生きている。ステキじゃないか」。「成就しない愛だけがロマンチック」。劇中には印象的なセリフが満載だ。NYからロンドン、そしてバルセロナへ。おしゃべりしながら歩きたくなる美しい街がある限り、アレン節は健在である。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)名セリフ度:★★★★★

□2008年 アメリカ映画 原題「Vicky Cristina Barcelona」
□監督:ウディ・アレン
□出演:スカーレット・ヨハンソン、ペネロペ・クルス、ハビエル・バルデム、他

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エレジー

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ペネロペ・クルスの圧倒的な美しさが物語を支え、全ての役者の深い演技が作品の次元を高みに引き上げる。女性に肉体的な愛しか求めない初老の大学教授デヴィッドが、30歳も年下の美貌の女性コンスエラとの恋に溺れていく。真摯な関係を求める女とそれを拒む男の関係は、別の形で遭遇する死によって大きく変わることに。最初は、デヴィッドの価値観に全く共感できないのだが、それが愛する女性を失う怖さゆえの不実だと理解できれば、次第に引き込まれていくだろう。作品のテーマは肉体そのもの。美しいそれを愛し、老いて魅力を失うそれをも慈しむ。コイシェ監督の感性はシビアで繊細。見る人によって違う未来を感じさせるラストの余韻が秀逸だ。
【70点】
(原題「Elegy」)
(アメリカ/イサベル・コイシェ監督/ペネロペ・クルス、ベン・キングズレー、パトリシア・クラークソン、他)
(実は純愛度:★★★★☆)

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恋愛上手になるために

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美女二人の間で揺れる異色恋愛映画だが、中身は幼稚な男の妄想で失笑する。ゲリーは仕事や恋人ドーラとの関係に未来を見出せず、無気力状態。そんな彼は、夢の中に登場する美女アンナが忘れられず、常に夢を見る方法を習得しようとする。夢の女が現実に現われ理想と違うと露骨に失望するかと思えば、恋人が別の男と寄り添っていれば嫉妬する。大人になれない中年男のジタバタがリアルだが、倦怠期の男女のもがきと見ると共感できる部分も。味があるのは、夢と人生の指南役ダニー・デビート。理想の美女ペネロペと、生活臭たっぷりのグウィネスの対比が効いていた。
【45点】
(原題「THE GOOD NIGHT」)
(アメリカ/ジェイク・パルトロウ監督/マーティン・フリーマン、ペネロペ・クルス、グウィネス・パルトロウ、他)
(セラピー効果度:★★★☆☆)

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映画レビュー「ボルベール<帰郷>」

ボルベール<帰郷> コレクターズ・エディション
◆プチレビュー◆
殺人や幽霊などがさらりと登場するが、主題は女が生きるということ。笑いと涙、驚きの秘密とは?ペネロペが最も輝くのは、やはりスペイン映画だ。 【85点】

ライムンダは失業中の夫の代わりに働く気丈な女性。ある日、義理の娘パウラに乱暴しようとした夫を、誤って娘が殺してしまう。殺人を隠し娘をかばうライムンダ。そんな時、彼女は、ある理由から拒み続けた亡き母の噂を聞く。それは、遠い昔に焼死した母イレネの幽霊が現れるという奇妙なものだった…。

男性の影が極めて薄い、徹底した女性映画だ。女たち、とりわけ母の力強さが物語をグイグイ引っ張る。この映画には6人の主要女性キャラが登場するが、彼女たちは皆、たくましくてセクシーだ。中心はライムンダとその母イレネ。映画冒頭の、強風の中で墓を掃除する場面が、女たちの人生の過酷さを物語る。舞台は、ドンキホーテゆかりの場所で、迷信深いラ・マンチャ地方だ。ここでは、幽霊が現れるのはよくあることらしい。

アルモドバルの故郷であるラ・マンチャの精神風土は、生者と死者が共存するおおらかなものだ。幽霊が出てもなぜかみんながすんなり受け入れるようなおかし味は、アルモドバル映画の特徴でもある。悲しみの中に笑いが含まれ、上品さと下品さが仲良く同居。劇中で殺人も起こるが、悲壮感や罪深さは全くない。むしろ、冷凍庫に夫の死体を隠す手際の良さと、死体を隠したままレストランを買取りテキパキと営業してしまうライムンダの生活力の高さが目を引いた。ごちゃまぜのまま物事を受け入れて面倒を見てしまうこの感覚が、ラテンの懐の深さに思える。こんな国でなら、幽霊とだって仲直りできそうだ。

母、娘、孫。3世代の中心にいるライムンダは、母であると同時に娘である。だからこそ、ままならない人生も、たくましく生き抜き、喜びを見い出す術(すべ)を知っている。ライムンダの秘密と、もっと衝撃的な母の秘密は、極めて悲劇的なものだが、それすらも大きな生命力で収束してしまうのがアルモドバル流の人生賛歌だ。黒い瞳に気の強さをにじませながら、時折さびしげな表情を見せるペネロペ・クルスが絶品。ラ・マンチャ地方のたくましい女になるため、細身の彼女は“つけ尻”をして熱演している。劇中にライムンダが情感込めて歌う、タンゴの名曲「ボルベール」が、いつまでも心に残った。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)母は強し度:★★★★☆

□2006年 スペイン映画 スペイン語原題「VOLVER」
□監督:ペドロ・アルモドバル
□出演:ペネロペ・クルス、カルメン・マウラ、ロラ・ドゥエニャス、他

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コレリ大尉のマンドリン

コレリ大尉のマンドリン [DVD]コレリ大尉のマンドリン [DVD]
◆プチレビュー◆
陽気な男性と聡明な女性の恋はマンドリンの調べが味方。ちょっと楽天的すぎるか?

第2次世界大戦のさなかの1941年、ギリシャ。イタリア軍とドイツ軍の両方の占領下にある美しいケファロニア島に、音楽をこよなく愛するイタリア軍大尉アントニオ・コレリがやってくる。ギリシャ語の通訳もこなし、紳士的で陽気なコレリ。やがて、情熱的な島の娘ペラギアと恋に落ちる。しかし、戦況は急変、イタリア軍の撤退でドイツ軍との同盟も不確かなものに。時代の荒波の中で、本来は敵味方であるはずの2人の愛は、決断を迫られ、戦争の嵐は、国境を越えた愛と友情を引き裂き、彼らの人生を狂わせていく…。

音楽をこよなく愛し、マンドリンを背中にしょって島にやってくるコレリ大尉の陽気でのどかな占領軍は、島の人々に憎しみなどみじんも感じていない。ノーテンキな占領軍に、島民も毒気を抜かれ、敵味方であることをしばし忘れてしまうほど。無秩序なイタリア軍兵士をうっすらと軽蔑するドイツ軍将校との間にも友情が芽生え、あたかもひとときのバカンスのようだ。さらに、ペラギアを愛する想いが、コレリの音楽家としての才能をも開花させていく。

この映画で描くのは、ギリシャの孤島という閉鎖的な舞台で、ドイツ軍が、昨日までの同盟国のイタリア軍を惨殺したという、あまり知られていない史実。占領軍のイタリア人と敵のギリシャ人の間に、ほのかな友情が芽生える一方で、同盟国同士が目先の利害を巡って、殺しあう。この残酷で愚かしい場面には、人と人とが争う戦争には、実に様々な側面があるのだと考えさせられた。

人物描写も丁寧で何気なく描かれていて好感が持てる。島の医師であるペラギアの父は、娘が本当に愛するのは島の青年マンドラスではなく、敵であるイタリア人アントニオ・コレリであることを知り、密かに二人の恋を応援する。この父親医師が鋭いのは、まだ、コレリが現れる前から、娘とマンドラスの仲がうまくいかない事を見抜いているところだ。このことを感じているのはマンドラスの母親も同じ。ペラギアに好意は抱いているが、彼女がいずれ別の男に惹かれることを知っている。この母親役を演じるのがギリシャを代表する大女優イレーネ・パパス。久しぶりに見たが、存在感のある演技は健在だ。

戦争という人災にも、戦後、ケファロニア島を襲った大地震という天災にも、希望を失わず、強く前向きに生きる島の人々。どんな悲劇に見舞われようとも、明日も変わらず、海は美しく太陽はまばゆい。イタリアやギリシャのような長く尊い文化を持つ国民は、歴史のうねりの中で抗うことと身を任せることの両方の大切さを、先祖代々身につけている。だからこそ、ラストの幸せも静かにやってくるのだろうか。

□2001年 アメリカ映画 原題「CAPTAIN CORELLI'S MANDOLIN」
□監督:ジョン・マッデン
□出演:ニコラス・ケイジ、ペネロペ・クルス、クリスチャン・ベール、他

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ブロウ

ブロウ [DVD]ブロウ [DVD]
◆プチレビュー◆
70年代のカルチャーが満載。デップとペネロペとは、意外な組み合わせだ。

1970年代に麻薬売買でアメリカ裏社会に君臨した実在の男ジョージ・ユング。貧乏を嫌い、友人とカリフォルニアに移り住む。恋人バーバラの紹介で麻薬の小売業を始めた彼は、すぐに商売の才覚を発揮し、みるみる麻薬市場を牛耳るようになる。何度も逮捕されながらも、裏社会で上り詰めていくジョージ。しかし、その彼も、最初に愛した女性を癌で失い、仲間の裏切りや、両親との亀裂に悩む。運命的に結ばれた妻マーサや子供のため、必死で守ろうとした家庭も崩壊、ついには失墜していく…。

麻薬というダークな題材を通してはいるが、これはれっきとしたホームドラマだ。それもとびきり悲しい家庭劇。実在する伝説の麻薬王を描くというから、社会性や緊張感、メッセージ性やサスペンス風の物語を期待して観るとハズレる。この作品で描かれるジョージ・ユングは、70〜80年代の麻薬のほとんどが、彼を通して流れたと伝えられるのが嘘のような、ごく普通の人物。とりあえず、自分が扱う商品であるコカインのテイスティングはするものの、麻薬に溺れてボロボロになるわけではない。彼にとって麻薬は単なる商売品なのだ。

ほんの小遣い稼ぎのつもりでやり始めた麻薬売買が、70年代というドラッグ文化全盛の時代とぶつかり、大当たりしたおかげで大金を手にするジョージ。特に、映画の前半はノリのいいテンポで彼の栄光が描かれる。頂点まで上り詰めて、金や名誉や、愛までも手に入れた彼自身の本当の願いは、幼年時代の自分とは縁遠かった、温かい家庭を築くこと。彼に冷たい母親とは異なり、父親との愛情の絆は深く、それだけにやるせない。あんな家庭だけはイヤだと、なんとかがんばるジョージだが、うまくいかず、妻マーサとの溝は深まるばかり。愛する娘とも引き裂かれる。麻薬という間違った商売道具を選んだことが、誤りだと解っていても、もはやどうすることもできない男の苦悩とあきらめがじんわりと伝わってくる。

物語半ばでゴージャスに現れるジョージの愛妻マーサ。他人の婚約者だった彼女を奪って結婚したジョージとの、ややSMチックな夫婦生活が、おまけのようにチラッと登場するが、マーサとジョージの、人間としての絆の描き方が少し弱いのが残念。むしろ、女性キャラとしては、癌で失ってしまった、最初に愛した女性バーバラの影が残る。

40代にして懲役60年というから、ほとんど終身刑に近い刑を宣告されるジョージ。刑務所の中でむなしい日々を送る彼が、幻を見るラストシーンが素晴らしい。ハッピーエンドかと思って見ていたふやけた頭に、ガツンと一発くらうので要注意。おまけに最後には、実在のジョージの顔が登場して、悲壮感は倍増。ラストのテロップが、麻薬王ジョージ・ユングその人の人生を如実に物語る。

□2001年 アメリカ映画 原題「BLOW」
□監督:テッド・デミ
□出演:ジョニー・デップ、ペネロペ・クルス、レイ・リオッタ、他

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◆映画ライター、映画評論家
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新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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