映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
毎日のレビューは分かりやすく簡潔な寸評で、週1本の長文映画レビューでは作品をディープに掘り下げます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる公開作品 ◎
「ファミリー・ツリー」「ダーク・シャドウ」「サニー」

マット・デイモン

コンテイジョン

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新種のウィルスの恐怖を豪華キャストで描く群像ドラマ「コンテイジョン」。素っ気なく地味な演出が、逆に、ひたひたと迫り来る恐怖を感じさせる。

ミッチの妻のベスは、香港出張からアメリカに帰国した直後、原因不明の疾病で急死する。同じ頃、香港、ロンドン、東京でも人々が謎の死を遂げる。接触感染により、数日で命を落とすという非常に強い新種のウィルスが発生していたのだ。アメリカ疾病予防センター(CDC)と世界保健機構(WHO)はワクチンの開発を急ぐが、フリーランスのジャーナリスト・アランがブログ上で発信した不確かな情報により、人々はパニック状態に陥ってしまう…。

地球規模で広がるウィルス感染の恐怖は、現実にも、エボラ出血熱やサーズなどがあり、決して絵空事ではない。この映画で描かれるのは、そんなパンデミックが起こったときの、さまざまな立場の人間がみせる非常事態への接し方と、人間の脆さ、そしてわずかに残る誠意だ。マット・デイモンやマリオン・コティヤール、ケイト・ウィンスレットなど、国際的な豪華スターが競演するが、映画は華やかさとは無縁。むしろ、淡々と進む不気味な演出に、スターが出演していることを忘れてしまいそうになる。何しろ、映画冒頭で、オスカー女優のグウィネス・パルトロウがあっさりと死ぬ。しかも原因を探るため、病院で頭部を開いて脳を見せるというショッキングなシーンまであって、これから起こるただ事ではない事態を予感させる。とはいえ、グロテスクな感染の描写は少なく、むしろパンデミックにおびえる人々の心理を描くのに時間を割く。本物のウィルスも恐ろしいが、情報という名の“ウィルス”の感染力の激しさも同じくらい怖いのだ。最後に明かされるウィルス発信源の謎と、映画冒頭のベスのシークエンスがつながる時、冷ややかな戦慄が走る。派手さはないが、ドライな演出にリアリティを込めた、ソダーバーグらしいパニック・スリラーだ。
【60点】
(原題「CONTAGION」)
(アメリカ/スティーヴン・ソダーバーグ監督/マリオン・コティヤール、マット・デイモン、ローレンス・フィッシュバーン、他)
(リアリティ度:★★★★☆)
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インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実

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知れば知るほど腹が立つリーマン・ショックのからくり。教育の場まで悪に染まっていようとは驚きだ。アメリカの経済問題は世界中に影響するだけに無関心ではいられない

2008年のリーマン・ブラザーズ社破綻、いわゆるリーマン・ショックは、なぜ世界的経済危機を引き起こしたのか。1930年代より米国には金融業界に規制があったのだが、80年代のレーガン政権が規制緩和を行う。投資や利益の追求が加速した上に、企業の役員や顧問が政界入りし、法改正を行った。そんな中、ついに住宅バブルが崩壊、多くの人々が職と家を失うことに。映画はこの一連の流れを年代を追って説明し、国家規模の“ネズミ講”が生まれた背景を、金融業界関係者や政治家、ジャーナリストらへの取材を基に検証していく。

経済問題はもともと難解で、映画に山ほど登場する経済用語はとても難しい。桁違いのカネが動くさまは想像するのも困難だ。だが、米国の金融界、政界、経済学界がグルになって米国の政治を操り、一握りの富裕層だけがおいしい思いをした上に、何の罪にも問われていないことだけは分かる。規制緩和が発端になって、金融工学というワケが分からない“学問”のもと、多くの金融派生商品が開発され、詐欺まがいの取引が横行したのだ。犠牲になったのはコツコツと働いてきた庶民である。映画は、FRB議長、政府高官、著名エコノミストたちにインタビューを試みるが、多くが取材拒否。このことがかえって彼らの存在をどす黒く印象付けた。アメリカだけでなく、アイスランドやフランス、中国にまで取材をしたこの力作は、同じ題材を扱ったマイケル・ムーアの「キャピタリズム」と多くの部分が共通するが、よりショッキングなのは、企業だけでなく、大学という教育の場にまで悪事が蔓延していたことを暴いているから。経済学の“御用教授”がまるでアルバイト感覚で、企業の手先になっているのだから、もう何を信じていいのか分からない。何よりも、危機を招いた張本人たちがまったく悪びれずに、いまだに大金を手にしている姿には心底怒りがこみ上げる。。ナレーションを務めるのはマット・デイモン。第83回アカデミー賞でドキュメンタリー長編賞を受賞した作品だ。
【70点】
(原題「INSIDE JOB」)
(アメリカ/チャールズ・ファーガソン監督/ナレーション:マット・デイモン)
(憤り度:★★★★★)
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インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実@ぴあ映画生活

アジャストメント

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運命に抗う男女の物語は、SFアクション大作として見ると肩透かしをクラう。むしろラブ・ストーリーとして楽しみたい。

若き政治家のデヴィッドは、ある日、エリースという美しいバレリーナと出会いひと目惚れする。だが次の瞬間に、彼は見知らぬ男たちに拉致されてしまう。“アジャストメント・ビューロー(運命操作局)”と呼ばれる男たちは、本来エリースとは恋に落ちる予定ではなく、二度と会えないのだと告げるのだった。2人を引き離し、“運命の書”に従わせることが目的と言われ、デヴィッドは混乱するのだが…。

原作はSF界の巨匠フィリップ・K・ディックの短編小説「調整班」だ。独創的な設定だが、映画を見てみるとスケールは非常に小さく、運命を操作するという超人的な力を持つ“アジャストメント・ビューロー”も、どこか小役人風でさえある。異次元へのキーアイテムが帽子だったり、日常のドアが非日常に続いていたりと、小技が効いているところはいかにもディック風なのだが、物語は「ボーン」シリーズのようなキレのいいアクションとはほど遠いものだ。誰からも支配されない自分自身の“運命”を取り戻す目的も、世界や人類を救うのではなく、あくまでも愛のため。このこじんまりとした物語は、紛れもなく恋愛映画だ。武器は“誰かを強く愛するその思い”なのだから、何ともロマンティックな話ではないか。おかげで映画の焦点は少々ボヤケたが、単身で巨大な力に挑む姿はマット・デイモンの十八番でもある。携帯がいきなり圏外になったり、タッチの差でバスに乗り遅れたり、肝心な時に転んだり。これらがすべて運命操作局のせいだと言われれば不運を嘆く気も失せるが、映画は最終的に、あきらめずに闘えば道は開けるというまっとうなメッセージへと辿り着く。意外なほど健全で前向きな作品なのだ。
【60点】
(原題「THE ADJUSTMENT BUREAU」)
(アメリカ/ジョージ・ノルフィ監督/マット・デイモン、エミリー・ブラント、アンソニー・マッキー、他)
(アクション度:★★☆☆☆)
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アジャストメント@ぴあ映画生活

トゥルー・グリット

トゥルー・グリット ブルーレイ&DVDセット [Blu-ray]トゥルー・グリット ブルーレイ&DVDセット [Blu-ray]
少女の強い信念と壮絶な旅路に心を揺さぶられる異色西部劇。大型新人ヘイリー・スタインフェルドが圧倒的に素晴らしい。

雇い人のチェイニーに父親を殺された14歳のマティは、復讐を決意し、連邦保安官コグバーンを雇う。お尋ね者のネッドの一味となり逃亡したチェイニーを探し、法の裁きを加えるためだ。腕はいいが酔いどれのコグバーンは最初はマティをはねつけるが、過酷な旅に自分も同行すると言いはるマティに根負けし、彼女と共に行動することに。テキサス・レンジャーのラビーフも加わり、3人の危険な追跡劇が始まった…。

ジョン・ウェインに悲願のオスカーをもたらした名作西部劇「勇気ある追跡」をコーエン兄弟がリメイクするのは意外な気もするのだが、のっぴきならない状況下で“真の勇気(トゥルー・グリット)”とは何かを問う内容は、コーエン兄弟の過去の作品と共通する部分も大きい。一方で、星が瞬く夜空の広がりや雪が降りしきる森の描写など、西部の荒野をゆく3人を見守るような偉大な自然の力を感じさせるあたり、製作総指揮のスティーヴン・スピルバークのカラーも感じる。大酒飲みの保安官役のジェフ・ブリッジス、途中で負傷するラビーフ役のマット・デイモン、父の敵チェイニー役のジョシュ・ブローリンと、名優たちが集まる中、マティを演じるヘイリー・スタインフェルドの存在感は群を抜く。幼い弟やか弱い母に敵討ちはできない。自分がやるしかない。マティは14歳にして、強靭な精神力と、知的で抜け目ない交渉術を身に付けている。大人顔負けのこの少女は、父と二人でどれほど一家を支えてきたのだろう。おそらく彼女には泣いているヒマなどなかったに違いない。絶対にあきらめないマティの信念が、屈強な男たちをついに動かすプロセスが感動的で、やがて迎える敵との対峙を盛り上げる。決して華やかな作品ではない。だが、神話的ともいえる旅を繰り広げ、自らの手で正義をもぎとる少女マティの強い心が見るものの胸を打つ秀作だ。淡々とした後日談が泣かせるもので、本作が復讐劇やロードムービーであるだけでなく、奇妙な友情の物語だったことが分かる。
【80点】
(原題「TRUE GRIT」)
(アメリカ/イーサン・コーエン、ジョエル・コーエン監督/ジェフ・ブリッジス、マット・デイモン、ジョシュ・ブローリン、他)
(精神力度:★★★★☆)


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トゥルー・グリット@ぴあ映画生活

映画レビュー「ヒア アフター」

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◆プチレビュー◆
死と隣接した3人の男女が巡り会う物語「ヒア アフター」。これまでのイーストウッド作品とは少し違う手触りだ。 【65点】

 仏人ジャーナリストのマリー、霊能力がある米国人ジョージ、双子の兄を亡くした少年マーカス。臨死体験をしたマリーが書きあげた本が発売され、3人は何かに導かれるようにマーカスの住むロンドンで巡り会う。死に直面した彼らが見い出す答えとは…。

 死を深くみつめることで生の意味を知る。本作のテーマを端的に表すと、こういう言葉になるが、それは決して簡単なことではない。死後の世界や、死者との交流というスーパーナチュラルな物語を、常に現実をみつめてきたイーストウッドが監督するのは少し意外で、むしろ製作総指揮のスティーブン・スピルバーグの好みに近いように思う。だがイーストウッドには、信仰や宗教を隠し味にした「ペイルライダー」のような作品もあることを考えると、スピリチュアルな題材に対する興味はこの人の意識の根底にあったのかもしれない。

 運命的に巡り会う、国籍も性別も年齢も異なる3人は、皆、死によって影響を受けているが、死との“出会い”はそれぞれ異なる。マリーは東南アジアで津波に巻き込まれ、臨死体験をする。触れたのは自分の死だ。彼女は、それ以来、現実と上手く向き合えなくなってしまう。一方、死者と交信ができるジョージが自分の能力を持て余すのは、他人の死にまつわる情報に苛まされるため。「この能力はギフト(贈りもの)なんかじゃない。カースト(呪い)なんだ」。ようやく心が通い始めた愛する女性メラニーも、その力のためにジョージから離れてしまい、彼の孤独はますます深まった。この哀しいエピソードは、ジョージの能力の功罪を象徴していて、とても印象に残る。

 痛ましいのはマーカスだ。強い絆で結ばれていた双子の兄を突然失い、母とも引き離され、深い喪失感を感じている幼い少年は、もう一度兄に会いたいと願っていて、子供らしいまっすぐな思いで霊能力者を訪ね歩く。マリーやジョージのエピソードより、マーカスのそれがより切実なのは、彼が経験したのが、自分にとって大切な人に訪れた死だからだ。近年のイーストウッド作品では、愛する人を失う悲しみがしばしば描かれ、そのことがストーリーを激しくうねらせるのだが、本作ではイーストウッドの、登場人物たちを救済したいとの思いが、より強く感じられた。だからこそ、映画は、死を描きながら生を肯定するストーリーへと昇華していくのである。

 人間は死んだあとはどうなるのだろう? 誰もが一度は頭をよぎる疑問だ。イーストウッドは、ディザスター映画さながらの巨大津波をCGによってスクリーンに叩きつけて観客の意表を突いた後に、水中に、死後の世界の輪郭をぼんやり浮かび上がらせた。その不思議なビジョンはまるで夢のように静かに存在している。穏やかな死の世界と登場人物たちが、イーストウッド作品特有の渋い色彩や、そっと寄り添うように流れる音楽と溶け合う様は、コーヒーにじんわりとミルクが溶け込んでいく様子にも似て、ごく自然だ。生と死を明確に分離するのではなく、私たちの周辺に当然あるものとしての死を、肯定的に受け入れる。そのことをスピリチュアルな体験を通して描くスタイルは、リアルな人間ドラマを得意とするイーストウッドの新しい挑戦なのだ。1930年生まれの老巨匠は、映画に対して果敢なチャレンジ精神を決して忘れない。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)スビリチュアル度:★★★★☆

□2010年 アメリカ映画 原題「HEREAFTER」
□監督:クリント・イーストウッド
□出演:マット・デイモン、セシル・ドゥ・フランス、ブライス・ダラス・ハワード、他


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映画レビュー「グリーン・ゾーン」

グリーン・ゾーン 【ブルーレイ&DVDセット・2枚組】 [Blu-ray]グリーン・ゾーン 【ブルーレイ&DVDセット・2枚組】 [Blu-ray]
◆プチレビュー◆
大量破壊兵器にまつわる陰謀を暴く戦争アクション。政治的な題材だがエンタメ映画として楽しめる。 【70点】

 2003年のイラク。米軍のロイ・ミラー上級准尉と彼の部隊は、大量破壊兵器の所在を追う極秘任務に就く。危険な捜索が続くがなぜか兵器は発見できない。国防総省の動きと情報を不審に思ったミラーは、独自に調査を始めるのだが…。

 グリーン・ゾーンとはイラクに駐留する米軍のための安全地帯。バグダッド中心部の一等地で、そこにはイラク政府再建のための連合国暫定当局がある他、ショッピング・モールやフィットネス・クラブなども完備している。イラク人の目には、旧フセイン政権の宮殿と同じ権力の中枢であり、米国に反発する反体制の人々には、占領の象徴でしかない。映画は、大量破壊兵器の所在に振り回されるミラーを案内役に、バグダッドの危険区域を駆け抜けていく。

 米国が、ありもしない大量破壊兵器を探すため軍を駐留させたイラク戦争の顛末は、今や誰もが知っている。それはブッシュ政権がプロデュースした一大茶番劇だ。現実問題として、米国のガセネタで世界中が踊るなど笑えない冗談のようで、怒りがわいてくるが、映画は、アクションという手法で過去を再現し、権力に抗う主人公の勇気をヒロイックに描いて楽しませる。真相に迫るミラーを執拗に妨害するのは、敵であるイラクのテロリストではなく米国国防省だった。グリーン・ゾーンのプールサイドは安全で快適だが、そこは戦争という一大イベントの損得を決める賭博場のよう。サイコロを振るのは、国防省かCIAか軍部か。謎の情報源“マゼラン”の影には衝撃の事実が隠れている。

 グリーングラス監督の上手いところは、政治的にしようと思えばいくらでもできる素材を、あえてアクション活劇のように作り上げ、より多くの観客をターゲットにしたことだ。国家の欺瞞に対し、ノーと言う人間がいたとする物語は、一般の観客にアメリカ人に残る善意を強くアピールする。さらに、祖国の将来を憂うイラク人青年フレディの存在が、クライマックスに大きな意味をなし、世界はそう単純には操れないと教えてくれるのだ。

 エンタテインメント・アクションにふさわしく、虚実とりまぜた物語をスタイリッシュな映像で活写、主役にはスターを配置する気配りで、バランス感覚も冴えている。“ジェイソン・ボーン”シリーズでも魅力的だった高速カット割と、ハンディカメラの臨場感がスピーディーで、見るものに息つく暇も与えない。砂埃が舞う広場や、街灯さえない裏道を主人公が走り抜ければ、観客も同じ疾走感を味わえる。マット・デイモンが、精悍な表情でミラーを演じているが、彼が持つどこか知的な雰囲気が、ただ命令を鵜呑みにするだけでなく、自らの信念に従う主人公のパーソナリティーに合致し、適役である。

 権力の腐敗という題材は、もはや手垢がついたもの。だが、ありもしない武器を探すというニセモノが、はからずも米国の欺瞞というホンモノを露呈してしまった醜態の意味は、悪巧みにも限度があるということだろう。最後にミラーが取る行動には、少なからず胸がすく思いだ。本作は、今後も起こりそうなこのテの戦争の警戒シグナルになりそうな予感がする。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)スリリング度:★★★★☆

□2010年 アメリカ映画 原題「GREEN ZONE」
□監督:ポール・グリーングラス
□出演:マット・デイモン、グレッグ・キニア、ブレンダン・グリーソン、他

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インビクタス/負けざる者たち

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偉人マンデラの理想と希望を、ラグビーとのつながりを通して描く実話だ。1994年、27年間の投獄生活から解放されたネルソン・マンデラは、南アフリカ共和国初の黒人大統領になる。アパルトヘイトにより黒人と白人の間にできた大きな溝、激しい経済格差、国際社会でのアピールなど、さまざまな課題を抱えたマンデラは、南アの白人社会の象徴であるラグビーチームの建て直しを図り、1995年の自国開催のラグビーW杯での優勝を目指すと宣言する。

マンデラがスポーツを国家再建の鍵とみなしたことは、長期間、監獄にいながら世の中の情報や人心を把握する指導者としての優れた資質を失わなかったという事実を示している。国をひとつにまとめるという大事業はどんな国でも困難だが、人種差別により憎しみが横行する南アではなおさらのこと。マンデラは、険しい道の第一歩は、虐げられていた黒人が白人に対して赦しを提示することと主張した。この人には、寛容はむろんのこと、白人の誇りを尊重した人心掌握の読みの深さがある。さらにスポーツイベントが国際社会に及ぼす影響をも見越した政治的センスも。その一方で、誰よりも精力的に激務をこなしながら、家庭では問題を抱えて悩む姿も描き、画一的なキャラクターにしていないところが、イーストウッドらしい。

マンデラ大統領をモーガン・フリーマン、ラグビー・チームのキャプテンでマンデラの人柄に魅了されていくピナールをマット・デイモンが演じて、磐石のキャスティングだ。だが、「チェンジリング」「グラン・トリノ」と、近年、心をわしづかみにする傑作を連打している巨匠イーストウッドの作品としては、ソツのない作りではあるが平凡な出来。実話なので、大会で起こる奇跡の躍進劇にも驚きは薄い。それでも、ついに始まったW杯では、肉弾戦でぶつかる選手の声や真下からのカメラワークなど、ラグビーというスポーツの激しく美しい側面をスクリーンにとらえ、感動的なドラマに迫力を添えて仕上げている。何より、黒人も白人も一体になり、スタジアムから国全体に広がる高揚感で満たされるクライマックスには、ストレートな感動を覚えた。
【65点】
(原題「INVICTUS」)
(アメリカ/クリント・イーストウッド監督/マット・デイモン、モーガン・フリーマン、他)
(融和度:★★★★☆)

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インフォーマント!

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あれ、フィリップ・シーモア・ホフマン?と思ったら、役作りのために10キロ以上増量したマット・デイモンと分かってびっくり。だがデイモンの“オヤジ化”以上に、主人公のハチャメチャ度はショッキングだった。1992年、イリノイ州。マーク・ウィテカーは、33歳にして大手穀物商社で申し分のない年俸で重役をまかされる、将来を嘱望された優秀な社員である。だがそんな彼が、自社を、国際カルテルを結んでいるといきなり内部告発した。それを受けたFBIは捜査を開始するが、ウィテカーの供述は二転三転。彼の舌一枚で、捜査は大混乱に陥っていく。

正義のため内部告発を断行した英雄かと思ったら、一転して自分も不正にかかわる容疑者に。FBIや会社の重役たちを翻弄しながら、当の本人はまったく悪気がない。全編に流れるとぼけたリズムの音楽が雄弁に語るように、この男、タチが悪いのに憎めないキャラなのだ。それは映画の中の作りごとだから…と思いたいところだが、企業内部告発者(インフォーマント)による、奇々怪々の物語は、実話をもとにしているだけに、笑うに笑えない。内部告発をすることで自分を英雄化し、スパイよろしく盗聴器や隠しマイクを付けるかと思えば、その裏側でリベートを受け取る不正行為を繰り返すこの主人公、もしや多重人格者で病気なのかと疑いたくなる。だが、彼自身はケロリとしたもので、虚実が混在した話を次々に供述するうちに、周囲の方がノイローゼ気味になってしまう有様だ。デイモンが本来持つ、世間知らずでおっとり型の秀才というイメージが、この主人公にぴったりフィットして、ナイス・キャスティングである。

企業の不正というシリアスな問題を内包しながら、マンガのようなドタバタ劇が同時進行する不思議。これが大国アメリカの、理解不能なまでにポジティブな底力だろうか。アンチ・ヒーローによって、企業犯罪に関する法律は強化されたというから、とりあえず存在意義はあったわけだ。ブラックな笑いに満ちたトンデモナイこの実話、個人的には、史上稀にみるチクリ屋の人生を、もっとデフォルメして笑い倒してほしかったとの不満はある。だが、社会問題を扱って鋭さを発揮するソダーバーグのダークコメディは、苦笑を誘うくらいがちょうどいいのだ。
【65点】
(原題「THE INFORMANT」)
(アメリカ/スティーヴン・ソダーバーグ監督/マット・デイモン、スコット・バグラ、ジョエル・マクヘイル、他)
(ブラック度:★★★★☆)

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映画レビュー「ボーン・アルティメイタム」

ボーン・アルティメイタム 【VALUE PRICE 1800円】 [DVD]ボーン・アルティメイタム 【VALUE PRICE 1800円】 [DVD]
◆プチレビュー◆
まれに見る出来の良さで3部作をしめくくる人気アクション・シリーズ完結編。気合の入った映像は興奮もの。 【85点】

 記憶を失くし、愛する人を奪われた、最強の暗殺者ジェイソン・ボーンは、自分を亡き者にしようとしている組織に立ち向かうことを決意する。自らのルーツと陰謀の真相を知るために、彼が最後にたどり着いた場所はNYだった…。

 映画史上屈指のスパイ・アクション映画がついに完結してしまうかと思うと、感無量だ。最初は、マット・デイモンにアクション映画なんて務まるのか?との危惧があったことなど、今や笑い話。精悍に鍛えた肉体で、知的でクールな主人公を演じるデイモンには、女性ファンばかりでなく男性さえも見惚れるだろう。この俳優、お世辞にも美形とは言い難いのに、どういう訳か絶大な人気がある。ガキッぽい顔でも頭脳は明晰、写真ではヘンな顔なのに動き出した途端に魅力を発する。アンバランスな危うさがウケるのでは…と密かに分析しているのだが、やはり真面目な役作りから引き出すリアルな演技が評価されての人気だろうか。ともあれ、ヤワな好青年を闘う男のイメージに変えた人気アクション・シリーズは、主人公がCIAの暗殺者、その上、殺人兵器として利用されていたことが判明し、いよいよ核心に迫ってきた。最終章、ボーンは、自分を執拗に狙う組織と対峙しようと心に決める。鍵を握るのは、恐ろしいCIA極秘プロジェクトだ。全ての記憶を取り戻した時、ボーンは組織に最後通告(アルティメイタム)を叩きつける。それは愛さえも諦めた悲壮な決意だ。

 シリーズの醍醐味である大掛かりな追跡劇は今回も健在である。モスクワ、ロンドン、マドリッドと、観客を次々に世界の大都市へと連れて行く。中でも一番の見所はモロッコのタンジールだ。ここで組織が差し向けた殺し屋と壮絶なチェイスが繰り広げられるが、狭く入り組んだ路地、特徴ある建物など、エキゾチックな景観を最大限に活かしつつ、細かいカット割で激しいアクションシーンを連打する。画面から溢れる気合たるやハンパじゃなく、まばたきする時間さえ惜しい。屋根から屋根へ飛び移り、遂にはガラス窓を破って直接向かいのビルへ飛び込むボーン。演じるデイモンはもちろん、それを追うカメラまでジャンプする躍動感に、興奮必須だ。無駄な動きは一つもなく、全て次の行動へと続く意味がある。ドキュメンタリータッチを得意とし、手持ちカメラを駆使するグリーングラス監督の映像作りの腕は一級品だ。

 ただ、忘れてほしくないのは、この映画の魅力が上質のアクションだけではないということ。観客を何よりも惹きつけるのは、ジェイソン・ボーンの人間的な魅力だ。彼は現実離れした武器など持たず、常に身近なものや情報を利用しながら、頭脳で難局をかいくぐる。一方で、記憶は失くしても全て身体が覚えている超人的な能力に、自分がやってきた罪の深さを感じてもいる。そのため、敵の正体と真意が見えない戦いの中で、無益な殺しは極力避ける。ボーンの本質は善であり、争いごとなど望んでいないのだ。そんな彼の自分探しの旅の果てにある真実が痛ましいが、彼はそれから決して逃げたりしない。強い意志と悲しみを秘めて闘う男。この姿が私たちの胸にグッとくる。主人公を熱演するマット・デイモンはもちろん、脇を固める俳優たちも渋い実力派で磐石だ。高いエンタテインメント性と、人間ドラマとしての深みを3作を通して維持した、アクション映画の傑作だと確信する。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)スピード感度:★★★★★

□2007年 アメリカ映画 原題「THE BOURNE ULTIMATUM」
□監督:ポール・グリーングラス
□出演:マット・デイモン、ジュリア・スタイルズ、ジョアン・アレン、他

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グッド・シェパード

グッド・シェパード [DVD]グッド・シェパード [DVD]
重厚な演出とギリシャ悲劇のような展開は、「ゴッド・ファーザー」を連想させる。CIA誕生秘話と、組織と家庭の間で苦悩する男の物語だ。非情な世界で人生を狂わせるエリートをマット・デイモンが静かに熱演するが、老け役には少々無理があったか。スパイ活動の先輩英国の役割が興味深い。中盤ややダレるが、冷戦下の国家間の争いから、米国の未来に疑問を投げかける作品の熱意を評価したい。
【75点】
(原題「THE GOOD SHEPHERD」)
(アメリカ/ロバート・デ・ニーロ監督/マット・デイモン、アンジェリーナ・ジョリー、アレック・ボールドウィン、他)
(中だるみ度:★★★☆☆)

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プロフィール
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◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
◆こんなお仕事やってます:
新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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