映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる映画 ◎
「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」「ユダヤ人を救った動物園」etc.

ミシェル・ウィリアムズ

マンチェスター・バイ・ザ・シー

マンチェスター・バイ・ザ・シー
ボストン郊外で便利屋をしているリーは、兄ジョーの突然の死をきっかけに、故郷の町マンチェスター・バイ・ザ・シーに戻る。すぐに立ち去る予定だったが、兄が遺言で、16歳の甥パトリックの後見人としてリーを指名したと知って驚く。養育費も準備され、家のローンも返済済だったが、条件はリーがこの町に引っ越してくることだった。弁護士に返事を保留したリーは、やむを得ずしばらく町に滞在することに。リーは、かつて暮らしたこの町で起った悲劇的な過去に向き合うことになる…。

癒えることのない悲しみを抱えた主人公が過去に向き合うヒューマン・ドラマ「マンチェスター・バイ・ザ・シー」。タイトルは主人公リーがかつて暮らした、そして二度と戻ることはないと思っていた故郷の町の名前だ。海辺のその町は、美しいがどこかもの哀しく、空や海にさす淡い光も寂しげである。リーはいったい、過去にどんなことがあったのか。故郷に居場所がなくなったのはなぜなのか。遠巻きにリーを見つめる周囲の人々の短い言葉やリーの回想によって少しずつ過去の出来事が明らかになるプロセスは、ミステリアスで引きこまれる。過去のパートが謎めいている一方で、叔父リーの過去をほとんど知らない現代っ子のパトリックと数日過ごすうちに、リーの頑なな心がほんの少し和らいでくる現在パートは、疑似親子のような関係性を予感させる。だが、監督ケネス・ロナーガンの脚本は、そんな安易な癒しや再生には傾かない。心が壊れ無感覚になってしまったリーは、凡百の慰めなど受け付けないほど、深い喪失感の中にいるのだ。リーに大きな変化や成長がないのが、この物語のリアリティであり最大の個性である。ボソボソと口ごもりながら話し、視線を落として猫背で歩くリーは、まるで自分で自分を罰しているかのように、影が薄い主人公だ。最小限のセリフと、表情や仕草だけでリーの絶望を演じ切ったケイシー・アフレックの抑えた演技が素晴らしい。出番は少ないが元妻を演じるミシェル・ウィリアムズもまた秀逸だ。かつて激しいやりとりがあったであろう夫婦のその時の姿をあえて描かない演出に、脚本の上手さがある。この町で生きるのはあまりにつらすぎる。だが、もう一度誰かのために生きるチャンスを与えられた。決して消えない心の痛みをそのまま抱えながら、それでもリーは、小さな1歩を踏み出そうとしている。青く凪いだ海に垂れる釣り糸の先には、きっと希望があると信じて。暗く重くるしい映画だが、じっくりと向き合ってその滋味を味わってほしい。
【85点】
(原題「MANCHESTER BY THE SEA」)
(アメリカ/ケネス・ロナーガン監督/ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ、カイル・チャンドラー、他)
(喪失感度:★★★★★)
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フランス組曲

フランス組曲 [DVD]
第2次世界大戦中の1940年6月、ドイツ占領下のフランスの田舎町。厳格な義母と暮らす美しい人妻リュシルは、戦地へ赴いた夫を待ちながら暮らしていた。ある日、町にナチス・ドイツ軍がやってきて、リュシルが住む屋敷に、ドイツ軍将校のブルーノが住むことになる。占領国の男と被占領国の女、さらに人妻という立場ながら、共に愛する音楽を通じて、リュシルとブルーノは次第に惹かれあっていく…。
アウシュヴィッツで亡くなった作家イレーヌ・ネミロフスキーの小説をもとにしたラブストーリー「フランス組曲」。仏女性と独軍将校との愛を軸にして、占領下のフランスに住む人々の日常がこまやかに描かれる。ナチス・ドイツに対する姿勢はそれぞれで、媚びへつらう者もいれば沈黙する者もいる。誰もが必死に生きのびようとした時代には、正義感にかられて抵抗運動(レジスタンス)をしないからといって責められない。そんな厳しい時代を背景にしてはいるが、本作は基本的にメロドラマだ。ただ、自分が住む町で義母のいいなりになって暮らすだけだったヒロインのリュシルが、許されない愛にとまどいながらも、やがて、広い世界を知ろうと変化していく様は、普遍的な成長のドラマになっている。原作となったネミロフスキーの小説は未完の遺稿だったが、実娘が出版したその小説はたちまちベストセラーになったそう。ホロコーストというこれ以上ない過酷な状況下で書きためたのが、繊細で抒情的なラブストーリーだったというのが、思いがけず新鮮だ。厳格で嫌味な義母の意外な側面や、敵側のドイツ軍兵士の感情も描くなど、複雑な人間ドラマとしても見応えがある。もろいようでいてしたたかに生きるヒロインを、ミシェル・ウィリアムズが好演。タイトルのフランス組曲とは、ブルーノがピアノで奏でる楽曲名のことで、その哀しく美しいメロディーが心に残る。
【65点】
(原題「SUITE FRANCAICE」)
(英・仏・ベルギー/ソウル・ディブ監督/ミシェル・ウィリアムズ、クリスティン・スコット・トーマス、マティアス・スーナールツ、他)
(抒情度:★★★★☆)
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テイク・ディス・ワルツ

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人妻の心の空白と孤独を静かな演出で描く「テイク・ディス・ワルツ」。ミシェル・ウィリアムズの虚ろな表情がすべてを物語る。

フリーライターのマーゴは、料理のレシピ本を作る夫ルーと幸福に暮らしている。結婚5年目を向かえ、恋愛時代のような刺激は薄れたものの、穏やかな愛に包まれる日々だ。そんなある日、マーゴは旅先でダニエルという情熱的な青年と出会い強く惹かれるが、彼が偶然にも家の向かいに住んでいると知り、動揺してしまう。結婚していることをダニエルに告げるが、意図せずにダニエルと過ごす時間が増え、夫ルーとは全く違うタイプの彼に惹かれる気持ちを抑えられなくなっていく…。

カナダ出身の女優サラ・ポーリーは監督第一作「アウェイ・フロム・ハー 君を想う」で、老夫婦間に生まれる緊張と寂寞を描いて、ただならぬ手腕をみせたが、本作でもまた、繊細で鋭い人間心理をすくい取っていて、このまだ若い女優は監督としても一流で、年齢とは不釣合いなほど老獪な演出力を持っていると確信した。物語は、平凡だが幸せな日々を送る人妻が、不倫に走るという一見他愛無いものだが、単なる浮気話とは一線を画している。ミシェル・ウィリアムズ演じるヒロインが、時折みせる虚ろな表情。これが本作のキモだ。幸福なはずなのに、何か満ち足りない。優しい夫に不満などないのに、憂鬱で孤独を感じる。そんな漠然とした思いを、ウィリアムズの茫然自失の顔つきと、昼下がりの午後のけだるい光のようなカメラワークが絶妙に物語る。穏やかな日々にひそむ空虚のブラックホールに堕ちたヒロインは、それに気付かないふりをする周囲の空気を感じつつも、ある結論に達する。ウィリアムズは脱ぎっぷりのいい女優で、本作でも惜しみなく裸体をさらして熱演するが、あどけない少女のような雰囲気と不思議な色香が同居するウィリアムズの存在そのものがエロティックだ。コメディが得意のセス・ローゲンやサラ・シルヴァーマンをシリアスな役で起用するなど、キャスティングも上手い。冒頭、お菓子を焼きながらふとその場にしゃがみこむマーゴ。その虚脱感は、ラストにも登場し、終わりなき欠落感は、凡百のホラー映画よりよほど戦慄を覚える。本能とモラル。そのどちらにも“永遠”などあり得ない。よくある浮気話にみえて、なかなかシビアで深い映画だ。
【65点】
(原題「TAKE THIS WALTZ」)
(カナダ/サラ・ポーリー監督/ミシェル・ウィリアムズ、セス・ローゲン、ルーク・カービー、他)
(空虚度:★★★★☆)
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マリリン 7日間の恋

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世紀の大スター、マリリン・モンローの秘めた恋を描く「マリリン 7日間の恋」。無理にマリリンに似せようとしないウィリアムズの演技がいい。

1956年、英国演劇界の名優ローレンス・オリヴィエと共演するために、ハリウッドからマリリン・モンローがやってくる。オリヴィエが監督と主演を務める映画「王子と踊り子」に出演するマリリンは大歓迎を受けるものの、異国での撮影によるプレッシャー、夫アーサー・ミラーとの確執、何よりオリヴィエが彼女の演技を受け入れないことで、孤立し、情緒不安定になる。そんな中、若き助監督のコリンに不安や孤独を打ち明けるうちに、二人は次第に親密になっていくのだが…。

オリヴィエの第3助監督を務めたコリン・クラークの回想録を元にしたこの物語は、はたしてどこまでが本当なのだろう。その7日間の恋は、恋というよりむしろ友情に近いものなのだが、それでも映画史上の神話ともいえるマリリン・モンローに秘密のロマンスがあったという物語はなんともロマンチックだ。シェークスピア俳優で伝統的な演技を重視するオリヴィエと、ハリウッド育ちのマリリンは、同じ大スターでもすべてにおいて正反対。直観的なセンスとメソッド演技にこだわるマリリンにオリヴィエはいらつくが、それは彼女が、演技する必要さえない、天性の才能の持ち主だと知っているからだ。そこにいるだけで映画が成立する唯一無二の存在マリリン。だが決して彼女は天真爛漫なだけの女優ではなかったとするのがこの映画の秀でたところだ。不安と孤独に苛まされ、マリリン自身が長い時間をかけて作り上げた“マリリン・モンローの虚像”に疲れきった、痛々しいセックス・シンボル。そんな壊れやすい大スターを演じるミシェル・ウィリアムズが秀逸だ。ダンスシーンや「王子と踊り子」の演技などでは、マリリンそっくりの動きをみせはするが、ウィリアムズはあえてマリリンの“そっくりさん”になろうとせず、むしろ少女のように傷つきやすい繊細な内面からアプローチし、結果的に素晴らしいマリリンになった。映画「王子と踊り子」の演技の裏話や、舞台版で同じ役を演じたオリヴィエの妻ヴィヴィアン・リーのわだかまりなど、この軽いコメディ映画の裏にこんなにもシリアスな思惑が渦巻いていたという事実が興味深い。
【70点】
(原題「My Week With Marilyn」)
(英・米/サイモン・カーティス監督/ミシェル・ウィリアムズ、ケネス・ブラナー、エマ・ワトソン、他)
(ナイーヴ度:★★★★☆)
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ブルーバレンタイン

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壊れかけた夫婦の、やるせない現在と幸福な過去の対比がリリカルで美しい。痛ましいストーリーなのに、不思議とみずみずしさが記憶に残る。

努力して看護師の資格を取り病院で忙しく働く妻シンディと、ビールを飲みながら壁にペンキを塗るような怠惰な仕事に甘んじている夫ディーンは、結婚7年目を迎えた夫婦。娘と3人で表面上は平穏に暮らしている二人は、互いに相手に対して不満を募せているが、そのことを話し合おうとすると決まって喧嘩になる。そんな時、不注意から愛犬を死なせてしまったことから、互いへの不満が表面化してしまう…。

描かれるのはわずか24時間の出来事だ。主人公たちの気持ちの変化を、過去の出来事をフラッシュバックで説明する手法はオーソドックスなものだが、美しい思い出が指の間からこぼれ落ちるようなはかない感覚は、独特の味わいがある。シンディは別の男との間にできた娘の父親になってくれたディーンに対して負い目がある。一方、ディーンは、仕事や収入に関して妻への引け目がある。二人とも娘を深く愛してはいるのだが、日々の暮らしの小さな不満と不安が、じわじわと上がる水位のように夫婦を侵食してしまい、気付いた時には身動きできなくなってしまっている。過去の出来事が、出会いから、ぎこちない愛の告白、希望に満ちた結婚と、手持ちカメラで生き生きと自由に撮られているのに対し、現在のパートは三脚で固定したカメラで息苦しいほどの緊迫感を持ってとらえられている。夢中で愛し合った過去と、生活に押しつぶされそうな現在、そしてある決断の末に何かが始まる未来へ。一組の男女の気持ちの移ろいを、残酷で美しい時間そのものを主人公にして物語る作品だ。
【65点】
(原題「BLUE VALENTINE」)
(アメリカ/デレク・シアンフランシス監督/ライアン・ゴズリング、ミシェル・ウィリアムズ、他)
(やるせなさ度:★★★★☆)
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ブローン・アパート

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社会派ドラマなのか、ミステリーなのか、ラブストーリーなのか。軸がはっきりしないので、せっかくの魅力的なキャストが生きてこない残念な作品だ。ロンドンに住む若い母親は、警察の爆弾処理班として働く夫と4歳になる息子と共に、平穏に暮らしていた。決して裕福ではく、夫の仕事は心配がつきものだが、それでも良き母、良き妻として過ごしていた彼女が、ふとしたことから知り合った新聞記者のジャスパーと関係を持ってしまう。ある日、ジャスパーとの情事の最中に、サッカー観戦に出かけた夫と坊やが爆破テロ事件に巻き込まれて命を落とすという悲劇が起こってしまう…。

テロの犠牲者の顔写真を巨大なバルーンにプリントして街の上空に浮かべるオブジェのような映像は、決して消えない悲劇の記憶を際立たせ、思わずハッとするセンスを感じる演出だ。だが、映画はテロの悲劇を浮き彫りにすることには明らかに失敗して焦点のボヤけた印象しか残さない。物語は、国際テロリストの大物であるオサマ・ビンラディンへの手紙という形で語られる。この語り口が、愛人との情事に溺れた若い母親の罪の意識とマッチせず、不自然なのだ。しかも、テロへの静かな抗議を描く社会派ドラマなのかと思っていたら、巨大サッカースタジアムでの爆破テロには、実は夫の上司も関わるある秘密があって…というサスペンス風な展開に。本当に愛していたのかどうかも分からないジャスパーとの関係もはっきりしないまま、ヒロインは街をさまよい、テロにつながる人物の家族に接触するがその目的も不明。これでは、見ている側はストーリーに集中できない。そもそも、主人公が欲望のままに新聞記者と関係を持つという設定が必要とも思えないのだ。ミシェル・ウィリアムズとユアン・マクレガーという実力派の共演なのに、これではあまりに惜しい。ヒロインには名前がなく、ただ“若い母親”というだけ。命を落とすことはなくてもテロに巻き込まれる可能性は、誰にでもあるということか。実際に地下鉄での爆破テロが起こったロンドンを舞台にしたことでリアリズムは感じられる。音楽は梅林茂が担当。遠い日に坊やと一緒に海で遊んだ幸せな記憶が繰り返し描かれ、浜辺を走る母子のかげろうのような姿が記憶に残った。
【40点】
(原題「Incendiary」)
(イギリス/シャロン・マグアイア監督/ミシェル・ウィリアムズ、ユアン・マクレガー、マシュー・マクファディン、他)
(共感度:★☆☆☆☆)


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映画レビュー「脳内ニューヨーク」

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◆プチレビュー◆
摩訶不思議系エンタテインメント。内容はひとりよがりだが、カウフマンの非凡な才能が垣間見える。 【65点】

 NYに住む人気劇作家ケイデンは、ある日突然、妻と娘が出て行き途方に暮れる。そんな時、名誉あるマッカーサー・フェロー賞受賞の知らせが。ケイデンは人生を立て直すため、賞金で壮大な芸術プロジェクトを開始する。

 この映画の原題は「SYNECDOCHE,NEW YORK」。SYNECDOCHE(シネクドキ)とは、提喩法という修辞技法の一種で、一部で全体を、全体で一部を表すことである。例で説明してみるとこんな感じだ。「花見」の花は通常、桜のこと。花という全体で桜という部分を表す。また「人はパンのみにて生きるにあらず」のパンは部分で、これは食事全体を指している。このように、全体と部分を使って、ある概念を表現する方法が、シネクドキだ。それがどうした?と言わないでほしい。本作を理解する上で、この言葉こそがランドマークとなる。

 ケイデンのプロジェクトとは、NYにある超巨大な倉庫の中に、自分の頭の中に思い描くNYを作り出すという前代未聞のもの。この舞台構想には、現実と芝居、妄想までもがごちゃまぜになり、物語は独創的かつワケのわからない方向へと転がっていく。何しろこの演劇は、主人公が真実を模索するあまり、未完成のまま17年もの歳月がたつのだから尋常ではない。

 そもそもケイデンにとっての真実とやらが、問題だ。現実世界では、再婚した妻クレアを愛するが、最初の妻アデルにも未練たっぷり。だが生涯をかけて愛した女性はヘイデルで…と、ややこしい。演劇世界では、そんなケイデンを舞台で演じるサミー(男性)やミリセント(女性)を演出しつつ、自分はいったい何者か?と悩み抜く。演出家がこの状態では、舞台の幕は開くはずもない。

 それでも何とかストーリーを理解しようと思えば出来ないことはない。語り口は突飛だが、映画で描かれる虚実ないまぜの物語はすべて、主人公が思い描いた、やり直したいと願う人生の芝居だという解釈が最も妥当だろう。

 監督のチャーリー・カウフマンは、過去に脚本家として「マルコヴィッチの穴」や「エターナル・サンシャイン」などで魅力的な世界を構築してきた才人だ。時空を超えた非凡な物語に魅了されたファンは多い。本作は、その彼が満を持して監督業に挑戦したもので、内と外が曖昧になる世界観がある種の到達点に至った作品と言える。さっぱりワケがわからないが、いつしか独特のイマジネーションに絡みとられる。思えばフェリーニの「8 1/2」や、勅使河原宏が監督した安部公房の作品群を見たときも同じ感覚を覚えたものだ。

 舞台という“部分”を作ることで、人生という“全体”を生きる。あるいはその逆も。主人公の脳内は、常にシネクドキ(提喩法)だ。私自身は、この映画は主人公の見た白昼夢で、壮大なNYを創ろうとしながら結局は自分自身の内面に向かうという解釈が一番しっくりくるのだが、カウフマン自身が夢の世界ではないと断言している。だが「夢で見た世界を素直に受け入れるように、この映画を受け入れてほしい」とも語っている。手強い映画ではあるが、夢のように…なら、楽しそうだ。シネクドキ風に考えれば、どんな突拍子もない内容や解釈も、それが映画全体を支える大切な部分になるかもしれないのだから。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)シュール度:★★★★★

□2008年 アメリカ映画 原題「SYNECDOCHE,NEW YORK」
□監督:チャーリー・カウフマン
□出演:フィリップ・シーモア・ホフマン、ミシェル・ウィリアムズ、サマンサ・モートン、他

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彼が二度愛したS

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好漢ヒュー・ジャックマンが悪役を演じるのは新鮮だが、内容は平凡な官能サスペンス。孤独な会計士ジョナサンは偶然知り合ったハンサムな弁護士ワイアットに導かれハイソな秘密クラブにのめり込むことになる。だが謎めいた美女Sを愛したことから運命が狂いはじめる。中盤から主人公がハメられたのが分かる展開だが、あまりに先が読めてサスペンスとしての魅力が薄い。だが、官能シーンはエロティックというよりスタイリッシュに描かれているので上品さがある。謎解きやどんでん返しの驚きは少ないが、意外にもセンスある邦題と、都会の孤独をすくい取ったムードは良かった。
【55点】
(原題「DECEPTION」)
(アメリカ/マーセル・ランジェネッガー監督/ヒュー・ジャックマン、ユアン・マクレガー、ミシェル・ウィリアムズ、他)
(エロティック度:★★★☆☆)

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◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
◆こんなお仕事やってます:
新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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