映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる映画 ◎
「ジャスティス・リーグ」「火花」「ギフテッド」「光」etc.

メリル・ストリープ

未来を花束にして

Suffragette [Blu-ray]
1912年、ロンドン。夫と幼い息子と3人で生活しているモードは、夫とともに洗濯工場で働いていた。低賃金、長時間労働、劣悪な職場環境に耐えながら黙々と仕事をこなすモードだったが、ある日、女性参政権を求める活動家の行動を目撃、さらに友人の代わりに公聴会に参加したことをきっかけに、自分の生き方に疑問を持つようになる。活動のリーダーの演説を聞き、デモにも参加するようになったモードは運動にのめり込んでいくが、彼女の活動を快く思わない夫から家を追い出され息子と引き離されることに。さらに仕事をクビになり、警察にも目をつけられてしまう。それでもモードは、これまでと違う生き方を目指して社会を変える闘いに身を投じていく…。

20世紀初頭の英国で女性参政権を求めて立ち上がった女性たちの生き様を実話をもとに描く「未来を花束にして」。主人公モードはごく平凡な主婦である。友人の代理で急きょ公聴会で話すことになるモードは、権利を声高に訴えるのではなく、7歳から過酷で劣悪な労働に従事してきたことを淡々と話した。自分自身の人生と置かれた環境を自分の言葉で話したことが、彼女の中で変化のきっかけとなるのが、非常にリアルで興味深い。「もっと別の生き方があるのではないのか」という素朴な疑問が、女性参政権獲得という大きなうねりを生む震源となったのだ。警察に目をつけられた彼女たち活動家は酷い拷問を受け、警察のスパイになれと脅される。もちろん挫折や犠牲もあるが、それでも彼女たちは、活動の象徴である薄紫の花を身に着けて戦った。その姿は、何とりりしく、美しいことか。21世紀の現在、女性の指導者が生まれる国もあれば、道半ばの国もある。参政権や職場の待遇など、今、私たちが当たり前のように享受している権利は“たくさんの名もなき花たち”が種をまいてくれたおかげなのだと改めて知った。原題の「サフラジェット」とは、女性の参政権を求める過激な活動家の蔑称として当時のイギリスのマスコミが作り上げた造語だそう。映画には実在の人物も登場するが、歴史上の偉人ではなく、特別な思想も教養も、財産もない、搾取される側の弱い女性を主人公にしたことで、共感する部分が大きくなった。今から100年以上前、女性たちが行動を起こした、階級を超えた結束と運動は、現代も続く、さまざまな差別への勇気ある挑戦なのだ。女性はもちろん男性にも見てほしい映画である。
【65点】
(原題「SUFFRAGETTE」)
(イギリス/サラ・ガヴロン監督/キャリー・マリガン、ヘレナ・ボナム=カーター、メリル・ストリープ、他)
(女性映画度:★★★★☆)
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マダム・フローレンス! 夢見るふたり

マダム・フローレンス! 夢見るふたり [Blu-ray]
1940年代のアメリカ、ニューヨーク。社交界のトップとして華やかな毎日を送るマダム・フローレンスは、歌唱力に致命的な欠陥があるにも関わらず、ソプラノ歌手を目指して活動していた。夫のシンクレアは、彼女の夢を、世間の批判や嘲笑から守るため、マスコミを買収したり、ファンだけを集めた小さなコンサートを開くなど、マネージャーとして日々奮闘してた。そんなある日、フローレンスは、世界的な音楽の殿堂カーネギーホールで歌いたいと言い出す。シンクレアの愛情と、尽きない財産を背景に、病を抱えながら頑張るフローレンスの命がけの挑戦が始まった…。

致命的な音痴でありながら、カーネギーホールでコンサートを行った実在の女性フローレンス・フォスター・ジェンキンスの実話を描く「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」。彼女をモデルにした作品には仏映画のフィクション「偉大なるマルグリット」があるが、本作は、あくまでも実話に基づく伝記映画だ。音痴なのにカーネギーホールでのリサイタルを可能にしたのは、フローレンスの莫大な財産があったからだが、実はそれだけではない。どこまでもピュアで一途な性格のフローレンスは、いつ命が尽きてもおかしくない病を抱えていたが、音楽への情熱を支えに前向きに生きていた。周囲が何と言おうと、自分を貫いた精神の尊さは、“ブレない”という普遍的な価値観に通じている。内縁の夫シンクレアの桁外れの献身もあるが、何よりもフローレンス自身が愛すべき人物なのである。才能があると思い込む彼女はなるほど笑いを誘うし、言動は滑稽かもしれないが、決して楽(ラク)ではない人生を送ったフローレンスの純真さに、心打たれるのだ。歌唱力に定評がある名女優ストリープが、一度上手く歌い、その後あえて音をはずして崩して歌う難役をユーモアとペーソスで妙演。“ロマコメの帝王”ことグラントも、フローレンスの突拍子もない夢を守り抜く、受けの演技が絶妙だ。この二人の名演と、名匠スティーヴン・フリアーズ監督の的確な演出が、キワモノにも思える実話を、支え合う風変わりな夫婦の愛の物語に昇華させた。劇中の登場人物がいつのまにかフローレンスを愛してしまったように、観客もまた、この奇妙な歌姫に魅了されるはずだ。
【80点】
(原題「FLORENCE FOSTER JENKINS」)
(イギリス/スティーヴン・フリアーズ監督/メリル・ストリープ、ヒュー・グラント、サイモン・ヘルバーグ、他)
(チャーミング度:★★★★☆)
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幸せをつかむ歌

幸せをつかむ歌 [Blu-ray]
夢だったロックスターへの道のため、家族を捨てたリッキー。54歳の今もロックミュージシャンとして熱い魂を抱いて、売れないバンドと共にロサンゼルスの小さなライブハウスで歌い、演奏する日々を送っている。そんなある日、別れた夫から、結婚した娘のジュリーが夫に捨てられたと連絡が入る。あわてて20年ぶりに家族のもとに戻ったリッキーだが、母親らしいことは何ひとつできず、ジュリーや息子たちとの溝は深まるばかり。それでもリッキーは、疎遠になっていた娘との関係を何とか修復しようと奮闘するが…。

自分の夢のため家族を捨てたヒロインが再び娘との絆を取り戻そうとする人間ドラマ「幸せをつかむ歌」。名女優メリル・ストリープが演技が上手いのは周知だし、歌が上手いのも実証済。しかしなんとギター演奏までできるとは!冒頭から、ストリープの熱く強いサウンドのギターが鳴り響くが、この映画のためにニール・ヤングからギターの指導を受け、猛特訓の末に習得したギターテクニックだというから、その役者魂に改めて頭が下がる。そんな本物の演奏シーンに象徴されるように、本作は、家族の物語であると共に、決して大スターではないけれど、年齢を重ねても音楽への情熱を持ち続ける愛すべきミュージシャンを描いた音楽映画でもあるのだ。リッキーは母親としては失格で、それは本人もわかっている。それでも彼女は、自分ができる精一杯のことで、娘を不幸から救おうと頑張る。この奮闘が彼女らしくて実にいい。知的で美しい黒人女性と再婚し大邸宅で暮らしている夫、息子の一人はゲイで、もう一人は結婚することを母親に内緒にしている。そんな家族の中でリッキーができることは、歌うことだ。ユルい邦題がついているが、原題は「リッキーとザ・フラッシュ」。リッキーがリードボーカルを務めるバンドの名前で、そのタイトルがクライマックスに腑に落ちる。グラミー賞受賞のリック・スプリングフィールドが演技と歌を披露し、メリルの実娘メイミー・ガマー(そっくり!)が娘役で母娘共演を果たしている。妻や母としてではなく、何よりも自分らしく生きるヒロインの姿に励まされた。
【65点】
(原題「RICKI AND THE FLASH」)
(アメリカ/ジョナサン・デミ監督/メリル・ストリープ、ケヴィン・クライン、メイミー・ガマー、他)
(音楽愛度:★★★★☆)
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イントゥ・ザ・ウッズ

イントゥ・ザ・ウッズ MovieNEX [ブルーレイ+DVD+デジタルコピー(クラウド対応)+MovieNEXワールド] [Blu-ray]
おとぎ話を新解釈し主人公たちのその後を描くミュージカル「イントゥ・ザ・ウッズ」。豪華キャストの歌声が圧巻。

パン屋の夫婦は子供が授からないのは魔女の呪いのせいだと知る。魔女から、森に入り「白い牛、赤い頭巾、黄色い毛、金のように輝く靴」を集めるように言われ、夫婦は願いを叶えたい一心で森に入っていった。時を同じくして、赤ずきん、シンデレラ、ジャック、ラプンツェルらも、それぞれの願いを胸に、森へと向かう。パン屋の夫婦と彼らが出会い、運命は思わぬ方向へと転がり始めるが…。

もともとはブロードウェイの大人気ミュージカル。おとぎ話の主人公たちは“めでたし、めでたし”のその後、さて、どうなったのか。また彼らの本当の願いはなんだったのか。これはそんな“裏おとぎ話”だ。当然、シニカルでブラックである。何しろ、赤ずきんは素直じゃないし、ジャックが豆の木による冒険を望むのはお金のため。シンデレラの結婚は決して単純な幸せではないし、そもそも王子は欠点だらけだ。悪役の魔女の、若く美しくありたいという願いだって決して責められない。こんな内容を、ファンタジックなおとぎ話が十八番のディズニーが映画化するというのだから、まず驚いてしまう。しかもこの映画の後には本家本元の「シンデレラ」の公開が控えていて、夢と現実の両方で勝負するとは、根性が据わっているではないか。映画の方は、おとぎ話につきもののVFXは控えめで、歌の魅力を全面に押し出した形だ。おかげでアドベンチャー要素は薄れ、テンポもちょっと悪いのだが、本作はあくまでも大人向け。やはり元が舞台というだけあって演劇的と解釈するべきだろう。大団円の後のほろ苦い現実。だがそれさえも乗り越えるクライマックスに、不思議な感動がある。メリル・ストリープ、エミリー・ブラントら、実力派俳優たちが披露する歌唱力と演技力を堪能したい。
【65点】
(原題「INTO THE WOODS」)
(アメリカ/ロブ・マーシャル監督/メリル・ストリープ、エミリー・ブラント、ジェームズ・コーデン、他)
(新解釈度:★★★★☆)
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イントゥ・ザ・ウッズ@ぴあ映画生活

8月の家族たち

8月の家族たち ブルーレイ&DVD セット (初回限定生産/2枚組) [Blu-ray]
父親の失踪をきっかけに再会した家族の愛憎劇「8月の家族たち」。豪華俳優たちの演技合戦の中でも、やはりメリル・ストリープが群を抜く。

8月のある暑い日。父親が失踪したとの知らせを受けて、オクラホマの実家に3姉妹が集まる。夫婦仲がうまくいってない長女バーバラは生真面目すぎる性格で暴走しがち。結婚もせずに実家に残った次女アイヴィーは秘密の恋に胸をときめかせているし、奔放な三女カレンは胡散臭い婚約者を連れている。闘病中だが気が強く、率直で毒舌家の母バイオレットと、その妹家族が彼らを迎える。生活も思惑も悩みもバラバラな彼らは、言わなくてもいい本音をぶつけあい、ありえない隠し事が次々に明るみに出ることに…。

もともとは舞台劇というだけあって、物語はほとんど家の中だけで進む会話劇だ。冒頭に父親役のサム・シェパードが「妻は薬中、俺はアル中」とボヤくセリフがあるが、何しろこの家族、全員が問題を抱えている。そんな彼らが一堂に会する以上、平穏な再会で済むはずはない。これでもか!というくらい名優たちが登場するが、女優たちはハイ・テンションの熱演、男優たちはクールで哀愁ただよう名演である。中でも、毒舌家の母親ヴァイオレットを演じるメリル・ストリープの、怪演に近い熱演は、本作最大の見どころだ。ガンを患い薬が手放せないため、いつもラリった状態なのだが、ヘロヘロで時にはろれつが回らないのに、家族と他人と自分をグサリと刺し貫くセリフを次々に吐き出していく。思いがけない真実に対する彼女の態度もまた毒気たっぷりだ。やはりこの人は正真正銘の名女優なのだと改めて感服する。一方、そんな母親の気質を色濃く受け継ぎながら、母親と対決し乗り越えていく長女バーバラは、本作のキャラクターの中でも最も複雑な魅力を持った女性だ。父親の諦念と母親の絶望を知ったうえに“秘密”という爆弾まで背負わされては、キレるのも無理はない。機能不全に陥った家族の愛憎劇は、もちろん安易なハッピーエンドなど拒否する形で終わるが、バーバラを演じるジュリア・ロバーツがふっきれたような表情で前を向くラストが印象に残る。あまりにも演劇的な演出は個人的には好まないが、この作品の俳優たちの演技には圧倒された。“役者の芝居を見る”のなら、この映画で決まりである。
【75点】
(原題「AUGUST: OSAGE COUNTY」)
(アメリカ/ジョン・ウェルズ監督/メリル・ストリープ、ジュリア・ロバーツ、ユアン・マクレガー、他)
(愛憎劇度:★★★★★)
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8月の家族たち@ぴあ映画生活

31年目の夫婦げんか

31年目の夫婦げんか [Blu-ray]
熟年夫婦の愛と性を名優二人の妙演で描く「31年目の夫婦げんか」。赤裸々すぎて見ているこっちが困ってしまう。

アーノルドとケイは結婚31年目を迎える熟年夫婦。変わりばえしない退屈な毎日とセックスレスになってしまった関係に危機を覚えた妻のケイは、高額の費用を払って一週間滞在型のカウンセリングに申し込む。セラピー参加に反対していた夫アーノルドを連れ、カウンセリングを受け始めるが、医師のカウンセリングは驚きの連続。いつしか二人は心のうちをさらけ出していく…。

毎日が同じことの繰り返し。いつのまにか寝室は別。争いもない代わりに喜びもない。子育てが終わり二人きりで暮らす結婚31年目の夫婦の日常に最も欠けているのは“変化”なのだ。だが人間は歳をとればとるほど変化を恐れ、保守的になる。妻ケイが勇気を出して夫の寝室に入れば夫のアーノルドから「今日は気分が悪い」と拒絶されてしまう冒頭のエピソードがすべてを象徴している。アーノルドは保守的なガンコものだが、いつも明るく夫に従順だった妻のケイは「死ぬまでこのままでいいの?!」と自問し、残りの人生を賭けて結婚生活を見つめなおす“大冒険”に飛び込んでいくのだ。苦虫を噛み潰したようなトミー・リー・ジョーンズと、ふっくらとほがらかなメリル・ストリープ。誰もが認める名優二人が倦怠期の熟年夫婦を演じているが、スティーブ・カレルが演じる詐欺師か名医が紙一重のカウンセラーは、二人に次々に“宿題”を出し、彼らの心の底にたまった思いを吐き出させていく。アメリカ人とはつくづくカウンセラーやセラピーが好きなのだと改めて思うが、第三者が介入、あるいは聞き役になってくれて、初めて自分自身を語り、相手への要求を伝えることが出来るのもまた真実なのだ。カウンセリングで少しずつ過去を語り、本心があらわになっていくプロセスはディテールも細かく、夫婦関係の修復には、本音で語り合うことが最良の解決法なのだと教えてくれる。それにしても、だ。60歳を過ぎた男女が、こうまでセックスにこだわるのは、やはり欧米人ならではの情熱だろうか。正直、決して若くはない名優二人の赤裸々なやりとりに、疲れてしまった。
【55点】
(原題「HOPE SPRINGS」)
(アメリカ/デイヴィッド・フランケル監督/メリル・ストリープ、トミー・リー・ジョーンズ、スティーヴ・カレル、他)
(赤裸々度:★★★★☆)
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31年目の夫婦げんか@ぴあ映画生活

映画レビュー「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」

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◆プチレビュー◆
英国初の女性首相の鋼鉄の意思とその裏側の苦悩を描く「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」。ストリープのなりきりぶりは必見だ。 【70点】

 雑貨商の家に生まれたマーガレットは、父の影響で政治を志す。優しい夫デニスの支えもあり、幸せな家庭を築く一方で、政治家としても階段を駆け上る。夫や子供たちとの時間を犠牲にしながら、衰退した英国を再建するべく、強力なリーダーシップを発揮するマーガレットだったが…。

 いわずと知れた英国初の女性首相マーガレット・サッチャーの半生を描く伝記映画だが、サッチャーはまだ存命、しかも現在、認知症を患っていると公表されている。描き方が難しい素材だが、だからこそ、政治的に賛否両論のリーダーの歩んだ道と、女性としての苦悩、階級社会・英国での呪縛を描き込んだ内容は、興味深い。栄光の過去と、それに対比する現在の孤独や無情の老いが痛々しい。

 牛乳を買いに外出しても、誰も彼女が元首相だとは気付かず、家の中で会話するのは、すでに他界した夫デニスの幻影。理想に燃えた若き日から、政治家としての成功、やがて第一線を退くまでを、過去と現在を行き来しながら描いていく。フォークランド紛争、労組組合改革、経済の立て直しと、多くの難題に取り組む中、彼女が言った言葉は忘れられない。「今まで闘わなかった日は、1日もなかった」。マーガレットは、英国を導くリーダーとして長期政権の座に君臨したが、同時に妻であり、母であり、何より一人の女性だった。

 存命の有名人を演じるのはハードルが高いが、それを乗り切る力がある数少ない演技者が名女優メリル・ストリープだ。役になりきることで有名な彼女が入魂の演技を見せているのだから、その訴求力はハンパではない。引退後のサッチャーを演じる彼女は、特殊メイクでストリープ本人とは判らないほど。だが、驚くのはむしろ全盛期のサッチャーを演じるストリープの説得力だ。サッチャーとストリープは、顔そのものは決して似ていないのに、映画を見ているうちに二人がぴったりと重なってみえる。イギリス人スタッフの中で、ほとんどただ一人の米国人だったという孤立感さえも、この名女優は演技の糧にしたに違いない。本作で見事に、アカデミー主演女優賞を射止めたのも納得だ。

 この映画でマーガレット・サッチャーは、徹底して“青”を着る。淡い水色のワンピースから鮮やかなブルーのスーツ、そして気品あふれる濃紺のドレス。決して折れないその心で、理想に燃えて国を再建し、敵をよせ付けなかった彼女には、この青い色は甲冑の代わりだったのだろう。英国の経済を立て直しながら、格差社会を作った張本人。むしろ否定的なイメージが先行するサッチャーの政治的な立ち位置は、いずれ歴史が判断するだろうが、あらゆる困難に立ち向かった一人の女性の凛とした姿は、観る人すべての心に深く刻まれる。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)鉄の意思度:★★★★☆

□2011年 イギリス映画 □原題「THE IRON LADY」
□監督:フィリダ・ロイド
□出演:メリル・ストリープ、ジム・ブロードベント、アダム・クーリック、他
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マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙@ぴあ映画生活

恋するベーカリー

恋するベーカリー ~別れた夫と恋愛する場合~ [DVD]恋するベーカリー ~別れた夫と恋愛する場合~ [DVD]
大人の恋愛模様をコミカルな艶笑話風に描くハートフル・ストーリー。ジェーンは大人気ベーカリーを経営する実業家。10年前に離婚したが3人の子供を育て上げ、友人にも恵まれて、充実したシングルライフを送っている。だが心が満たされないと感じることも。そんな時、息子の卒業式に出席するため滞在したホテルで偶然別れた夫ジェイクと再会し、勢いでベッドイン。元サヤを望むジェイクはそれ以来、彼女に猛烈にアタックする。一方で、バツイチの建築家アダムもまた控えめにジェーンにアプローチ。元夫との再会と新しい男性との出会いの両方にときめくジェーン。微妙な三角関係は、思いがけない出来事に発展していくが…。

元夫婦がもう一度恋愛すると、不倫になってしまうというシチュエーションは、当事者には笑いごとではないのだがハタから見ると何とも笑える事態だ。ジェーンにとっては、焼け木杭(ぼっくい)に火が付くかっこうだが、自分から夫を奪った若い美女へのリベンジという側面が、彼女を燃えさせているのは確か。演技派女優メリル・ストリープを中心線に、左右対称に位置するのが、元夫で押せ押せの性格なのに憎めないジェイクを演じるアレック・ボールドウィンと、いつものコミカルな味を抑えて傷つきやすくて繊細なアダムを好演するスティーブ・マーティンだ。ベテラン俳優3人の絶妙な化学反応が、熟年男女の恋の騒動を青春映画のように輝かせる。元夫との隠れた恋愛を女友達に打ち明けて盛り上がる場面など、まさにガールズ・トーク。そんなハイ・テンションな大人たちの一方で、身勝手な親たちへの不満をもらす子供たちの心の傷にもさりげなく触れている。離婚10年目の熟年再恋愛は、勇気と誠実の両方を知る大人の年輪がモノを言う。ジェーンの選択は映画を見て確かめてほしいが、何より、いくつになっても母親や妻よりも「女」でありたいと願うヒロインの、前向きに生きる姿に感服する。原題は「ややこしい!」の意味。まったくそのとおりだが、いろいろあるからこそ人生は退屈しないのだ。
【60点】
(原題「It's Complicated」)
(アメリカ/ナンシー・マイヤーズ監督/メリル・ストリープ、スティーヴ・マーティン、アレック・ボールドウィン、他)
(生涯現役度:★★★★★)

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ジュリー&ジュリア

ジュリー&ジュリア [DVD]ジュリー&ジュリア [DVD]
料理は食べるため。食べるのは生きるため。だが、料理とは、栄養補給や空腹を満たす以上に、生きる喜びに通じる行為ではなかろうか。映画は伝説の料理研究家と現代を悩みながら生きる女性の人生をクロスさせるという巧みな手法を取る。1949年、ジュリア・チャイルドは外交官の夫の赴任先パリで、仏料理の素晴らしさに目覚め、友人たちと料理本を出版する。その50年後の現代、作家になる夢をあきらめ、冴えない毎日を送る料理好きのジュリーは、憧れていたジュリア・チャイルドの本にある524のレシピすべてを1年で作ると宣言、ブログにつづることを思いつく。悪戦苦闘の日々の中、やがて彼女のブログは大評判になるが…。

アメリカの食文化に革命をもたらしたと言われるジュリア・チャイルドは、見た目も中身も規格外だ。185cmの大柄な体とかん高い声、さらに超が付くほどポジティヴで大らかな彼女が作る料理は、本格的ながら親しみやすい。パリの名門料理学校での頑張りや夫の転勤による失意、本を出すまでのトラブルなど、彼女がこなす問題は並大抵ではないのに、おばさん版“不思議ちゃん”のジュリアにかかると苦労も笑い話のようである。メリル・ストリープがもっさりとした動きと素っ頓狂な高音の声で、本物そっくりに演じてさすがの貫禄だ。やっぱりこの人は上手い。一方、現代のジュリーは、ごくごく普通の一般人。今の自分に漠然とした不満があるが、何から手をつけていいのか分からないという悩みは、まるで今の自分のよう…と自己投影する女性が多いだろう。ストリープが個性豊かな名演技とすれば、ジュリーを演じるエイミー・アダムスの良さは自然体。二人の対比が効いている。

まず自分に出来ることから始めてみる。ジュリーの場合それは料理だ。ブログにまるで反応がないのでヘコんでしまう姿や、書き込みに一喜一憂する様は、多くのブロガーの共感を呼ぶだろう。ネットで自分を表現するのがいかにも現代的だが、このメディアは誰でも手軽な半面、手応えがつかみにくい。パソコンの向こう側の見えない読者ばかり気にするあまり、いつも自分を理解して支えてくれた夫と衝突してしまった時、ジュリーは料理の本当の意味を知る。どんなに美しく豪華なご馳走も、愛する人のために作る喜びと、その人の「おいしい」の一言を聞く至福にはかなわないのだ。牛肉の赤ワイン煮込みやチョコレート・パイ。スクリーンに登場する料理は、どれも美味しそうでうっとりする。だが、打ち込めることを探して試行錯誤し頑張るヒロインたちは、もっと素敵だ。ジュリアの決めゼリフ「ボナペティ!」とは「どうぞ、召し上がれ」という意味のフランス語。この映画の温かくて美味しい“味”を、ぜひ確かめてほしい。
【75点】
(原題「Julie & Julia」)
(アメリカ/ノーラ・エフロン監督/メリル・ストリープ、エイミー・アダムス、スタンリー・トゥーチ、他)
(グルメ度:★★★★☆)


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ジュリー&ジュリア@ぴあ映画生活

映画レビュー「ダウト/あるカトリック学校で」

ダウト ~あるカトリック学校で~ [Blu-ray]ダウト ~あるカトリック学校で~ [Blu-ray]
◆プチレビュー◆
大量破壊兵器の疑惑に振り回された米国を強く意識させる物語。名優同士の競演は凄味がある。 【70点】

 1964年のNY・ブロンクスのカトリック学校。厳格な校長シスター・アロイシスは、新米教師の目撃談から、進歩的で人望のあるフリン神父が、校内で唯一の黒人男子生徒と“不適切な関係”にあるのではとの疑念をつのらせる…。

 もともとは舞台劇でセリフの応酬を見せ場とする本作は、極めて地味な作りである。まず、この物語に事件はない。あったかもしれない事件らしきものについての反応を描く心理劇なのだ。さらに謎解きのカタルシスも存在しない。本当に神父と少年は性的関係にあったのかどうか答えが気になるだろうが、物語の主題はそこにはない。すべてに白黒を付けた世界を望むシスター・アロイシスに対し、フリン神父はグレー・ゾーンと折り合いを付けている。価値観が単純だった旧時代から、より複雑な新時代へ。ケネディ大統領暗殺や公民権運動の高まりを経験し、転換期にあった1964年が背景である理由はここにある。

 きっかけは純真な教師シスター・ジェイムズの確証のない目撃談だ。フリン神父はその少年を司祭館に連れて行き、酒臭い息の彼を教室に戻した。実は少年はワインを盗み飲み、神父は彼をスキャンダルから守ろうとしたと弁明する。安心するシスター・ジェイムズとは対照的に、校長のシスター・アロイシスにはその言葉は、猛毒となって心に染み込んだ。証拠がないことが逆に疑いを大きく育てる展開は、深層心理を突いていて非常に鋭い。

 それにしても、信仰の基本は信じることだと思っていた。なのに、この物語では、疑いは神のために成す行為だとするセリフがある。確固たる信念などは人間ごときが持つべきではないとでも言いたいのか。信仰という形のないものに寄りどころを求めるカトリック学校を物語の舞台に選んだ意味は大きい。神が身近にいるであろうその場所で、登場人物の本性はむきだしになっていく。

 シビアな会話中心のこんな心理劇は、俳優の演技の底力が問われ、ごまかしはいっさい効かないものだ。本作のキャストはこの難局に見事に対峙した。終盤のストリープとホフマンの激論の迫力は、ただごとではない。もっとも、このシーンのみ意図的にオーバーアクト気味のストリープは、熱演がすぎる気もするが。重要な脇役である新米教師のエイミー・アダムスと黒人少年の母役のヴィオラ・デイヴィスも印象的だ。前者は他人の意見に染まりやすく無責任な理想主義を掲げる大衆の姿、後者は息子を守ることを最優先に考える現実派だ。意外な顛末となるラストには、それぞれの“真実”が影を落とす。

 シャンリィ監督自身が明言するように、これは、大量破壊兵器所持疑惑で戦争を始め、証拠もないまま犠牲者を出し続けたアメリカの醜態を照射するものだ。人を疑った先にあるのは、疑いを持つ自分さえも疑う泥沼の苦しみ。シスター・アロイシスは断言した。「私には分かる。私にだけは分かるのです」。この傲慢は、疑い(ダウト)が生んだ産物か。私は無宗教なので不敬を承知で言わせてもらうが、この愚かしい人間たちを神はきっと笑っていよう。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)説教バトル度:★★★★☆

□2008年 アメリカ映画 原題「DOUBT」
□監督:ジョン・パトリック・シャンリィ
□出演:メリル・ストリープ、フィリップ・シーモア・ホフマン、エイミー・アダムス、他


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◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
◆こんなお仕事やってます:
新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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