映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
毎日のレビューは分かりやすく簡潔な寸評で、週1本の長文映画レビューでは作品をディープに掘り下げます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる公開作品 ◎
「ファミリー・ツリー」「ダーク・シャドウ」「サニー」

メリル・ストリープ

映画レビュー「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」

Iron LadyIron Lady
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◆プチレビュー◆
英国初の女性首相の鋼鉄の意思とその裏側の苦悩を描く「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」。ストリープのなりきりぶりは必見だ。 【70点】

 雑貨商の家に生まれたマーガレットは、父の影響で政治を志す。優しい夫デニスの支えもあり、幸せな家庭を築く一方で、政治家としても階段を駆け上る。夫や子供たちとの時間を犠牲にしながら、衰退した英国を再建するべく、強力なリーダーシップを発揮するマーガレットだったが…。

 いわずと知れた英国初の女性首相マーガレット・サッチャーの半生を描く伝記映画だが、サッチャーはまだ存命、しかも現在、認知症を患っていると公表されている。描き方が難しい素材だが、だからこそ、政治的に賛否両論のリーダーの歩んだ道と、女性としての苦悩、階級社会・英国での呪縛を描き込んだ内容は、興味深い。栄光の過去と、それに対比する現在の孤独や無情の老いが痛々しい。

 牛乳を買いに外出しても、誰も彼女が元首相だとは気付かず、家の中で会話するのは、すでに他界した夫デニスの幻影。理想に燃えた若き日から、政治家としての成功、やがて第一線を退くまでを、過去と現在を行き来しながら描いていく。フォークランド紛争、労組組合改革、経済の立て直しと、多くの難題に取り組む中、彼女が言った言葉は忘れられない。「今まで闘わなかった日は、1日もなかった」。マーガレットは、英国を導くリーダーとして長期政権の座に君臨したが、同時に妻であり、母であり、何より一人の女性だった。

 存命の有名人を演じるのはハードルが高いが、それを乗り切る力がある数少ない演技者が名女優メリル・ストリープだ。役になりきることで有名な彼女が入魂の演技を見せているのだから、その訴求力はハンパではない。引退後のサッチャーを演じる彼女は、特殊メイクでストリープ本人とは判らないほど。だが、驚くのはむしろ全盛期のサッチャーを演じるストリープの説得力だ。サッチャーとストリープは、顔そのものは決して似ていないのに、映画を見ているうちに二人がぴったりと重なってみえる。イギリス人スタッフの中で、ほとんどただ一人の米国人だったという孤立感さえも、この名女優は演技の糧にしたに違いない。本作で見事に、アカデミー主演女優賞を射止めたのも納得だ。

 この映画でマーガレット・サッチャーは、徹底して“青”を着る。淡い水色のワンピースから鮮やかなブルーのスーツ、そして気品あふれる濃紺のドレス。決して折れないその心で、理想に燃えて国を再建し、敵をよせ付けなかった彼女には、この青い色は甲冑の代わりだったのだろう。英国の経済を立て直しながら、格差社会を作った張本人。むしろ否定的なイメージが先行するサッチャーの政治的な立ち位置は、いずれ歴史が判断するだろうが、あらゆる困難に立ち向かった一人の女性の凛とした姿は、観る人すべての心に深く刻まれる。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)鉄の意思度:★★★★☆

□2011年 イギリス映画 □原題「THE IRON LADY」
□監督:フィリダ・ロイド
□出演:メリル・ストリープ、ジム・ブロードベント、アダム・クーリック、他
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マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙@ぴあ映画生活

恋するベーカリー

恋するベーカリー ~別れた夫と恋愛する場合~ [DVD]恋するベーカリー ~別れた夫と恋愛する場合~ [DVD]
大人の恋愛模様をコミカルな艶笑話風に描くハートフル・ストーリー。ジェーンは大人気ベーカリーを経営する実業家。10年前に離婚したが3人の子供を育て上げ、友人にも恵まれて、充実したシングルライフを送っている。だが心が満たされないと感じることも。そんな時、息子の卒業式に出席するため滞在したホテルで偶然別れた夫ジェイクと再会し、勢いでベッドイン。元サヤを望むジェイクはそれ以来、彼女に猛烈にアタックする。一方で、バツイチの建築家アダムもまた控えめにジェーンにアプローチ。元夫との再会と新しい男性との出会いの両方にときめくジェーン。微妙な三角関係は、思いがけない出来事に発展していくが…。

元夫婦がもう一度恋愛すると、不倫になってしまうというシチュエーションは、当事者には笑いごとではないのだがハタから見ると何とも笑える事態だ。ジェーンにとっては、焼け木杭(ぼっくい)に火が付くかっこうだが、自分から夫を奪った若い美女へのリベンジという側面が、彼女を燃えさせているのは確か。演技派女優メリル・ストリープを中心線に、左右対称に位置するのが、元夫で押せ押せの性格なのに憎めないジェイクを演じるアレック・ボールドウィンと、いつものコミカルな味を抑えて傷つきやすくて繊細なアダムを好演するスティーブ・マーティンだ。ベテラン俳優3人の絶妙な化学反応が、熟年男女の恋の騒動を青春映画のように輝かせる。元夫との隠れた恋愛を女友達に打ち明けて盛り上がる場面など、まさにガールズ・トーク。そんなハイ・テンションな大人たちの一方で、身勝手な親たちへの不満をもらす子供たちの心の傷にもさりげなく触れている。離婚10年目の熟年再恋愛は、勇気と誠実の両方を知る大人の年輪がモノを言う。ジェーンの選択は映画を見て確かめてほしいが、何より、いくつになっても母親や妻よりも「女」でありたいと願うヒロインの、前向きに生きる姿に感服する。原題は「ややこしい!」の意味。まったくそのとおりだが、いろいろあるからこそ人生は退屈しないのだ。
【60点】
(原題「It's Complicated」)
(アメリカ/ナンシー・マイヤーズ監督/メリル・ストリープ、スティーヴ・マーティン、アレック・ボールドウィン、他)
(生涯現役度:★★★★★)

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ジュリー&ジュリア

ジュリー&ジュリア [DVD]ジュリー&ジュリア [DVD]
料理は食べるため。食べるのは生きるため。だが、料理とは、栄養補給や空腹を満たす以上に、生きる喜びに通じる行為ではなかろうか。映画は伝説の料理研究家と現代を悩みながら生きる女性の人生をクロスさせるという巧みな手法を取る。1949年、ジュリア・チャイルドは外交官の夫の赴任先パリで、仏料理の素晴らしさに目覚め、友人たちと料理本を出版する。その50年後の現代、作家になる夢をあきらめ、冴えない毎日を送る料理好きのジュリーは、憧れていたジュリア・チャイルドの本にある524のレシピすべてを1年で作ると宣言、ブログにつづることを思いつく。悪戦苦闘の日々の中、やがて彼女のブログは大評判になるが…。

アメリカの食文化に革命をもたらしたと言われるジュリア・チャイルドは、見た目も中身も規格外だ。185cmの大柄な体とかん高い声、さらに超が付くほどポジティヴで大らかな彼女が作る料理は、本格的ながら親しみやすい。パリの名門料理学校での頑張りや夫の転勤による失意、本を出すまでのトラブルなど、彼女がこなす問題は並大抵ではないのに、おばさん版“不思議ちゃん”のジュリアにかかると苦労も笑い話のようである。メリル・ストリープがもっさりとした動きと素っ頓狂な高音の声で、本物そっくりに演じてさすがの貫禄だ。やっぱりこの人は上手い。一方、現代のジュリーは、ごくごく普通の一般人。今の自分に漠然とした不満があるが、何から手をつけていいのか分からないという悩みは、まるで今の自分のよう…と自己投影する女性が多いだろう。ストリープが個性豊かな名演技とすれば、ジュリーを演じるエイミー・アダムスの良さは自然体。二人の対比が効いている。

まず自分に出来ることから始めてみる。ジュリーの場合それは料理だ。ブログにまるで反応がないのでヘコんでしまう姿や、書き込みに一喜一憂する様は、多くのブロガーの共感を呼ぶだろう。ネットで自分を表現するのがいかにも現代的だが、このメディアは誰でも手軽な半面、手応えがつかみにくい。パソコンの向こう側の見えない読者ばかり気にするあまり、いつも自分を理解して支えてくれた夫と衝突してしまった時、ジュリーは料理の本当の意味を知る。どんなに美しく豪華なご馳走も、愛する人のために作る喜びと、その人の「おいしい」の一言を聞く至福にはかなわないのだ。牛肉の赤ワイン煮込みやチョコレート・パイ。スクリーンに登場する料理は、どれも美味しそうでうっとりする。だが、打ち込めることを探して試行錯誤し頑張るヒロインたちは、もっと素敵だ。ジュリアの決めゼリフ「ボナペティ!」とは「どうぞ、召し上がれ」という意味のフランス語。この映画の温かくて美味しい“味”を、ぜひ確かめてほしい。
【75点】
(原題「Julie & Julia」)
(アメリカ/ノーラ・エフロン監督/メリル・ストリープ、エイミー・アダムス、スタンリー・トゥーチ、他)
(グルメ度:★★★★☆)


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ジュリー&ジュリア@ぴあ映画生活

映画レビュー「ダウト/あるカトリック学校で」

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◆プチレビュー◆
大量破壊兵器の疑惑に振り回された米国を強く意識させる物語。名優同士の競演は凄味がある。 【70点】

 1964年のNY・ブロンクスのカトリック学校。厳格な校長シスター・アロイシスは、新米教師の目撃談から、進歩的で人望のあるフリン神父が、校内で唯一の黒人男子生徒と“不適切な関係”にあるのではとの疑念をつのらせる…。

 もともとは舞台劇でセリフの応酬を見せ場とする本作は、極めて地味な作りである。まず、この物語に事件はない。あったかもしれない事件らしきものについての反応を描く心理劇なのだ。さらに謎解きのカタルシスも存在しない。本当に神父と少年は性的関係にあったのかどうか答えが気になるだろうが、物語の主題はそこにはない。すべてに白黒を付けた世界を望むシスター・アロイシスに対し、フリン神父はグレー・ゾーンと折り合いを付けている。価値観が単純だった旧時代から、より複雑な新時代へ。ケネディ大統領暗殺や公民権運動の高まりを経験し、転換期にあった1964年が背景である理由はここにある。

 きっかけは純真な教師シスター・ジェイムズの確証のない目撃談だ。フリン神父はその少年を司祭館に連れて行き、酒臭い息の彼を教室に戻した。実は少年はワインを盗み飲み、神父は彼をスキャンダルから守ろうとしたと弁明する。安心するシスター・ジェイムズとは対照的に、校長のシスター・アロイシスにはその言葉は、猛毒となって心に染み込んだ。証拠がないことが逆に疑いを大きく育てる展開は、深層心理を突いていて非常に鋭い。

 それにしても、信仰の基本は信じることだと思っていた。なのに、この物語では、疑いは神のために成す行為だとするセリフがある。確固たる信念などは人間ごときが持つべきではないとでも言いたいのか。信仰という形のないものに寄りどころを求めるカトリック学校を物語の舞台に選んだ意味は大きい。神が身近にいるであろうその場所で、登場人物の本性はむきだしになっていく。

 シビアな会話中心のこんな心理劇は、俳優の演技の底力が問われ、ごまかしはいっさい効かないものだ。本作のキャストはこの難局に見事に対峙した。終盤のストリープとホフマンの激論の迫力は、ただごとではない。もっとも、このシーンのみ意図的にオーバーアクト気味のストリープは、熱演がすぎる気もするが。重要な脇役である新米教師のエイミー・アダムスと黒人少年の母役のヴィオラ・デイヴィスも印象的だ。前者は他人の意見に染まりやすく無責任な理想主義を掲げる大衆の姿、後者は息子を守ることを最優先に考える現実派だ。意外な顛末となるラストには、それぞれの“真実”が影を落とす。

 シャンリィ監督自身が明言するように、これは、大量破壊兵器所持疑惑で戦争を始め、証拠もないまま犠牲者を出し続けたアメリカの醜態を照射するものだ。人を疑った先にあるのは、疑いを持つ自分さえも疑う泥沼の苦しみ。シスター・アロイシスは断言した。「私には分かる。私にだけは分かるのです」。この傲慢は、疑い(ダウト)が生んだ産物か。私は無宗教なので不敬を承知で言わせてもらうが、この愚かしい人間たちを神はきっと笑っていよう。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)説教バトル度:★★★★☆

□2008年 アメリカ映画 原題「DOUBT」
□監督:ジョン・パトリック・シャンリィ
□出演:メリル・ストリープ、フィリップ・シーモア・ホフマン、エイミー・アダムス、他


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ダウト −あるカトリック学校で−@ぴあ映画生活

映画レビュー「マンマ・ミーア!」

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◆プチレビュー◆
ABBAのナンバー全22曲にのって、熟年男女がハジケまくる。こういう映画は楽しまなきゃソン! 【55点】

 ギリシャの小島でホテルを営むシングルマザーのドナは、娘の結婚式を控えて大忙し。一方、母親の日記を盗み読んだ娘ソフィは父親候補が3人もいてビックリ。母に内緒で自分の結婚式に彼ら3人を招待するのだが…。

 既成の曲だけを使って構成されるミュージカルを、ジュークボックス・ミュージカルと呼ぶ。「マンマ・ミーア!」は、ABBA(アバ)のナンバーをたっぷりと使用して作られた人気ミュージカルの映画化だ。アバは、70年代から80年代にかけて、世界中で大ヒットを連発したスウェーデン出身の男女4人のポップス・グループ。彼らの曲のテンションの高さは並みじゃない。

 お話は娘ソフィの父親探しが軸だが、映画の本流は、母ドナと彼女の昔の恋人3人との再会からはじまる大騒動だ。ドナを演じるのは名女優のメリル・ストリープだが、ここにきて、この人のフル・ミュージカルを見ることになろうとは。ストリープの歌を聴くのは初めてではないし上手いのは知っていたが、時に独唱、時に群舞と頑張るサマは、まるでアクション映画のように激しい。オーバーオール姿で、ベッドの上で飛び跳ね、屋根から落下し、桟橋から海中へ飛び込む。ハリウッドきっての演技派女優のはしゃぎっぷりに、思わずドン引きしてしまったのだが、こんなメリルを見ているうちに、本当のパパを知りたい娘心より、元カレと再会してパニくる母ドナの心の揺れが気になってくるから、さすがは大女優の牽引力というしかない。歌い踊るナンバーはどれも陽性の明るさに満ちているが、熟年男女のド派手なコスプレは、舞台ならまだしも映画のスクリーンでは浮きまくり。少々品位に欠ける気さえする。

 そんな文句を並べながらも、世代を越えて愛されるアバのヒット曲が鳴り響けば、大味な演出も「まぁ、いいか」という気持ちになるから不思議だ。ソフィを演じる新星アマンダ・セイフライドがみずみずしい存在感と抜群の歌唱力でさわやさを体現しているのも、忘れちゃいけない。マンマ・ミーアとはイタリア語で「なんてこった!」というニュアンスの感嘆の言葉だ。にぎやかなストーリーの中、全員に“マンマ・ミーア!”な瞬間が訪れる。それぞれ「自分が父親なのか!」と叫ぶ3人の中年男たちの驚きと喜びの行方は、映画を見てのお楽しみだ。どんな結果が待っていようと、母娘の絆は何よりも強いし、愛の形は自由だ。かつては奔放な恋に生きた母と、20歳で花嫁になり人生を決めてしまおうとする娘。登場人物たちの運命の行方を見届けたあとは、エンドクレジットまで、ダンサブルでハッピーな音楽が導いてくれる。

 そもそもアバのナンバーは、なぜ今も世界中から愛されているのか。ポップスの難しい音楽的解釈はさておき、理屈抜きの明るさと健康的なメロディーラインに、誰もが生きる喜びを感じるからではなかろうか。ノーテンキを絵に描いたようなこの作品が、見終われば何とも愛しくなるのは、苦笑しながらもノセられて楽しんだ自分を発見できるから。さぁ、栄養剤みたいにグッと一気飲みして楽しもう。きっと、元気をもらえるはずだ。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)高揚感度:★★★★★

□2008年 アメリカ映画 原題「MAMMA MIA!」
□監督:フィリダ・ロイド
□出演:メリル・ストリープ、アマンダ・セイフライド、ピアース・ブロスナン、他

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大いなる陰謀

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無関心こそが罪。これが映画のテーマだ。政治、報道、教育という異なる世界の人間を通して、対テロ戦争を会話で検証する。クルーズとストリープの攻防が見せ場の一つだが、大学教授と生徒のやりとりこそ注目すべき。ただ、作品の志の高さは理解できても素直に評価できない。なぜなら善意も悪意も結局は若者を戦場に駆り立てるから。そして“10分前に始まった戦闘作戦”に対してなす術などないと判るから。映画は問題を提起するだけで結論は出していない。観客に考えさせる意図なのだが、大統領選挙前のこの時期、レッドフォードならはっきりと意見を述べてもいいはずでは。この映画の歯切れの悪さは厭世観を誘う。質は高いが困った作品だ。
【70点】
(原題「LIONS FOR LAMBS」)
(アメリカ/ロバート・レッドフォード監督/トム・クルーズ、メリル・ストリープ、ロバート・レッドフォード、他)
(スッキリ度:★☆☆☆☆)

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映画レビュー「いつか眠りにつく前に」

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◆プチレビュー◆
死を目前にした母が胸に秘めていたのは娘たちが知らない悲恋。豪華キャストで描くしっとりとした女性映画だ。 【65点】

 人生の最期を迎えた老婦人アン。母の枕元の二人の娘が聞いたのは、自分たちが知らない男性の名前だった。夢とも現実ともつかない意識の中で、若かった日々を振り返るアンの脳裏によぎった過去の過ちとは…。

 豪華女優競演で話題の徹底した女性視点の作品である。派手さはないが、人生を振り返ることができる年齢の大人に、静かな感動を届けるドラマに仕上がった。見終われば、入り江を染めて沈む美しい夕日のように、穏やかな余韻を残してくれる。

 脚本は、原作者のスーザン・マイノットと、「めぐりあう時間たち」の作者マイケル・カニンガムによる共同執筆だ。映画は回想形式で、現代と過去を頻繁に行き来する。どちらの時代の女性たちも悩みを抱えていて、人生の決断を迫られている。

 老いたアンは、自分の過去を振り返り、死を前にしても心が休まらない。歌手になって成功したかった。愛する人と結ばれたかった。もっと良い妻、良い母でいたかった。中でも親友ライラの結婚式で出会ったハリスとの短い恋は、アンの中で大きな傷となった。ある青年の死を招いたこの悲恋は、老いてなおアンの悔恨の思いとして疼いている。だが映画はその“過ち”を決して責めない。

 ライラとアンは、この不幸な事件以来、疎遠になってしまう。終盤、封印されたも同然だったライラがアンを見舞う場面は静かなクライマックスだ。出番は少ないが印象的に現れるメリル・ストリープのオーラがすごい。老いたライラ役の彼女がアンのベッドにそっと横たわり、人生を悔やむ彼女を癒す。この場面は、若きアンが結婚を迷うライラとベッドの中で語り合う場面と対になっていて、抜群の効果を上げている。歳を重ね、顔にシワは刻まれたが、この時の二人の美しさは比類がない。アンの一生分の胸のわだかまりを、短い会話と味わい深い演技で一気に昇華させる展開が見事だ。映画の醍醐味とは、目を見張るアクションでも高度なCGでもなく、こんな風に、役者の演技によって時間と空間を越え、人間の生きてきた姿を映し出すことだと思う。

 俳優たちはみな丁寧な演技で好演だが、注目したいのは、二組の母娘の女優たちの共演だ。ヴァネッサ・レッドグレイブとナターシャ・リチャードソン。メリル・ストリープとメイミー・ガマー。それぞれが母と娘、若き日と老いた日という役柄を演じ、物語に説得力を与えている。彼女たちが渡す演技のバトンは、映画の中でも、母娘二代をつなぐ人生の線になった。

 自分の選択を悔いることは人間なら誰でもあるだろう。過ちを含めて人生を肯定するには、勇気と経験が必要だ。人生の最期というシチュエーションは想像するしかないが、ある年齢に達すれば、つらく悲しい記憶は、時間という名の雪が降り積もって浄化されるものなのか。もしそうなら思うようにならない人生も頑張って生きていける気がする。幸せになろうと努力してと娘を励ますアンのような満ち足りた表情になれるなら、その人の一生は完璧なものと思えてくる。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)女性映画度:★★★★★

□2007年 アメリカ・ドイツ合作映画 原題「EVENING」
□監督:ラホス・コルタイ
□出演:クレア・デインズ、ヴァネッサ・レッドグレイヴ、メリル・ストリープ、他

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映画レビュー「今宵、フィッツジェラルド劇場で」

今宵、フィッツジェラルド劇場で [DVD]今宵、フィッツジェラルド劇場で [DVD]
◆プチレビュー◆
アルトマン監督の遺作は豪華キャストの群像劇。出演者たちが見事な歌声を披露する。長年のファンも、アルトマン入門者にも、おすすめ。 【75点】

ミネソタ州のフィッツジェラルド劇場で、長い間、全米で親しまれてきたラジオ番組が、最後の公開生放送を迎えようとしていた。次々に楽屋入りするカントリー・シンガーたち。そんな中、白いトレンチ・コートの美女が姿を現す。番組はいつもと同じようにスタートしたが…。

米国を代表する鬼才監督のロバート・アルトマン。彼の遺作になったこの作品は、名作「ナッシュビル」を思わせる、音楽系の群像劇だ。30年以上続いたラジオの公開番組「プレイリー・ホーム・コンパニオン」の舞台裏では、たくさんの人々の思いが行き交う。カントリー音楽という保守的なアイテムを使いながら、その終焉の一場面を演出し、さらに、下ネタの歌詞まで歌い合う、陽気でシニカルな批判精神。これぞ反骨のアルトマン節だ。

物語全体を覆うのは、滅びゆくものへの優しいまなざし。終わってしまうラジオ番組、舞台裏で人生を終えるベテラン歌手、死の天使が登場し、遂には監督自身が逝くというから、展開が完璧すぎる。私たちが改めて巨匠の偉大さを知る頃には、彼はもういない。アルトマンとはなんて粋な男だろう!

観客は、必ずキャラクターの誰かに自分を重ねて感情移入し、バラバラに見えたエピソードに、深い人間ドラマを見るはずだ。多くの登場人物を巧みに操る群像劇の傑作は、凡人には作れない。だが、アルトマンの継承者は確かに存在する。この映画で、高齢の監督を陰で支えたポール・トーマス・アンダーソンはその筆頭と言っていい。本作をラスト・メッセージに逝ってしまった名匠アルトマン。彼の作品はこれが最後かと思うと、本当に寂しい。“さようなら”ではなく“ありがとう”と言ってお別れしよう。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)陽気なお別れ度:★★★★☆

□2006年 アメリカ映画 原題「A Prairie Home Companion」
□監督:ロバート・アルトマン
□出演:ウディ・ハレルソン、トミー・リー・ジョーンズ、メリル・ストリープ、他

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母の眠り

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◆プチレビュー◆
あまり好きなタイプの作品じゃないのに泣かされた。やっぱり名女優メリルのせい?

エレンの母の死には、謎があった。検事に証言をするエレンの疲れた表情から映画は始まる。NYでジャーナリストとして多忙な日々を送るエレンは、末期ガンに倒れた母の看病のために、仕方なく帰郷。美人で頭もよく、仕事にも野心的なエレンにとって、大学教授で作家の父は常に偉大な存在だが、母は平凡な専業主婦、小さな町の婦人会がつきあいの全てという、軽い嫌悪さえ感じる存在だ。にわか主婦業と慣れぬ介護に四苦八苦して暮らす日々。都会から取り残される焦燥感。そんな娘の姿を静かに見つめる母。最初は全てに不満だったエレンだが、やがて平凡な専業主婦に見えた母の生き方を改めて見直すことに。母が今まで、報われることのない家事労働を、ただ愛する家族のために行ってきたことに初めて気付く自分。あこがれだった父の身勝手。その父も母を失うことを思って苦しんでいる。父を非難する娘に対して、結婚とは、夫婦とは何かを訴える母。その言葉は、幸せになるには、ないものねだりではなく今を愛せばよいのだと告げていた…。

街のクリスマスツリーは、婦人クラブの一員として母も飾付けに参加したもので、母の人生のささやかな栄光の輝き。そして皆、知っているのだ。これが家族で迎える最後のクリスマスになるということを。遂に衰弱しきった母は、この苦しみに耐えられないと訴える…。

家族という身近なテーマを扱いながら、ストーリーを奥深いものにしているのは、やはりメリル・ストリープの上手さだろう。冒頭で「オズの魔法使い」の仮装で登場するのには正直驚いたが、たとえ、こんなナリをしていても貫禄があるのは大女優ならでは。豊かな愛で家族を包む母親の優しさと繊細さを演じて、本作でアカデミー賞にノミネートされている。

理想通りではないけれど、それら全てを受け入れて新しい人生の一歩を踏み出すエレンの成長がうれしい。家族、親子、夫婦、そして介護など、テーマ的にも見所あり。こういう映画はちょっと苦手なのだが、意外にも良くできた作品だ。

タイトルは、劇中の字幕では“わが心の真実”と訳されていた。

□1998年アメリカ映画 原題「One True Thing」
□監督:カール・フランクリン
□出演:メリル・ストリープ、レニー・ゼルウィガー、ウィリアム・ハート、他

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プロフィール
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◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
◆こんなお仕事やってます:
新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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