映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる映画 ◎
「ジャッキー」「ムーンライト」「はじまりへの旅」etc.

ユアン・マクレガー

MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間

Miles Ahead
ジャズ界の頂点に君臨する天才トランペッター、マイルス・デイヴィスは、1970年代後半、活動を休止していた。腰痛に悩まされ、自宅に引きこもるマイルスのもとに、音楽記者のデイヴ・ブレイデンが強引に押しかける。マイルスは、ドラッグや酒、鎮痛剤で荒れた生活を送りながら、元妻フランシスとの苦い思い出に囚われていた。マイルスとデイヴは行動を共にするうちに、悪辣な音楽プロデューサーが盗んだマスターテープを取り戻すため、危険なチェイスに身を投じていく…。

ジャズの帝王ことマイルス・デイヴィスが創作活動を休止していた70年代の空白の5年間を背景に、彼がもう一度音楽への道を見出していくまでを描く「MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間」。マイルス・デイヴィスがカーチェイスに銃撃戦?!B級アクションのようなビックリ仰天のオープニングから始まるこの映画は、マイルスが公の場から姿を消していた空白の時期を「もし、こうだったら…」という自由な発想…、いや、むしろ妄想に近い演出で描く異色の伝記映画だ。マイルスになりきって熱演するドン・チードルは、これが初監督作だが、脚本、主演も兼ねていて“マイルス愛”がビシバシと伝わってくる。マイルスはこの時期、トランペットや音楽に対する情熱を失っているかに見えるが、取材を熱望する記者デイヴや、自分に憧れる若者と接するうちに、そして未発表の大切なテープが奪われるという重大なアクシデントに遭遇するうちに、いやがおうでも音楽と再び向き合うことになる。美しい元妻との苦い思い出や、彼ほどのスーパースターでさえも経験した人種差別など、エピソードはジャズの即興演奏にも似て散発的に記憶に現れては消えていく。自分の音楽は、ジャズという既成概念で語られるものではない。この強い自尊心が「ジャズと呼ぶな。ソーシャルミュージックだ」との言葉に凝縮されていた。正統派の伝記映画ではないが、空白の時を虚実と愛で埋める奇妙なエネルギーを感じる作品だ。ラストのセッションシーンに登場する、ハービー・ハンコックやアントニオ・サンチェスら、大物ミュージシャンの出演も見逃せない。
【60点】
(原題「MILES AHEAD」)
(アメリカ/スティーヴン・ベーグルマン監督/ドン・チードル、ユアン・マクレガー、エマヤツィ・コーリナルディ、他)
(なりきり度:★★★★★)
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MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間|映画情報のぴあ映画生活

ジェーン

ジェーン [Blu-ray]
西部の荒野で、ジェーンは、夫ハムと娘の3人で穏やかに暮らしていた。だがハムが、悪名高いビショップ一家の首領ジョン・ビショップに撃たれて重症を負う。すべてを奪い去るまで執念深く追い続けるビショップの恐ろしさを知るジェーンは、瀕死の夫と愛する娘を守ろうと決意。すがる思いで、南北戦争の英雄でかつての恋人・ダンに助けを求める。迫る敵を前に、それぞれの過去、そして人生の真実が徐々に明らかになる中、ジェーンは運命に抗い、戦うことを決める…。

西部・ニューメキシコを舞台に、夫を撃った悪漢に戦いを挑む女性を描く西部劇「ジェーン」。過去の作品を見ても、西部劇での女性の活躍は限られるが、唯一、異彩を放つキャラは有名な実在の女傑カラミティ・ジェーンだ。その人と同じ名前を持つ本作のヒロインは、家族を守るために銃を持つ。主人公を演じるナタリー・ポートマンは、製作も務めているので、本作への思い入れは強いのだろう。だが演技や演出はすべて淡々としている。というのも復讐劇やアクションよりも、二人の男性の間で心が揺れる女性のメロドラマの割合が大きいのだ。これを受け入れられるかどうかで、本作の評価が分かれるだろうし、伝統的な西部劇を期待していると肩透かしをクラうはず。だが決して簡単ではなかった当時の女性の生き方や思いをすべて背負って、最後に悪に立ち向かう姿は、ご都合主義と思いつつも、やはり胸がすく。男優陣は演技派のイイ男が揃っているが、ユアン・マクレガーは悪役としては線が細すぎてちょっとミス・キャスト。派手でかっこいい西部劇というより、フェミニズム映画の色合いが濃いので、女性ファンも抵抗なく見られるだろう。
【50点】
(原題「JANE GOT A GUN」)
(アメリカ/ギャヴィン・オコナー監督/ナタリー・ポートマン、ユアン・マクレガー、ジョエル・エドガートン、他)
(フェミニズム度:★★★★☆)
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ジェーン|映画情報のぴあ映画生活

われらが背きし者

われらが背きし者 (岩波現代文庫)
イギリス人の大学教授ペリーとその妻ゲイルは、休暇で訪れたモロッコで、偶然知り合ったロシアンマフィアのディマから、組織のマネーロンダリング情報が入ったUSBをMI6(イギリス秘密情報部)に渡して欲しいと懇願される。ペリーは当惑するが、ディマとその家族の命が狙われていると知ってやむを得ず引き受けることに。だが、その日を境にペリーは世界を股に掛けた危険な亡命劇に巻き込まれてゆく…。

平凡な大学教授とその妻が、マフィアの依頼を引き受けたことで危険な運命に巻き込まれるサスペンス「われらが背きし者」。原作は「裏切りのサーカス」など多くの作品が映画化されている作家ジョン・ル・カレの小説だ。ジョン・ル・カレといえば、英国の秘密情報部MI5とMI6出身ということで、本格スパイ小説が多いのだが、本作はMI6は登場するものの、むしろヒッチコックばりの“巻き込まれ型サスペンス”という方が的確だろう。映画序盤からショッキングな殺人シーンがあり、ただならぬ気配を醸し出しながら、パナマ文書を彷彿とさせる国家的大事件へと発展していく。とはいえ、そもそも筋金入りのロシアンマフィアが、英国の政治家も関与する不正の情報という超重要機密を、見ず知らずの人間に託すだろうか?という根源的な疑問も。それでも、ごく普通の民間人が、国家的な陰謀劇に精一杯の勇気で立ち向かう様は、観客にスリリングな冒険をより身近に疑似体験させてくれる。ディマとその家族、そして告発の行方がどうなるかは映画を見て確かめてほしい。ダミアン・ルイス演じるMI6の工作員ヘクターは敵か味方か判別しにくく、共感しにくいキャラクターなのだが、彼が上司や政治家とのあつれきの中で行動し、時に無謀な作戦に出たり、挫折感を味わう様は、綺麗ごとだけではすまないスパイ組織の実情を知るジョン・ル・カレらしい設定だ。原題は“裏切者の同胞”の意味。出演者は主演のユアン・マクレガーをはじめ、実力派が揃う。地味だがいぶし銀のようなスパイ・エンタテインメントである。
【65点】
(原題「OUR KIND OF TRAITOR」)
(英・仏/スザンナ・ホワイト監督/ユアン・マクレガー、ステラン・スカルスガルド、ダミアン・ルイス、他)
(巻き込まれ度:★★★★★)

8月の家族たち

8月の家族たち ブルーレイ&DVD セット (初回限定生産/2枚組) [Blu-ray]
父親の失踪をきっかけに再会した家族の愛憎劇「8月の家族たち」。豪華俳優たちの演技合戦の中でも、やはりメリル・ストリープが群を抜く。

8月のある暑い日。父親が失踪したとの知らせを受けて、オクラホマの実家に3姉妹が集まる。夫婦仲がうまくいってない長女バーバラは生真面目すぎる性格で暴走しがち。結婚もせずに実家に残った次女アイヴィーは秘密の恋に胸をときめかせているし、奔放な三女カレンは胡散臭い婚約者を連れている。闘病中だが気が強く、率直で毒舌家の母バイオレットと、その妹家族が彼らを迎える。生活も思惑も悩みもバラバラな彼らは、言わなくてもいい本音をぶつけあい、ありえない隠し事が次々に明るみに出ることに…。

もともとは舞台劇というだけあって、物語はほとんど家の中だけで進む会話劇だ。冒頭に父親役のサム・シェパードが「妻は薬中、俺はアル中」とボヤくセリフがあるが、何しろこの家族、全員が問題を抱えている。そんな彼らが一堂に会する以上、平穏な再会で済むはずはない。これでもか!というくらい名優たちが登場するが、女優たちはハイ・テンションの熱演、男優たちはクールで哀愁ただよう名演である。中でも、毒舌家の母親ヴァイオレットを演じるメリル・ストリープの、怪演に近い熱演は、本作最大の見どころだ。ガンを患い薬が手放せないため、いつもラリった状態なのだが、ヘロヘロで時にはろれつが回らないのに、家族と他人と自分をグサリと刺し貫くセリフを次々に吐き出していく。思いがけない真実に対する彼女の態度もまた毒気たっぷりだ。やはりこの人は正真正銘の名女優なのだと改めて感服する。一方、そんな母親の気質を色濃く受け継ぎながら、母親と対決し乗り越えていく長女バーバラは、本作のキャラクターの中でも最も複雑な魅力を持った女性だ。父親の諦念と母親の絶望を知ったうえに“秘密”という爆弾まで背負わされては、キレるのも無理はない。機能不全に陥った家族の愛憎劇は、もちろん安易なハッピーエンドなど拒否する形で終わるが、バーバラを演じるジュリア・ロバーツがふっきれたような表情で前を向くラストが印象に残る。あまりにも演劇的な演出は個人的には好まないが、この作品の俳優たちの演技には圧倒された。“役者の芝居を見る”のなら、この映画で決まりである。
【75点】
(原題「AUGUST: OSAGE COUNTY」)
(アメリカ/ジョン・ウェルズ監督/メリル・ストリープ、ジュリア・ロバーツ、ユアン・マクレガー、他)
(愛憎劇度:★★★★★)
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砂漠でサーモン・フィッシング

砂漠でサーモン・フィッシング Blu-ray砂漠でサーモン・フィッシング Blu-ray [Blu-ray]
途方もない夢が人生を輝かせる「砂漠でサーモン・フィッシング」。釣りの奥義が人生の奥義と重なる。

真面目な水産学者のフレッド・ジョーンズ博士は、投資コンサルタントのハリエットから「砂漠の国イエメンで鮭釣りを」という依頼を受ける。依頼人はイエメンの大富豪シャイフで彼は大の釣り好きだ。フレッドは最初は「不可能!」と一括する。しかし、中東情勢悪化の批判をかわしたい政府が話を聞きつけ、高飛車な広報官マクスウェルはフレッドにプロジェクトを実現すべく専念するよう厳命。強力なバックアップを背景に突拍子もない夢物語が実現に向かって動きだす。おおらかで人間味にあふれ、スケールの大きな“釣り人”シャイフ、仕事ができ女性としても魅力的なハリエットと共に、フレッドは次第にこの一見バカげたイエメン鮭プロジェクトにのめり込んでいくのだが…。

原作であるポール・トーディのベストセラー小説は、全編がメール、メモ、手紙で構成されている。それを見事に脚本化した実力とセンスこそがこの映画最大の魅力といえよう。「砂漠の国イエメンで鮭釣りがしたい」。この無謀な望みは、どこからみても“ありえない”。だがそれを“ありえる”プロジェクトにするのは、大富豪の桁外れの財力と、国家の広報戦略の思惑、さらに不可能な挑戦に心からのめり込む純粋さの3つの要素が奇跡的に合致したからだ。シャイフは財力にまかせて趣味の鮭釣りを思いついたのではなく、砂漠に水を引く長期計画で国民の生活を変えようと壮大な夢を持っていた。シャイフが言う「釣り人には信じる心がある」というセリフが印象深い。糸を垂れ、魚がくるのを信じてひたすら待つその信念は、思想や宗教を越えた人生の奥義のようで、悟りの境地に近いものだ。壮大すぎる上にバカバカしい計画もまた、信じるところからすべてがスタートし、それに係わる人間たちに思いがけない人生の“釣果”をもたらすことになる。映画は、プロジェクト実現への熱血チャレンジ物語になるかと思ったら、そう単純ではなく、政治批判やロマンスをコメディタッチでからめながら、終盤はサスペンスへと変化し、最終的には風変わりな感動を届けてくれるヒューマンドラマへと帰着する。それはまるで、鮭が川を上流へと遡上するかのごとく、はたまた、源流から涌き出た一滴の水が多いなる旅を経て大河へと至るがごとく。見終わったら、何かさわやかなロードムービーを見たような気持ちになる。
【70点】
(原題「SALMON FISHING IN TH YEMEN」)
(イギリス/ラッセ・ハルストレム監督/ユアン・マクレガー、クリスティン・スコット・トーマス、エミリー・ブラント、他)
(爽やか度:★★★★☆)
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エージェント・マロリー

エージェント・マロリー [Blu-ray]エージェント・マロリー [Blu-ray]
女子総合格闘技界の女王ジーナ・カラーノをヒロインに大抜擢した「エージェント・マロリー」。本物ならではの肉弾戦はさすが。

並外れた戦闘能力と、知性、美貌を兼ね備えたマロリー・ケインは、スパイ業界にその名を轟かせるフリーランスの凄腕エージェントだ。民間軍事企業のトップで元恋人でもあるケネスから依頼を受け、バルセロナで人質救出作戦を遂行した後、新たなミッションのためダブリンへと旅立つ。だがそこでマロリーは、殺人の濡れ衣を着せられ、国際的な指名手配犯に仕立てられてしまう…。

超凄腕の女スパイを主人公にしたスパイ・アクションだが、組織に裏切られ罠にハメられたスパイが巨悪に立ち向かうという手垢のついたプロットを、名匠スティーヴン・ソダーバーグは、ジーナ・カラーノという新しい“素材”を得たことで、フレッシュな感覚で演出している。ジーナ・カラーノは、アメリカの総合格闘技界の女王で、バツグンの身体能力と美貌を兼ね備えたスターだ。演技経験ゼロの彼女を、ユアン・マクレガー、マイケル・ファスベンダー、アントニオ・バンデラス、チャニング・テイタムといった実力派スターが脇からガッチリと支えているのだが、そんな人気俳優たちをジーナが、演技とはいえ、片っ端からやっつけるのだから痛快だ。物語は、時系列をバラバラにした、ソダーバーグお得意のスタイリッシュな語り口で描かれる。アメリカの田舎町で同僚スパイをたたきのめし、偶然居合わせた青年を人質まがいの道連れにして、彼にそれまでの経緯を語ることで徐々に彼女が置かれた状況と、黒幕の影が見えてくる仕掛けだ。私はこのジーナ・カラーノという人を本作で初めて見たが、なるほど魅力的。劇中、別のスパイと夫婦を装ってドレスアップする場面の美しさ、一転してそのスパイと死闘を繰り広げる激しさ、凛々しさ。格闘技の専門的な技は知らなくても、その肉弾戦のスピードと美しさにはしばし見惚れるはずだ。どんな苦境に陥っても戦い続けるタフなヒロインは、映画では多く見かけるが、これほどの“本物”は初めて。ジーナありきの企画だし、アート系のソダーバーグ作品好きにはちょっととまどう作品かもしれない。だが、こうやって観客が予想しない作品を繰り出してくるあたり、いかにもソダーバーグらしい。
【55点】
(原題「HAYWIRE」)
(アメリカ/スティーヴン・ソダーバーグ監督/ジーナ・カラーノ、マイケル・ファスベンダー、ユアン・マクレガー、他)
(本物アクション度:★★★★★)
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人生はビギナーズ

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人生に臆病な主人公が知る“始まり”を描く秀作「人生はビギナーズ」。愛犬アーサーが超がつくほど最高!!

38歳独身のアートディレクターのオリヴァーは、臆病な性格のため恋人もおらず、“友人”は仕事と犬だけだ。そんなオリヴァーの父で末期ガンの宣告を受けたハルが、突如「自分はゲイだ」とカミングアウトする。病に侵されながらも残りの人生を楽しむ父の姿を見て、次第にオリヴァーも心を開き始める。やがて訪れる父の最期。傷心のオリヴァーは、風変わりな女性アナと知り合い恋に落ちるのだが…。

文学の世界に私小説というものがある。ならば私映画というものがあったっていい。これは監督のマイク・ミルズが自らの体験を映画にした、とびきり素敵なプライベート・ストーリーだ。父のカミングアウトによって主人公の心にさまざまな葛藤が生まれる。「75歳で余命僅かの父に若い男の恋人?!」「両親は本当に愛し合っていたのか?」「ふたりの間に生まれた自分って?!」。だが自分らしく生きると決めた父の潔さは、何よりもオリヴァーの背中を押してくれた。実体験に基づいているだけに、ディテールが非常にリアル。それでいて絶妙なユーモアが漂う。父と暮らした日々、恋人アナとの現在、父やオリヴァー自身の過去という異なった時制を行き来しながら物語ることで、肉親の死という重すぎる事実と喪失感を少しずつ軽くしていく演出も上手かった。優柔不断で臆病者のオリヴァーを演じるユアン・マクレガーが適役だが、何といっても父ハルを温かく魅力的に演じきった名優クリストファー・プラマーが素晴らしい。マイク・ミルズ監督初のオリジナル脚本によるストーリーは、主人公が勇気を持って殻を破り一歩踏み出す瞬間を辛抱強く見守っている。その優しさを一番よく知っているのは、オリヴァーの愛犬でジャックラッセル・テリアのアーサーだ。アーサーのウィットに富んだ心の声が字幕というのがこれまた良い。さらにさらに!最高なのはこの映画のラストである。“The End”や“Continue”ではなく、表れる文字は原題でもある“Beginners”。これを見た瞬間、この映画は宝物になった。
【75点】
(原題「BEGINNERS」)
(アメリカ/マイク・ミルズ監督/ユアン・マクレガー、クリストファー・プラマー、メラニー・ロラン、他)
(人生讃歌度:★★★★★)
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映画レビュー「ゴーストライター」

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◆プチレビュー◆
重層的な仕掛けと丁寧な演技で魅せる政治ミステリー。主人公に名前がないのが象徴的だ。 【70点】

 元英国首相アダム・ラングの自叙伝執筆を、破格の報酬で依頼されたゴーストライターは、ラングが滞在している米国のとある孤島へと向かう。取材を重ねると、やがてラング自身の過去に秘密があることに気付くのだが…。

 ゴーストライターとは、他人に成り代わって、文章や作品を代作する人のことを言う。主人公は最初から今回の仕事には乗り気ではないのだが、そのイヤな予感は見事にあたる。曇天の孤島、門外不出の原稿、前任者の不審な死。主人公はラングに初めて会う時、自分をこう紹介する。「僕はあなたのゴーストです」。幽霊なら最初からいないも同然。特別な能力も武器もない彼は無力なゴーストだが、幽霊だからこそ多くの謎に音もなく忍び寄れる。

 小さな手がかりや偶然から、前任者の足跡を追い、やがて驚愕の事実にたどり着くプロセスが実に緻密だ。ラングの戦争犯罪から、CIAとの結託、自叙伝の原稿に埋め込まれた真実を知る頃には、観客は、ピアーズ・ブロスナン演じるラングの顔が、元英国首相トニー・ブレアに見えてくる。国家規模の“身売り”の話に、英国の凄腕スパイ、ジェームズ・ボンド役でならしたブロスナンをキャスティングするなど、ポランスキーもヒネリが効いたことをする。

 英国系の俳優たちの抑えた演技がこの映画の魅力のひとつだ。ゴースト役のユアン・マクレガーの頼りない風情といい、トム・ウィルキンソンの怪しげな気配といい、役者の使い方が上手い。共通するのは、どこか居心地の悪そうな表情だ。パリ生まれのユダヤ系ポーランド人であるポランスキーは、米、英、仏と各国で映画を撮った異邦人。孤独なまなざしは常に作品ににじみ出る。

 ゴーストとは、誰の、いや、何のことだったのか。過去の秘密が染み込んだ原稿が宙に舞うとき、指導者や国家さえ操る不気味な影が見える。本作の主人公には名前がない。ゴーストは普遍的で、代わりはいくらでもいるのだ。大掛かりなCGや派手なアクションは何一つないが、小さな伏線が最後には見事に実を結ぶ、ミステリー映画の王道のような作品で、映画ファンにはたまらない。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)ミステリアス度:★★★★☆

□2010年 仏・独・英合作映画  原題「THE GHOST WRITER」
□監督:ロマン・ポランスキー
□出演:ユアン・マクレガー、ピアース・ブロスナン、キム・キャトラル、他

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ブローン・アパート

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社会派ドラマなのか、ミステリーなのか、ラブストーリーなのか。軸がはっきりしないので、せっかくの魅力的なキャストが生きてこない残念な作品だ。ロンドンに住む若い母親は、警察の爆弾処理班として働く夫と4歳になる息子と共に、平穏に暮らしていた。決して裕福ではく、夫の仕事は心配がつきものだが、それでも良き母、良き妻として過ごしていた彼女が、ふとしたことから知り合った新聞記者のジャスパーと関係を持ってしまう。ある日、ジャスパーとの情事の最中に、サッカー観戦に出かけた夫と坊やが爆破テロ事件に巻き込まれて命を落とすという悲劇が起こってしまう…。

テロの犠牲者の顔写真を巨大なバルーンにプリントして街の上空に浮かべるオブジェのような映像は、決して消えない悲劇の記憶を際立たせ、思わずハッとするセンスを感じる演出だ。だが、映画はテロの悲劇を浮き彫りにすることには明らかに失敗して焦点のボヤけた印象しか残さない。物語は、国際テロリストの大物であるオサマ・ビンラディンへの手紙という形で語られる。この語り口が、愛人との情事に溺れた若い母親の罪の意識とマッチせず、不自然なのだ。しかも、テロへの静かな抗議を描く社会派ドラマなのかと思っていたら、巨大サッカースタジアムでの爆破テロには、実は夫の上司も関わるある秘密があって…というサスペンス風な展開に。本当に愛していたのかどうかも分からないジャスパーとの関係もはっきりしないまま、ヒロインは街をさまよい、テロにつながる人物の家族に接触するがその目的も不明。これでは、見ている側はストーリーに集中できない。そもそも、主人公が欲望のままに新聞記者と関係を持つという設定が必要とも思えないのだ。ミシェル・ウィリアムズとユアン・マクレガーという実力派の共演なのに、これではあまりに惜しい。ヒロインには名前がなく、ただ“若い母親”というだけ。命を落とすことはなくてもテロに巻き込まれる可能性は、誰にでもあるということか。実際に地下鉄での爆破テロが起こったロンドンを舞台にしたことでリアリズムは感じられる。音楽は梅林茂が担当。遠い日に坊やと一緒に海で遊んだ幸せな記憶が繰り返し描かれ、浜辺を走る母子のかげろうのような姿が記憶に残った。
【40点】
(原題「Incendiary」)
(イギリス/シャロン・マグアイア監督/ミシェル・ウィリアムズ、ユアン・マクレガー、マシュー・マクファディン、他)
(共感度:★☆☆☆☆)


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ヤギと男と男と壁と

ヤギと男と男と壁と [DVD]ヤギと男と男と壁と [DVD]
マジですか?!思わず確認したくなるのは、米軍に実在したという超能力部隊のお話。米ソにはスーパーナチュラルな力を軍事力として利用するため、研究を重ねてきた歴史があることは知られているが、こんなにも根が明るくノホホンとされては、戦争そのものがバカバカしくみえてくる。2003年、地方紙の記者であるボブは、離婚の痛手から立ち直るべく、スクープを求めてイラク戦争の取材に赴く。偶然クウェートで知り合ったリンという男が、以前取材した、米軍の超能力特殊部隊“新地球軍”所属の軍人と知り、イラクに行くというリンに同行することに。道中、リンは、80年代に設立された超能力部隊の驚くべき歴史を語り始める…。

コメディ・タッチの娯楽作だが、原作はジョン・ロンスンのノンフィクション「実録・アメリカ超能力部隊」。れっきとした実話がベースなのだが、いったいどこまでが本気…、いや、本当なのかと首をかしげたくなる。なにしろ、壁を突き抜け、見つめるだけでヤギを絶命させるパワーを持つ超能力プロジェクトの名前は“ジェダイ計画”だ。この話の語り部が「スター・ウォーズ」で若きオビ・ワン・ケノービーを演じたユアン・マクレガーなのだから、これだけで掴みは成功といえよう。超能力の師であるジェフ・ブリッジスや、隊員のジョージ・クルーニー、ケビン・スペイシーという並み居るオスカー俳優が、楽しげに演じているおかげで、物語はリズミカルかつ軽妙なテイストで進む。彼らの必殺技は、キラキラ眼力。そもそも、この力、超能力というより、ベトナム戦争時のカルチャー・ムーブメントである、ラブ・アンド・ピースのヒッピー文化に近いのだ。自称エスパーのリンのやることはどこまでもアホらしく効力などないのだが、たまにはまぐれ当たりも。どうだい、信じてみたくなっただろ?と言わんばかりのクルーニーの眼力が、ボブの人生を少しだけ優しい方向へと向かわせる。地球上から争いごとをなくすための超能力部隊の奮闘がコミカルかつアイロイニカルに描かれるが、結局は、最新テクノロジーも怪しげな超能力も、すべては戦争に使われてしまうという、シニカルなメッセージも透けて見えた。演技達者がズラリと揃うが、なぜか女っけはなし。ちょっと不思議である。
【60点】
(原題「THE MEN WHO STARE AT GOATS」)
(アメリカ・イギリス/グラント・ヘスロヴ監督/ジョージ・クルーニー、ジェフ・ブリッジス、ユアン・マクレガー、他)
(実践的度:★☆☆☆☆)


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プロフィール
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◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
◆こんなお仕事やってます:
新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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