映画通信シネマッシモ


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

ヴィゴ・モーテンセン

はじまりへの旅

はじまりへの旅 [DVD]
ベン・キャッシュは、アメリカ北西部の森の奥深くに住み、6人の子どもを男手一つで育てている。世間から隔離された子どもたちは、父親ベンの厳格なサバイバル訓練と熱心な英才教育によって、アスリート並の体力と天才的な頭脳を獲得していた。そんなある日、長く入院中だった母の訃報を受けて、一家は葬儀出席と母の遺言である、ある願いを叶えるため、葬儀の行われるニューメキシコまでの2400キロの旅に出る。世間知らずの彼らは行く先々で騒動を起こしながら、目的地を目指すが…。

文明社会から離れて森の奥で暮らす風変わりな一家が、外界と接触しながら旅をするロード・ムービー「はじまりへの旅」。大自然の中で世間から隔離して子どもを育てるのは、インターネットに依存せず、汚れた資本主義に触れさせないため。70年代のヒッピー・カルチャーを引きずったかのような父親は、子どもへの愛情は人一倍だが、その教育方針は激しく偏っていて、洗脳ともいえるものだ。思想家チョムスキーは知っていても、コーラやハンバーガー、ナイキやアディダスも知らない子どもたちは、一般社会で生きていけるのだろうか。初めて森を出て旅をした子どもたちは、それまで絶対だと思っていた父親と彼の考え方に矛盾を感じ始める。外の世界で生きるなら、他者の価値観にも敬意を払うべきだということも学んでいく。子どもたちは、初恋(あっという間に失恋!)や、祖父母の愛情といった“本には載っていない体験”を通して成長していくのだ。幼い末娘を大人扱いし、自ら命を絶った母のことも子どもたちに包み隠さず伝えようとするベンの教育方針には、さまざまな意見があるだろう。それが当然だ。だがスティーブと名付けたバス(キャンピンカー)に乗っての長い旅は、一家に現実に立ち向かう力を与え、それぞれの未来を示してくれた。母の最後の願いを叶えるシークエンスや、チョムスキーに傾倒するベンがヒゲを剃って新しい人生を見据える場面は、ある種の崇高さに満ちている。育児や教育の本質を改めて考えさせられるが、そんな難しいテーマを、ユーモアとペーソスをもって描いた語り口がとてもいい。作り手の優しいまなざしを感じるこの作品を、好きにならずにはいられない。
【75点】
(原題「CAPTAIN FANTASTIC」)
(アメリカ/マット・ロス監督/ヴィゴ・モーテンセン、ジョージ・マッケイ、フランク・ランジェラ、他)
(ユーモア度:★★★★☆)
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涙するまで、生きる

涙するまで、生きる [DVD]
フランスからの独立運動が高まる1954年のアルジェリア。元軍人で今は小学校の教師をしているダリュのもとに、殺人の容疑をかけられたアラブ人のモハメドが連行されてくる。ダリュは、モハメドを裁判にかけるため山の向こうの町まで送ることになるが、復讐を誓うものたちの襲撃や反乱軍の襲撃に遭遇。共に危機を切り抜けるうちに、二人の間には友情が芽生え始める…。

文豪アルベール・カミュの短編小説「客」をベースにしたロードムービー「涙するまで、生きる」は、静かなたたずまいだが、不条理や葛藤がじわりと浮かび上がり、たとえ無力だとしても行動しなければならないと訴える。モハメドの罪と動機は、聞けばあまりにも悲劇的だが、彼は、残された者を守るため、自らの名誉を保つため、最も望ましい形の死を切望するしかないのだ。一方で、教師ダリュの諦念の表情には、フランス人なのにアルジェリアで生まれ育ち、アンデンティティーを模索し続けたカミュの宙ぶらりんの姿がダブる。それでも、命をかけて荒涼とした道を行く2人がやがて友情を育み、ついにはある決断を下すラストでは「決してあきらめるな」というメッセージがこだまするのだ。英語、スペイン語を話すデンマーク人の国際俳優ヴィゴ・モーテンセンは、本作ではフランス語とアラビア語を話している。この俳優の無国籍なムードが、民族間の対立による憎悪の無意味さを俯瞰しているようにみえる。
【65点】
(原題「LOIN DES HOMMES/FAR FROM MEN」)
(フランス/ダヴィド・オロファン監督/ヴィゴ・モーテンセン、レダ・カテブ、アンヘラ・モリーナ、他)
(友情度:★★★★☆)
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約束の地

約束の地 [DVD]
1882年。デンマーク人のディネセン大尉は、アルゼンチン政府軍による先住民掃討作戦に参するため、美しい15歳の娘インゲボルグを連れてパタゴニアにやってくる。だが娘は若い兵士と駆け落ちし、海辺の野営地から忽然と姿を消す。愛する娘を必死で探す父ディネセンだったが、険しい地形や思わぬ障害に阻まれ、広大な荒野で孤立してしまう。やがて一匹の犬に導かれるように、不思議な世界へと迷い込むが…。
これは、寓話か、はたまた神話か。何とも変わった手ざわりの映画だ。まず画面のサイズが不思議で、四隅が丸い変形スタンダードという異形のスクリーンサイズに驚く。物語がこれまた幻想的で、パタゴニアの荒々しい自然の中に放り込まれた人間が、いつしか吸い込まれ同化していくかのようなストーリーだ。いなくなった娘を探して彷徨う父親は、荒野の洞窟で一人の老婦人と出会い語り合う。ここはもはやこの世ではないのだろうか、と思ってみていると、案の定、終盤、唐突な展開に。正直、面食らうのだが、不思議と好印象が残るのは、パタゴニアの原始的風景に魅了されてしまったからかもしれない。国際的に活躍する名優ヴィゴ・モーテンセンが惚れ込んだという、アルゼンチン人監督のリサンドロ・アロンソ。この人の作品を見るのは初めてだが、タダモノではないとみた。カウリスマキ映画でおなじみの撮影監督ディモ・サルミネンがとらえる変幻自在の映像もまた、大きな魅力になっている。ラテンアメリカ文学でよく形容される、日常と非日常が混濁するマジックリアリズムのようなロード・ムービーだ。
【65点】
(原題「JAUJA」)
(アルゼンチン・デンマーク・仏・メキシコ・米・独・ブラジル・オランダ/リサンドロ・アロンソ監督/ヴィゴ・モーテンセン、ビルビョーク・マリング・アガー、ギタ・ナービュ、他)
(摩訶不思議度:★★★★☆)


ギリシャに消えた嘘

ギリシャに消えた嘘 [Blu-ray]
人を殺め逃避行をする夫婦と彼らに巻き込まれた青年の運命を描くサスペンス「ギリシャに消えた嘘」。謎解きの醍醐味やスリルはないが、クラシカルな魅力が楽しめる。

1962年のギリシャ、アテネ。ツアーガイドの青年ライダルは、優雅なアメリカ人紳士チェスターと彼の若くて美しい妻コレットに出会う。だがリッチそうなチェスターの裏の顔は詐欺師で、ホテルを訪ねてきた探偵を誤って殺してしまう。ホテルに偶然居合わせたライダルは、国外逃亡を図る夫妻と同行することに。クレタ島へと向かった3人は警察に追われるが、やがてライダルとコレットが親密になり、3人の関係に変化が訪れる…。

原作は「太陽がいっぱい」の作者として有名なパトリシア・ハイスミスの「殺意の迷宮」。ギリシャやトルコでロケされた地中海のムードが異国情緒を醸し出し、1960年代のクラシックな衣装もまた優雅だ。クラシックなのは衣装だけではない。この物語、殺人事件は起こるが、ミステリーやサスペンスとしては、いささか弱い。イマドキの派手なチェイスや血生臭い描写があるわけでもない、クラシックというより古めかしい展開なのだ。では見どころがないかと言えば、決してそうではない。詐欺師のチェスターに父親の面影を重ねるライダルの屈折した感情、コレットと親密になるライダル、チェスターとの歪な三角関係、ニヒルなチェスターが警察に追いつめられた上、嫉妬にかられて弱さを暴露していくなど、心理劇として見るならば、かなり見ごたえがある上質なドラマだ。製作陣が、渋いスパイ映画「裏切りのサーカス」のスタッフというのも納得がいく。ラスト、イスタンブールの路地裏での思いもよらない運命の後に、随所で語られるギリシャ神話のメタファーが浮かび上がった。
【60点】
(原題「TWO FACES OF JANUARY」)
(英・仏・米/ホセイン・アミニ監督/ヴィゴ・モーテンセン、キルステン・ダンスト、オスカー・アイザック、他)
(エレガント度:★★★★☆)
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偽りの人生

偽りの人生 [Blu-ray]
兄に成りすまし人生をやり直そうとする男がたどる運命を描くサスペンス「偽りの人生」。一人二役に挑むヴィゴ・モーテンセンが素晴らしい。

ブエノスアイレスで妻と暮らす裕福な医師アグスティンは、表向きは幸せでも、重圧と空虚感を感じていた。ある時、長く音信不通だった一卵性双生児の兄ペドロが訪れ、末期ガンであることを告げ自分を殺してくれと懇願する。突然の申し出に困惑するアグスティンだったが、衝動的にペドロを殺害する。アグスティンは自分が死んだことにしてペドロに成りすまし、新たな人生をスタートさせるため少年時代をすごした島へと戻った。だが生前ペドロが関わっていた闇の犯罪に巻き込まれてしまう…。

大都会ブエノスアイレスから北へ30km程のデルタ地帯にあるティグレ。ここが主人公が育った場所だ。密林の中を流れる川をボートで行くシーンが繰り返し登場するが、これは2つの世界をつなぐ運命のメタファーなのだろう。満ち足りた裕福な生活とおぞましい犯罪の世界、大都会と密林、生と死、善と悪。何より、姿形はそっくりでも生き方は正反対の双子の兄弟。すべてが対比し互いに惹かれあっているかのようだ。たとえ一卵性双生児でも長年離れていた兄弟があっさり入れ替わるなど物理的には不可能なのだが、物語は、ラテンアメリカ特有の不条理や幻想を肯定する世界。なぜかすんなりと受け入れられてしまうから不思議である。主人公アグスティンは自分の人生を捨て、兄の人生を生きるという大きな嘘をつくが、その嘘を通して皮肉にも真実にたどり着く。それは兄に焦がれ、自分の中に兄の存在を見出したこと。ペドロに成りすました人生はなるほど偽りだが、自分が望む場所で望む生き方をするという点では真実でもあるのだ。無論、嘘と真実は複雑にからみあい、生前ペドロが手を染めていた犯罪は、因縁や悲劇的な運命を手繰り寄せることになる。暴力的なのにどこか哲学者のような兄ペドロが、死ぬ直前に浴室で本を読んでいて、それがウルグアイ出身の作家オラシオ・キローガの短編「Los desterrados(故郷喪失者)」であることは象徴的だ。“死の作家”との異名をとるキローガの世界は、そのまま本作の世界観に重なる。逃れられない運命としての死、呪われているのに甘美な到達点のような死は、リアリティと幻影が渾然一体と化すキローガそのもの。アルゼンチンで少年時代をすごしたヴィゴ・モーテンセンが、全編スペイン語で一人二役の難役を繊細に演じ分けていて、見事な名演だ。
【70点】
(原題「TODOS TENEMOS UN PLAN」)
(アルゼンチン・スペイン・独/アナ・ピーターバーグ監督/ヴィゴ・モーテンセン、ソレダ・ビジャミル、ダニエル・ファネゴ、他)
(自分探し度:★★★★☆)
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危険なメソッド

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二人の偉大な心理学者と美しい患者との関係をスリリングに描く「危険なメソッド」。患者兼愛人をキーラ・ナイトレイが異様な表情で怪演する。

1904年、スイス。若き精神科医のユングは、尊敬する精神分析学の大家フロイトが提唱する談話療法を、美しい女性患者ザビーナに試みる。その療法は効果を発揮し、ザビーナのトラウマの原因を突き止めることに成功した。だがユングとザビーナはやがて医者と患者の一線を越え、親密な関係に陥る。それまで親子にも似た師弟関係で結ばれていたユングとフロイトだが、ザビーナをめぐるユングの葛藤により、彼らの友情にも亀裂が生じることになる…。

共に精神心理学の礎を築いた偉大な心理学者ジークムント・フロイトとカール・グスタフ・ユングの二人は、主義主張の違いから袂を分かったとされてきた。本作は、その決別の影に歴史上に実在したロシア系ユダヤ人女性ザビーナ・シュピールラインの存在があったというスタンスでストーリーを紡いでいく。劇中には、深層心理をあぶり出す“言語連想テスト”やフロイトが提唱した“夢分析”など、知的なエピソードが登場するが、それらを安易に映像化せず、あくまでも会話中心で進めていく演出は、オリジナルの舞台劇を意識しているのだろう。一方で、性的トラウマを持つ美しい女性ザビーナに関しては、倒錯的なラブシーンも含めて、あくまで挑発的に描く。このあたり、精神的、肉体的な歪みを嗜好するデヴィッド・クローネンバーグ監督らしい。なるほどユングとザビーナは、愛人関係から破局に至り、ザビーナはフロイトに助けを求める。しかし、ユングとフロイトの関係性は複雑で、人種的な背景や経済力の違いなどもからみ、ひと言では語れない。そもそも、何でもかんでも性的なものに結びつけるユダヤ人フロイトと、リッチな妻のおかげで優雅に暮らしながら愛人に溺れるユングは、学問的なこと以外でも相容れない。だが、欠点があり、エゴ丸出しの二人の天才心理学者の思想に大きな影響を与えたのは、不安定だが魅力的な一人の美女だったという設定はどこかロマンチックで、スリリングな心理劇として楽しめるものだ。ユングが理性を捨ててザビーナを愛するきっかけを作る快楽主義者を演じるのは、ヴァンサン・カッセル。ごく短い出演時間だが、強烈な印象を残している。加えて、歪んだ顔で激高する姿や、Mな性癖に陶酔するなど、怪演に近い熱演を見せるキーラ・ナイトレイの演技は、異様な迫力で圧倒される。
【60点】
(原題「A DANGEROUS METHOD」)
(英・独・カナダ・スイス/デイヴィッド・クローネンバーグ監督/マイケル・ファスベンダー、ヴィゴ・モーテンセン、キーラ・ナイトレイ、他)
(スキャンダラス度:★★★★☆)
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善き人

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悪しき時代の前でなす術がない小市民が、結果的に迫害に加担する苦い物語「善き人」。生き残るために得たのは罪悪感と深い後悔の念だ。

ナチスが独裁政権を築いた1930年代のベルリン。大学教授のジョンは、過去に書いた小説がヒトラーに気に入られ入党せざるをえなくなる。ジョンがナチスの中で出世するのとは対照的に、ジョンの親友でユダヤ人の精神科医モーリスは苦境に陥った。やがて戦況が悪化し、モーリスは国外脱出を希望してジョンに助けを求める。ジョンは自分と家族の命を守るか、友情と信念を貫くかの選択を迫られる…。

原作は、英国の劇作家、C.P.テイラーの戯曲。舞台版では、時制が激しく行き来したり、登場人物が突如歌いだすミュージカル仕立てになっていたりと、かなりユニークな作品らしいが、映画は非常にオーソドックスな作りである。描き出すのは、歪んだ時代に生きる善良な人間が、保身ゆえに体制に取り込まれ、結果的に迫害に加担してしまう姿だ。事実、ジョンは、穏やかな文学者で、母親を介護しながら2人の子供を抱えて生活に追われている。ナチズムの台頭を苦々しく思っていても、おとなしくしているしかないのだ。だが文学を規制する上司にも、強引に愛情を迫る教え子にも、入党を強制するナチスに対しても、決してノーと言えない意気地なしでもある。平時なら穏やかな善人でも、その時代、何もしないことは悪に加担するのと同義だった。ラスト、自らの行為の結果に呆然とする主人公の姿が印象的だが、自分一人が体制に抗ってもどうなるものでもなかったという彼の心の中の言い訳が聞こえる気がする。これが特別な財力、権力、そして思想を持たない当時の庶民の偽らざる姿だったのではないかと思えるだけに、やるせなさが苦く広がった。それは現代を生きる私たちに対しても「もし自分ならどう行動したか」と鋭く問いかける。穏やかな知識階級の主人公を演じるヴィゴ・モーテンセンが、社会の邪悪さに染まる善人という繊細な難役を巧みに演じている。
【70点】
(原題「GOOD」)
(英・独/ヴィセンテ・アモリ監督/ヴィゴ・モーテンセン、ジェイソン・アイザック、ジョディ・ウィッテカー、他)
(罪悪感度:★★★★☆)
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善き人@ぴあ映画生活

映画レビュー「ザ・ロード」

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◆プチレビュー◆
荒廃した大地を旅する父と子のロード・ムービー「ザ・ロード」。淡々としてストイックな終末譚だ。 【65点】

 文明が崩壊し人類のほとんどが滅亡したアメリカ。僅かに生き残った人々が互いの人肉を食らう狂気の生き物と化す中、かすかな希望を求めて南を目指す父子がいた。父は幼い息子に、人間のモラルと生きる術を教えるが…。

 原作は、現代米国文学の雄コーマック・マッカーシーがピューリッツァー賞を受賞した同名小説だ。映画の舞台は文明を失って10年以上たった世界。なぜ世界が終ったのかという説明はいっさいない。人間に残された選択肢は、餓死か、自殺か、生存者に食い殺されるか。すでに理性を失くした者たちの蛮行だけがはびこる世界で生きる意味とは何だろう。主人公は息子に「私たちは“火”を運んでいる」と言う。この火とは、希望の灯(ともしび)の意味だ。物語は、一組の父子の旅をヒロイックな要素を排除して淡々と追っていく。
 
 “善き者”であろうとする父が息子に教えるのは、どれほど空腹でも自分たちと同じ人間を食べたりはしないというルールだ。道徳、理性、誇り。それを息子に何としても教えなければならない。さらに、他者だけでなく自分に対しても非情であれということも。父が息子に自殺の方法を教える様が痛ましい。

 ヴィゴ・モーテンセンと、息子役のコディ・スミット=マクフィーの、枯れた熱演が胸にしみる。父子の旅は悲痛なものだが、それでも時にはささやかな癒しの場面も。豊富な食料を見つけて喜ぶ場面もさることながら、自動販売機に残った缶コーラを初めて飲む息子が「おいしい」と目を輝かせる場面は、まるで闇夜に見る明かりように安らぐ瞬間だ。生まれて初めての飲み物コーラを見て「泡が立つんだね」と無邪気に驚く場面は泣けてくる。立ち上がっては消える泡にも似て、この息子は、はかなげで、無垢な存在だ。父子が共に歩いてきた道を離れて海を見た後、彼らには思いがけない運命が待つことになる。

 暗く重い雲に覆われた空、寒冷化が進んだ寒々しい空気、ボロをまとった野獣のような人間たち。こんな荒れ果てた画面の中に、ロバート・デュバルら、名優たちが一見それとはわからぬほどの姿で登場してくる。全員がホームレスのような有様の中、回想の中の母親役シャーリーズ・セロンは、あまりにも美しい。ただ、この母親が心を病み自ら死を選ぶ展開には、不満が残る。父親はなぜ強引にでも妻を引きとめないのか。妻と運命を共にするより息子との先の見えない旅を選ぶその訳に、何も説明はない。観客に委ねたのかもしれないが、ここは説得力のある理由がほしかった。 

 近年、数多く作られている終末映画の中でも、本作のドライなタッチは群を抜く。T・S・エリオットは、その詩「うつろな人間」で、人類が終末を迎えるその時を“これが世界の終わり方だ。世界はパーン!ではなく、メソメソと泣いて終わる”と綴っている。派手でも乱暴でもなく、ゆっくりとフェイドアウトしていく終焉にはヒロイズムもロマンティシズムも存在しない。この映画には人類滅亡というビッグ・イベントでさえも冷淡にみつめる達観したまなざしがある。主人公には、何ら特別の能力はない。その証拠に父も子も名前がない。だがそれ故に普遍的な“私たちの物語”になりうるのだ。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)絶望感度:★★★★☆

□2009年 アメリカ映画 原題「THE ROAD」
□監督:ジョン・ヒルコート
□出演:ヴィゴ・モーテンセン、コディ・スミット=マクフィー、ロバート・デュヴァル、他



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アラトリステ

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中世の時代ものでは善玉の英国に対しスペインは陰謀を企てる悪玉役。名誉回復とばかりにスペイン映画界が巨費をかけ、実際のスペイン史の中に、架空の剣士アラトリステを配し、波乱に満ちた冒険歴史絵巻を作り出した。17世紀、落日の時代へ向かうスペインで、己の剣1本で生き抜く男ディエゴ・アラトリステの半生を描く。アラトリステは義に熱く、一人の女性を愛しぬくアウトローの剣豪だ。日本で言えば、宮本武蔵や柳生十兵衛に近い存在だろうか。全編スペイン語で演じるヴィゴ・モーテンセンの渋い演技が素晴らしい。何より、絵画のように格調高い映像に、見惚れてしまった。
【70点】
(原題「ALATRISTE」)
(スペイン/アグスティン・ディアス・ヤネス監督/ヴィゴ・モーテンセン、エドワルド・ノリエガ、ウナクス・ウガルデ、他)
(品格度:★★★★☆)

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