映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる映画 ◎
「アトミック・ブロンド」「バリー・シール」「あゝ、荒野 後篇」「我は神なり」etc.

堺雅人

ひまわりと子犬の7日間

ひまわりと子犬の7日間(Blu-ray)ひまわりと子犬の7日間(Blu-ray) [Blu-ray]
2007年に宮崎県で起こった感動の実話をベースに描く「ひまわりと子犬の7日間」。動物と子供には誰もかなわないのだ!

5年前に妻を亡くし、シングルファーザーとして二人の子どもを育てている保健所職員の神埼彰司。大の動物好きの彰司は「引き取り手がない犬は7日間後には殺処分」という保険所の規則をしばしば破り、なんとか犬たちの里親をみつけようと懸命に働いていた。ある日彼は、命がけで我が子を守ろうとする母性の強い母犬と出会う。人間に心を開かず近付くと激しく威嚇するその母犬は、きっとかつては人に愛されていたに違いないと確信した彰司は、何とかして母犬と子犬の命を守ろうと決意する。だが、状況が改善されないまま処分が決まる7日目が迫ってくる…。

殺処分。いやな言葉だが、現実に、保健所に連れてこられた飼い主のいない犬の多くはこの悲しい運命をたどる。資料によると、日本全体で1年間に約87000頭が保健所に収容され、そのうち約53000頭が殺処分されていると知って、ショックだった。本作は、宮崎県の保健所で実際に起こった奇跡の実話をベースに、命の大切さを訴えると共に、身勝手な人間のペットブームにも静かに警鐘を鳴らす内容だ。同時に、一人のシングルファーザーが、子供を育てながら自分の仕事に向き合い成長していくヒューマン・ドラマでもある。何とか助けたいと願って、ひまわりと名付けたその犬が、人間に心を開いて“凶暴な犬ではない”と判断されない限り、助けることはできない。物語は、人によって傷ついた動物が、もう一度人を信頼するには、人間の方が謙虚になるしかないのだと訴えている。母犬ひまわりを演じる犬は、「マリと子犬の物語」でマリ役を務めた柴犬の“名女優犬”。喜怒哀楽を的確に表すその演技は、ドッグトレーナーの力量も含めて見事だ。加えて子供たちも自然でいい。動物と子供、そして人気実力派俳優の堺雅人という鉄壁の布陣で初監督に臨んだのは、山田洋次監督の下で長く助監督を務めた平松恵美子氏。名匠の手腕をしっかりと受け継ぎ、厳しい現実の中に希望を見いだす、優しいまなざしが効いていた。温暖な風土を感じさせるのんびりとした宮崎の方言の響きが耳に心地よい。
【60点】
(原題「ひまわりと子犬の7日間」)
(日本/平松恵美子監督/堺雅人、中谷美紀、吉行和子、他)
(信頼関係度:★★★★☆)
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大奥〜永遠〜[右衛門佐・綱吉篇]

大奥 ~永遠~ [右衛門佐・綱吉篇] <男女逆転> 通常版 [Blu-ray]大奥 ~永遠~ [右衛門佐・綱吉篇] <男女逆転> 通常版 [Blu-ray] [Blu-ray]
男女逆転「大奥」のシリーズ第2弾「大奥〜永遠〜[右衛門佐・綱吉篇] 」。平和ボケした元禄の権力闘争が愛情を蝕む。

美貌と知性を兼ね備えた五代将軍・綱吉の手腕により、徳川幕府はかつてない繁栄期・元禄時代を迎えていた。だが、綱吉は一人娘の松姫が死去したため、政治から遠ざけられ世継ぎ作りに専念させられることになる。そんな中、京より貧しい公家出身の右衛門佐(えもんのすけ)が大奥入りする。美貌と才覚で綱吉に取り入り、大奥内での権力を手中に収める右衛門佐。だが彼は、その野心の一方で綱吉に対し、秘めた想いを抱いていた…。

原作はよしながふみの大人気コミック。男子だけが死に至る謎の病によって、大奥をはじめ、世の中の主要な地位を女性が占める世となった江戸時代を背景に、男女逆転という1点の偽りを除いて、ほぼ史実に忠実に描くユニークなスタイルは、華麗かつ独創性あふれるものだ。初の映画化でも人気を博し、劇場版第2弾では、犬公方として有名な5代将軍綱吉の世を描く。本来、政治も学問も秀でていながら、世継ぎを産むという将軍最大の“使命”のため、人生を歪められていく綱吉は、時代の犠牲者にも見える。将軍を溺愛しながらも実質的に操って、悪法“生類憐みの令”を発令する発端となる父親との関係性は、本作と対になっている、女将軍誕生秘話を描いた連続TVドラマの「大奥〜誕生〜[有功・家光篇] 」を知ると、その業がより深く感じ取れる。慈愛に満ちた有功と、野心家の右衛門佐の両方を堺雅人が演じているのがユニークだ。歪んだ純愛の果てに誕生した男女逆転の大奥は、時を経ても、まっすぐな愛が生まれることを許さない。世の中の乱れをよそに、権力闘争に明け暮れる大奥の世界は虚しいものだが、愛より権力に生きた右衛門佐が、最後の最後に見せるピュアな激情は胸に迫る。例によって、絢爛豪華な美術や衣装が素晴らしいが、今回は、大奥史上最長の御鈴廊下のセットや、世界遺産の二条城でのロケなど、ヴィジュアル面もスケールアップしている。原作には数多くの魅力的な物語があるようなので、映画もぜひ人気シリーズとして続いてほしいものだ。
【60点】
(原題「大奥〜永遠〜[右衛門佐・綱吉篇] 」)
(日本/金子文紀監督/堺雅人、菅野美穂、尾野真千子、他)
(絢爛豪華度:★★★★☆)
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その夜の侍

その夜の侍(初回限定生産版) [Blu-ray]その夜の侍(初回限定生産版) [Blu-ray] [Blu-ray]
狂気と日常の狭間で葛藤する男を描く異色の人間ドラマ「その夜の侍」。堺雅人が今までにないしょぼくれた役を怪演している。

小さな鉄工所を営む中村は、5年前に最愛の妻をひき逃げで亡くして以来、抜け殻のように生きている。周囲はそんな中村に対し、ハレモノに触るように接するしかない。一方、ひき逃げ犯の木島は、2年間の服役後、友人の家に転がり込み、無為な日々を送っていた。そんな木島のもとに「お前を殺して俺も死ぬ。決行まで後○日」という無記名の脅迫状が届くようになる。送り主は中村に違いないと、周りの者はその復讐を思いとどまらせようとするが、ついに決行の日が来てしまう…。

タイトルからは、時代劇の仇討ちのような気配がするが、この物語は、そんな格好良い復讐劇とはかなり違う。まず堺雅人が演じる主人公・中村はとことん冴えない男だ。分厚いめがね、ぼさぼさの髪、汚れた作業服といういでたち。薄暗く散らかった部屋ではいつも好物の甘いプリンを黙々と食べている。清廉な侍のたたずまいとはかけ離れた生活臭の中、殺気だけがみなぎっているのだ。一方、犯人の木島はといえば、これほど自己中心的な男はそういない。命を狙われておびえながらも、どこまでも粗暴な生き方を変えようとしない。こんなアブノーマルな状況なのに、彼らの周りには下世話な日常が淡々と流れている。中村は、見合いをしたり、キャッチボールをしたり、ホテトル嬢と過ごしてみたり。木島にとっての日常はもとから他人を傷つける暴力行為で成り立っている。復讐と日常の対比が異様すぎて、今まで感じたことがない手触りの不安を覚えた。その不安感がマックスに達したそのとき、クライマックスの土砂降りの雨の中での対峙となる演出が見事。中村の意外な言葉から、二人の男の、これ以上ないほど無様なアクションシーンへとなだれこんでいくのだ。監督の赤堀雅秋は、もともとは自分が作・演出した舞台劇を映画化した。その目的は、映画の特権であるクローズアップで、中村や木島の顔にじっとりとにじむ汗を撮ることだったのではないか。何かをしようとしても何の結果も出せない人間の焦燥感。その愚かさ、可笑しさ、情けなさ。“たわいのない”日常とは、こんなにも汗だくになるほど大変なことなのだ。
【65点】
(原題「その夜の侍」)
(日本/赤堀雅秋監督/堺雅人、山田孝之、新井浩文、他)
(無様度:★★★★☆)
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鍵泥棒のメソッド

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売れない役者と伝説の殺し屋が入れ替わるサスペンス・コメディ「鍵泥棒のメソッド」。優れた脚本といい役者で、最後の最後まで楽しめる。

35歳の売れない役者の桜井は、自殺しようとしても失敗する情けない男。ある日、銭湯で羽振りのいい男性・コンドウが転んで気絶したのを見て、出来心でロッカーの鍵を自分のものとすりかえる。転んで頭を打ち、記憶喪失になったコンドウは、実は誰もその素顔を知らない伝説の殺し屋だった。コンドウになりすました桜井は、危険な殺人依頼によってとんでもないトラブルに。自分を売れない役者の桜井と思い込むコンドウは、真面目に演技の勉強を始め、芝居の面白さに目覚めてしまう一方で、婚活中の女性編集長の香苗と親しくなる。だが、ある時、コンドウの記憶が戻り、桜井が招いたトラブルに対峙することになる…。

「運命じゃない人」「アフタースクール」の内田けんじ監督は、オリジナル脚本にこだわって紡ぎだす、ひねった喜劇を得意とする監督だ。語り口の上手さとコメディセンス、適材適所のキャスティングは、名匠ビリー・ワイルダーを彷彿とさせ、映画好きを満足させる。ファン待望の4年ぶりの新作は、人生が入れ替わるというただごとではないプロットから始まり、ハラハラのサスペンス、ほんわかのラブ、ドキドキのクライマックスを経て、思わず拍手!のオチがつく、痛快な娯楽作だ。主人公の桜井は、思いつきで、記憶喪失の金持ち男と入れ替わったはいいが、何しろ無計画なので、仕方なく嘘を重ね、収拾が付かない事態に陥る。一方で几帳面で真面目なコンドウの役者修行と、計画的婚活を進める変わり者の女性・香苗のエピソードは、思わずクスリと笑ってしまう。そもそも、演技派の堺が下手な役者を演じ、これまた演技派の香川が、コツコツと演技を学んで芝居の面白さに目覚めるなんて、それだけでも笑える設定だ。キャラの個性とそれぞれの状況をテンポよく説明し、トラブル発生までを描く前半には、たくさんの伏線がはってある。後半、コンドウの記憶が戻ってからは物語は二転三転し、犯罪組織との駆け引きの中で、その伏線が小気味よく収束されていくプロセスは、監督3作目にして名人芸の域に達していた。俳優たちのアンサンブルの妙は内田作品の特徴的なポイントだが、今回は笑わない広末涼子の、コメディセンスに感心した。今までの舌足らずのしゃべりのカマトト美女とはまったく異なる、どこかズレた、それでいて切羽詰ったキャリウーマンを演じていて実に魅力がある。彼女が演じる香苗が重要な役割を果たすラストに行き着く頃には、すっかり内田ワールドに魅了されているはずだ。
【80点】
(原題「鍵泥棒のメソッド」)
(日本/内田けんじ監督/堺雅人、香川照之、広末涼子、他)
(職人芸度:★★★★☆)
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ツレがうつになりまして。

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シリアスな題材をあえて軽やかに描く、ハートウォーミング・ストーリー「ツレがうつになりまして。」。“篤姫”コンビが絶妙だ。

売れない漫画家の晴子と夫の幹男(通称ツレ)は、結婚5年目の仲の良い夫婦。外資系の会社のクレーム処理係のツレは、真面目で几帳面な性格だが、ある日突然、会社に行けなくなり、うつ病と診断される。夫の病気の原因が仕事にあると知った晴子は「会社を辞めなければ離婚する」と宣言し、ツレの療養に専念しつつ、家計を支えるため真剣に漫画に取り組むようになる…。

うつ病というシリアスな題材を、壮絶な闘病記にはせず、ある夫婦が困難を乗り越えていく絆の物語にしたのは、人間の善の側面を見つめてきた佐々部清監督らしい演出だ。もちろん細川貂々(てんてん)の原作にコミカルな味や自虐ネタが満載なのもあるが、大河ドラマ「篤姫」でも夫婦役を演じた主演の二人の相性の良さもあり、ハートウォーミングな物語になっている。実際に画面に登場するユーモラスなイラストの効果も大きい。ツレの経済力に頼りきりで、漫画に対してもどこか“甘え”があった晴子が、世間に対して「ツレがうつになったので、自分が家計を佐支えねばならない。仕事が欲しい!」と宣言し編集者に直訴する場面は、この夫婦の大きなターニングポイントだ。うつという心の病が、計らずも晴子自身を本物の漫画家にする起爆剤となるだけでなく、支え合うという対等な立場になることで、二人を真の夫婦に変えていく。この映画では、心因性うつ病を“宇宙かぜ”と呼ぶ。現代の社会問題であるうつ病には、実際にはより重い側面もあろう。だが、あえて深刻ぶらずに描き、上手な付き合い方をエッセイ風に指南する軽やかさが心地よかった。
【65点】
(原題「ツレがうつになりまして。」)
(日本/佐々部清監督/宮崎あおい、堺雅人、吹越満、他)
(ほのぼの度:★★★★☆)



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日輪の遺産

日輪の遺産 特別版 Blu-ray日輪の遺産 特別版 Blu-ray
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マッカーサーの財宝隠匿という大掛かりなミステリーの隙間に見えるのは、戦争の犠牲になったけなげな少女たちの笑顔。丁寧で誠実な演出が佐々部清監督らしい。

日本の敗戦を悟った軍上層部は、真柴少佐、小泉中尉、望月曹長の3人に、連合国軍最高司令官マッカーサーから奪取した900億円の財宝を隠匿せよとの密命を下し、任務を極秘裏に行うために、勤労動員の少女20名と教師を選出する。3人の指揮の下、彼女たちは懸命に働くが、任務も終わりに近づいた時、上層部から非情な命令が下される…。

原作は浅田次郎の同名小説で、物語は、八千草薫扮する20人の少女のただ1人の生き残りである久枝の長い長い回想で語られる。900億円というのは現在の貨幣価値にして約200兆円だそう。もともとの出所が怪しいその財宝を、軍人がお国のために残したとだけ言われたとしたら、正直、素直にありがたい気持ちにはなれない。だがこの物語では、何も知らず国や軍のために働き、犠牲になった少女たちの思いがそこにあったとするところが、胸を打つ。あえて戦場や戦闘は描かず、元気に働く少女たちの素直な笑顔が何度も映し出される。戦争がその笑顔を無情にも踏みにじったのだと思うと、やりきれない。日本の復興を築いたのは財宝ではない。彼女たちの思いを知る3人の軍人が、それぞれのやり方でアメリカに対峙した結果なのである。終戦間近の極秘ミッションと現代が交錯しながらつながっていく巧みなストーリーに込められたのは、決して思い描いた通りの未来とはいえない現在の日本への苦言と、それでも多くの犠牲の上に今があるとのメッセージだろう。耳から離れないのは、少女たちが歌う比島決戦の歌「出てこいニミッツ、マッカーサー」のメロディ。目に焼きつくのは、終盤、久枝が再会する少女たちの幻影。「仲間はずれなんかじゃない」との言葉に思わず落涙した。
【65点】
(原題「日輪の遺産」)
(日本/佐々部清監督/堺雅人、中村獅童、福士誠治、他)
(けなげ度:★★★★★)


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手塚治虫のブッダ 赤い砂漠よ!美しく

手塚治虫のブッダ 赤い砂漠よ!美しく【DVD】手塚治虫のブッダ 赤い砂漠よ!美しく【DVD】
巨匠・手塚治虫の代表作の初アニメ映画化で、全3部作の第1章。本作の主役はむしろ奴隷出身のチャプラの方だ。

2500年前のインド。シャカ国に王子ゴータマ・シッダールタが誕生する。争いが絶えないこの地で、この子はやがて世界の王となると予言されていた。思春期を迎えたシッダールタは階級社会に疑問を持つようになる。やがて強国コーサラ国の将軍の息子チャプラが、シャカ国を狙い攻め込んでくる。実は奴隷出身で、その出自を隠し成り上がってきたチャプラと、高貴な身分でありながら、自分の成すべき道を模索するシッダールタは、戦場で出会うことになるのだが…。

手塚治虫の原作漫画「ブッダ」は、コミック界のアカデミー賞と呼ばれるアイズナー賞最優秀国際作品部門を2度にわたって受賞したという傑作。ブッダの教えを尊重しながらも、周辺に下層階級の男女を数多く配して、重層的なドラマを構成している。本作は、シッダールタ、後のブッダの誕生と、青年になったシッダールタが許されない恋を経験し、虚しい戦争を目の当たりにして、出家を決意するまでを描く、いわば“ブッダ・ビギニング”だ。おかげでブッダの尊い思想はさわりだけしか感じられないし、全3部作と聞けば、本作だけでは評価は難しい。さらにヴォイス・キャストには疑問が残る点も。とはいえ、不思議な能力によって動物たちと心を通わせるキャラクターの存在はファンタジックで魅力的だ。同時に、情け容赦ない悲劇を多く盛り込み、階級社会の理不尽をあぶり出した点は評価したい。この大人ターゲットの展開は、行儀のいい伝記映画にはしないという意気込みで、それこそが原作漫画の目指したところと思えば、今後のストーリーの広がりには期待できる。現在の高度なCGを見慣れた目には少々古臭く見える絵柄も、ブッダという素材には不思議とフィットしているように思えた。
【50点】
(原題「手塚治虫のブッダ 赤い砂漠よ!美しく」)
(日本/森下孝三監督/(声)吉永小百合、堺雅人、観世清和、他)
(悲劇的度:★★★★☆)
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映画レビュー「武士の家計簿」

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◆プチレビュー◆
下級武士がそろばんで守ったのは家族の絆。古文書のデータから物語を創造するセンスが見事だ。 【75点】

 猪山家八代目・直之は、加賀藩の財政に携る御算用者。同僚から“そろばんバカ”と揶揄されるほどの男だ。直之は一家の借金が膨らんでいることに気付くと、家財道具を売り払い、詳細な家計簿をつけ、家計を立て直そうとする…。

 かつて秀作「家族ゲーム」で現代日本の中流家庭を鋭い視点から描いてみせた森田芳光監督。この人にとって家族とは、つきせぬ魅力のテーマのようだ。本作の原作は、偶然発見された古文書「金沢藩士猪山家文書」の中に残っていた家計簿を、綿密に分析してまとめあげた研修書で、歴史学者の磯田道史のベストセラー『武士の家計簿「加賀藩御算用者」の幕末維新』。データベースのような学術書から、その行間を読み、ハートウォーミングなストーリーをつむいでみせたアイデアと力量に感服する。

 まず主人公の下級武士・猪山直之の“武器”が、刀ではなく算盤(そろばん)というのがいい。激動の時代・幕末を、会計能力で生き抜く彼は、現代のサラリーマンのよう。ただし、この男、凡百の事務方ではない。彼には、見栄や世間体を重んじる武家社会にあって、どんなにみっともないマネをしてでも、絶対に家族を守り抜くとの決意があった。幸いにも、一芸に秀でたことが、藩の時流と時代の流れに合致。結果的に直之の正直な生き方が、猪山家存続への扉を開く。地味で堅実、そして真摯な生き方が報われる物語に、希望の光を見出す観客は、きっと多いだろう。

 印象的なエピソードは数多いが、直之が、息子の着袴の祝いに、高価な祝い鯛が買えず“絵鯛”で代用する、切実かつユーモラスな場面が、やはり秀逸。それから直之が妻のお駒にプレゼントした櫛(くし)のエピソードも忘れ難い。直之同様、お駒も質素倹約を貧乏ではなく工夫ととらえて楽しむ賢妻だった。幼い息子が絵鯛を「鯛じゃ、鯛じゃ」と無邪気に喜ぶ姿と、それを見守る一家の不思議な幸福感。これだけで、猪山家がいかにポジティブかが分かる。

 借金を返し、倹約し、実直に生きる直之が、幼い息子に徹底的に算術をたき込むのは、それこそが自分たち家族が生き抜く唯一の武器だと信じたからだ。御算用者とは、いわば経理担当の事務職。そこには世間一般の考える武士道の凛々しさはないが、自分の仕事と能力に確固たるプライドを持つ主人公の姿は、不安な時代を生きる現代人に訴えかける強い同時代性がある。そろばん侍・直之は、いかなる時でも家計簿をつける姿を息子に見せることで、確かな芸があればどんな時代も家族を守って生き抜くことができると教えたのだ。

 チャンバラだけが時代劇ではない。物語だけが原作ではない。刀だけが武器ではない。この映画は、固定概念を崩し、物事を違う角度から見直すことで、活路を見出すチャンスがあることを示してくれる。直之の息子・直吉が新時代の明治をどう生きたか。それを知れば、家芸を守りながらしっかりと現実を見据えることの大切さが理解できる。そろばん侍の生き方が、私たちにこんなにもたくさんの生きるヒントをくれるとは。主演の堺雅人をはじめ、出演する俳優たちが皆、絶妙な演技で素晴らしい。何より、監督の森田芳光の的確な演出手腕が光った。このタイムカプセルの中には、家族愛があふれている。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)家族愛度:★★★★★

□2010年 日本映画 原題「武士の家計簿」
□監督:森田芳光
□出演:堺雅人、仲間由紀恵、松坂慶子、他

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ゴールデンスランバー

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伊坂幸太郎の同名小説を、人気絶頂の堺雅人主演で描く、巻き込まれ型サスペンスだ。仙台に住む宅配ドライバーの青柳は、久しぶりに再会した旧友の謎の言葉を聞いた直後から、首相暗殺事件の犯人にされ警察と犯罪組織から追われることになる。身に覚えがない青柳は、大学時代の仲間たちや偶然出会った人々の助けを借りて逃げ続けるが…。

主人公が、ワケもわからずとんでもない陰謀に巻き込まれるのはヒッチコックが得意としたスタイルだが、本作はまさにこの形。偶然による要素が大きいことと、アンモラルな人物が混在することがいかにも伊坂幸太郎テイストだ。首相暗殺事件というと、ハリウッド映画のようなスケールの大きな話に聞こえるが、権力による巨大な陰謀という部分は残念ながら迫力不足。だが権力側の描写がチャチなのは、この話がサスペンスである以上に、かつて同じ時間を共有した仲間たちが大人になってもう一度絆を確かめるために奮闘する物語だからだ。一緒にバイトした花火屋での思い出や、昔の恋人が古い車種の車でのデートを覚えていて助ける場面は、甘酸っぱい青春映画そのもの。平凡な一般市民が陰謀の罠から逃げ切るには、体力と知恵と運、何より自分の無実を信じてくれる人の存在が不可欠だ。「ゴールデンスランバー」とは、ビートルズの名曲のタイトル。当時バラバラだったメンバーの心をつなぎ止めようとしたポール・マッカートニーの思いは、主人公たちの学生時代の思い出と今に重なっていく。たび重なる見知らぬ人の親切は出来すぎだし、青柳の顛末は「それでいいのか?!」と問いたくなる。だが、仲間たちとの信頼を唯一の武器に走る主人公に、いつしか感情移入してしまい、あれよあれよの大逃亡劇も思いがけず楽しめた。「俺は犯人じゃない!」と叫びながら走り続けた主人公の持久力を“たいへんよくできました”と言ってほめてあげたい。
【60点】
(日本/中村義洋監督/堺雅人、竹内結子、香川照之、他)
(出来過ぎ度:★★★★★)

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クヒオ大佐

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詐欺というと華麗なテクニックが常だが、この映画の主人公のそれはまぬけすぎて逆に魅力に見えるから不思議だ。恋愛詐欺師・クヒオ大佐は実在の人物で、女性たちから約1億円を巻き上げたというから驚きである。名前こそクヒオだが正真正銘の日本人だ。90年代初頭、米軍特殊部隊のパイロットを名乗るクヒオは、デタラメな経歴で女性を騙して金を巻き上げていた。どう見ても怪しい彼に、弁当屋の主人のしのぶや自然博物館の学芸員の春は騙され、正体を見破ったホステスの未知子でさえも彼に惹かれていく。

実話に基づくこの話、戦後すぐの混乱期ならまだしも、なんと湾岸戦争が始まった90年代のお話。騙す方も騙す方なら、騙される方も騙される方とあきれてしまう。だが今も世間を騒がせるオレオレ詐欺だって、なぜこんな拙い手口に引っかかるのかと不思議なのに被害があとを絶たない。元来、性悪説の私でも、人間とは信じやすい“良き生き物”という気がしてきた。嘘がバレたクヒオが言う「騙したんじゃない。彼女たちが望んだんだ」というセリフ、案外当たっているのかもしれない。バレバレの嘘を平気でつく幼稚な発想や、夢と現実の区別がつかない体験談など個性あふれる見所に対し、クヒオの背景や心理描写が浅いのは残念だが、付け鼻とおかしな日本語で熱演する境雅人の曖昧な笑顔が抜群にハマッていて、大いに楽しめた。もっとも根底にあるのは、日本人の根深い欧米コンプレックスかと思うと苦笑は禁じえない。
【70点】
(日本/吉田大八監督/堺雅人、松雪泰子、満島ひかり、他)
(コンプレックス:★★★★☆)

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◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
◆こんなお仕事やってます:
新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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