映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
毎日のレビューは分かりやすく簡潔な寸評で、週1本の長文映画レビューでは作品をディープに掘り下げます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる公開作品 ◎
「ファミリー・ツリー」「ダーク・シャドウ」「サニー」

小林聡美

東京オアシス

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東京を舞台にスケッチするいくつかの出会いと別れ。この作品のどこに、渇きを癒す“オアシス”があるのだろう??

撮影現場から逃げ出した女優トウコ。深夜の国道でナガノという男性と出会い彼のトラックに便乗する。話をするうちに共通点に気付く二人はやがて海岸へとたどり着く。別の日、トウコは、小さな映画館へ。そこでは元シナリオ・ライターのキクチと再会し、語り合う。また別の日、ひと気のない動物園では、アルバイトの面接に来たというヤスコに声をかける。ふとした出会いと会話によって、トウコはやがて迷いから解き放たれていく…。

一人の女優の心のさすらい。これがテーマだとプレス資料にはある。「めがね」「マザーウォーター」にも共通する、その場所で自然体で生きる人々を描いた物語だが、心が癒されるというより、睡魔が襲ってきたというのが正直な感想だ。不器用だが、きちんと生きている登場人物たちは、みな平凡で穏やかな人たち。都会で希薄になった人間関係の中を、トウコという風のような女性が吹き抜ける。夜明けの海へのドライブ、映画館での思い出話。からっぽのツチブタの柵。会話にはほとんど意味はなく、人との距離も縮まらない。この淡々とした感じが都市生活らしいとは思う。相手をみつめて、きちんと係わっていくことを改めて問い直すということだろうが、見終わって何も残らない。毒にも薬にもならないその空気感を、オアシスだと思うしかない。
【40点】
(原題「東京オアシス」)
(日本/松本佳奈、中村佳代監督/小林聡美、加瀬亮、黒木華、原田知世、他)
(癒し度:★★☆☆☆)
チケットぴあ


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東京オアシス@ぴあ映画生活

マザーウォーター

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水をキーワードに描く癒しの物語「マザーウォーター」は、見ている間は気分がいいが見終わって何も残らない。それが“水”そのもののように感じれば、作品に寄り添えるだろう。

京都に住む3人の女たち、セツコ、タカコ、ハツミ。彼女たちはそれぞれ、ウイスキーしか置いてないバー、こじんまりとしたコーヒーショップ、手作りの豆腐屋を営みながら、川の流れや水を感じながら生きている。自然体で生活する彼女たちに呼応するかのように、そこに住む人の心にも小さな変化が現れる。人々の中心にはいつもニコニコと機嫌がいい赤ん坊ポプラがいた…。

「かもめ食堂」のスタッフが再集結して作ったこの作品、物語ともつかないエピソードをコラージュした、人と場所だけを描く映画だ。「かもめ食堂」以降、グルメと癒し、ちょっとおしゃれな雰囲気を売りにした安易な作品が氾濫したが、この作品がそうなるのをギリギリのところで救っているのが、水というテーマ。タイトルのマザーウォーターとは、ウイスキーの仕込み水に使われる水のこと。つまりピュアでおいしい、美しい液体で、何の色も持たず、それでいて何色にでも染まっていく象徴的なアイテムだ。家具職人のヤマノハが、セツコの営むバーに毎日のようにやってくるのは、グラスに氷とウイスキーを入れてマドラーでゆっくりとかきまぜる行為が、単純だが決して「適当」ではないと知っているため。端正なたたずまいの人生を得るには、そんな、シンプルだが丁寧なスタイルが必要なのだろう。赤ん坊の親は誰なのか、銭湯のアルバイトのジンが言う「あの人」とは誰か。人間関係についてはいっさい説明はない。散歩する人として登場するもたいまさこは、出会う人となんのためらいもなく接しながらも、根本的には「一人で生きている」ことに喜びと誇りを持っている。尊重するのは、ゆるりとつながる関係性。そんなムードが現代社会のやんわりとした孤独にマッチしている。例によってフードスタイリストの飯島奈美が料理制作を担当し腕をふるっているが、何でもない日本の日常の食風景が物語にフィットしている。京都が舞台だが、けっして観光名所ではなく、ごく普通の街並みで古都の奥行きを演出してみせたのが上手かった。
【55点】
(原題「マザーウォーター」)
(日本/松本佳奈監督/小林聡美、小泉今日子、加瀬亮、他)
(癒し度:★★★★☆)


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マザーウォーター@ぴあ映画生活

プール

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気持ちはいいが中身がない。それって映画としてどうなのか?!と問いかけたくなる作品だ。大学生のさよは、タイの古都チェンマイのゲストハウスで働く母の京子を訪ねる。自分や家族を置いてタイに渡った母は、ゲストハウスのオーナーやタイ人の少年、ハウスを手伝う青年らと楽しそうに暮らしている。そんな母の姿を複雑な思いでみつめるさよ。物語は、それぞれに事情を抱えた5人の男女の6日間を、さらりとした空気の中で描いていく。

暑い国なのに温度を感じない世界、草食系の俳優たち、表面をなぞるだけの人間描写。リアリティ以前に、生きている実感がない。それを象徴するのが、ゲストハウスにあるプール。波風ひとつたたず、ひたすら静かな水面は、極端に清潔でゴミひとつ浮いていない。これが海ならどうだろう。波もあれば、生物だっている。時には危険もあるが、泳いでどこかへ行く目的も生まれる。プールの周辺に集う人々は、互いに傷付けない代わりに真の絆も求めていない。登場人物たちは、人が踏み込まない、バリアをはった自分の世界が快適なようだ。「好きなことをする方がいいと思う」とのセリフがあるが、好きなことをすることと、嫌いなことをしないことは別問題で、生活や人間関係から逃げた先に“好きなこと”があるのだろうか。おしゃれなゲストハウスやおいしそうな食べ物、ゆったりとした歌声などに気分は癒されるが、根底に漂うのは、希薄な人間関係で充足する薄ら寒い空気。この映画、かなり病んでいる。
【30点】
(日本/大森美香監督/小林聡美、もたいまさこ、加瀬亮、他)
(タイ観光映画度:★★★★☆)

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ガマの油

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名優・役所広司の初監督作品は、今村昌平からエロティシズムを抜いたような作風で、摩訶不思議な世界観が面白い。大人になりきれない中年男が家族の死を乗り越えて成長するほろ苦いファンタジーだ。一人息子が事故で重態になり動揺した拓郎は、息子の恋人・光からの電話に思わず息子のフリをしてしまう。それ以来、子供の頃に出会った“ガマの油売り”が現われるようになる。時空を超えて主人公に話しかける油売りは、人間の悲喜劇や優しい嘘をそっと見守る守護天使のような存在だ。光の異常に高いテンションなど意味不明の演出もあり、ちょっとはしゃぎすぎの感も。だが、死を受け止めることで生を肯定する意図が伝わって、いつしか前向きになる。仏壇を覗くと、あの世での再会を待つ陽気な人たちに会えそうだ。
【60点】
(日本/役所広司監督/役所広司、瑛太、小林聡美、他)
(ハートフル度:★★★☆☆)

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めがね

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何もないことそのものを描いたと言われればそれまでだが、あまりに芸がない。海辺の小さな町で“たそがれて”すごす人々の交流を描く癒し系映画。見ている間は気持ちがいいが、見終わって「だから何?」という気も。めがねというタイトルもどこかピントがズレている。おいしそうな食べ物や美しい海など、旅気分が味わえるので、お疲れ気味の人にはおすすめ。見る人の体調によって評価が変わる作品と言えよう。
【65点】
(日本/荻上直子監督/小林聡美、市川実日子、加瀬亮、光石研、もたいまさこ、他)
(まったり度:★★★★★)

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かもめ食堂

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◆プチレビュー◆
邦画初のオール・フィンランドロケが話題。確かに日本が舞台だと、この空気感は出せないだろう。「コーヒーは人に入れてもらった方がおいしいんだよ」のセリフが名言だ。

ヘルシンキの街角にある日本食を出す店、かもめ食堂。オーナーのサチエはマイ・ペースで一向に客が来なくても気にする様子でもない。そんな彼女の店に、観光客のミドリとマサコがやってきたことから、食堂とサチエの日常に変化が表れた…。

何の説明もなく、何の事件も起こらない映画。だが見ていてこんなに気持ちがなごむ作品も久しぶりだ。おにぎり、網で焼いたサケ、シナモン・ロールと、出てくる食べ物がどれもおいしそうで、思わずおなかがすいてしまう。個人的な基準だが、私は食べるものをきちんと描いている映画については信用することにしている。

サチエがなぜ異国で食堂をやっているのか、二人の日本人女性は何があってフィンランドにやってきたのかという説明はほとんどないが、彼女たちが日本で“何か”を切り捨ててこの場所にやってきたことは伝わってくる。映画は過去に目を向けず、だからといって輝かしい未来を夢見たりもせず、今日と明日の日常を淡々と誠実に描いている。このことが映画全体に漂う端整なたたずまいとなって好感を誘うのだ。

大柄なおばさんが見つめるウィンドウ。ガッチャマンの歌。突然渡されたネコ。エピソードはひとつひとつが味がある。中でもトランクを開けるとそこに満杯のキノコがある場面はすごい。そうか、この映画はファンタジーなんだとここで気付く仕掛けなのだ。忙しい日常から少し離れて、気持ちがいいカフェでのんびりくつろぐような、そんな気持ちで。それがこの映画の正しい鑑賞方法だ。

□2005年 日本映画
□監督:荻上直子
□出演:小林聡美、片桐はいり、もたいまさこ、マルック・ペルトラ、他

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◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
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新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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