映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる映画 ◎
「カフェ・ソサエティ」「ノーエスケイプ」「追憶」「赤毛のアン」etc.

役所広司

日本のいちばん長い日

日本のいちばん長い日 豪華版(3枚組) [Blu-ray]
終戦を迎えるまでの日本政府と軍部の舞台裏に迫る歴史ドラマ「日本のいちばん長い日」。岡本喜八版と比べて見るのも面白い。

大洋戦争末期の1945年7月。戦況が悪化する中、日本は連合軍からポツダム宣言受託を迫られる。連日、降伏か本土決戦かの閣議が行われるが結論は出ない。そんな中、広島、長崎に原爆が投下され状況はますます悪化。軍部と政府の板挟みになり葛藤する阿南惟幾陸軍大臣、天皇による“聖断”を仰ぎ閣議を動かしていく鈴木貫太郎総理大臣、そして国民を案じる天皇陛下…。一方で、一億玉砕を主張する畑中健二少佐ら若手将校たちは終戦に反対するクーデターを画策していた…。

原作は半藤一利によるノンフィクション。1967年には名匠・岡本喜八監督の手で映画化されている。本作は、実際の戦場や、庶民の視点ではなく、終戦を迎えるにあたり、政府と軍部がどんな思惑で動き、8月15日を迎えたかをよりドラマチックに描いている。一般庶民が決して目にすることがない、宮内庁のしきたりや御文庫、宮城(天皇の居室)、首相官邸などが緻密に再現されていて、それぞれの立場とやり方で、日本の未来を案じている様子を描写。本作では、67年版にはない昭和天皇が登場し、天皇は終戦を強く希望していたという立場を取っている。そのことについては様々な意見があるだろう。だが、ほとんど無表情で閣議に参加し、淡々とした声で玉音放送を読み上げる昭和天皇には、何の決定権もなく“現人神(あらひとがみ)”という名前の虚像だったのだと改めて思い知った。物語は、全面降伏するにしても国体維持など精一杯有利な状態にもっていこうと閣議を続ける人々の苦悩のドラマと、終戦を決定付けた玉音放送を阻止しようとラジオ局や皇居を占拠するクーデターを起こした若手将校たちの暴走がからみあって、サスペンスフルに展開。とりわけ、軍部と政府の板挟みになりながら現実路線を歩んだ阿南陸軍大臣の苦悩がくっきりと浮き彫りになっている。リメイクであること、結果がわかっている歴史的事件であることを差し引いても、緊張感を途切れさせない演出は、見ごたえがある仕上がりだ。毎年、8月になると戦争映画が多く公開される。戦争体験者が年々少なくなる現状を思うと、映画というメディアで語り継ぐ意義は大きいといえよう。
【70点】
(原題「日本のいちばん長い日」)
(日本/原田眞人監督/役所広司、本木雅弘、本木雅弘、他)
(スリリング度:★★★★☆)
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日本のいちばん長い日@ぴあ映画生活

渇き。

渇き。 プレミアム・エディション(2枚組+サントラCD付)[数量限定] [Blu-ray]
元刑事の父親が失踪した娘を探すうちに娘の恐ろしい実態を知るサスペンス「渇き。」徹底した悪意とバイオレンスに、見終われば疲労度マックスだった。

成績優秀で容姿端麗、学校の人気者だった娘・加奈子が突然失踪。父親で元刑事の藤島は、別れた妻から娘の捜索を依頼される。藤島は、自分自身の性格や言動で家族が崩壊したにも関わらず、再び理想の家族を作ることを勝手に夢想しながら、なりふりかまわず娘探しに翻弄する。担任、クラスメート、警察時代の部下などを訪ね、加奈子の交友関係や行動をたどるが、やがて品行方正だと思っていた娘のとんでもない実態が浮かび上がり、想像もしなかった事件に巻き込まれていく…。

原作は「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した深町秋生の小説「果てしなき渇き」。父親が失踪した娘を探す過程で、娘の知られざる姿を知る。プロットだけみればありがちだが、この映画の登場人物たちの悪意は徹頭徹尾、すさまじい。天使のような笑顔の娘・加奈子の本当の顔は悪魔そのものだが、その周辺にいるやつらもまた、負けず劣らず鬼畜ぞろいなのだ。中には気弱な負け犬や流されやすい無個性もいるのだが、悪意の猛威の前で彼らが吹き飛ばされるのは自明の理で、もはや同情も驚きもなくなってしまう。中でも、父親役の役所広司のロクデナシぶりは、特筆だ。罵詈雑言、妄想、暴走と、狂犬のように暴れまわる。この父にしてこの子ありで、娘・加奈子の底知れない悪意もまたすごいときている。実力派俳優揃いの本作の中で、新人の小松菜奈の存在感はあっぱれだ。イノセントな笑顔と周囲を地獄へと導くその言動のギャップは、見事。残酷描写や流血もてんこもりなのだが、時折挿入されるアニメパートのおかげで戯画化されている。唯一気になるのは、娘探しの顛末がやや雑なことか。中島哲也監督にとっては久々の新作となるが、前作「告白」のクールなタッチとは対照的に、本作はポップでスピーディな狂想曲のよう。見る側にもエネルギーを要求する怪作なので、心して臨んでほしい。
【65点】
(原題「渇き。」)
(日本/中島哲也監督/役所広司、小松菜奈、中谷美紀、他)
(バイオレンス度:★★★★☆)
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渇き。@ぴあ映画生活

清須会議

清須会議 Blu-ray スペシャル・エディション(特典DVD付3枚組)
織田信長亡き後の継嗣問題と領地配分を決めた会議の心理戦を描く群像劇「清須会議」。勝家VS秀吉の根回し合戦に抱腹絶倒。

天正10年(1582年)。本能寺の変で命を落とした織田信長亡き後の、織田家の後継者問題と領地配分を協議するため、尾張の清須城で評定(会議のこと)が開かれた。筆頭家老の柴田勝家と羽柴秀吉(後の豊臣秀吉)が後見に名乗りを上げ、両派の心理戦が始まる。二人があこがれるお市様や信長の息子、弟など、さまざまな立場の人間がそれぞれの思惑で動く中、5日間にわたる清須会議が開かれる…。

三谷幸喜の監督6作目は、自身初の時代劇。ただ自他共に認める歴史好きの三谷監督は、この物語を脚本としてより先に小説として執筆したそうだ。どうりで細部までこだわりが感じられる。物語の基本は、勝家と秀吉の勢力争い。日本の歴史上、初めて会議で歴史が動いたといわれる清須会議は、織田家の跡継ぎを決めるというのに織田一族は蚊帳の外。重臣たち4人によってすべてが決められたのだから、何ともやるせない話だ。群像劇なので、数多くのキャラクターが登場するが、勝家派と秀吉派がそれぞれ押す跡継ぎと、さまざまな事情でどちらかに肩入れする周囲の人々の思惑は、組んず解れつ。それを絶妙の笑いとペーソスで包んだ三谷脚本は、もはや名人芸だ。男衆が涙ぐましい根回し合戦を繰り広げる一方で、注目したいのは女性キャラの冷静で冷徹な動きである。過去の恨みや血筋の継続、さらには純粋な愛情で歴史の中に存在する女性たちこそ、清須会議の陰の功労者ではなかろうか。有名な会議とはいえ、派手なアクションや情熱的なロマンスがあるわけでもない、本作の清須会議は、映画としてはすこぶる地味な題材。それを日本映画が誇る豪華キャストを集めて、抱腹絶倒の歴史エンタテインメントに仕上げてみせた。小さな役まで主役クラスの俳優を使う豪華さだが、中でも、大泉洋演じる秀吉が絶品。チャラチャラしていながらしっかりと天下を見据える野心、敵さえも魅了する人間性が豪華キャストの中でもひときわ光っていた。
【70点】
(原題「清須会議」)
(日本/三谷幸喜監督/役所広司、大泉洋、小日向文世、他)
(豪華キャスト度:★★★★★)
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清須会議@ぴあ映画生活

わが母の記

わが母の記 [Blu-ray]わが母の記 [Blu-ray]
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昭和の文豪・井上靖の自伝的小説を映画化した「わが母の記」。ユーモアとすごみが同居する樹木希林の演技が素晴らしい。

小説家の伊上洪作は、高齢のため、認知症の症状が進んだ母・八重をひきとることになる。洪作は、幼い頃に一人だけ他所に預けられて育った経験から、母から捨てられたとの思いを抱きながら生きてきた。妻、3人の娘、妹たちから支えられ、洪作は初めて母と向き合うことになる。母・八重もまた薄れゆく記憶の中で、息子への思いを確かめようとしていた…。

昭和の時代の、中・上流家庭の家族劇。原田眞人監督自らが公言しているように、本作は名匠・小津安二郎の映画を強く意識している。だが家族の静かな崩壊を描き続けた小津映画との違いは、本作が、記憶をたどりながら描く家族の再生の物語だということだ。自分を捨てた母と距離を置いてきた洪作は、同居することになって初めて母に自分の本心をぶつけるが、認知症が進んだ母から帰ってきた言葉は意外なものだ。映画は、母の“本心”をじわじわとあぶり出し、洪作の記憶と八重の記憶の距離を縮めながら、大きく深い母親の愛を映し出していく。八重の秘めた想いは、主人公だけでなく、見ている観客も、はっと驚かされ、涙を誘うものなのだが、決して大仰ではなく、あくまでもさらりと描く筆致に感銘を受けた。幼い頃に書いた詩、離れて暮らす真意、背中に背負う老いた母の重み。昭和の時代の、端正な暮らしぶりを丁寧に描きながら、3世代の家族の確執と和解のドラマを、ユーモアも交えて活写した本作、原田眞人監督の新境地といえよう。俳優陣は皆、好演だが、とりわけ、記憶を失っていても、すべてを理解しているかのような母・八重を演じる樹木希林の妙演にはうなる。主人公をとりまく、にぎやかな女性キャラはこの映画を楽しく、華やかに彩って魅力的。そんな中、妻・美津の「あなたは捨てられたと思っていていい。それで素晴らしい小説を書けるのなら」との、さりげなくも残酷なセリフにドキリとした。凄味ともいえる愛情で息子に接していた母・八重とともに、常に寄り添い夫を支える控えめな妻・美津のしたたかさ。女たちの優しさと怖さを感じさせる物語だ。
【70点】
(原題「わが母の記」)
(日本/原田眞人監督/役所広司、樹木希林、宮崎あおい、他)
(家族愛度:★★★★★)
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わが母の記@ぴあ映画生活

キツツキと雨

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きこりと新人監督との異業種交流を描くハートウォーミング・ドラマ「キツツキと雨」。時に非常識で傍若無人な映画作りの妙味が面白い。役所広司のゾンビメイクに大笑い!

山あいの山村にゾンビ映画を作る撮影隊がやってくる。ひょんなことから手伝うことになったきこりの克彦は、最初はいやいや参加していたが、やがて映画作りの面白さに目覚める。一方、プレッシャーに弱く、使えない新人監督の幸一は、現場をまとめきれず、ついに逃げ出してしまうのだが…。

60歳のきこりと25歳の新人監督。年齢も職業も価値観も違う二人が、不器用でも少しずつ距離を縮めて判り合っていく。究極の異業種交流のツールがゾンビ映画というのが絶妙だ。噛み合わないきこりの父子、自信が持てない監督業。身近な人にイラついたり、他人にあきれたり。誰もが問題を抱えているが、それでも思いがけないつながりが“新しい自分”を教えてくれる。緑豊かな山の自然にゾンビの異化効果、さらには、劇中のゾンビ映画の徹底したチープさが、半人前にもなれず孤立する映画監督・幸一そのもののようで情けなくも可笑しい。映画作りとは複数の人が力を合わせて初めて成し遂げることができるミッション。クライマックス、一瞬雨が上がる瞬間に、擬似親子のような絆で結ばれた克彦と幸一の連帯感は見事に結実する。ゆっくりでもいい、少しずつ成長していければいい。「あの木が一人前になるには100年かかるよ」。このセリフにグッときた。映画作りを描く作品は内輪受け風になりがちだが、本作は控えめな映画愛が心地よい、愛すべき人情ドラマに仕上がった。
【60点】
(原題「キツツキと雨」)
(日本/沖田修一監督/役所広司、小栗旬、高良健吾、他)
(映画愛度:★★★★☆)
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聯合艦隊司令長官 山本五十六 ―太平洋戦争70年目の真実―

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最も戦争に反対しながら開戦の口火を切ることになった指揮官の苦悩を描く「聯合艦隊司令長官 山本五十六 ―太平洋戦争70年目の真実―」。運命の皮肉というしかない。

1939年、海軍次官の山本五十六は、圧倒的な軍事力を持つ米国との戦いを避けるため、日独伊三国軍事同盟に強く反対の立場を貫く。だが、第二次世界大戦が勃発し、1941年、ついに対米開戦となる。連合艦隊司令長官に任命された山本が、早期終戦を目指し、練った策が真珠湾攻撃だった。奇策は効を奏するが、目的の空母撃破には失敗。山本は意に反して悪化する戦況へと巻き込まれていく…。

古くは名優・三船敏郎が演じた山本五十六の半生を、現代の名優・役所広司が重厚に演じて感動を呼ぶ戦争大作だ。だが戦闘の場面は意外なほど少ない。映画の本意は、激戦の模様を再現することではなく、誰よりも開戦に反対しながら、陣頭指揮を取る司令長官にならざるをえなかった軍人の苦悩と、それでも失わなかった温かい人間性を描くことだ。山本と彼の周囲のわずかな理解者だけが、戦況を冷静に見極めているが、無謀な精神論や好戦ムードの中、日本は戦争へとなだれこんでいく。山本は自分がこうむる理不尽を叫びたい気持ちを押し殺して、軍人として職務をまっとうする覚悟があり、それが終始、固い表情から伺える。そんな彼が唯一、心安らぐのが、甘いものを食べるときだ。山本は、故郷・長岡の名物である水饅頭にさらに砂糖をふりかけて食べるほどの甘党。この姿はちょっと意外だったが、それ以外は、本作で描かれる山本五十六という人物に一瞬のスキもない。世界情勢を見極める視野の広さ、部下に慕われる人徳、良き家庭人。戦闘ではなく人間を掘り下げるという、異色のアプローチだけに、主人公の弱さや欠点も少しは描いても良かったのでは。とはいえ、主役の役所広司をはじめ、柳葉敏郎や阿部寛など、共演者は皆、好演。苦渋の連続だった、真珠湾攻撃とミッドウェー海戦、ブーゲンビル島上空での非業の死まで、骨太なドラマとして仕上がっている。
【65点】
(原題「聯合艦隊司令長官 山本五十六 ―太平洋戦争70年目の真実―」)
(日本/成島出監督/役所広司、玉木宏、柄本明、他)
(シニア向け度:★★★★☆)
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聯合艦隊司令長官 山本五十六@ぴあ映画生活

最後の忠臣蔵

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忠臣蔵の後日談を描くことで、死ではなく生によって示す忠義を提示した、忠臣蔵異聞。ストイックな物語をハッとするほど美しい映像が彩り、すみずみまで丁寧な作りの作品だ。吉良邸討ち入りの後、大石内蔵助率いる赤穂浪士は主君に殉じ切腹する。世間では四十七士と伝えられたが、実は2人の男が生き残っていた。一人は、大石から「討ち入りの真実を後世に伝え、遺族の生活を助けよ」と命じられた寺坂吉右衛門。もう一人は、討ち入り前夜に逃亡した瀬尾孫左衛門だ。2人はかつての親友同士。吉右衛門には、誰よりも大石を慕い忠義のために喜んで死のうと誓い合った孫左衛門がなぜ逃亡したのか、16年後の今も解けない謎だった。吉右衛門は最後の遺族を訪ね使命を果たすが、その際、偶然にも孫左衛門と再会する…。

忠臣蔵は何度となく描かれた実話で、主君の仇討と殉死という題材が日本人の琴線に触れるせいか、美化されることが多い。だが時代を経ると単に美談としてだけではなく別の解釈も生まれてくる。松本俊夫が監督したATG作品「修羅」のように、忠義や仇討に異論を唱える異色作も存在するが、池宮彰一郎の同名小説を原作とする本作のスタンスは、忠臣蔵の物語を肯定しながら、死ぬことだけが忠義ではなく、時に死よりもつらい生をまっとうすることで忠義と武士道をとらえなおすものだ。孫左衛門が逃亡した理由は、実は大石内蔵助の隠し子・可音を育てるという大役のためだったことが、物語半ばで明かされる。仮にも討ち入りに参加し、その後生き残ることを命じられた吉右衛門はまだしも、孫左衛門にとってそれは誰にも思いを打ち明けられない孤独な道だったに違いない。その苦しい胸のうちを私たち観客は共有するため、赤穂浪士の遺族から孫左衛門がなじられる場面などはあまりにつらい。しかし、すべてを知った、吉右衛門や浪士たちが駆けつける可音の婚礼行列は、まるで孫左衛門の花道のようで、涙なしには見られない。己を捨て、武士を捨ててまで重い使命を背負い続けた主人公が報われる場面は、深い感動を呼び起こす。

ただ、個人的には孫左衛門の最後の選択は残念。武士として、最後の赤穂浪士としての孫左衛門の強い思いは伝わるし、このような選択をするほど彼の忠義心と16年間の孤独は深かったのは分かるが、それでもなお自分の幸福を得る道を知ってほしかった。劇中の要所に挿入される人形浄瑠璃が、登場人物の想いを代弁する役割を果たしている。静謐な竹林、紅葉の道、揺れるすすき、ふりしきる雪。男たちの過酷な運命と対比するように、劇中に映しだされる日本の四季はあまりにも美しい。何より、ストイックな演技を見せる主演の役所広司の名演が素晴らしい。
【70点】
(原題「最後の忠臣蔵」)
(日本/杉田成道監督/役所広司、佐藤浩市、安田成美、他)
(ストイック度:★★★★★)

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映画レビュー「十三人の刺客」

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◆プチレビュー◆
集団抗争劇の傑作をアクション大作としてリメーク。熾烈なバトルは侍の大義も忠義も蹴散らしていく。 【70点】

 島田新左衛門は、悪行の限りを尽くす明石藩主の暴君・松平斉韶(なりつぐ)を暗殺するため、13人の刺客を集めた。要塞に改造した宿場町で、参勤交代の帰路の斉韶一行を討つ計画だが、敵は名参謀の鬼頭半兵衛を中心にした大軍。やがて、13人対300人の壮絶な戦いの火蓋が切って落とされる…。

 工藤栄一監督の「十三人の刺客」(1963)は、カルトな名作だ。善良な農民を助ける傑作「七人の侍」と比較されたが、それは的外れ。大義と忠義という侍には共に譲れないコンセプトの政治的抗争は、明らかに時代を先取りしていた。独特の暴力描写で知られる三池崇史によるリメークは、天下万民のため暴君を討つという骨格は同じだが、圧倒的にスケールアップしたアクションが見所だ。

 凄いのは本作の“血の匂い”である。何しろ冒頭から切腹だ。主君の斉韶の暴挙を、老中に死をもって訴えるその場面から、前半は、要職を約束されている斉韶が、罪もない民衆を相手に凌辱と殺戮を繰り返す様が描かれる。この暴君は生来の狂人なのだが、前半のすさまじいエピソードで「こいつは生かしてはおけない」と誰もが納得するはずだ。だが仮にも相手は将軍の弟。忍びによる暗殺などではなく、あくまでも武士の手で決着をつけねばならない。

 集まった13人は皆、死を覚悟した侍ばかりだが、一人だけ偶然仲間に加わる山の民がいて、この男が、武士社会のしがらみを炙り出す存在として効いている。戦いは濃い霧の中で始まるが、13人対300人という荒唐無稽とも思える数的不利をさまざまな仕掛けでクリア、たちまち敵の数を削いでいく。現実に可能かどうかはさておき、さながら局地戦の兵法のようでワクワクした。そして響く新左衛門の怒声。「小細工は終わりだ!斬って斬って斬りまくれ!」。

 それからは個を消した壮絶な集団戦だ。血しぶきが舞う戦闘が約50分も続く。一人、また一人と倒れていく中、やがて新左衛門と、かつて同門だった鬼頭半兵衛との一騎打ちに。侍の大義と忠義の激突だが、半兵衛は暴君・斉韶が悪であることは百も承知だ。それでも戦わねばならないこの敵役の背負う不条理が、物語の傑出した楔(くさび)になっている。

 ただ不満なのは、ついに新左衛門が斉韶と相対した場面でのこのバカ殿の描き方だ。斉韶は常人の理解を越えた狂ったモンスター。自分が襲われているというのに「面白い。老中になったらこんな戦の世にしよう」とうっとりと言うような人物だ。なのに最後の最後になって「痛い」だの「怖い」だのと口走る。これにはガッカリした。痛みはともかく怖さなど、この人物に語らせてはならない。“普通の人”になってしまっては、刺客たちが命を投げ打つ意味がない。役所広司演じる新左衛門が、63年版の片岡知恵蔵に比べ、少々軽いのも気になるが、どこか冷めた現代人のようで、これはかえって効果的に思えた。

 様式美とは無縁の集団抗争のパワーの、なんと壮絶なことか。無論、オリジナルの先見性あってのことだが、時代劇を爽快や美意識ではなく、政治性と虚無感を含ませてリブートしたところが素晴らしい。だからこそ「侍とは面倒なものだ」との新左衛門の言葉が活きる。そしてそれらすべてを見届けて、生きるべき場所に戻っていく男の存在も。三池流・生の肯定の怒号が聞こえる。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)熾烈度:★★★★★

□2010年 日本映画 原題「十三人の刺客」
□監督:三池崇史
□出演:役所広司、山田孝之、伊勢谷友介、他

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十三人の刺客@ぴあ映画生活

ガマの油

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名優・役所広司の初監督作品は、今村昌平からエロティシズムを抜いたような作風で、摩訶不思議な世界観が面白い。大人になりきれない中年男が家族の死を乗り越えて成長するほろ苦いファンタジーだ。一人息子が事故で重態になり動揺した拓郎は、息子の恋人・光からの電話に思わず息子のフリをしてしまう。それ以来、子供の頃に出会った“ガマの油売り”が現われるようになる。時空を超えて主人公に話しかける油売りは、人間の悲喜劇や優しい嘘をそっと見守る守護天使のような存在だ。光の異常に高いテンションなど意味不明の演出もあり、ちょっとはしゃぎすぎの感も。だが、死を受け止めることで生を肯定する意図が伝わって、いつしか前向きになる。仏壇を覗くと、あの世での再会を待つ陽気な人たちに会えそうだ。
【60点】
(日本/役所広司監督/役所広司、瑛太、小林聡美、他)
(ハートフル度:★★★☆☆)

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パコと魔法の絵本

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舞台そのもののような極端な登場人物がひしめく和製ファンタジー。入院中の大富豪・大貫は嫌われ者の偏屈ジジイ。そんな彼が、記憶が1日しか持たない少女パコのために彼女が愛読する絵本をお芝居にすることを思いつく。映像は一場面に原色が多すぎてちっとも美しくない。セリフも大仰すぎてさっぱりノレない。だが、唯一、それら全てが効果的に昇華していくのが3Dで描かれる劇中劇「ガマ王子対ザリガニ魔人」だ。ここだけが極彩色で他は白黒でもいいと思うほど。変人キャラが暴走し続ける、騒々しい物語の中で、元・有名子役の青年を怪演した妻夫木聡が突出して素晴らしい。
【65点】
(日本/中島哲也監督/役所広司、アヤカ・ウィルソン、妻夫木聡、他)
(カラフル度:★★★★★)

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プロフィール
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◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
◆こんなお仕事やってます:
新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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