映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる映画 ◎
「カフェ・ソサエティ」「ノーエスケイプ」「追憶」「赤毛のアン」etc.

渡辺謙

怒り

「怒り」オリジナル・サウンドトラック
酷暑の夏のある日、東京・八王子で凄惨な一家惨殺事件が発生する。壁には「怒」の血文字が残されていた。犯人は整形して逃走したため、1年後も事件は未解決のままだった。そんな時、千葉、東京、沖縄に身元不明の3人の男が現れる。警察が公表した犯人と彼らの顔はとても良く似ていた…。

「悪人」でタッグを組んだ原作者の吉田修一と、李相日監督が放つ「怒り」は、3つの物語を通して、人を愛すること、信じることの意味を問いかける力作だ。オムニバスとも群像劇とも呼べる語り口は、少し不思議な手触りである。殺人事件の犯人はいったい誰なのか。3人の身元不明の男の誰かが犯人なのか。そんなミステリー要素よりも、この作品は、人間ドラマとしての味わいと迫力が勝っている。千葉では、元風俗嬢の愛子が身元不明の田代と愛し合うが、彼が犯人と酷似していたことから、愛子は思いがけない行動をとる。東京ではエリートサラリーマンで同性愛者の優馬が、偶然知り合った住所不定の直人と共に暮らし始め真剣に愛するようになるが、警察からかかってきた1本の電話に動揺する。米軍の飛行機の爆音が響く沖縄では、母と共に島に移り住んだ高校生の泉が、無人島でサバイバルする青年・田中と知り合い心を通わせるが、泉を不幸な事件が襲う。少し違和感を感じるのはタイトルにもなっている「怒り」。この物語は、怒りよりもむしろ、信じる心の意味を問いかけているように感じてしまう。誰かを愛してもその相手をとことん信じることがいかに難しいか。自分が愛だと思い込んだ感情がいかにもろいものか。映画は人間が根底に抱える懐疑心やエゴを、冷徹なまでにつきつけるが、それでも誰かを信じ、自分を信じることを私たちは決してやめようとしない。出演するのは、誰もが主役をはれる実力派俳優ばかりだ。名優の渡辺謙が若手実力派たちを束ねるが、元風俗嬢で、渡辺謙の娘を演じる宮崎あおいの印象が群を抜く。今までのイメージとは真逆の汚れ役ながら、どこかイノセントな存在である愛子というキャラクターを演じ、すごみさえ感じさせた。3つのドラマは交錯することはないが、いつしか溶け合うように印象が混じり合う。犯人は最後に分かるが、見終わった後に記憶に残るのは、犯人の動機や感情よりも、彼の周辺にいた人々の複雑な心情だ。見る側にも力を要求するヘビーな映画だが、間違いなく見る価値がある力作ドラマである。
【70点】
(原題「怒り」)
(日本/李相日監督/渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、他)
(ミステリー度:★★☆☆☆)
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追憶の森

追憶の森 [Blu-ray]
人生に絶望したアメリカ人アーサーは、死に場所を求めて、日本の富士山の北西に広がる青木ヶ原にやってくる。樹海の奥に分け入ったアーサーは、出口を求めて彷徨う日本人タクミと出会う。タクミは一度は死のうと考えたものの、思いとどまり、妻子のもとに帰ろうとしていた。アーサーは、ケガをしているタクミを放っておけず、出口を求めてさ迷ううちに、2人は、互いのことを語り合う。やがてアーサーも、これまでの人生を見つめなおし、生きるために樹海からの脱出を試みるのだが…。

自殺するために青木ヶ原樹海にやって来たアメリカ人男性の不思議な体験を描く人間ドラマ「追憶の森」。実は日本は、アメリカと並ぶ自殺大国。富士の樹海といえば、言わずと知れた自殺の名所で、そのことはネットを通して全世界中に知れ渡っている“隠れた名所”でもある。日本人にとっては恐ろしく忌まわしい場所というイメージの樹海だが、本作では、その場所は、人生を見つめなおし心を再生させる不思議な空間として描かれていて、そのことが、この映画にちりばめられている、意図的な違和感につながっているのだろう。アーサーが謎めいた日本人タクミに出会って語り合う合間に、喪失感を抱えたアーサーと亡き妻との過去が回想形式で語られていく。物語にはある仕掛けがあるのだが、スピュリチュアルといえば聞こえはいいが、どこか安っぽさは否めない。そもそも、大きな天災を体験した今の日本で、死に場所を求めてさ迷うという主人公に、共感することが難しいのだ。ただ、オスカー俳優のマコノヒーと、ハリウッドやブロードウェイでも活躍する国際派俳優の渡辺謙の演技合戦は見応えたっぷりで素晴らしい。ほぼ出ずっぱり、ほぼしゃべりっぱなしの会話劇は舞台のように緊張感がある。タクミの妻子の名前が不思議な響きなのは、最後の最後になって意味が判明。ちょっとこじつけすぎないか?とも思うが…。ともあれ、サント監督の死生観を描いた「永遠の僕たち」に続き、ここでも日本人俳優がキャスティングされているのが興味深いところだ。
【55点】
(原題「THE SEA OF TREES」)サント監督
(アメリカ/ガス・ヴァン・/マシュー・マコノヒー、渡辺謙、ナオミ・ワッツ、他)
(度:★★★★☆)
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GODZILLA ゴジラ

GODZILLA ゴジラ[2014] Blu-ray2枚組
傑作怪獣映画をリブートしたハリウッド大作「GODZILLA ゴジラ」。聖獣ゴジラの文字の中にGOD(神)が!

日本で起こった原子力発電所の事故で、母を失ったフォードは、15年後、米軍所属の爆発物処理技術者となる。事故原因を突き止めるため日本にとどまって研究を続ける父ジョーが問題を起こしたため、日本へ向かったフォードは、父とともに立ち入り禁止区域内に入るが、父子は、そこで信じられない光景を目にする。同じ頃、ゴジラ研究チーム責任者の芹沢博士が、調査中に謎の巨大生物の卵を発見。やがて彼らは人類の存亡をかけた壮絶な戦いに巻き込まれていく…。

1954年の「ゴジラ」は、戦争の爪痕、原爆、水爆などの要素を内包した社会派映画だった。その名作を21世紀にリメークする以上、東日本大震災の原発事故は避けては通れない要素だ。日本から始まる本作のストーリーは、冒頭の発電所事故での夫婦の別れのシークエンスからドラマ性も十分に感じられる。自然の脅威、テクノロジーの暴走、倫理欠如や経済優先主義など、不安ばかりがたちこめる時代を背景に、人間が犯した罪によって誕生した怪獣が、再び姿を現すという設定は、意味深い。聖獣ゴジラが、原爆・水爆から原発事故まで、延々と罪深い過ちを繰り返す人類を、それでもなお救おうとする姿に、感動してしまうのは私だけではないだろう。無論、ハリウッド超大作である以上、最新VFXを駆使したパニックシーンはド迫力である。オリジナルへの敬意も十分に感じられる作りの本作では、ギャレス・エドワーズ監督がこれほどきちんとした「21世紀版ゴジラ」を作ってくれたのが、最大の嬉しい驚きだった。廃墟となった街などは、3.11を経験した日本人が見るにはつらいかもしれないが、この映画は本来、万物を作ったのは神であるとするキリスト教思想がベースの欧米ではなく、自然を敬い畏怖する日本から生まれる方が自然に思える。だが日本発の新生ゴジラ映画は、原発事故処理が終息し、本当の意味での復興が成ってから作られるべきなのだ。なかなかその全貌を現さないゴジラがついに立ち上がり、トレードマークともいえる凄味のある咆哮を披露するシビれる瞬間を味わうためにも、ぜひ劇場の大音響・大画面で鑑賞してほしい。
【85点】
(原題「GODZILLA」)
(アメリカ/ギャレス・エドワーズ監督/アーロン・テイラー=ジョンソン、渡辺謙、エリザベス・オルセン、他)
(オリジナルへのリスペクト度:★★★★★)
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許されざる者

許されざる者 ブルーレイ&DVDセット 豪華版(初回限定生産) [Blu-ray]
許されざる者 ブルーレイ&DVDセット 豪華版(初回限定生産) [Blu-ray] [Blu-ray]
クリント・イーストウッド監督による傑作西部劇を日本の時代的に置き換えた「許されざる者」。伝説的名作のリメイクの成功例で骨太な秀作。

1880年、開拓が進む江戸幕府崩壊後の北海道。幕府軍の残党でかつて“人斬り十兵衛”と呼ばれて恐れられた釜田十兵衛は、アイヌ人の妻と出会い、刀を捨てて、人里離れた僻地でひっそりと暮らしていた。最愛の妻に先立たれ、ろくに作物も育たない土地を耕す極貧の暮らしを送る十兵衛のもとに、かつての仲間の金吾が賞金首の話を持ってやってくる。無残に切り刻まれた女郎の仲間が賞金を作って敵をうってほしいと懇願しているという。二度と刀を持たないと誓っていた十兵衛だったが、経済的に困窮する日々から抜け出すために再び刀を手にする決心をする。だが彼らが向かうその町には、絶対的な権力を振るう支配者の大石が立ちはだかっていた…。

オリジナルは第65回アカデミー賞で作品賞など4部門に輝いたクリント・イーストウッド監督による西部劇。この傑作を日本という“ローカルな”場所でリメイクできたのは、やはりイーストウッド作品にも出演した国際派俳優の渡辺謙の存在があってこそだろう。時代背景はオリジナルと同じ19世紀。新しい時代へと移り変わり、古いタイプの人間が消え去っていこうとする転換期だ。場所は、乾いた西部から、雪深い未開の蝦夷地へ。冒頭、森で壮絶に戦う十兵衛と、彼が姿を消すその後を、白い雪が覆い隠すビジュアルは、印象深い。オリジナルと同じ設定、違う設定を巧みに使い分けるテクニックは、リメイクが成功する鍵なのだ。ストーリーの骨格は概ね同じで、女郎の敵討ちという、他人のための戦いが、いつしか理不尽に殺された友への弔い合戦へとスライドする。オリジナル同様に、ここにははっきりとした善悪の境界線はなく、主人公も決して正義の側にはいない。ただ彼には罪を背負って生きていくと決めた暗い覚悟がある。町を牛耳る支配者との対峙がクライマックスとなるが、残念なのは、ジーン・ハックマン演じる“巨悪”に比べて佐藤浩市では役不足に感じることだ。無論、佐藤浩市はいい役者だが、ここはもっと年齢が上の大物俳優を使うべきだったのでは。それでも渡辺謙の圧倒的な存在感は文句のつけようがないし、少数民族であるアイヌの存在をストーリーに生かして、物語に深みを増した点は高く評価したい。女性キャラのはかなさと強さ、ラストの主人公の行く末などは、日本の精神風土にフィットさせたものだろう。美しいマジカル・アワーの映像をしっかりと盛り込んだのはオリジナルへの最大級のリスペクトだ。偉大な傑作の名を汚すことなく、骨太な日本映画の秀作に仕上がっている。
【80点】
(原題「許されざる者」)
(日本/李相日監督/渡辺謙、柄本明、佐藤浩市、他)
(重厚度:★★★★★)
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許されざる者@ぴあ映画生活

はやぶさ 遥かなる帰還

<初回生産限定>はやぶさ 遥かなる帰還 特別限定版【Blu-ray】<初回生産限定>はやぶさ 遥かなる帰還 特別限定版【Blu-ray】
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決してあきらめない日本の研究者たちの意地と誇りに感動する「はやぶさ 遥かなる帰還」。かりんとうをかじる渡辺謙の表情がいい。

2003年5月9日、鹿児島から小惑星探査機「はやぶさ」を搭載したロケットが発射された。はやぶさのミッションは、小惑星「イトカワ」の地表から岩石サンプルを持ち帰ること。この困難なプロジェクトに、プロジェクトマネジャーの山口教授をはじめ、さまざまな技術のエキスパートたちが挑む。だがはやぶさは、次々に想定外のトラブルに見舞われる…。

はやぶさが長く困難な旅を経てサンプルを持ち帰ったという偉業はすでに知っている。それでもなお、この2時間16分の映画は退屈とは無縁だ。まず、探査機の作りや難解な科学用語が、分かりやすくセリフに組み込まれているのでとても理解しやすい。JAXAのメンバーたちの不屈の精神には、「プロジェクトX」を思わせるような、愚直な情熱を感じる。さらに物語に、立場が異なる企業人を組み込んだことで、プロジェクトの困難さにリアリティが増した。

チーム・リーダー山口教授役の渡辺謙をはじめ、藤竜也、吉岡秀隆ら俳優たちは皆、好演。特に、下町の町工場社長役の山崎務がいい。イオンエンジン担当の藤中が「山口先生には、できませんとか言って降参したくないんだ」というセリフがあるが、これはそのまま、渡辺謙という日本を代表する名優に、「負けたくない」という気持ちと通じるものだったのではなかろうか。俳優たちの前向きなライバル意識が、この群像劇を良質なものにしたのだと思う。はやぶさは燃料漏れや姿勢制御不能、通信途絶など、数々のトラブルに見舞われるが、山口の強いリーダーシップのもと、メンバーたちは決してあきらめなかった。映画の終盤に、神社で語らう山口教授と町工場社長のさりげない会話や、山口と握手した藤中が葛藤を乗り越えて「手の冷たい人は心が温かい」と言うラストが味わい深い。日本が世界に誇れるのは、本作が描くような不撓不屈の精神なのだと改めて教えられた。
【70点】
(原題「はやぶさ 遥かなる帰還」)
(日本/瀧本智行監督/渡辺謙、江口洋介、吉岡秀隆、他)
(日本の誇り度:★★★★★)
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はやぶさ 遥かなる帰還@ぴあ映画生活

シャンハイ

シャンハイ スペシャル・エディション [Blu-ray]シャンハイ スペシャル・エディション [Blu-ray]
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40年代の上海の猥雑な空気が伝わってくるような映像が魅力的。だが、サスペンスとラブストーリー、どちらも中途半端になってしまった。

欧米各国や日本の思惑が入り乱れる1941年の中国・上海で、米国諜報部員コナーが殺される。コナーの親友ポールが、諜報部員であることを隠しながら事件を調べると、日本軍の大佐タナカ、姿を消したコナーの恋人スミコ、中国裏社会のドン、アンソニー、そして彼の美しき妻アンナらが捜査線上に浮かび上がる…。

魔都と呼ばれた上海は、いつの時代も危険な魅力に満ちている。無国籍なその場所には、多くのスパイや革命家が存在し、この物語で描かれるような出来事も、おそらく起こっただろう。だが映画は実話ではなく、殺人事件や反日運動が複雑にからみあって、意外な展開から開戦へと結びつくフィクションだ。米、独、中国、日本と多国籍のスターが集結しているのも、いかにも雰囲気を盛り上げて、ゴージャスである。だが、歴史サスペンスとしては物足りず、ラブストーリーというには互いを思う情熱が伝わってこない。器は大きいが話は極めてパーソナルなこの映画、では何を楽しみに見ればいいかというと、やはり豪華スターの競演ということになる。主役のジョン・キューザックは薄味だが、男たちが命がけで守る女性を演じるコン・リーは、年齢を重ねても美しくミステリアスだ。チョウ・ユンファもさすがの貫禄。だがここは2人の日本人キャストに注目したい。アヘン中毒で終始ボロボロのスミコを演じる菊地凛子は、相変わらずのカメレオン俳優ぶり。そして堂々の存在感をみせる渡辺謙は、もはや世界の大スターのオーラが漂う。ワールドワイドに活躍する日本人俳優を含め、役者の魅力を楽しむ娯楽大作だ。
【60点】
(原題「SHANGHAI」)
(アメリカ・中国/ミカエル・ハフストーム監督/ジョン・キューザック、コン・リー、チョウ・ユンファ、菊地凛子、渡辺謙、他)
(豪華キャスト度:★★★★☆)



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シャンハイ@ぴあ映画生活

映画レビュー「インセプション」

インセプション [DVD]インセプション [DVD]
◆プチレビュー◆
物語は複雑だがスタイリッシュなアクションで一気に魅せるSF娯楽作。夢と現実を結ぶのは願いだった。 【70点】

 コブは、人が最も無防備になる夢の中で、他人のアイデアを盗む犯罪分野のスペシャリスト。国際指名手配中でアメリカに戻れない彼に、大実業家・サイトーが半ば強引に仕事を依頼する。それは他人の潜在意識に入り込み、ある考えを植えつける“インセプション”という最高難易度の犯罪だった…。

 身体を動かさずに物語を見る映画は、夢を見る行為によく似ている。スクリーンの仮想空間の中、私たちは作り手から与えられた物語で、笑い、泣き、悩み、感動する。違いは現実と非現実の境界を知覚しているかどうかだ。そんな極めて映画的な題材“夢”に挑んだクリストファー・ノーランは、作家性と商業性を兼ね備えた稀有な監督である。デビュー作「フォロウィング」では、他人の家に無断で入り込んだが、本作では夢に侵入。しかも都合のいい夢を用意してそこに誘導し、潜在意識を操る。近未来では、夢とは、共有でき、潜入でき、創作できるものだ。ビジネスと犯罪の恰好のフィールドというわけである。

 主人公コブが、命懸けの仕事を引き受けるのは、成功と引き換えに愛する家族のもとへ帰るため。依頼主のサイトーが彼に課した仕事は、ライバル企業のオーナーの跡取り・ロバートに、自分で自分の会社を潰す考えを植えつけるというインセプションだ。成功すれば究極の完全犯罪である。物語は、日本、フランス、モロッコなど6ヶ国を舞台に壮大なスケールで展開する。コブは一流のチームを結成し、周到な計画を立て、現実そっくりの夢の中へロバートを誘いこむが、夢を守る訓練を受けたロバートの抵抗にあった上、最愛の妻モルがたびたび彼の前に立ち塞がった。通常、夢の中で死ぬと目覚めるが、強烈な薬で誘導された夢では、死ぬと潜在意識の虚無に落ちて廃人になる。コブたちは危険な夢の中で敵と激闘になり、事態は思わぬ方向へと発展してしまう。

 入り組んだ物語にはアクションとセンチメンタリズムが同居するが、主戦場となる夢の世界が多重構造というのが面白い。もともと偽造の夢の中、そこでの夢の中で見る夢となると、もはや壮大なだまし絵の世界に近い。瞬時に頭で理解しようとしても、混乱してしまうが、それぞれの世界でド派手なアクションが用意されているので、不思議とストレスは感じない。何しろビジュアルが驚異的なのだ。街が折れ曲がり、無重力で格闘すれば、空間が歪む。階層になった夢のルールで、数分が数年になれば時間が歪む。迷宮の中、コブ自身のトラウマと、意識の深層にある願いがあまりにも切ない。

 夢という無形で無限の素材を使い、犯罪、アクション、ラブストーリーまで組み合わせた前代未聞のこの映画、“邯鄲の夢”にも似た物語はなるほど複雑だが、思わず唸る面白さだ。コブの急所である妻との関係性が、物語を衝撃的なラストへと導いていく。チームの一人で夢の設計師の名前はアリアドネ。ギリシャ神話で、迷宮からの脱出に糸玉を使うことを教える女性の名だ。難問を解決する鍵“アリアドネの糸”は、本作では、現実に戻るために自分だけが感覚を知る小さな独楽(こま)。独楽は回り続けるのか、それとも止まるのか。見る人に解釈を委ねるラストが、いつまでも余韻となって残る。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)スタイリッシュ度:★★★★☆

□2010年 アメリカ映画 原題「Inception」
□監督:クリストファー・ノーラン
□出演:レオナルド・ディカプリオ、渡辺謙、マリオン・コティヤール、他

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ダレン・シャン

ダレン・シャン~若きバンパイアと奇怪なサーカス~ [DVD]ダレン・シャン~若きバンパイアと奇怪なサーカス~ [DVD]
長い原作の児童文学のプロローグにすぎない部分に映画1本分を使う本作、贅沢なのか無駄なのかビミョーなところだ。ごく普通の家庭で育った16歳のダレン・シャンは成績優秀で家族に愛される平凡な少年。ある日、毒蜘蛛に噛まれた親友スティーブの命を救うため、バンパイアと取引したことから、半分人間、半分バンパイアのハーフ・バンパイアになってしまう。家族の元を去り、風変わりなサーカス一座に身を寄せバンパイア修行に励むダレンだったが、バンパイア対バンパニーズという因縁の抗争に巻き込まれてしまう…。

主人公ダレンが、棺桶の中でゲームに興じながら“生き返る”のを待つ冒頭はなかなか魅力的だ。なぜこういうことになったのかと興味をそそる導入部は上手いのに、残念ながら後は退屈。不親切な人物紹介と、中途半端なファンタジーという印象しか残らない。この物語のバンパイアは、フリークスだけを集めたサーカス団の一員として平和的に人間と共存している。必要な時に人間からちょっぴり血をもらい、ほどほどに暮らすユルい存在だ。そんなハト派吸血鬼のバンパイアと対立するタカ派がバンパニーズ。この抗争の影には、争いを仕掛け、楽しんでいる謎の男ミスター・タイニーの思惑が。そして闘いの鍵を握るのが、ダレンというわけだ。渡辺謙を含め、やたらと脇役が豪華なのはいいが、肝心の主人公ダレンに強烈な個性や興味をそそる背景がなく、求心力が感じられない。面白みのない優等生、蜘蛛好きなのにろくに管理もできず、命を投げ出してまで救う親友スティーブとの絆も何だか不自然だ。原作シリーズは、怒涛の展開で、ダレンを含めた登場人物の意外な関係や思いもよらない対決が用意されている。少なくとも現段階ではダーク・ファンタジーと呼ぶほど暗さはなく、青春ドラマというほどハジケてもいない。導入部はさっさと終わらせ、ダレンとスティーブの争いや他の人物との関係を、もう少し興味をそそる形で描き込むべきだったのではないか。覚醒したダレンは刺激的な世界でどう変わるだろう。映画が終わったその先に期待するしかない。
【45点】
(原題「CIRQUE DU FREAK:THE VAMPIRE'S ASSISTANT」)
(アメリカ/ポール・ワイツ監督/クリス・マッソグリア、ジョン・C・ライリー、渡辺謙、他)
(子供向け度:★★★★☆)

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沈まぬ太陽

沈まぬ太陽 スタンダード・エディション(2枚組) [DVD]沈まぬ太陽 スタンダード・エディション(2枚組) [DVD]
社会性と娯楽性を兼ね備えた力作で見応えがある。大企業・国民航空の社員・恩地は、労働条件の改善を求めて奔走し勝利するものの、会社の懲罰人事で僻地の海外勤務を強いられる。10年に及ぶ孤独な日々に耐えて本社復帰を果たすが、ジャンボ機墜落事故という未曽有の惨事の遺族世話係という過酷な任務につくことに。組合闘争、出世欲、大事故、政界と企業の癒着などを描きながら、腐敗に屈せず、信念を貫く一人の男の人生を追う。3時間22分の長編だが、日本の社会構造を鋭くえぐる内容は、スクリーンに対峙する価値がある。

原作は山崎豊子の名作同名小説。映画を見る前は、一企業に殉ずるかのような昭和の企業戦士の生き方に、今の時代を生きるものとして共感できるのかと危惧していた。もちろん拷問のような扱いを受けても会社を辞めない主人公を全肯定はできないが、直球勝負の映画の作りと俳優たちの熱演に、深く感動させられた。愚直なまでの生き方を貫く恩地役・渡辺謙、敵役の行天役・三浦友和、共に素晴らしい。パキスタン、イラン、ケニアとスケールの大きな舞台設定は、映画に格調とリアリティを与えている。御巣鷹山の惨劇と、長年の海外流転を交互に映す構成も上手かった。企業の管理体制のほころびから生まれた大惨事と個人の失意が絡み合い、胸がしめつけられる。さらに主人公を支える家族の存在は涙なくしては語れない。大作のため、インターミッションを挟んで上映される物語の後半は、腐敗した企業を再生させようという試みとそれを阻む旧体制や政治的目論見が描かれ、こちらはまさに現代にも脈々と生きる悪しき構造を見るよう。話は架空と断りがついているが、誰が見ても思い当たる実在の企業・事件がベースだ。その航空会社の息も絶え絶えの現状を知る我々は、この物語には終わりなどないと突きつけられてやるせない。それでも恩地のように懸命に生きる人間の生き様が未来への希望の灯となろう。映画製作に当たっては多大な苦労があったと聞く。それを乗り越えて作品を作り上げたスタッフ・キャストの労を心からねぎらいたい。
【75点】
(日本/若松節朗監督/渡辺謙、三浦友和、松雪泰子、他)
(骨太度:★★★★★)

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アース

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地球が主役のネイチャー・ドキュメンタリーは、とにかく映像が美しい。地球の地軸が傾いていることが、多様な地形や四季のうつろいを生み出す不思議。ホッキョクグマやザトウクジラなどの動物たちの子育てと壮大な旅を最高性能ハイビジョン・カメラで見せてくれる。映像のほとんどがダイナミックな空撮なので、時にめまいさえ感じるほどだ。温暖化が進めば、何十年か後にはこの世に存在しないかもしれない記録映像としても貴重。
【70点】
(原題「EARTH」)
(独・英/アラステア・フォザーギル、マーク・リンフィールド 監督/(音楽)ジョージ・フェントン ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、他)
(劇場で見るべき!度:★★★★☆)

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◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
◆こんなお仕事やってます:
新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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