映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
毎日のレビューは分かりやすく簡潔な寸評で、週1本の長文映画レビューでは作品をディープに掘り下げます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる公開作品 ◎
「ファミリー・ツリー」「ダーク・シャドウ」「サニー」

菊地凛子

シャンハイ

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40年代の上海の猥雑な空気が伝わってくるような映像が魅力的。だが、サスペンスとラブストーリー、どちらも中途半端になってしまった。

欧米各国や日本の思惑が入り乱れる1941年の中国・上海で、米国諜報部員コナーが殺される。コナーの親友ポールが、諜報部員であることを隠しながら事件を調べると、日本軍の大佐タナカ、姿を消したコナーの恋人スミコ、中国裏社会のドン、アンソニー、そして彼の美しき妻アンナらが捜査線上に浮かび上がる…。

魔都と呼ばれた上海は、いつの時代も危険な魅力に満ちている。無国籍なその場所には、多くのスパイや革命家が存在し、この物語で描かれるような出来事も、おそらく起こっただろう。だが映画は実話ではなく、殺人事件や反日運動が複雑にからみあって、意外な展開から開戦へと結びつくフィクションだ。米、独、中国、日本と多国籍のスターが集結しているのも、いかにも雰囲気を盛り上げて、ゴージャスである。だが、歴史サスペンスとしては物足りず、ラブストーリーというには互いを思う情熱が伝わってこない。器は大きいが話は極めてパーソナルなこの映画、では何を楽しみに見ればいいかというと、やはり豪華スターの競演ということになる。主役のジョン・キューザックは薄味だが、男たちが命がけで守る女性を演じるコン・リーは、年齢を重ねても美しくミステリアスだ。チョウ・ユンファもさすがの貫禄。だがここは2人の日本人キャストに注目したい。アヘン中毒で終始ボロボロのスミコを演じる菊地凛子は、相変わらずのカメレオン俳優ぶり。そして堂々の存在感をみせる渡辺謙は、もはや世界の大スターのオーラが漂う。ワールドワイドに活躍する日本人俳優を含め、役者の魅力を楽しむ娯楽大作だ。
【60点】
(原題「SHANGHAI」)
(アメリカ・中国/ミカエル・ハフストーム監督/ジョン・キューザック、コン・リー、チョウ・ユンファ、菊地凛子、渡辺謙、他)
(豪華キャスト度:★★★★☆)



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シャンハイ@ぴあ映画生活

小川の辺

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正しいことをした友を斬らねばならない無念。兄妹で戦わねばならない不条理。藤沢文学らしく、登場人物たちは運命を受け入れる、ひたむきな人々だ。

海坂(うなさか)藩士・戌井朔之助は、藩から上意討ちの命を受ける。相手である佐久間は親友で、その上、妹・田鶴(たず)の夫でもあった。民を思って藩のずさんな政治を批判し、藩主の怒りを買った佐久間は、脱藩し夫婦で姿を消していた。剣の使い手である朔之助は、自分や妹と兄弟同様に育った、戌井家に仕える若党の新蔵を伴って、佐久間と田鶴を探しに旅立つ。気がかりなのは、自らも剣術の使い手である田鶴が、武士の妻として手向かってくることだった…。

劇中に「武士というものは真に難しいものだ」というセリフがある。体面主義の武家社会を真っ向から批判することができない主人公の苦しい胸の内をよく表している言葉だ。本来戦いたくない相手にやむを得ず刀を向けるという構図は、藤沢文学にしばしば登場するパターンだが、本作では戦いたくない相手が親友と妹と2人もいて、武家社会の理不尽を二重構造で描いている。そこに、ひそかに田鶴を慕う新蔵という若者を配して、ひとひねりしたのがいい。兄妹で戦うのも、友に刃を向けるのも、武士である以上は運命を受け入れるしかないが、そこに武士ではない新蔵の価値観が入り込むことによって、先が読めなくなっている。ただ、悪役の描き込みが浅いので、ストーリー全体が平坦な印象なのが惜しい。ラストに2つの“決闘”が用意されているが、その舞台が兄妹や新蔵が幼い頃に遊んだ小川に良く似た、すこぶる平和な場所であることが面白い。鋭さや緊張感よりも、どこかうららかなイメージのその場所が、主人公に武士としてできる精一杯の“決断”をさせたのではないか。組織の歯車である下級武士の悲哀を描きながらも、最後にはスッと風が通り抜けるような印象の作品だった。
【60点】
(原題「小川の辺 おがわのほとり」)
(日本/篠原哲雄監督/東山紀之、菊地凛子、勝地涼、他)
(悲哀度:★★★☆☆)
チケットぴあ



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小川の辺〈ほとり〉@ぴあ映画生活

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ナイト・トーキョー・デイ

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殺し屋とその標的の許されない恋というと過激で情熱的に思えるが、この物語はどこかポエティックで不思議なムードが漂っている。築地の魚市場で働きながら、凄腕の殺し屋として闇の仕事を請け負う女・リュウ。ある時、新しい仕事が入り、抹殺するターゲットでスペイン人のダビが営むワイン店を訪れる。誰とも打ち解けず生きる孤独な女と、愛する妻を自殺によって亡くしたばかりの男は、出会った瞬間に恋に落ちる…。

夜明け前の魚市場、街の雑踏、瀟洒なワイン店、怪しげなラブホテル。異邦人の目で見た東京は、迷宮のようなトーキョーなのだろうか。スペイン出身の女性監督イザベラ・コイシェは、「死ぬまでにしたい10のこと」や「エレジー」などの作品で、どうしようもないほど孤独な人間が、ゆっくりと心を開いていく様子を、決してベタつかず、それでいてメランコリックな、独自の筆致で描いてきた。本作では、殺し屋という非日常的な職業のヒロイン・リュウの背景をほとんど説明しない。不眠症でイチゴ大福が好き。たまに誰だか分からない人間の墓参りをする。唯一の話相手である年老いた録音技師が彼女について知っているのはそれだけで、観客に与えられる情報もほとんど同じだ。この録音技師がリュウの存在を確かに認識する証明が、劇中に出てくるさまざまな音である。活気にあふれたラーメン屋で麺をすする音や市場で水を流す音、街のざわめきなど、周囲の音が際立つほどヒロインの孤独が立ち上ってくる。殺し屋を演じる菊地凛子は、ほとんど表情を変えずに演じるが、ダビとの逢瀬で愛に目覚めていく様子を、抑えた演技で表現していて、クールだ。リュウが最後に下したある決断と、それを胸に抱いて日本を離れるダビ。誰かに語られることを嫌う、愛の物語は、濃密な思い出と共に封印されたのだろう。圧倒的な情報不足を不親切と見るか、想像力を刺激する演出スタイルと見るかで評価が分かれそうだが、私にはこの寡黙でミステリアスなラブ・ストーリーの語り口は心地よいものだった。外国人が日本を語るときはどうしても類型化されるが、イザベラ・コイシェは感覚的に現代の日本をつかんでいて、そのセンスがなかなか面白い。
【55点】
(原題「MAP OF THE SOUNDS OF TOKYO/MAPA DE LOS SONIDOS DE TOKIO」)
(スペイン/イザベル・コイシェ監督/菊地凛子、セルジ・ロペス、田中泯、他)
(スタイリッシュ度:★★★★☆)

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アサルトガールズ

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鬼才・押井守の久々の実写映画には、監督がこだわる美しい女戦士と銃器に対するフェティシズムが満載だ。舞台は、アヴァロン(f)と呼ばれるゲームの仮想空間。荒廃した砂漠を模した場所で、突然変異で生まれた巨大モンスター“マダラスナクジラ”を仕留めるべく、3人の女ハンター・グレイ、ルシファー、カーネルと、強力な武器を持つ一匹狼の男性ハンター・イェーガーが、パーティーを組むことに。はたして彼らは敵を倒しポイントをゲットできるのだろうか…。

黒木メイサ、菊地凛子、佐伯日菜子がそれぞれセクシーで個性的なコスチュームをまとった女ハンターに扮し、時に素手で戦い、時に銃をぶっ放す様は文句なしに絵になる。うねる蛇のようなスナクジラの造形も見事。ビジュアルは相変わらずハイ・クオリティだ。だが、ストーリーを追うにはコツがいる。まずゲームの世界観は映画「アヴァロン」に、女ハンターたちも過去の押井作品にリンクしている。それらを見ていない観客が作品を楽しむには、物語を追うのは潔くあきらめ、ひたすら視覚的な快感に身をませるのが正解だろう。一方、押井作品に精通するファンにとっては、時折挿入される二宮金次郎の像のように、意味深なようで意味がないような細部を独自の視点で分析するマニアックな楽しみがある。かつてないほどの激しい闘いの果てに、皮肉な仕掛けを施して、バトルはまだ終わらないと示唆。飛び立つ女戦士たちと地上で吠える男性ハンターの構図に押井監督の男女観を見るのもいいだろう。虚構の中の闘いが永遠に繰り返されるスパイラルもまた、監督がデビュー以来、ずっとこだわってきたファクターだ。セリフがなくパントマイムのような動きで演じた菊地凛子の存在感が際立っで面白い。
【55点】
(日本/押井守監督/黒木メイサ、菊地凛子、佐伯日菜子、他)
(スタイリッシュ度:★★★★★)

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映画レビュー「スカイ・クロラ」

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◆プチレビュー◆
伝えたいのは希望。難解さを排除したストーリーは、押井アニメ初心者にもおすすめだ。 【85点】

 思春期のままで永遠に生き続ける子供“キルドレ”により、ショーとしての戦争が行われる時代。戦闘機のパイロットで、新しく前線基地に赴任してきたユーイチは、元エース・パイロットの女性指揮官スイトと出会う…。

 押井作品で、これほど切ないラブ・ストーリーがあっただろうか。共にキルドレの、ユーイチとスイトの間には初対面から懐かしい感情が漂っている。それだけではない。マッチを折って捨てる癖、初めてなのに体になじむ戦闘機、何度出会っても愛してしまう人。基地のすべてにうっすらと甘い記憶がにじんでいた。リピートは、押井監督が好んで使うモチーフだが、本作のループ・エネルギーの本質には、明日への希望が感じとれる。

 戦争以外で死ぬことはないキルドレの中では、生と死が同居していて、そのどちらもイメージは希薄だ。平和を実感するために、ゲーム、すなわち戦争を行うという大人の歪んだ発想が、彼らの感覚を奪っていく。企業が商売として取り仕切る戦争を終わらせないため、絶対に倒せない敵“ティーチャー”を配するが、彼はキルドレではなく本物の大人の男だ。つまり、永遠の子供キルドレにとってティーチャーは、決して越えられないバーチャルな父として存在し続ける。絶望的な閉塞感に、息が詰まりそうだ。

 その息苦しさは、濃密な映像とも無縁ではない。偽りにも似た平和と激しい空中戦は、地上は2次元、空中は3次元と描き分けられている。平面的な人物の顔には、生きる目的が分からず行き場のない不安が垣間見える。対して、背景となる空や戦闘機は、実写かと見紛うほど緻密な奥行きがあり、思わず見惚れてしまうほどリアルなのだ。近年の押井作品の映像の作りこみは狂おしいほどだが、本作は心象風景とのコントラストがとりわけ見事だ。

 膨大な量のセリフと哲学的な世界観が知的探究心をくすぐり、ファンを熱狂させる押井ワールド。だが今回は趣が違う。情報量は少ないが、メッセージはストレートで分かりやすい。伝えたいのは未来への希望だ。そもそも押井監督が語るストーリーは、SFながら強烈に現代社会を照射するから惹き付けられる。それはキルドレが生まれた経緯や、日系と欧州の企業が競う戦争という設定にも色濃く表れていた。物語の根源は、あくまで身近なところにある。成長しないキルドレは、現代社会を手探りで生きる若者と、大切なものを見失ったことに気付かない大人の姿だ。この複眼が物語に深みを与える。

 「君は生きろ。何かを変えられるまで」。愛しているなら殺してほしいとせがむスイトにユーイチはこう言って飛び立った。切なすぎる想いが爆音と共鳴し、胸が痛む。キルドレが飛ぶ大空に正義はない。だが瞳のその先には愛があった。たとえ一筋でも希望の光があれば、新しい価値観で時を生きてみせよう。このやるせない愛の物語の、エンドロールの後のワン・シークエンスは、絶対に見逃さないでほしい。そこで、私たちはユーイチとスイトの存在を肯定する言葉を聞くだろう。そのひと言こそが彼らの記憶の福音となる。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)切なさ度:★★★★★

□2008年 日本映画 英題「The Sky Crawlers」
□監督:押井守
□出演:(声)菊地凛子、加瀬亮、栗山千明、他


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スカイ・クロラ The Sky Crawlers@ぴあ映画生活

映画レビュー「バベル」

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◆プチレビュー◆
1発の銃声の波紋が4大陸を駆け巡る。コミュニケーション不能の世界での絶望と希望を描く秀作ドラマ。菊地凛子の熱演にも注目。 【90点】

夫婦の絆を確かめるためモロッコにやってきた米国人夫婦の妻が撃たれる。モロッコ人の少年が遊び半分に撃った一発の銃弾は、メキシコ、そして日本へと波紋を広げていく。言葉が通じないために起こる様々なトラブルの中で、登場人物たちは孤独を味わうが…。

風が吹けば桶屋が儲かる。この表現を例えに出すのは気が引けるのだが、本作の物語展開はまさにそんな感じなのだ。モロッコで家畜の世話をする少年が腕だめしにと撃ったライフルの銃弾が、米国人女性に当たってしまうのが発端だ。言葉が通じず、果ては外交問題に発展する。一方で夫妻が雇うメキシコ人家政婦は、甥っ子のラテンのノリのいいかげんさが災いし、国境でトラブルに。夫妻の子どもを連れていたため、逮捕、強制送還へと追い込まれる。そもそもこの銃は、モロッコに観光にきた日本人が、親切なガイドに“感謝の印として”プレゼントしたものなのだ。日本人が無責任に置いてきた銃が、アラブ世界の少年を犯罪者にし、ラテン系の中年女性の生活を奪う。そんな理不尽とは対局に、聴覚障害者の日本人の少女の悩みは、誰かに強く愛されたいというものだ。日本特有の中身のない風俗と好奇心の中で漂う思春期の少女は、耳が聞こえないことは別にしてめぐまれているように思えるが、実は彼女のこの孤独感こそ、世界共通の傷みなのだと映画は訴える。

世界中に星の数ほど存在する人間同士のほとんどは、一生知り合うこともなく終わる。だが、存在さえ知らない人とも、私たちはどこかでつながっていて、影響しあっているのだ。今、誰かを幸せにする出来事が、悲惨な不幸に続く道にもなる。幸福を味わっている人の笑顔の影で泣く人もいよう。私たちが普段意識せずに暮らしているそんなつながりを、この映画は思い起こさせてくれる。

異なった複数のエピソードがやがてひとつに収束していくスタイルは、イニャリトゥ監督の得意とするところ。監督一作目の「アモーレス・ペロス」から、世界中で認められたその才能は本物だ。本作はそんな彼のひとつの到達点だと思う。人と人が分かりあう難しさを実感すると同時に、ラストに娘をそっと抱きしめる父親の姿に、かすかな希望が見える。夜の東京の高層ビルこそ、現代のバベルの塔に見えた。感動が心にしみる。

 (シネマッシモ評価:★5つが満点)日本大注目度:★★★★☆

□2006年 アメリカ映画 原題「BABEL」
□監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
□出演:ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、菊地凛子、他


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◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
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新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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