映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる映画 ◎
「ザ・マミー」「君の膵臓をたべたい」「ファウンダー」etc.

阿部寛

恋妻家宮本

恋妻家宮本 Blu-ray
子どもが独立し、結婚25年目にして夫婦二人だけの生活になったことで困惑する宮本夫妻。中学教師の夫・陽平は、ある日、妻・美代子側の記入欄がきっちりと記載された離婚届を見つけてしまう。激しく動揺するが妻に問いただす勇気もなかった。悶々としていた陽平は、趣味の料理教室の仲間や学校の教え子と関わる中で、家族や夫婦の在り方を見つめ直すことになる。そんな中、突然、美代子が家を飛び出してしまう…。

子どもが独り立ちした熟年夫婦の危機をコミカルに描く「恋妻家宮本」。原作は重松清の小説「ファミレス」だ。主人公の夫婦は、ファミレスでの合コンで知り合うが、ファミレスはことあるごとに象徴的に登場する。ちなみに夫の陽平は優柔不断な性格で、ファミレスに行くと、メニューが多すぎて、自分が食べたいものを注文することができないダメ人間だ。中学教師だが、生徒からも軽く見られている。それでも陽平は、自分は決して悪い人間ではないし、浮気もせず、勤勉に働き、給料もきっちりと妻に渡す真面目な人生を送ってきたので、夫婦には何の問題もないと安心していたのだ。そこでみつけた離婚届は、彼にとっては爆弾級の驚きだったに違いない。料理教室の仲間や、生徒たちなど、それぞれ個性的なのだが、映画全体は、ぼんやりとした印象だ。だがその“ぼんやりした感じ”は欠点ではなく、本作の個性である。ストーリーの重要なモチーフとして、吉田拓郎の「今日までそして明日から」が登場するが、その歌詞こそが、夫婦の、引いては、ごく平凡な市井の人々の生き様を表してる。“時には、誰かの力を借り、時には誰かに裏切られ。明日からもこうして生きていく”。シニア向けの作品だが、迷える大人の背中を押してくれるような小品だ。
【50点】
(原題「恋妻家宮本」)
(日本/遊川和彦監督/阿部寛、天海祐希、菅野美穂、他)
(とまどい度:★★★★☆)
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疾風ロンド

疾風ロンド 特別限定版(初回生産限定) [Blu-ray]
大学の研究施設の違法生物兵器「K-55」が盗まれ、犯人から、全国民を人質に、身代3億円を要求するメールが届く。違法なので警察に届けるわけにもいかず、研究所所長は、中間管理職の研究員・栗林和幸に、秘密裏に奪還を命じる。猶予は4日間。栗林はひそかに兵器を探すがそんな時、犯人が死亡するというまさかの事態が起こる。大惨事を回避するため、隠された生物兵器を見つけねばならない。犯人の遺品とわずかな手がかりから、それが日本最大級の規模のスキー場のどこかに隠されたことを突き止める。スキー初心者の栗林は、パトロール隊員の根津やスノーボード選手の千晶らの協力を得ながら生物兵器を捜しはじめるが、そこには思わぬ事態が待ち受けていた…。

頼りない研究員が、盗まれた違法生物兵器の行方を追って奮闘するサスペンス「疾風ロンド」。原作は大人気作家・東野圭吾が17年ぶりの文庫描き下ろしとして出版した同名小説だ。多くの作品が映画化・ドラマ化されている東野圭吾だが、シリアスな社会派ドラマと、コミカルな娯楽作に分かれる。本作は後者だ。白銀のスキー場を舞台に、中間管理職のサラリーマンの悲哀、息子と分かり合えない父親の切なさ、さらに無駄にテンションが高い雪上アクションと、なかなかバラエティーに富んでいて飽きさせない。サスペンス・コメディーなので、笑いの部分はユルユルなのだが、父と息子のドラマが実は味がある。いつも貧乏くじを引いてしまう頼りないダメな父親の栗林は、男手ひとつで息子を育てているが、サラリーマンの悲しさからついつい保身に走りがち。それもこれも、大事な息子のためなのだが、息子の方は、父が正義のために頑張る姿と、何でも話せる父子の関係を望んでいるのだ。一方で、スキー場の根津と千晶の関係は、恋愛未満のもどかしさだが、雪上ですべりながらスターウォーズばりのバトルを披露する大島優子の思いがけない頑張りが光る。この人にアクションのイメージはなかったが、9歳からスノーボードをやっているそうで、雪上アクションを見事にこなしていた。監督が「サラリーマンNEO 劇場版(笑)」の演出を手掛けた吉田照幸と聞いて、本作の脱力系ギャグに大いに納得。緊張と緩和がほどよいウェルメイドな娯楽作だ。
【60点】
(原題「疾風ロンド」)
(日本/吉田照幸監督/阿部寛、大倉忠義、大島優子、他)
(アクション度:★★★★☆)
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ふしぎな岬の物語

ふしぎな岬の物語 [Blu-ray]
カフェの女主人とそこに集う人々の人間模様を描く「ふしぎな岬の物語」。吉永小百合を中心軸に、キャストのアンサンブルが絶妙。

海と花畑に囲まれた岬村。岬の突端にある岬カフェは、店主の悦子が入れる美味しいコーヒーと彼女のあたたかな人柄で、村に住む人々の憩いの場となっている。悦子の甥の浩司は何かと騒ぎを起こしながらも、悦子を優しく見守り、長年カフェに通う不動産屋のタニさんは、悦子に想いを寄せている。そんな時、常連客・徳さんの娘でずっと音信不通だったみどりが数年ぶりに帰郷する。彼女は何かに傷ついている様子だったが…。

原作は人気作家・森沢明夫の小説「虹の岬の喫茶店」。千葉県明鐘岬に原作のモデルとなった喫茶店が実在するそうで、ロケも同地で行われている。優しく美人の女店主が営むカフェに集う人々は、基本的にいい人ばかり。大女優の吉永小百合が演じるヒロイン・悦子もハマリすぎるほどだ。典型的な人情劇である本作は、基本的にユルい話なのだが、それが不思議なほど心地よい。ユルいといっても物語の背景には、つらい出来事もあり、幸福そうに見える悦子にも心の闇がある。だからこそ、悦子がいう「大丈夫だよ」の言葉が心にじんわりと沁み込むのだ。問題児の甥・浩司や不動産屋のタニさん、悦子を慕うみどりなど、さまざまな形の悦子への愛が描かれるが、それはどれも激しい恋愛感情とは無縁の穏やかなものだ。本作では日本映画界を支え続けた大女優・吉永小百合が初プロデュースを務めたことが話題だが、いくつになっても美しすぎる彼女に対し、どこか不自然な役が多かった近年、ついに自分の年齢にふさわしい役を自分で作りだしたという印象がある。さらにこの現代のメルヘンのような映画には、つらい時代を生きる人々を励ましたいという願いが込められているという。岬でキャッチボールをする場面や、深夜に忍び込んできた泥棒にコーヒーとトーストをふるまうシーンなどで見せる、すべての人を包み込むような吉永小百合の表情には、可愛らしく癒されると同時に、大女優の風格が漂っていた。
【65点】
(原題「ふしぎな岬の物語」)
(日本/成島出監督/吉永小百合、阿部寛、竹内結子、他)
(メルヘン度:★★★★☆)
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柘榴坂の仇討

柘榴坂の仇討 [Blu-ray]
主君の仇を13年間探し求めた男の生き様を描く本格時代劇「柘榴坂の仇討」。変えてはいけないものとは“ひたむきさ”ということか。

安政7年。彦根藩士・志村金吾は大老・井伊直弼に仕えていたが、登城途中の桜田門外で水戸浪士に襲われ、目の前で主君を失う。主君を守り切れなかったことを悔やむ金吾だが、切腹も許されず、藩から仇を討てとの命が下る。それから13年の月日が経った明治6年。明治政府が仇討を禁止する状況で、金吾はついに最後の仇のひとり・佐橋十兵衛を探し出す。十兵衛は“俥(くるま)引きの直吉”として名を変え生き永らえていた…。

原作は浅田次郎の短編集「五郎治殿御始末」所収の同名短編小説。主君を守り切れなかった金吾が仇を探しながら生きた13年間は、あまりにつらいものだ。だがつらいのは彼だけではない。仇討が成った暁には夫を失い自らも後を追う覚悟の妻セツのけなげな決心もまた察して余りある。さらにはひっそりと生きながらえていた佐橋十兵衛の人生もまた、すさまじく孤独なものだ。そこには、共に武士として己が信じる道を行きながら、時代の荒波の中でもがいた人間の哀しさがある。本作のテーマは、人としての誇りと覚悟を持って生きるということだ。それは、司法省の警部の妻が男たちにぴしゃりと言うセリフや、元武士たちが「助太刀」を宣言する少しコミカルな場面にも、現れている。江戸から明治へと時代が激変しようとも、武士の心を失うまいとする金吾は、雪降る柘榴坂で、十兵衛とついに刃を交わすが、2人には思いがけない運命が待っている。義や正義は時代によって姿・形を変えるものだ。金吾の、周囲や自分自身に犠牲を強いる生き方は、今の時代の価値観からは、あまりにもかけ離れていて、素直に共感することは、難しい。だが、だからこそ、ついに柘榴坂で相対した2人が選ぶ運命に、新しい時代への希望と覚悟を感じてしまうのだ。過去にも浅井作品に出演している中井貴一が、義と情の世界で生きる最後のサムライを堂々と演じている。
【60点】
(原題「柘榴坂の仇討」)
(日本/若松節朗監督/中井貴一、阿部寛、広末涼子、他)
(古風度:★★★★☆)
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テルマエ・ロマエII

テルマエ・ロマエII Blu-ray豪華盤(特典Blu-ray付2枚組)(A4クリアファイル付き)
古代ローマと現代日本を行き来する異色コメディの続編「テルマエ・ロマエII」。目新しさはないがテンポの良さが救い。

ユニークで斬新なテルマエ(浴場)を作り、一躍人気者になった古代ローマの浴場設計技師のルシウス。今度はグラディエイター(剣闘士)たちの傷を癒すテルマエ作りを命じられるが、アイデアにつまり、またしても古代ローマと現代日本を行き来するタイムスリップ(風呂限定)することに。今では風呂専門雑誌のライターとなった真実ら、平たい顔族(日本人)と再会し、日本の温泉からさまざまなアイデアを持ち帰る。だがルシウスは、ローマ帝国を二分する、平和推進派のハドリアヌス帝と武力行使派の元老院の対立に巻き込まれてしまう…。

ヤマザキマリの人気コミックを原作とし大ヒットを記録した「テルマエ・ロマエ」の待望の続編である。古代ローマと現代日本の風呂文化のギャップに驚くルシウスが、真面目に悩めば悩むほど可笑しさがこみあげる演出は、本作でも健在だ。だが続編ということもあって、何度も繰り返されるタイムスリップはきわめて安易だし、風呂の設計や演出のアイデアも、ベタな温泉巡りの様相で、目新しさはほとんどない。場面の転換に登場するオペラには若干物語性が加わったが、それでも基本路線は同じだ。濃い顔の日本人俳優がローマ人に扮する最大の面白味も、2作目となればもはや見慣れてしまう。何もかもが前作の踏襲なのだが、本作はあえてその路線を貫いているのだ。何しろ今回は、ブルガリアの巨大スタジオにコロッセオを含むオープン・セットを組んでの撮影という日本映画では破格のスケール。せめてドラマは同じパターンで安心感を、ということだろう。最大の見どころは、阿部寛と上戸彩の混浴シーンと言えば、脱力してしまいそうだが、それでも相撲や指圧、温泉街の風情など、日本文化をネタにサービス精神全開で楽しませてくれるのだから、これぞエンタメ映画というものだ。古代ローマのスケールの大きさと、もの作りを得意とする島国日本の細やかさを堪能したい。ちなみに公開日の4/26は“良い風呂の日”だそうだ。
【60点】
(原題「テルマエ・ロマエII」)
(日本/武内英樹監督/阿部寛、上戸彩、北村一輝、他)
(パターン化度:★★★★☆)
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TRICK トリック 劇場版 ラストステージ

トリック劇場版 ラストステージ 超完全版(本編Blu-ray&特典Blu-ray2枚組)
人気シリーズの14年間の集大成「TRICK トリック 劇場版 ラストステージ」。初の海外ロケでもユルユルの空気はそのまま。

自称・天才物理学者の上田次郎は、地下資源開発を進める貿易会社から、東南アジアのジャングルの秘境で立ち退きを拒む部族と彼らに絶大な影響を及ぼす呪術師のトリックを暴くよう協力を依頼される。上田は、自称・超売れっ子天才美人マジシャンの山田奈緒子を言葉巧みに誘い、同行させる。現地では医師の谷岡、そして何故か矢部刑事も合流。ジャングルの川を遡り、一行は因習に閉ざされた奥地の村を目指すが…。

00年スタートの人気ドラマは、3本の劇場版を経て、ついに完結する。マレーシアでの海外ロケ、東山紀之、北村一輝、水原希子らの豪華ゲストに驚きのカメオ出演と、話題は盛りだくさんだが、このシリーズの魅力であるユルい空気はそのままだ。騙されやすい自称・天才物理学者の上田と、自称・超売れっ子天才美人マジシャンの奈緒子のデコボコ“迷”コンビが、呪術による不可思議な現象の裏にひそむトリックを暴いていく。二人の間にかすかに流れる恋愛感情の行方も気になるところだが、今回は、奈緒子の出生の秘密が明かされるのがポイントだ。堤幸彦監督いえば、今、日本で最も忙しい監督の一人だが、自らの作品はもとより、同じ配給会社の人気シリーズからも、遠慮なくゲストや小ネタを引っ張ってくるあたりが、らしいところだ。14年間、シリーズを見守り続けたファンや出演者にとっては“泣けるトリック”なのだろうが、エンドロールのそのまた後まで仕込まれたシークエンスを見終われば、泣く必要はない気も。ともあれ、長年シリーズに携わってきたスタッフ・キャストにはお疲れ様でしたと言いたい。
【55点】
(原題「トリック 劇場版 ラストステージ」)
(日本/堤幸彦監督/仲間由紀恵、阿部寛、生瀬勝久、他)
(泣ける度:★★☆☆☆)
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メモリーズ・コーナー

メモリーズ・コーナー Blu-ray プレミアム・エディション
阪神・淡路大震災後の日本をテーマに描く異色の人間ドラマ「メモリーズ・コーナー」。外国からみた日本を、少し変わった形でとらえたファンタジー。

フランス人ジャーナリストのアダは、1995年に起きた阪神・淡路大震災の回顧式典を取材するために神戸を訪れる。“孤独死”をテーマにした取材を行うアダは、通訳の岡部と共に、今ではすっかり復興した街で暮らす、かつての被災者たちの家を訪ねて回る。彼女は、今も震災の後遺症に苦しむ寡黙な男性・石田と出会い、頑なな彼の心を開かせようと、対話を続ける。だが岡部は、石田は現世の人間ではなく、幻なのだ、関わってはいけないと忠告する…。

主人公のアダが取材する石田は、この世の人間ではない。彼はかつて、震災後に作られた仮設住宅で暮らし、孤独死したという設定だ。その死は映画冒頭で描かれるが、チラリと写る石田の住まいは、殺伐としていて、悲しみが漂っている。

仮設住宅の正式名称は「応急仮設住宅」。地震や水害などの自然災害により、住む家を失くし、自らの資金では住宅を得ることのできない者に対し、行政が貸与する仮の住宅を指す。あくまでも仮住まいということから、プレハブなどの簡易の住宅で、組立タイプとユニットタイプが用いられる。着工は災害の発生の日から20日以内としており、貸与期間は完成の日から2年以内と規定されている。

阪神・淡路大震災の震源地は、淡路島。主人公のアダの通訳である岡部の生まれ故郷だ。石田が現世の人間ではないと理解したアダは、淡路島を訪れ、石田の記憶と向き合うことに。物語の死生観は、あくまでも外国から見たもので、日本人には共感できない部分も多い。だが、阪神・淡路大震災後に建設された仮設住宅が、地域のコミュニティを無視したものだった結果、孤独死を招いたという視点は重要で、それは、東日本大震災や今後起こりうるかもしれない災害復興にも共通する見逃せないテーマだ。そこに海外メディアが注目した点は評価したい。

(出演:デボラ・フランソワ、西島秀俊、阿部寛、他)
(2011年/仏・カナダ/オドレイ・フーシェ監督/原題「MEMORIES CORNER」)


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つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語

つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語 [Blu-ray]つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語 [Blu-ray] [Blu-ray]
謎の女つやをめぐる男女の群像劇「つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語」。伊豆大島の観光スポットの地層断面のショットが効果的に使われている。

松生春二は、艶(つや)という名の女と駆け落ちし伊豆大島で暮らしているが、奔放な妻の不貞に悩まされ続けてきた。そんな艶が重い病に冒され、昏睡状態に陥る。何度裏切られても艶を深く愛している松生は、つやを失うことに耐えられない。悩んだ松生は、艶が過去に関係を持った男たちに艶の死期が近いことを知らせることを思いつく…。

原作は直木賞作家・井上荒野の同名小説。タイトルにあるつやは、姿は見えるが最後まで顔は見せず、ミステリアスな中心軸として存在する。その軸を支えているのが、物語の狂言回しにして、狂気の愛に生きる男・松生だ。だが物語は松生やつやの人生を論じるのではなく、つやが関係を持った男を愛する女たちの心の揺れを描いていくという、ひとひねりした構成になっている。つやの最初の男、最初の夫、愛人、つやがストーカーしていた若い男性などが登場し、彼らの妻、愛人、恋人、家族は、つやという見えない存在に動揺し、自分の愛を確かめていく。そこにはモラルはもちろん正しい答えなどは存在しない。さまざまな愛の形に、観客はどこかで共鳴し、あるいは反発しつつ、ストーリーに引き込まれていくに違いない。松生が捨てた家族である元妻の早千子と娘の麻千子が大島を訪れ、つやを見舞うシーンには、ただならぬ緊張感が漂っていた。だが、それさえこの物語の“答え”ではないし、結末をひとつにすることも意味がない。劇中に印象的に登場するのは、大島の観光名所である地層断面の壮観な光景を背に、やつれはてた松生が何度も何度も自転車を走らせるシーンだ。火山灰が幾重にも重積してできた地層断面は、異なる時代の層がバームクーヘンのように重なっている。つやに関わった男を愛した女たちの愛もまた、こんな風に幾重にも層をなし、切り口によってさまざまな表情を見せているのだ。
【60点】
(原題「つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語」)
(日本/行定勲監督/阿部寛、小泉今日子、野波麻帆、他)
(赤裸々度:★★★★☆)
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カラスの親指

カラスの親指 by rule of CROW's thumb  豪華版【Blu-ray】(初回限定版2枚組:本編BD+特典DVD)カラスの親指 by rule of CROW's thumb 豪華版【Blu-ray】(初回限定版2枚組:本編BD+特典DVD) [Blu-ray]
サギ師が仕掛ける一世一代の大芝居を描く「カラスの親指」。コンゲームの爽快さより人情噺のウェットさが勝っている。

タケとテツは中年の2人組サギ師。コンビを組んで日は浅いが息のあった仕事ぶりで小銭を稼ぐ日々だ。ある日、年は若いが一人前のスリである少女まひろのピンチを、同業のよしみで救ったことから、まひろの姉で自由奔放な性格のやひろ、やひろの恋人・貫太郎の3人が、タケとテツの家に転がり込んでくる。いきなり始まった5人の奇妙な共同生活は、いつしか擬似家族のように賑やかに。だが、タケは8年前に闇金業者の恨みを買い、追われる身。まひろたちも同じ闇金業者のせいで悲惨な人生を歩んできた。「もう我慢するのは嫌だよ」。ついに敵に反撃することを決めた5人は一世一代の大勝負を挑むことになる…。

原作は道尾秀介の同名小説。カラスとはプロの詐欺師のことを指す隠語だ。どん底人生を歩んできた人間たちが、力を合わせ、敵にひと泡ふかせるために大芝居を打つ「スティング」を彷彿とさせるストーリーである。2.5枚目のキャラで悲しい過去を背負うサギ師という新しい役柄に挑んだ阿部寛と、本作で本格的映画初出演を果たしたスベリ芸人・村上ショージの異色コンビが新鮮だ。映画冒頭の騙しのテクニックは“サギ師入門”のようでなかなか楽しい。だが、タケの過去の事件と美人姉妹の過去が交差するあたりから、サギ師稼業の醍醐味より人情噺の様相を呈し、スピード感やコメディ要素が薄くなって、爽快感が激減するのが惜しい。悪徳闇金業者を相手に打つ一世一代の大芝居はスリリングだが、ラスト20分にさらなる仕掛けがある。出来すぎの詐欺の顛末にふと疑問がよぎったタケが、小さなほころびから、一気にすべての謎を溶解していくのだが、これがあまりにも駆け足で、少々雑なのである。それでもサスペンスのふりをしながら家族愛のドラマだったというオチは、それもまた“騙し”の物語と言える。タイトルの親指の意味が途中で2度ほど説明されるが、これがなかなか味があっていい。親指だけが全部の指を正面から見ることができるし、お母さん指と赤ちゃん指はお父さん指が支えてあげないとくっつかない。親指は父親で、お父さん指は家族のためにこそ頑張るものなのだ。
【60点】
(原題「カラスの親指」)
(日本/伊藤匡史監督/阿部寛、村上ショージ、石原さとみ、他)
(家族愛度:★★★★☆)
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テルマエ・ロマエ

テルマエ・ロマエ Blu-ray豪華盤(特典Blu-ray付2枚組)テルマエ・ロマエ Blu-ray豪華盤(特典Blu-ray付2枚組)
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人呼んで異文化入浴コメディ「テルマエ・ロマエ」。ローマ人になりきった阿部寛の、大げさなリアクションがいちいち可笑しい。

古代ローマの浴場設計技師ルシウスは、生真面目すぎる性格が災いして、時代の変化に合わず職を失う。落ち込んだルシウスは友人に誘われて訪れた公衆浴場で、突然現代日本の銭湯にタイムスリップしてしまう。日本の高度な風呂文化に衝撃を受けたルシウスは、さまざまなアイディアをローマに持ち帰って浴場設計に生かし、大きな話題を呼ぶことに。ついには、皇帝ハドリアヌス帝からも仕事を依頼されるほどになる。仕事熱心なあまり、現代日本と古代ローマの風呂を行き来するタイムスリップを繰り返すルシウスだったが…。

原作は、マンガ大賞と手塚治虫文化賞のW受賞を果たした、ヤマザキマリの大ベストセラーコミック。タイトルの“テルマエ・ロマエ”とは、ラテン語で“ローマの風呂”という意味だ。ローマ人と日本人の共通項として風呂好きであることに着目した時点で、すでに“勝ったも同然”である。風呂限定のタイムスリップというSF要素や、日本人を“平たい顔族”と呼ぶ異文化交流など、物語のディテールは、極めて個性的だ。浴場のアイディアに悩みまくっていた生真面目なルシウスには、銭湯の富士山の絵や、ケロリンと書かれた洗面器、フルーツ牛乳や、シャワーキャップなど、すべてが驚愕のアイテム。大真面目なリアクションがたまらなく可笑しい。阿部寛、北村一輝、市村正親などの、濃い顔の俳優たちが堂々とローマ人に扮するキャスティングが実に効いている。一方で、現代日本の売れない漫画家、真実(まみ)は映画オリジナルのキャラクター。歴史を見据えた奮闘で、ローマと日本の重要な橋渡しの役割を担う。この物語のポイントは、真剣になればなるほど笑いがこみあげる“一途な真面目さ”にある。ありえない設定の爆笑コメディだが、見終わればなぜか風呂上りのようにホンワカとした気分になるはず。イタリアの名門撮影所チネチッタで撮影が行われていて、本格的なシーンとチープなシーンの混合具合が絶妙だ。漫画原作の映画化は昨今の一大潮流だが、この原作はとびきり映画的。人情、癒し、歴史と、お風呂の多彩な効能に改めて目覚めさせてくれる。
【60点】
(原題「テルマエ・ロマエ」)
(日本/武内英樹監督/阿部寛、上戸 彩、北村一輝、他)
(カルチャーショック度:★★★★☆)
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◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
◆こんなお仕事やってます:
新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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